技師の力は何が故に   作:幻想の投影物

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case12

「もう一度言うわ。アナタ、戦う意思はまだ残ってる?」

「…………」

 

 してやられたか。アイザックはそんな事を思いながら、スカートの端を握りしめる俯いた巴マミの表情について憶測を立てた。この少女は、一つの失敗が後に大きく響くタイプの人間なのだろう。それも、自分自身に向ける自嘲行為へ繋がる様な。

 巴マミの精神は酷く不安定で、それは全てが敵に囲まれた状態であると言い換えても差し支え無い。幼くして両親を失った彼女は、この中学生まで生きてくる中で恐ろしい程の魔女と戦い、その戦いの熾烈さはマミに「真実」について考えさせる暇は無かった。幾らでも予想は立てられるが、キュゥべえがマミが魔女化した際のエネルギーはそれほどでもない故に魔女化は避けてきただけかもしれない。そんな一説もアイザックには思い浮かぶ。

 

 事実、バランスを崩れるような話をされたマミは、ここ数年で信じて来た己の生き様を否定されたような気分だった。目の前で他の魔法少女が変貌するなど、そう言った試練が立ちはだかる事が無かったのが、更に彼女を傷つけやすいガラスの彫刻に変えた原因の一つだったかもしれない。

 

「戦えるわ」

「嘘言わないで。じゃあ、何でソウルジェムをそのテーブルに置きっぱなしにしてあるの? 近くにあるナイフは? テーブルの端についた血は何を表してる?」

「それは……べ、別に何も―――」

「嘘」

「うるさいっ! 質問ばっかりしないでよ…アナタも秘密を話してない癖に、私にばっかり聞いてくるの!?」

「…そうよ。私のそれとは規模が違う。貴女の今の状態は、命に繋がる状況なの。貴女を死なせないためにも、私たちは此処に来た」

 

 しばしの沈黙が始まる。

 マミは、嫌という程ほむらの言いたい事が分かっていた。確かに今の自分は何をするにしても、とてもじゃないが力の入る状況では無い。精神的なショックは莫大で、後輩たちの前でずっと嘘だと叫びたい本心を隠し通しながら、平静を装っていたに過ぎないのだ。

 一日経って、受け止めた事実は次第に精神を犯し始めた。何気ない、魔女の出ない一日を過ごす中で、日常と言うものがどれだけ不安定なのかを思い知ったと言う事もあるだろう。誰が魔女に誑かされていて、誰が魔法少女として活動を始めていて、誰が敵になる可能性を秘めているのか。そして、その際にはワルプルギスの夜という脅威も重なってくる。全ての魔女の中でも最大級の「災害」と呼ばれる魔女は、これまでの普通の魔女を倒してきたからこそ力量を測る事ができ、キュゥべえから聞いた分では絶対に敵わないと知った。

 

 (あらが)うことは最早なんの意味も持たない。それどころか、死ぬ時間が少し早くなるだけなのだと、マミは諦観の気持ちを持ち始めていた。そんな時に現れたのが、この二人だったと言う訳だ。

 

「だったら…だったら、貴方たちはこの先の脅威を乗り切って! ソウルジェムを絶対に黒く染めないで! 戦い続けても良いって言うの!?」

「そんなに嫌なら、何処かの凄い因果を持つ魔法少女候補に願わせても良いと思うのだが」

「無理よ。そんな、他人を犠牲にすることなんてできない…私は、誰かを喰いつぶす権利は持っていないから……」

「…失言だったか」

「でも、それが最高の手段である事はキミ達魔法少女全員が分かっていると思うけどね」

「―――あなた、キュゥべえ……」

 

 ひょっこりとアイザックの肩の上に、この宇宙の存続を騙るキュゥべえ(インキュベーター)が現れていた。当然アイザックは認識していないが、掴まれる前にキュゥべえは方からソファーに飛び降り、その白くもふもふとした尻尾を揺らしながら魔法少女達に向き直る。何も光を映さない紅玉の瞳を覗かせていた。

 

「そこにいるのか、アイツは」

「ええ。……それで、今度は何をしに出てきたの?」

「君たちが決断を迫っているようだからね。比較的エネルギー搾取量の少ないマミは大した損失じゃない。過去には家族を生き返らせる事を祈った魔法少女もいたことだし、君達の元に戻りたいと言う願いは叶えさせることは可能だと言う事を裏付けに来たまでだよ」

