私の住む村がちょっとおかしい   作:ぴぴるぴる

7 / 8
15~16歳ごろ

玉錘は月 止めて日

 下半身を蛇にしてからなぜか調子がいい。

 長年連れ添った相棒みたいにしっくりくる。

 この頃見上げ気味だったシャンプーを見下ろせるのも気分がいい。

 

 しかし蛇だからかどうしても寒さに弱い。

 変身したままだと早起きができなかった。

 今日は久しぶりにシャンプーに起こされてしまった。

 

 

 

フォンは月 はねるのこうげき日

 この頃またシャンプーに起こされてばかりだ。

 私が悪いのは認めるが毎朝熱湯で起こすのは止めぃ。

 もう変身したまま寝るのはよそう。

 毎朝打上げられた魚みたいになるのは御免だ。

 丸くなって眠るのが気持ちよかったのに…。

 

 

 

試行月 錯誤日

 まだ寸勁を食らうと態勢を崩して丸太から落ちてしまう。

 上半身の姿勢をいかに保つのかが胆になるようだ。

 平衡感覚と重心を捉えるのが難しい。

 体を慣らすなら走るのが最適なのだが、今回は違うことをした方がいいだろう。

 ん~、稽古の後に山登りをしてみようか。

 

 

 

でも月 おいしかった日

 下半身だけでも壁や険しい岩肌でも登ることができた。

 時間はかかるが登攀(とうはん)能力が意外に高いようだ。

 家の壁を伝いぐるぐると周回しているとシャンプーに中華包丁を投げられた。

 その程度ではこの鱗は貫けないぞ、シャンプー。

 

 今日の夕飯は豚足1本だけだった。

 明日から大人しく山に登ろう。

 

 

 

新しい月 実験日

 今までは変化させたい部分にそれぞれ水をかけて変身していた。

 なら、複数の泉の水を混ぜてから使用したらどうなるか。

 あのガイドの人も知らなかったのだ。

 試してみるしかない。

 稽古が休みになるまでまだ数日あるが準備だけはしておこう。

 

 

 

Let's月 experiment日

 ありったけの鷲溺泉の水と馬溺泉の水を取ってきた。

 混ぜる割合を変えながらネズミにかけて実験してみよう。

 目標はヒッポグリフに変身させること。

 

 鷲溺泉:馬溺泉

 1:9  ふさふさ羽毛の馬に変身。

 2:8  猛禽類の眼に変化。

 3:7  若干翼のようなものが生える。

 4:6  完全な翼が生える。

 5:5  蹄が鳥の爪に、口が嘴に変化。尻尾だけ残ってる惜しい。

 6:4  一回り小さいが目標のヒッポグリフに変身。

 

 ちゃんとヒッポグリフに変身した。

 やはり、割合によって変身後に引き継ぐ特徴が変化するようだ。

 

 さて、このなんちゃってヒッポグリフ君たちはどうしようかな。

 

 

 

ちょっと月 登山してくる日

 今日は朝から鳳凰山を登ってみた。

 山頂に近づくにつれて切り立った岩肌に無理やり取り付けたような建造物がチラホラと見え始めた。

 どうやら人が住んでいるらしい。

 

 そのまま登っていくと現地人を発見。

 その人は背中に翼があり、空を飛んでいた。

 接触しようとしてみるとなぜか怖がられ逃げられてしまった。

 あっちも私と似たようなものだと思うんだけどなぁ。

 

 人を呼ばれ攻撃されてしまったので敢え無く退散してきた。

 飛んでいる相手にはやはりどうしようもない。

 しかし、鳳凰山に呪泉郷があるとわかった今はぜひとも行ってみたい。

 闇夜に紛れて見つからずに山頂まで登るしかないか。

 夜に山を登るなら夜目が必要になる。ならばまた実験だ。

 

 

 

これは月 売れる日

 この前のデータを元に鷲溺泉の水と猫溺泉の水を7:3の割合で混ぜたみた。

 これなら夜目も利いて遠くまで見えるようになるはずだ。

 さて、どう試したものか。

 

 丁度ムースが視界に入ったので目が良くなる目薬と称してあげてみた。

 目薬を差してすぐに視界に酔いだして倒れてしまったのにはさすがに焦った。

 即座に飛んできたシャンプーに看てもらい、酔いが収まるまで経過を観察した。

 日が暮れるころにはムースの視力は格段に良くなっていた。

 成功だ。これでシャンプーと間違って私にアプローチすることもないだろう。

 

