「いい身体してるじゃなぁ~い……でも、私の方が……おっぱい大きいわ…………私の方が! おっぱい大きいわっ!!!」
「イケメンで強いのね!嫌いじゃないわ!」
「そして、洗われる…………!」
「ところで後輩よ、男の娘の方が嫁にするなら良いという事を知っているかね?何せ同性だからな、気が合うし、遠慮なく下ネタもぶっ放せる。多分ご飯についても色々いけるだろう。それに加えて、同性とはよく分かってるものでな……下手な所より、良いぞ………?」
「さ〜あ、悪い子はどんどんしまっちゃおうねぇ〜」
「フハハハハハハ!正真正銘貴様の最後だ!」
「俺からしたらまだ地味すぎるくらいだぜ!もっと腕とかにシルバー巻くとかよ!」
「その右手に持っているものはなんだ?おやつは300円までと言っただろう?さぁ、それを先生に・・・えっ、先生へのプレゼント?」
「いい身体してるじゃなぁ~い……でも、私の方が……おっぱい大きいわ…………私の方が! おっぱい大きいわっ!!!」
「うるせえ!くたばりやがれこの変態野郎!」
上半身を晒す筋肉ムキムキの巨漢による熱いベーゼを寸でのところで避けた黒のコートを纏った青年が、お返しにと右手の大口径ハンドガンを巨漢の脳天に向ける。トリガーを引いたと同時に、特製合金で作られた一発の銃弾が男の禿頭を見事に貫いた。
「イケメンで強いのね!嫌いじゃないわ!」
死を目前にしてなおも青年に執着している。そんな男の最後のプレゼントはトゲを仕込まれたブーツによる回し蹴りだった。今度こそトドメを刺された巨漢はそのままの勢いで、砂煙を大量に撒き散らしながら瓦礫の山へと頭を突っ込ませた。
やがて砂煙が落ち着く。男はもうピクリとも動かない。恐ろしいまでに膨張した筋肉が特徴的な、不気味なオブジェクトがここに誕生した。
「ふんっ」
青年はもはや動かぬ骸と化した巨漢の体を蹴り飛ばした。青年より何周りも巨大な屈強な肉体がごろりと無様に転がった。
「これでゴミ掃除は終わりだ」
瓦礫まみれとなったかつての繁栄の象徴であったビル街で青年が一人佇む。人命を奪った悲哀感に浸っているわけではない。勝利の余韻を噛み締め、昂ぶる闘争心を抑え込んでいるのだ。青年はそういう常識的な倫理観を捨てさった人間であった。
決着がついたタイミングに合わせたかのように小雨がポツポツと降り注ぐ。まるで血に塗られた青年の体を洗い流してくれているかのようだ。
「そして、洗われる…………!」
青年はまた一人、浄化したのだ。
20XX年、世界は『ゲイ』と『ゲイならざる者』の間で二分されていた。『ゲイ』それは突如発生した謎の感染菌によって誕生した新世代生命体。身体能力の飛躍的向上と引き換えに女性への興味を喪失してしまった彼らは、誕生と同時に瞬く間に勢力を拡大していた。この現状に危機感を抱いた国連は優秀な兵士達を集めて対ゲイ組織を設立。世界中で拡大を続けるゲイ達の駆逐を開始するのだった。
コードネーム『オーディン=コーデカイン』を与えられたこの男はそんな組織に所属する戦闘員の一人である。例外を除いてチームを組まず一匹狼を気取っているこの男は、今日も一人で上層部から依頼されたターゲットであるSランクのゲイを駆逐したのだ。
「よう、早速片付けたみたいじゃねえか。さすがに仕事が早い」
廃墟だらけのこの場所にしては珍しく原型を保っている小さなビルから声が聞こえてきた。青年が声のした方へと目を向けると、ブラウス姿の中年男性が物陰から拍手をしながら現れた。
二十歳を過ぎて幾年か過ぎている青年より一回りは確実に歳上の男性。同世代の男性に比べてもあまりに瘦せ細った外見は、卑屈そうなニヤけ顔と合わせて、うだつの上がらない中年の印象を与えている。
「ヤージュ=バイセンか……悪いな。あんたの出る幕は無かったようだぜ?まあ、間に合っても足手まといにしかならねえ気がするがよ」
「……最強のガチホモスレイヤーだのと呼ばれてるからって、あまり良い気になるなよ後輩。その傲慢さはいずれ命取りになるやもしれんぞ」
ニヤけ顔を豹変させて、鋭い眼光を放つヤージュ。姿を現した当初のうだつの上がらない中年の印象が消し飛ぶ程の殺意。今やオーディンに劣るとはいえ、名うての戦士としての自負を持つ彼にとって侮蔑染みた挑発は看過出来ない物だったようだ。
「はんっ!冗談キツいぜ。それがもはや遥かに俺より格下に落ちぶれた人間の台詞か?」
一方のオーディンはあっさりと挑発に乗った男性が滑稽に映ったからか、すこぶる上機嫌になっている。
「いいか、もうあんたの後ろでビクつきながら後方支援に徹してた新人の俺様じゃねえのさ。わかったらさっさと雑魚でも狩って上層部に媚びでも売ってるんだな、この三流野郎」
