それは週末の金曜日の夜の事。
土曜日は学校も休みだし、私も祐一も明日はバイトも入っていない。
という事は、今晩は恒例の
先月は私が勝ったので、祐一は雪辱に燃えているだろう。
当然ここは返り討ちにして、祐一の悔しがる姿を楽しむ事にしよう。
「どうしたんですか? 何か楽しい事でも?」
リビングで一緒にお茶を飲んでいた美汐ちゃん――私は紅茶だけど、彼女は日本茶――が、尋ねてきた。
どうやら、考えが顔に出ていたらしい。
――――あ。
そうだ。美汐ちゃんがいたんだった。
先月はまだ美汐ちゃんが居候する前だったけど、彼女がいるのなら今日はアレは無理かも……
それとも、彼女も巻き込んでしまおうか?
◆ ◆ ◆
「ゲーム対決?」
「そう。学校もバイトもない週末の夜のゲーム対決。大体月に一回ぐらいで私と祐一とでやってたのよ」
「はあ……」
「で、あるモノを賭けて勝負して、そのあるモノが尽きた方が負け」
「何か賭けるんですか?」
「ええ。それで、負けた方は勝った方の言う事を明日一日中何でも聞くっていうのがルール」
「な、な、何でも言う事を聞くっ!?」
「そう。明日一日負けた方は勝った方の言いなりって訳」
「い、言いなり……」
「ただいまー!」
あ、どうやら祐一が帰って来たみたい。今日祐一はバイトがあったのでこの時間の帰宅。
「お帰りなさい、祐一。バイトご苦労様。晩ご飯どうする?」
時々バイト仲間と帰りに夕食を食べてくる時もあるから聞いてみる。大抵その時は祐一の方から連絡があるんだけど。
「もちろん食べる。それよりも香里。今日こそは俺が勝たせてもらうからな」
どうやら祐一はやる気満々らしい。
でも美汐ちゃんはどうするつもりかしら?
「はいはい。ともかくご飯食べてからね。」
「おう。実はもう腹が減って、腹が減って」
「じゃあすぐ用意するから。悪いけど美汐ちゃん、手伝ってくれる?」
「は、はい、分かりました」
美汐ちゃんはどうやら、『一日言いなり』を妄想したいた模様。
なんていうか、この娘も随分祐一の毒に染まってきたわね。もはや致死量かしら?
でも、知り合ったばかりの頃よりも、今の方が明るくていいと私は思うけど。
◆ ◆ ◆
「ところで、天野はどうする? 参加するか?」
「参加します!」
うわ。即答。よっぽど『一日言いなり』が効いてるみたい。
「え? 本当にいいのか? 相沢家ルールでやるんだぞ?」
「ええ。そ、その負けたら勝った人の言いなりになるんですよね?」
「確かにそうだが……その前の過程も聞いてるか?」
「そういえば、何かを賭けるとか……」
「うむ。ぶっちゃけて言うと………………脱衣だ」
「…………は?」
「だから一勝負ごとに、負けたら着ているものを一枚ずつ脱ぐんだ。で、先に全裸になった方の負け」
「ぜ、ぜ、ぜ、全裸っ!? き、聞いてませんっ!! か、香里さんっ!?」
「だって美汐ちゃん、詳しく説明する前に『言いなり』でトリップしちゃったじゃない。それに話の途中で祐一が帰って来し……」
「あ、あう……」
「まあ無理に参加する事もないぞ?」
「う、うぅ……」
悩んでる、悩んでる。『言いなり』と『脱衣』を秤に掛けているみたいね。
ちょっと背中を押してみようかしら。どっちに傾くか分からないけど。
「そうえいば、先月は私が勝ったのよね?」
「くっ、封印していた記憶が……」
「ちなみに、あの時は祐一に一日女装してもらったっけ」
「うぐぅ。忘れたい過去を……」
「あ、あ、相沢さんの女装っ!?」
「そ♪ それもメイド服で♪」
「め、メイド服!?」
「あ、あの服は本来は香里に勝って着せようと思って手に入れたのに……逆に俺が着る事になるとは……しかも写真まで撮られて……ふふ、俺もう笑えないよ……」
確かに、あのメイド服は女物のようで、祐一が着るにはちょっとどころかかなり苦しそうだった。
「しゃ、しゃ、写真!? か、香里さんっ、その写真見せてくださいっ!!」
「ダメよ。あれは私だけのものだもの」
「くそう。今日こそは俺が勝つからな。その時は泣いてもらうぞ?」
