技師の力は何が故に   作:幻想の投影物

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更新遅れましたが、登場人物はいつも通りです。
ええ、いつも通りですとも。


case15

「鹿目トリオと暁美さん、最近ずっと一緒に登校するようになって来たなぁ」

「最初に保健室連れて行ってもらってたし、それで仲良くなれたんだろ。あーあ、オレもお近づきになりたかったなぁ」

「ばっか。テメェみたいな不細工チビがあのモノホンの美人に似合うかっての」

「それもそうか」

 

 朝のホームルームが始まる前に、男子達のそんな声が聞こえてきた。確かに、最近はキュゥべえから契約を持ち込まれないように魔法少女の誰かが家に帰るまでの時間、四六時中みんなわたしの傍にいてくれている。

 朝はほむらちゃんとさやかちゃんが。昼はさやかちゃんが仁美ちゃんと難しい話をしながら、わたしにもわかりやすいように色々とこの町で練っている対策を立て始めていて、帰りにはマミさんも加わって…夜になればなるほどわたしの周囲は厳重になって行く。

 あの会談から3日経って、クラークさんはいまどうしているのかとほむらちゃんに聞いたら……ぱったり。姿を消して別行動をとっているって言ってた。なんでも、とりのがした最悪のネクロモーフが魔女と同じような結界を張るようになっていたとか。その責任で、日夜あの未来の技術を使ったスーツのおかげで寝る暇も惜しまず街の闇の中を徘徊しているみたい。

 

(……ほんとに、凄いなぁ。わたしができるのはキュゥべえと契約しない事だけ……それが一番大事なんだってのはわかるけど、どうしてもほむらちゃんたちの役に立ちたいし、さやかちゃんの助けになりたい。……そう思うわたしは、わがままなんだよね。こんなわたしは―――)

「まーどかっ! 暗い顔してどしたの? さっきから呼びかけても全然気付いてくんないしさ」

「あ、ご、ごめんね」

「あはは、大丈夫大丈夫。あたしが無視されんのなんていつもの事じゃん」

「今日もさやかさん、居眠りで起きぬけの一言が“変身!”でしたものね。そのせいで授業が3分ほど止まってしまいましたもの」

「美樹さん。そう言う魔法少女関連のことは重要に考え過ぎないようにしないと。日常と裏の使い分けしないと、昔の私みたいに参っちゃうわよ?」

「そうそう。お稽古のペース配分を間違えて、風邪を引いてしまったわたくしと同じですわ」

「あーい。頑張りまーす……」

「あはは……さやかちゃん、ファイト」

 

 こんな励まししかできないけど、それでもこれが力になると言うから…わたしはそれに甘んじることしかできない。本当に惨めで嫌になる……どうして、因果が集まったのがわたしなんだろう。なんて、今度はほむらちゃんをけなす様な言葉が思い浮かぶわたしは凄く嫌な奴だと思う。

 帰路の夕焼けが照らす光に皆で、当たって笑い合っている。ワルプルギスの夜と、ネクロモーフの恐怖。それがあるって分かっているのに、それでも笑っていられるのはきっとみんなが強いからなんだろう。わたしは、愛想笑いばかり……みんなの影の中に縮こまるばっかり。

 ほむらちゃんも笑っていないけど、それはもっと別の理由。時間を繰り返してきたなんて、すごい理由があるから。だから笑っていなくても、こうして皆が一緒に居られることに安心できている。わたしは、やっぱり不安なまま。

 

「その」

「どうしたました、まどかさん?」

「今日はちょっと早めに帰ろうかな、って。特別休校の宿題も沢山出てたし、平和になったらみんなと一杯遊ぶために頑張ろうかなぁなんて……思って…」

「あぁ、志筑さん。あなたがそこまでやり手なんて思ってなかったわよ。まさかワルプルギスの夜が出現する辺りの日は見滝原から人をいなくさせるなんてね」

「上条さんのお家との協定、それからお父様の顔の広さの賜物ですわ。わたしはただのメッセンジャーに過ぎませんし……それに、学校がお休みになるなんて花の中学生としては辛抱たまりませんわー!」