ひとしきりまくし立てたオーディンに対し、ヤージュは何も反論しなかった。眉間に皺を寄せてはいるものの、黙して語らないまま、しばし空を仰ぎ見ていた。そして、周囲にもよく聞こえるほど深く息を吐いた後に、ゆっくり口を開いた。
「ところで後輩よ、男の娘の方が嫁にするなら良いという事を知っているかね?何せ同性だからな、気が合うし、遠慮なく下ネタもぶっ放せる。多分ご飯についても色々いけるだろう。それに加えて、同性とはよく分かってるものでな……下手な所より、良いぞ………?」
オーディンは顔をしかめた。ヤージュ様子がおかしい。この元上司はオーディンの知る限り、男の娘などという意味不明な危険キーワードを口にするような男ではないはずだ。
「はあ?何言って……」
「ホモォ!」
ヤージュは一瞬にしてブラウスを脱ぎ捨て、上半身裸になった。先程撃破したゲイに比べても体格そのものは遥かに小柄だが、それでも異常なまでに鍛え上げられた筋肉は凄まじい存在感を放っている。
「なっ……てめえまさかG(ゲイ)ウイルスに!?」
人間離れした屈強な肉体。この男の姿はウイルスに侵食されてゲイ化した被害者達の特徴そのままだった。
「くっくっく……その通りよ!俺は立派なゲイとして生まれ変わった!まずお前で鮮烈なデビューを果たしてやる!」
いわゆる着痩せする細マッチョのヤージュは乳首をピクピクと動かした。
「さ〜あ、悪い子はどんどんしまっちゃおうねぇ〜」
人間を辞めて、もはやただのゲイと堕ちたヤージュ秒間10回のスピードで乳首を動かす。
ゲイは男性に熱いベーゼを行い、あの乳首を押し当てることでGウイルスを標的に注入する。なんとも簡単で、なおかつゲイ達は高い身体能力を獲得しているのだから、短い間であっという間に増殖するのは造作もなかったのだ。
「フハハハハハハ!正真正銘貴様の最後だ!」
無論性的な意味でだ。当然男色趣味の無いオーディンとしては大人しくゲイにされるつもりはない。再び腰のホルダーからオートマ銃を取り出して、ヤージュへとその銃口を向けた。
「さあ!ハッテンしようぜえ!マイハニーーーーーーー!!!!!!」
「しゃらくせええええええええええええええ!!!!」
〜戦闘シーン省略〜
「はあはあ……とてつもない戦いだった……危うく俺もゲイにされちまうとこだったぜ……」
さすがの最強と呼ばれるオーディンでも二連戦、それもSランク相当の強敵との死闘を強いられてはたまったものではない。既に体力も銃弾も底を尽きている。かっこつけている場合ではない。早く安全圏まで移動しなければ。そう判断した時だった。
「先生〜!」
チームを組まないオーディンにとっての唯一の例外、弟子の少女が駆け寄ってくる。あくまで例外。任務に連れてはいくが、それは別行動が前提。今回も一緒には戦わず、同じ廃墟でも別エリアを担当させていた。どうやら彼女も任務を完了させていたようだ。想定外の状況に追いやられていたオーディンにとってまさに渡りに船である。
「おう、お前も片付いたか。ってなんだよその格好?廃墟の服屋から拾ってきたのか?」
少女はいわゆるゴスロリと呼ばれる黒を基調にしたドレスを身に纏っていた。別行動を取り始めて既に数日経過しているが、記憶ではその際もっと動きやすい服を着ていたはずだ。
「そうだよ!どう?可愛いでしょ♪」
少女がスカートの裾を両手で摘んでクルリと回る。可憐な容姿と相まって非常に似合っていた。
「俺からしたらまだ地味すぎるくらいだぜ!もっと腕とかにシルバー巻くとかよ!」
「んもー!先生ったら厨二病すぎ!」
そんな他愛ない会話の最中にオーディンは、少女の手にカントリーマァムの大容量パックが握られているのに今さら気づいた。甘党の彼がもっとも好むチョコ菓子だ。
「その右手に持っているものはなんだ?おやつは300円までと言っただろう?さぁ、それを先生に・・・えっ、先生へのプレゼント?」
「うん、そうだよ♪」
迷わず袋を開けて口に放り込む。正直言ってバニラ味よりココア味の方が好みだが、体力が限界に近い今はわがままを言っていられない。同じカントリーマァムだ。一個、二個、三個と凄まじい勢いで嚙み砕き、胃の中へと送り込んでいくのだった。
「先生、今まで黙ってたんだけど……」
満足そうに師がカントリーマァムを頬張る姿を静かに眺めていたはずの少女が、恐る恐るといった様子でゆっくり口を開いた。
「ん?どうした?」
カントリーマァムに夢中のオーディンは上の空で返す。意を決した少女はニコリと満面の笑みを浮かべた。
「実はあたし……男なんだ♪」
少女、いや、少年が下着が見えるまでにスカートをめくる。それを目にしたオーディンの脳内では、自身の手で駆除した元上司の言葉が反芻していた。
「嫁にするなら男の娘の方が良いよね」
その日、オーディンは大切な物を失ってしまった。