「あら、そううまく行くかしらね? で、そうする? 美汐ちゃんも参加する?」
「参加します。そして勝ちます! そして相沢さんはメイド服ですっ!!」
「いや、その……本当にいいのか? メイド服はともかく、脱衣だぞ?」
「か、構いません。ど、どうせ一度相沢さんには見られてますし……、そ、その一度見られるのも二度見られるのも同じです! そもそも勝てばいいんです!」
「だ、だけどな……一応世間体とか……」
「いいじゃない。本人がいいって言ってるんだし」
「いやまあ……いいならいいけど……」
こうして、今夜のゲーム対戦に美汐ちゃんの参加が決まったのだった。
◆ ◆ ◆
それでルールはというと。
ゲームは何でも可。カード系でもコンピュータ系のゲームでもOK。
ただし、極力三人で同時にプレイできるものにする事。
尤も、シュミレーション系のような、勝敗に時間の掛かるものはNG。
ゲームの種類は敗者に選ぶ権利がある。
先程も言ったように、負けたら服を一枚脱ぐ。
着ている服の数は予め三人とも同じにする。
最後まで服の残っている者が勝者。全裸になってしまった時点で敗者としてリタイア。
勝者は敗者二人を明日一日自由にできる。
とまあ、こんなところ。
最初のゲームは前回の敗者である祐一が選んだレースゲーム。
三人とも同じコースを同じ車で走り、最もタイムの短かった者が勝ちというルール。
結果は得意ジャンルである祐一の勝ち。私も以前はこのジャンルのゲームは苦手だったんだけど、祐一と一緒に遊んでいるうちに結構上達した。それでもやっぱり祐一には及ばない。
悲惨だったのは美汐ちゃん。どうやらレース系は鬼門らしく、コースアウトしっぱなしで散々な結果だった。
「うぅ。レースゲームなんて初めてやりました……」
「道理でな。それはともかく、ルールはルールだ。二人とも一枚脱いでもらうぞ?」
「分かってるわよ」
「し、仕方ありません……」
取り敢えず、最初の一敗なのでソックスを脱ぐ。
「あ、ソックスは両方で一つだぞ」
「言われなくても分かってるってばっ!」
どうやら美汐ちゃんもソックスを選んだようだ。
「だ、大丈夫です。次は私がゲームを選べるんですから。次は負けません」
そして、美汐ちゃんが選んだゲームは何と花札だった。
これはルールを全く知らない私の大敗。祐一と美汐ちゃんは接戦の末、美汐ちゃんに軍配が上がった。
「くっ、やるな天野。しかしまさか花札でくるとは……さすが天野だ」
「それは相変わらず遠回しにおばさんくさいと言ってますか? まあ、いいでしょう。負け犬の遠吠えとして聞き流します。それよりもこれで相沢さんのメイド服に一歩近づきました」
「な、なんかすげー悔しいぞ」
祐一はソックス、私は上に羽織っていた春物のカーディガンを脱ぐ。
「じゃあ、次は私が選べるのよね? だったら次はポーカーよ!」
「う、香里の得意ジャンルだな」
「確かに強そうですよね。香里さん」
◆ ◆ ◆
その後も勝負は進み、現在の情況はというと。
祐一は上半身は裸だけど、下はまだズボンが残っている。だから残っているのは後二枚。
私は上下とも下着のみ。祐一と同じく後二枚。
それで美汐ちゃん。彼女はすでにブラを取り去り、片手で胸を隠している状態。もはやショーツ一枚のみの崖っぷち。
「……ま、まだです。まだ負けた訳じゃありませんっ……!」
顔を真っ赤にしながらもまだ勝負を捨てていない美汐ちゃん。そんなに祐一のメイド姿が見たいのね。
「次は俺がゲームを選べるんだよな……うし、じゃあ格闘ゲームで勝負だ」
「う、まずいわね……。私、格闘系苦手なのよ」
「格闘ゲームですか? それだと三人同時は無理なのでは?」
「そうだな。じゃあ総当たり戦で最も勝利数の多い奴が勝ちって事で」
「じゃあ。それで行きましょう」
まずは私と祐一の対戦。結果は当然私の惨敗。
「ふふふ、まずは勝ち星1、だな」
「くっ、まだ勝負は決まってないわよっ!」
続いては祐一VS美汐ちゃん。
これが何と美汐ちゃんの勝ちとなった。