 

 その場でクルクルと回る仁美。美少女が満面の笑みを浮かべて街を歩いているが、周囲には人っ子一人見かけることはできない。みな、「未曾有のスーパーセル発生」という告知を受けて見滝原から脱出するために荷物をまとめているからだろう。

 事実、ゆったりと女子中学生らしい会話に花を咲かせてのんびりしているのは彼女たちだけ。他の人間はなにやら大きな荷物を持っていたり、引越配送業の業務員がトラックを走らせているばかりだ。

 

「あ、そう言えば仁美ちゃんって時々こんな風に弾けるんだったよね……」

「それに、まどかさんの仰る通りです。その休日を満喫するためにも、課題は全て終わらせておきませんと。特にさやかさん? あなたの家へ通いつめてまで終わらせるつもりですので、鍵は開けておいてくださいね」

「ウェッ!? や、やだなぁもう……ちゃんとするってば。するよ? うん、ちゃんと宿題は…するよ、多分」

「決定ね。志筑さん、巴さんも美樹さやかの家でワルプルギス後は勉強会なんてどう?」

「それは名案ね暁美さん! 実は私も魔女狩りで数学とか理数系がちょっと追いついて無くて…基礎だから、二年の範囲で復習のいい機会にもなるもの。その話乗った!」

「と言う事ですので、その際にまどかさんもご一緒しませんか? あぁ、勿論それまでに“出来る範囲”で終わらせておくのも一つの手ですけど。終わらせておくのもねぇ、さやかさん?」

「う、うぅぅぅ……アイザックさん、みんながいじめるよ……恭介…タスケテ」

「絶対行くよ。ってさやかちゃん、魂でちゃってる。ソウルジェム落としそうだって―――!?」

 

 そんなこんなであたふたとしながら決戦前、楽しい最後の下校を終えた五人。恭介は早めに帰って家のごたごたを片付けるとのことなのでこの場には居ないが、最終的にワルプルギス到来少し前までには見滝原から戦えない者としてまどか・仁美と共に脱出している予定だ。

 そうなると、この町に残るのは魔法少女たちと、ネクロモーフの討伐を主な目標とするアイザックだけになる。アイザック自身も強力な武装を持っているのだが、あくまでそれはあまり強くない中級クラスの魔女までとネクロモーフにしか通用せず、やはり魔法少女の地力には敵わない。故に、アイザックも現在の元凶となる「Hunter」を完全に殺した後は、戦えない者たちの対キュゥべえの護衛としてこの町を出る手筈になっていた。

 そしてまどかが家に戻り、心配だと言う事で家族もいないマミがまどかの家に一晩お世話になることに。桃色と金色の髪を揺らしながら扉の向こうに消えていく二人を見送った一行は、それぞれの役割の為に解散しようとして―――

 

「さやかさん、少しお時間よろしいでしょうか?」

「ん、どしたの仁美」

「……私はアイザックの武装の練習に行ってくるわね。次に出る“影の魔女”は任せておいて」

「あ、うん。りょーかい!」

「魔法少女になり立てのあなたも、自分自身の扱い方に慣れておきなさい。ワルプルギスは範囲攻撃が主だから、しっかり避けないとソウルジェムが砕かれるわよ」

「肝の冷えるお話しをどーも。頑張ってきなさいよね」

「言われなくとも」

 

 すぐさま変身して屋根を伝って跳んで行くほむら。

 彼女を見送った仁美はさやかに視線を戻した。

 

「それで、どしたの?」

「幸い家は途中まで一緒ですし、それまでに終わりますわ。…歩きましょうか」

「うん」

 

 二人は枯れ葉色の制服を身にまといながら、電灯が照らし始めた夜道を往く。

 心なしか、その影はいつもより一層濃いような気がした。

 

 

 