 目薬の効果にムースは(いた)く感動して、もっと目薬をくれとせがんできて鬱陶しかった。

 今さら本当のことを言うのも気が引けたので、目薬の容器に水を入れて売ってあげることにした。

 このお金は呪泉郷の水を運ぶために大切に使われます。

 

 今日の夕飯はまた豚足だけだった。

 あの、シャンプーさん、さすがに(わび)しいっす。

 

 

 

鳥目であっても月 慧眼である日

 やはり鳳凰山の住人達は鳥目であった。

 日が落ちてから建造物を避けて登ると何事もなく山頂へ辿り着いた。

 鳳凰山の呪泉郷をやっとこの目で拝んむことができた。

 

 そして驚くべきことに、あの山の住人はなんと呪泉郷の水を生活用水として使っていた。

 その発想はなかった。その発想はなかった!

 私もまだまだだったか。

 

 一通りの呪泉郷の水を少々拝借していくのはもちろん忘れなかった。

 どれから試してみようか楽しみだ。

 

 

 

本末月 転倒日

 いつの間にか武闘大会の日が迫っていた。

 鳳凰山に夢中で忘れていた。

 そろそろ真面目に稽古しよう。

 

 

 

もう一回月 お願い日

 ついに武闘大会の日がやってきた。

 ちょっと消化試合気味だったが着々と決勝まで進んだ。

 

 特訓の成果を今見せる!

 と意気込んでシャンプーとの決勝に挑んだら、呆気なく敗退した。

 足場を折られてそのまま場外となってしまったのだ。

 

 その手があったか。というか丸太壊すのは反則じゃないのか。

 ルールをよく確認しておくべきだった。これなら元の姿で戦って負けたほうがマシだったよ。

 

 優勝者のシャンプーは来年必ず参加する。

 ならば来年こそは絶対に勝つ!

 

 

 

修行月 開始日

 その場に踏みとどまれるほどの強靭な脚力と衝撃を受け流せるだけの消力が必要だ。

 やはり消力の特訓するしかないのか。

 ただ殴られるしかないので地味にきつい。

 しかも村長は拳で殴らずに掌底で浸透勁やってくるから余計につらい。

 ちょっとは手加減してください。

 

 

 

これは月 私の趣味日

 特訓は続けるが呪泉郷の研究を止めるつもりはない。

 これは私の趣味なのだ。止めるわけがない。

 

 そろそろ後回しにしていた水を試そうと思う。

 呪泉郷には複数の動物が溺れた泉もあれば、伝説とされる神獣や神などが溺れた泉もある。

 泉が呪われるわけである。

 

 以前に一度だけ試したことがある。

 しかし、溺れた対象の性格に影響を及ぼされていたので封印していた。

 より上位の存在に変身してしまうと自我が希薄になってしまうのではないかと考えている。

 

 今日は自身の体に試してみよう。

 私が選んだのは阿修羅溺泉。

 阿修羅は三面六臂の女神であり、太陽と火の神とも呼ばれている。

 伝承通りではないのか雷まで操って空も飛んでいた。天空を司る神様の親戚なのだろうか。

 

 何かあれば他の水をかけるだけだ。心配はない。

 両腕に徐々に馴染ませてみよう。

 

 

 

実験月 成功日

 無事に両腕に呪いが定着した。

 腕が6本になってしまったが想定の範囲内だ。

 どんなものかと試してみると雷を操れるようになっていた。やっとまともな遠距離攻撃を手に入れた気がする。

 空もなんとか飛べるのだが、実際は両腕が浮かべるだけで万歳しながら飛んでるようにしか見えない。

 これではいい的だ。

 それと残念ながら炎は出せなかった。

 

 性格には特に影響もないようだ。

 みんなに聞いたらいつも通り変だと言われた。

 失礼な。多少毒されているが、私は常識人だ。

 

 

 

使いすぎ月 ちゃった日

 鳳凰山の呪泉郷をちょくちょく拝借していたら目に見えて泉の水量が減ってきた。

 現地の方には大切な生活用水だ。しばらくは採取するのは中止しよう。

 そろそろ武闘大会の季節だし稽古に専念するか。

 

 

 

このパンダ月 只者じゃない日

 待ちに待った武闘大会だった。

 あの時の雪辱を晴らす絶好の機会だ。

 消化試合を連勝し、さぁシャンプーと決勝だというところで邪魔が入ってしまった。

 

 赤毛の女と目付きの悪いパンダが優勝賞品の食料を食べていたのだ。

 赤毛の女はなんと日本人だった。女性なのにかなり口が悪い。

 日本人ってこんな感じだったっけ?