意外にも結構格闘系はやり慣れているらしい美汐ちゃん。だけど、私から見たところ祐一よりは経験が浅そうだった。
それなのになぜ祐一が負けたかというと……
「雑念に負けたわね、祐一」
「うぐぅ……」
つまり、格闘系ゲームをプレイするには両手でコントローラーを握る必要がある。そうすると必然的に美汐ちゃんの胸元はノーガードになる訳で……それが気になって祐一はゲームに集中できなかったようだ。
「天野の胸に負けた……」
「え? 胸って………きゃああああっ!!」
慌てて両手で胸を隠す美汐ちゃん。
どうやら美汐ちゃんは勝負に熱中して今の状態を忘れていたらしい。
なんか、何を今さらって気もしなくはないが。
ともかく、次は私と美汐ちゃんの対決。当然これは美汐ちゃんの勝ち。
これで、祐一、美汐ちゃんとも一勝一敗。私は二敗で、この勝負私の勝ちは無くなった訳だ。
「じゃあ、俺と天野でもう一度対戦だな……って、何してる香里っ!?」
「何って、この勝負私の勝ちは無くなったから一枚脱いでるんだけど?」
そう。私は早々とブラを取っていた。しかも、その後胸を隠そうともせずに。
「ま、まずい。こんなおっぱいがいっぱいな状態では勝負に集中できんっ!」
「それ、寒いわよ。祐一」
これこそ私の狙い。祐一の集中力を乱すのが目的でブラを取ったのだ。
この作戦が功を奏したのか、再び勝者は美汐ちゃんとなったのだった。
これで三人とも身につけているのはあと一枚。次が最後の勝負。
しかも、その勝負の種類は私に選ぶ権利がある。
「どうやら、私が圧倒的に有利のようね」
「くっ、まだだ。まだ終わった訳ではない!」
「そうです。まだ諦めません!」
◆ ◆ ◆
「いやあ、いい! 最高ですか? 最高ですとも!」
翌日祐一はご満悦だった。
結論から言うと、昨日のゲーム対決の勝者は祐一だった。
最後の勝負、私は得意種目であるトランプの神経衰弱を選んだ。
祐一の下着姿に赤面しっぱなしの美汐ちゃんと、私と美汐ちゃんのセミヌードに集中力を乱している祐一。
私の勝利は揺るぎないものとばかり思っていたのだけど、ここ一番の驚くべき集中力を発揮した祐一の前に敗れ去ったのだった。
そして、祐一が私たちに言い渡した命令は、
今日一日、二人そろってメイドさん
だった。
今私たちはメイド服を着て、ソファに座る祐一の左右に座り、お世話の真っ最中。
ちなみに。
私は黒を基調としたメイド服。これは前回祐一が着るはめになったメイド服。
そして美汐ちゃんは白を基調としたメイド服を着ている。
「あの、ご主人様? 一つ質問があるのですが……」
御丁寧な事に、今日一日祐一の事は『ご主人様』と呼ぶように命令されていたりする。
「うむ、何だね香里クン? 言ってみたりしなさい」
「私のこのメイド服は分かるんですが、美汐ちゃんが今着ているメイド服はどうしたのですか?」
「うっ、い、いやそれは……」
「あいざ……いえ、ご主人様は最初から私にこれを着せるつもりだったのですね……?」
「ま、まあ、きっと天野もゲーム対決に乗って来るとは思っていたし、それなら予め用意しておこうと……」
「はいはい。いいですもう。でも次こそ私が勝たせてもらいますわ。その時は何をして頂きましょうか? フフ、楽しみですわね」
「いいえ、次の勝者は私です。そして次こそご主人様がメイドさんの番です」
「ううっ、メイドさんだけは勘弁してほしいなあ……」
私も美汐ちゃんも、共に次の勝利を誓うのだった。
本日二本目の投稿ー。
内容の方は……ま、まあ、あれです。かっとなってやった。うん、後悔はしていない。
実は、今回の話のR-18アナザーバージョン「夜の生活編」なんてものもあったりしますが……読んでみたいなんて方はいるでしょうか? 要望が多ければ、そっちも投稿しようかと思います(笑)。
「ハーメルン」が不調で投稿できない間に、お気に入り登録などが結構増えておりました。
この場で、お気に入り登録、お気に入りユーザー登録、評価ポイント投下などの支援をくださった方々にお礼申し上げます。
これからもがんばりますので、よろしくお願いします。
では。