「……実は、上条君のことについてお話がありまして」

「恭介について? 避難勧告(そっち)の事情でなんか不味い食い違いでも起こった?」

「いえ、わたくし個人の感情です」

「ふーん……そっかぁ」

 

 その言葉で、さやかは頭をひねらせる。まさか魔法少女として一緒に戦うのでは、という疑問が彼女の頭に浮かんだと同時、誰でもない仁美自身によってそれは否定された。

 

「わたくし…上条君をお慕いしておりますの」

「……え」

「勿論、さやかさんとの約束は存じておりますわ。ワルプルギスの夜を乗り越えて、彼はあなたに返事をよこす、と。それに関して、あなたが居ない場所では同じ秘密をもつ一般人として彼から聞きました。ですが、そうして誰かやさやかさんの為に悩む彼の姿を見て思ったのです……わたくしも、彼の人となりに、彼自身に恋慕を抱いたのだと」

「…あんにゃろ、こっちが酷く悩んでるってのに仁美まで悩殺してたなんて……それで、仁美は恭介に?」

 

 仁美は首を振る。告白に関しては、まだだと言った。

 

「仁美が、恭介にかぁ。なんて言うか」

「予想外。と?」

「うん。でもやっぱり恋って難しいね……あたしは気付くのに数年かかって、仁美は恭介と向き合って話しただけでコロリでしょ? すっごい雁字搦めになった沢山の糸みたいでさ、ゆっくりと解いたあたしと、偶然一本掴んで抜け出た仁美って感じかな。そうして毛玉の外に出た私たちの糸は―――」

「上条くんに繋がってしまった、と」

「あっちは多分、仁美の方には気付いてないよ?」

「ええ、それはそうでしょうね。…それは、ともかく」

 

 こほんと咳払いをする彼女。いいたい事は、さやかにも分かった。

 

「なんでこんなに仁美を否定しないんだってこと?」

「はい。…わたくしとさやかさんは、言わば恋敵。ワルプルギスの事でそんな事を言っている暇はないとも取れますが……わたくしはその程度の理由であなたが今を看過しているとは思えません」

「うーん……そう言われると難しいんだけどさ、あたしは仁美のこと親友だって思ってるし、それにさ…恭介の気持ちも考えさせて欲しいんだ」

「かれの、気持ち?」

 

 頭沸騰しそうだけど、と前置いたさやかは言う。

 

「結局さ、あたし達が勝手に惚れて…それで答えを強要してるのが今じゃん。仁美はまだ告白してないから違うかも知んないけど、でも告白した後はいまのあたしと同じになる。恭介の事を勝手に惚れて、あっちの気持ちもその場ですぐ言葉で受け取っていないのに、期待を膨らませて迷惑かけるようになる。多分、最近あたしが夜にしか恭介に会えないのは…アイツも、迷ってるからだと思うんだ。真剣に、迷ってくれてる。そんな恭介に昼までも無理やり会って、アピールして…そして生き返ったヴァイオリンの練習とかに魔法少女の事で水さしちゃってさ? 怪我が治った喜びを感じさせることも出来なかった。多分、恭介は魔法少女の真実を知った皆よりもずっと苦しんでる」

「…確かに、そうですわね。わたくし…自分の事ばかりで気が回りませんでした……」

「仁美の告白も、たぶん悪い事じゃないと思う。原因の大半を考えると、魔法少女の事情に付き合わせたあたしが悪いんだし。むしろ、あたしは仁美が告白してしまえばいいって思ってる」

「…これ以上の重荷を背負わせてしまうかもしれませんのに?」

「うん。多分、今までのあたしの中でいっちばん最悪な考えだけどさ」

 

 視線を落としながら、頬を掻く。零したさやかの苦笑いは陰気を含んでいた。

 

「契約の時の治す祈りと、幼馴染から親しい位置に立って告白したあたし。同じ富豪の家だとしても、知り合ったばかりの仁美。こうして誰か一人が恭介の中で増えたとしたら……あたしを選んでくれた時、嬉しさは増すんだろうなって。そんな最悪の独りよがり」