「…そう」

「ヤツは何と?」

 

 アイザックに同様の内容を伝えると、スーツの上からでは見えない表情を歪ませた。

 提案したのは他ならぬ自分自身だが、場を和ませるジョークのつもりで言ったことを裏付けされると言うのは何とも歯がゆいものだ。それに、アイザック自身クソのような悪欲の塊な相手なら死んでも良い。寧ろ自分が関わることならなお引導をこの手で渡すと言った性格の持ち主だが、何も知らない相手を騙して…と言ったことは過去の自分とまるっきり同じだ。

 何も知らない魔法少女達は、正にそれをあてはめる事が出来る。そんな彼女たちを更に絶望へ突き落す様な、物扱いしかしないキュゥべえの言動には手に入る力が増す程である。

 

「そうか。……元の世界に帰った時、貴様らのような存在がいると知れば真っ先に滅ぼしに行く事を約束しよう。クソッたれたマーカーと運命を共にさせるのも視野に入れておくがな」

「その頃には人類程度がどれほどの科学力を持っているのか気になるけど…まぁ、所詮は別次元の宇宙だ。出来るのものなら勝手にやっていてくれて構わないさ」

「――――ですって。じゃあキュゥべえ、あなたの仕事は済んだでしょ? さっさといなくなりなさい」

 

 むんずとキュゥべえの体を掴んだほむらは、窓を開けてキュゥべえを投げ捨て、マミの視界からは見えない角度でサイレンサー付きの銃を発砲。闇夜に紛れて見えない位置でキュゥべえの脳天に風穴があいた事を確認すると、話の続きをしようと場を取り繕い直した。

 

「ともかく、今日からは貴方の家に住まわせてもらうわね」

「え、ええ?」

「君は、それほど病んでないようだ。精神ケアは専門外ではあるが、ある程度の知人とコミュニケーションを取る事はふさぎこんだ精神を和らげる効果もあるだろう。精々がストック分のグリーフシードを君のソウルジェムに当てる程度だから、まぁ安心してくれて構わない」

 

 そう言ってアイザックがRIG(リッグ)の収納スペースから取り出したのは、ほむらが時間停止を繰り返しながら他の街まで行って掻き集めたグリーフシードの山。軽く数十はある量にほむらの実力を確信しながら、マミは渋々と二人の入居を承諾する。鬱々とした気分はどこに行ったのか、マミはその日の夜にぐっすりと眠れた事で自分が案外単純なのだと知って、ベッドの中で項垂れているのであった。

 

 

 

 翌日、学校が終わってベルが鳴り響く中で珍しい光景が生徒たちの注目を引きつけていた。笑顔で話をしている噂の転校生、暁美ほむらと交流を中々持たないミステリアスな美少女、巴マミが仲良さそうに会話をしていたのである。

 それを気にマミに何時か話しかけようと目をつけていた生徒たちが近寄ろうとするが、何やら二人の魔性の魅力が生徒たちを一定の距離から近づけさせない。仲良く揃って校門を抜けて行く二人を追うように、二年の中よし三人組が通り抜けて行く。

 人目を自然と避けるように合流した彼女達は、とある病院近くの路地裏を通りながら廃ビルの合間を縫って行く。その後方で、怪しげな鉄兜に身を包んだ男と、若々しい少年が合流する事となった。

 

「自己紹介が遅れましたけど、僕は上条恭介です」

「いままでまどかさんたちを守ってくれたそうで、志筑仁美と申しますわ」

「巴マミよ。まさか富豪の二人が協力してるなんて思わなかったけど…よろしく」

 

 一応は形式的な挨拶を交わしていなかったという事で、一行の中でも初対面の者たちが互いの挨拶を済ませる。早速と言わんばかりに会議は始まり、この地に集まった服数人の中でも異彩を放つ男が仕切った。

 

「まず、ここにいる全員は魔女、及びにネクロモーフと言う現実では有り得ない様な怪物の事を知識だけでも知っている面々だな?」

 

 アイザックの問いかけに、全員が頷いた。

 