 この世界の日本に大和撫子なんて言葉はないのだろうか。

 

 通訳として意外な人物まで一緒にいた。

 呪泉郷のガイドさんだ。娘さん賢いから学費いるもんね。

 頑張って稼いでください。

 

 さて、この女とパンダどうしてくれようか。

 などと思案していたら、止める間もなくシャンプーは赤毛の女を半殺しにしていた。

 シャンプーは基本的に村の外の人間に対して容赦がない。

 そのまま止めを刺そうとしてたがさすがに私が止めた。

 やりすぎだ。ムースに接するみたいに大さじ一杯分くらいの優しさを見せてほしい。

 

 しかし、私とシャンプーが決勝に進んだ時点であの優勝賞品は村長の家に持って帰れた。

 私も横から掻っ攫われて何も思わないと言うわけではない。

 パンダ君恨むなら君の飼い主を恨んでくれ。

 余裕こきながら勝負を仕掛けると私はあっさり返り討ちにあってしまった。

 このパンダ君、飼い主よりも強かった。剛と柔併せ持つ初めて見る武術だった。

 

 ならばと水をかぶってから、絞めつけながら電撃をお見舞いすると何とか勝てた。

 危なかった。

 パンダ君にあのまま負けていたら、村長に1晩中お小言を言われ続けてしまうところだった。

 村長のお小言は必ずどこかでループするので長いのだ。

 

 今年の武闘大会はそのまま有耶無耶のまま終わってしまった。

 

 

 

ネバー月 ギブアップ日

 あの赤毛の女はかなりの負けず嫌いのようだ。

 またこの村に来てシャンプーに挑んでボロ雑巾にされていた。

 勝ったら勝ったで生死を懸けた鬼ごっこが始まってしまうのだから、さっさと諦めてほしい。

 

 

 

男を月 作る日

 今日シャンプーにムース以外の男が勝負を仕掛けてきた。

 妙に赤毛の女に似ていた。構えも戦い方もそっくりだ。

 兄妹だろうか。妹思いのお兄ちゃんだ。

 ポテンシャルは高そうだったがシャンプーの方が何枚も上手だ。

 お得意の寸勁でズタボロにされていた。

 それにしてもまたシャンプーか。

 

 そういえば私もお婿さんどうしようかな。

 村に来る男は大体お手つきか粗暴者だ。

 強くていい男なんて早々出会えない。

 

 ふむ、なら作るか。

 手持ちにはムース用の男溺泉の水がある。

 私好みに育ててみるのもいいかもしれない。

 

 早速村に居ついていたパンダに男溺泉の水をかけてみた。

 変身した姿は40代後半近いおじさんだった。さすがに年上すぎる。

 パンダ君は突然のことに動揺している様子だった。

 このままにしておくのも忍びない。

 ということで手持ちの熊猫溺泉の水を大量にかけて上げると元の姿に近くなった。

 尻尾がない以外は普通のパンダだ。

 これでいいだろうと満足しているとパンダ君は私の足に縋り付いてきた。

 怖かったのだろうか。

 私が優しく撫でてあげているとどこかに行ってしまった。

 そのまま逃がしてしまったがこれでよかったのだろう。

 もう人間に捕まらないことを祈る。

 

 

 

何もしないから月 ちょっとおいで日

 マズった。

 あのパンダ君、本当は男だった。ついでに赤毛の女も男だった。

 ガイドさんがいる時点で気づくべきだった。

 

 あぁ、どうしよう。

 村のみんなには、あのパンダ男に一度負けたのを見られてるよ。

 最終的には勝てたが、女傑族の掟からすると判定は微妙なところ。

 下手するとあの海坊主のおじさんがお婿さんに決定になってしまう。

 なんとか隠し通さなければ…。


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