「……さやかさん。貴女は」

「分かってるよ。だから言ったの。誰でもない、仁美だから」

「分かりました」

 

 気付けば、仁美の家の前まで来ていた。大層な庭にも、ほとんどの使用人がこの町から脱出しているおかげで人の気配はほとんど感じられない。大きな家の門に手を掛けながら、仁美はさやかを見返した。

 

「わたくしは上条恭介さんに告白する事にします」

「…それでこそ、だね」

「負けませんわ。絶対に……アドヴァンテージは其方にあっても、わたくしも将来を賭けた大事な選択ですもの。ですが、一つ約束しましょう」

「約束? お互いやることには不干渉とか?」

「いいえ。彼が選んだ相手がどっちであろうとも、必ず祝福の場には参列する事です。どちらも本気でやり合って、それでわたくし達以外の誰かが選ばれたとしても……わたくしたちが恋した上条君の幸せには違いありません。彼自身を祝福するのは、こんな決断を迫ったわたくし達の義務ですから」

「……それも、そっか。そうだよね…恭介が幸せなら、そうじゃないとあたし達はネクロモーフ以下の外道になっちゃうか。…うん、約束。キュゥべえの契約なんかよりも、ずっと大切な約束にしようよ」

「はい」

 

 何を言わずとも、二人の手はしっかりと相手の手を握った。

 どちらも女の柔な手ではあるが、芯の通った気持ちは感触の奥底で力強い流れを両者の心に響かせる。強い光を視線の間で交わし合い、仁美は門の向こう側へ、さやかは変身して夜の空へ。互いに背を向けて道を別つ。

 次に会う時は、恋のライバルとして。

 次に顔を見せる時は、最高の親友として。

 ワルプルギスの夜を乗り越えた先は―――望みを掴む者として。

 二人は、心を固めた。

 

 

 

 

「それにしても、友達でさやかちゃんかと思ったら……まさかの大穴。こんな美人な先輩連れてくるとはなぁ。まどか、もしかしてそんな? 育て方間違えちまったかなぁ」

「な、何言ってるのママ!? ノーマルだよ、わたしノーマルだよ!」

「でもこんな可愛い子なら、私は構いませんよ。鹿目さんのお母様。むしろ、まんざらでもないと言うか―――」

 

 ひゅん、とマミの頬を掠めて銃弾が飛来する。

 窓の隙間から、正確にマミを狙って打ちこまれたのはすぐに消失する魔法弾だった。

 

「…………!?」

「ど、どうしたんだい巴さん。真っ青になってるけど…夕食でなにか当たっちゃったかな」

「い、いえ。当たったのは寧ろ琴線というか…大丈夫です。はい」

「マミさん大変! 頬に傷があるよ!?」

「え? さっきまでは無かったのに…女の子の顔に傷が残っちゃ大変だ。ママ、救急箱どこだっけ?」

「昨日タツヤが転んだ時に使って動かしてないと思うぞ」

「パパ、たつやー。たつやもいくー」

「はいはい。それじゃ一緒に巴ちゃん治そうね? 巴ちゃん、ちょっと待ってて」

「あ、ありがとうございます……」

 

 ふぅ、吐息を吐きながらマミは思った。

 

(…もしかして、もう魔女倒して戻ってきたの? 確かに夜は寝ずの番で鹿目さんを守ってるって聞いたけど……これじゃもうスト―――)

 

 二撃目飛来。

 

「ひぃっ!?」

「ま、マミさん!?」

「ほとんど同じ場所にもう一つ? どうなってんだ、これ」

 

 鹿目まどかの母親、鹿目詢子がいぶかしむ様な視線をマミの傷に集中させるが、マミは自動修復して行く傷を見せないためにも大丈夫、大丈夫と言って救急箱を取りに行こうとしたまどかの父親と弟を食事の場に留めている。

 唯一事情を知っているまどかはとんでも無い事態におろおろするばかりで、その可愛らしい姿が現在のマミを落ちつける特効薬になっているのは本人には内緒だ。

 