「じゃあ魔女の方から話して行くけど、志筑さん」

「はい、なんでしょう暁美さん」

「魔女に巻き込まれた事である程度の因果を得た貴女なら、もうグリーフシードは見えるようになっていると思うわ。これ、見えてるわね?」

「黒い宝石…さやかさんから聞いた特徴と一致しています。しっかり見えていますわ」

 

 仁美は一般人の中でも、重要なキーパーソン。この世に起きている「異常」の一端が認識できるようになっている事を確認したほむらは、マミへ視線を送った。

 

「これが魔女のタマゴ。流石に本物渡し続けるわけにはいかないから、暁美さんの撮ったこの写真を渡しておくわね」

「見える者が居ないか、わたくしたちの方でも捜索を?」

「違うわ。偶然見つけたらすぐに連絡する、という程度に。アイザックさん位の兵装でも、私達の魔力で加工された武器じゃないと効き目はないの。後は……この街からの避難勧告が欲しい所ね」

「確かワルプルギスの夜…だったね。暁美さん、そのためかい?」

「ええ。人が傷ついたら…っていうのは私のエゴ。でも、物は本当に大切なものは避難の時に持って行けばいいし、変な事で無関係の人間が魔法少女の戦いに巻き込まれてほしくないから。その悲劇が連鎖を呼んで、またキュゥべえの掌で踊る者が増えてしまう」

「分かった。上条の家にかけて」

「志筑はこの街の権利の一端を握っておりますし、其方から話が通る様に呼びかけておきますわ。こう見えて、わたくし人望はありましてよ」

「こうして見ると頼もしいわね。戦いは私達に任せて」

 

 目の前でトントン拍子に話が進んで行く様子に、さやかとまどかはぽかんと眺めるに過ぎない自分がどうにももどかしかった。その役目はさやかにもある。だが、まどかは契約を望まれていない、ただの一般人。特別な家柄も無く、何故ここに呼ばれたのかすら分からない。

 そう言った疑念が生じ始める頃だと悟ったのか、段取りを進めて行く四人から同じくあぶれているアイザックがまどか達に優しく語りかけた。

 

「カナメ、君はほむらにとって最重要だ。ここで彼らが頑張り始めた事を、知っておいて欲しいと言う事で連れて来た」

「え、ど、どう言う意味ですか?」

「そうだよ。いっそ知らない方が変な緊張無いと思うけど……」

「ミキの質問も尤も。だが、カナメは全ての魔法少女の中でも、歴代最高クラスの因果を巻き付けられてしまっているらしい。その因果は、魔法少女に秘められるエネルギーを増幅し、とても個人では運用できずに暴走させるほどにな」

「暴走…? 魔法少女の暴走って、もしかして―――」

「ああ。ワルプルギスを二乗した存在よりもずっと強力な魔女が、契約を結んだ瞬間に出現するだろうな」

 

 事の重大さは、すぐさまは呑み込む事が出来た。

 アイザックが言うには、ほむらの願いのせいでまどかの因果は強まりを高めているらしいが、もはやその領域は簡単に神を越えても問題は無い…新たな宇宙の創世すら可能な段階であるらしい。

 膨大すぎる話に目が点になる想いをするまどかだが、さやかはそれを聞いて決してまどかに契約させないようにと己に誓う。それは恭介との未来の約束を果たす為の保身行動でもあったが、数年来の友情から来る決意でもあった。

 

「Hum……ミキ、あっちに使い魔が現れたようだ」

「え? あぁ! ホントだ。ごめんまどか、ちょっと狩ってくる!」

「あ、気をつけてね!」

 

 決意を固めたばかりのさやかは、アイザックの言うとおりに落書きの世界から飛び出してきた様な使い魔へ向かって変身。地面を蹴って路地裏の向こうに行くと、初めて魔法少女姿を目撃することになる仁美の驚愕を置いて行ってしまった。

 

「今のは…アイザック。もうそんな時期なの」

「ああ。ヤツが現れたと言う事は5人目だろう?」

「巴さん、行ってあげて。まだなり立ての美樹さやかはネクロモーフとの戦闘ばかりだったから、フォローを」

「仕方ないわね。改めて“後輩”になっちゃったからには、先輩らしくしないと」

 

 マミもソウルジェムを輝かせると、金色の残光を棚引きながらさやかの援護に向かった。

 

「魔法少女って……素敵ですのね」

「見た目はね」

 

 どこか疲れたように言ったほむらは、きらきらと目を輝かせる仁美に向かって大きく息を吐きだすのであった。

 

 

 

「そぉぉぉ……」

 

 そろ~っと近づき、上空から一気に飛び降りる。

 両手に握った白銀の両手剣は寸分違わず使い魔へ降り注ぎ―――

 

「れぇっ!」

 ―――ぎぃぃぃいいぃ!?

 

 あっけなくそれを両断した。

 

「お見事」

「あ、マミさん」

「迷いの無い一撃だったわ。私の最初と比べると、ちょっと羨ましいかも」

「そう言ってもらえるとこっちとしても照れちゃいますね」

 

 元からの冗談を連発する気質により、人から純粋に褒められたことの少ないさやかは少し気恥ずかしいと頬を弄る。近くに結界も無い様だからと、魔法少女の変身を解いて魔力節約を図ろうとした時に、その人影は二人に降り注いでいた。

 

「おいおい、あの使い魔やっちまった? 勿体ないな。一人や二人襲わせれば、効率よく魔女になってくれるってのにさ」

「…え、この声」

「ちょっと、アンタ誰よ!」

 

 マミはその声に聞き覚えがあるのか、武器を握って後ずさりする。気丈に剣を握り直したさやかの反応に対し、上から降ってくる声はカラカラと笑って見せていた。

 

「ハッ、魔法少女が増えてるなんて聞いてないんだけどなぁ。ま、そんな愚直な得物じゃすぐにやられんのがオチか。あたしのと違って…さッ!」

「うわっと!?」

 

 ザラザラと鎖の音を響かせながら尖った凶器がさやかに向かう。驚きながらも、天性のセンスで剣の峰で弾き返したさやかは一撃を防いだことに安堵しながら、攻撃してきた相手が魔法少女だと言う事に驚く。

 この世界でのほむらは、マミに警戒はされていたものの直接的に戦闘に至る様な事は無かった。さやかたちとも交流は深く、マミには魔法少女同士の縄張り争いがあるとは聞いていたが、実際の戦闘を見た事がないのでどこか現実として捉えていなかったとも言える。

 そんな甘ったれた雰囲気を持ちながらに防いださやかに興味が出たのだろう。上にいた影の持ち主は、面白そうだと声を漏らして降りて来た。

 地面に降り立った彼女は紅い衣を身に纏う。口に挟んでいた棒菓子を一口で平らげると、菓子の代わりに棒状武器である槍を構えてさやかに相対する。槍は同時に多接棍でもあり、ガシャンッと騒がしい音を立てて槍の穂先は棒の先に収まった。

 

「佐倉さん……戻って来たのね」

「ああ。ちょっとこの街から溢れる使い魔が減ったと思ってな。案の定、新しい魔法少女を飼ってやがったか、マミ」

「美樹さんをペットみたいに言わないで頂戴。相変わらず手癖の悪さは治ってないようね」

「マミさん、知り合い?」

 

 ギッと寸分の隙なく睨みつけるさやか。彼女の問いにマミは頷いた。

 

「かつての弟子…いえ、同じ穴のムジナかしら」

「ヒュー。言うじゃないか、臆病者」

 

 マミその言葉に反応するが、銃を構える手は何処か定まらない。ただならぬ様子に気がついて佐倉、と言われた魔法少女はニッと赤髪のポニーテールを振って笑う。

 

「ついに引退でも考えてたか? 腰が引けてんぞ」

「そう…引退、近いかもしれないけど最後のひと仕事やり遂げなきゃならないの。死ぬのはそれからでも良いわ」

「マミさん、死ぬなんてないですから。私とか、アイツらとかちゃんといますから! そんで、そこの赤いのさぁ……さっきから何なの? 魔女にさせるまで人襲わせるとか、目の前で死を見せつけられても何とも思わない訳!?」

「ったりめーだろ。つか、一々そんなこと考えてたらあたしらが生きられないっての。…ああ、マミんとこで魔法少女契約しちゃったんだっけ。それなら砂糖より甘い考えでも仕方ないよなぁ」

 

 力んで柄を握った瞬間、自分の手が軋みを上げた。

 ネクロモーフを斬って、アイザックから手ほどきを受けたさやかは、死と言うものがどれほど重要で、平等に訪れ無ければならないと知っている。尊ぶべきは人の意志。死を受け入れる時は、その人間が意志を自ら捨てるか、託した時にしか与えられてはならない。

 さやかが確立した死の概念を、この魔法少女は嘲笑った。

 踏み込みにはそれで十分―――!

 

「おっ!?」

「はっ、ぜぇぇええええええっ!!」

 

 大剣が慣性を持ちながら、エネルギーを持って魔法少女に襲いかかる。あまりにも真っ直ぐで、だからこそ捕え切れない速さを持った突進に反応しきれず、紅い魔法少女の手から槍が弾き飛ばされる。空気を裂いて弾かれた槍は天高く打ち上げられ、魔法少女の後方に突き刺さって消滅した。

 

「っつぅ……案外やるじゃん。不意打ちしてくるとは思わなかったな……」

「退いて。それで、あたしたちがやること茶化しに来たって言うんなら此処以外の何処かの街で戦ってなさいよ。あんたがいると多分、全部邪魔になるから」

「アァ…? チョーシこいてさぁ、新人がいきがらないで欲しいんだけど?」

 

 杏子はノーモーションから槍を生成。既に間合いに入っていたさやかに対して生成の勢いを利用して射出。真っ直ぐに打ち出された槍に、さやかは避けることなく左腕を差し出した。突き刺さった箇所は感じたことの無い痛みを奔らせたが、魔法少女になってから軽減された「痛み」に抗い剣を振る。横っ腹から向かった峰打ちを魔法少女は避け、くるりと後方に回転して間合いを取った。

 

「あー……そういうことか? ちょっと誤解してた。あんた、ひよっこじゃなくて殺せる動きしてる。マミと違って、あるものの為なら人斬りだって厭わない剣ってヤツ? まぁ、そんな感じ―――っとぉ!」

 

 マミの打った弾丸が相手の魔法少女の足元に当たり、そこから伸びたリボンがさやかと相手を仕切る様な壁を作った。一歩引いた彼女は、まるで演劇の様にお辞儀をする。

 

「あたしは佐倉杏子って名前。結構面白い事聞かせてもらったしねぇ……この街には居座らせてもらおうかな」

「はぁっ!?」

「アンタの意見は聞いてないよ。んじゃ、せいぜい次まで生きてろよなッ!」

 

 リボンの隙間から見える相手――杏子は分が悪いと見たか、置き土産にリボンの間を縫って数本の槍を投擲。それらを全て難なく撃ち落としたマミは、一息ついてさやかに振り返った。

 

「……ねぇ、美樹さん」

「違いますよマミさん。こう言うのは、活人剣って言うらしいです」

「…聞き慣れない言葉ね」

「本来人を殺す武器としての剣ですけど、使い様によっては大切な人を生かすための盾にもなるし、道を切り開く枝鋏にもなるって話。あたしは、もう迷ってませんし、この剣で守りたい人は決まっています」

「そう、立派じゃない」

 

 私とは違って。

 マミが零した言葉は、さやかにマミの心情を理解させるには十分だった。自分の思っている以上に、巴マミという人物は心がメッキで構成されている。それが剥がれてしまえば、虚構が広がっているから、それを知られたくなくて「華麗な姿」の皮を被っているんだ。

 自分に恭介という守るべき人物がいる事を知っているマミは、やはりどこか羨望の瞳で此方を見て来ている。そんな空気にいたたまれなくなったさやかは、変身を解いてグリーフシードを取りだした。昨日、病院の帰りに狩って来た魔女から落ちた物だ。

 

「マミさん、これ使ってよ。あたしより消耗が激しいみたいだし」

「……ええ。ありがとう」

 

 同じく変身を解いたマミは、コツンと自分の魂を当てて、グリーフシードへ穢れを吸い取らせた。それでも奥の奥からじわじわと這い出てくる黒い濁りは、無くなる事は無い。

 




そろそろ(ネクロモーフが)本気を出すんだよ

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