「自分でちゃんと直しますから……」

「マミさん、そう言えばクラークさんから貰っておいたメディカルパックがポケットにあったから、これ使って」

「あら、ありがとう」

 

 受け取ったメディカルパックの筒のような部分の口になっている箇所。そこへ傷口を押し当てると、中身の水色の液体が少しだけ消費されてマミの頬に濡れた感触が当たった。それから数秒して其れを離すと、マミの頬に刻まれていた裂傷がきれいさっぱり消え去っている。未来の医療技術、正に恐るべしと言ったところか。

 

「ほー。これはまた便利な……クラークさん、だったな。まどか、これはそのクラークさんから貰ったのか?」

「う、うん。二週間くらい前に貰って、ずっとポケットに入れっぱなしだったんだけど……こんなにすぐ効くんだ」

「でもこんな薬どっかで扱ってたか? ちょっと見せてみろ」

「あ」

 

 まどかの手から取り上げた詢子がメディカルパックを見回す。

 すると、

 

「……何だこりゃ、外国産か? クラークは英名だしそりゃ……ん!? 製造年月日、2500年…U.S.G.Ishimuraって………」

「2500年? ママ、ちょっと僕にも見せてくれないか」

「ん。ほらここ」

 

 詢子の手からまどかの父親、知久の手に渡る。アイザック・クラークの持ちこんだ技術の塊が完全に検分された後、両親の目は胡散臭いものから何か確信のある者へと変化して行った。

 

「……それで、事情の説明はできるんだよな?」

「さっきの傷と言い、まどか。何か僕達に隠してる事があるんじゃないかな?」

「え、えーっと……」

「それに先輩が後輩の家にいきなり泊まりに来るのもおかしいだろ。まさか学校でぼっちだった訳でもないだろうし」

「はうっ!?」

 

 巴マミ、二重のダメージである。

 

「話してもらうぞ。最近の避難勧告といい、街の隙間から見えた化け物と言い……幻覚や何かで決め込むには有り得ないことばっかりだ」

「ママ、ネクロモーフ見たの!? 襲われなかった!?」

「遠目に見てたから大丈夫だよ、まどか。…それと、その反応はダウトだ」

「あ」

 

 まどかの盛大な自爆によって、食後はマミを交えて家族会議へと移行した。

 リビングで両親と対面するまどかと、その隣でこんなことになるとは思いもよらなかったマミが正座して座っている。にっこりと話してごらん、と促す知久の顔は、まどかが今まで見て来た父親の中でももっとも恐ろしかったのだとか。

 

 

 

 

 白黒が交差する。無様に地面を這いまわることしかできない大男が転がりながら、ギリギリのところで直撃を避けて影の魔女の髪の毛を避けていた。転がり、起きぬけにラインガンを構えてプラズマカッターより出力も横幅も広い青い光の線を発射。ほむらの魔力を加えられたそれは、元の威力と合わせて影を伸ばす魔女の髪を一気に切断。

 次に伸びてくる隙を狙って男は鎧をガシャガシャ鳴らしながらに距離を詰めていって、その作業の様な展開は30分に渡り続けられていた。

 そもそもの発端は、ほむらが現状の確認をしようとアイザックへ電話をかけたことによる。今回の魔女はアイザックが相手をするには人間の認知を遥かに超える物量的な攻撃を持ち、アイザックでは対処しきれない相手であることから手を出さないようにとほむらは言ったのだが、何故か彼はその魔女が出現する廃工場のグリーフシード前に佇んでおり、結界が開いたと同時、「倒してしまおう。其方の方が手っ取り早い」と言ってほむらの忠告を無視して突っ走ってしまったのだ。

 

(その結果が、これか。髪を触手に見立てれば……Hivemindが多少素早くなったと思えば対処のしようはある)

 

 言いながら、彼は幅広の攻撃範囲を持つラインガンと、突撃銃のように目の前の障害を切り刻む電鋸射出装置であるリッパーを切り変えながら戦っていた。特に、リッパーの使用者から愚痴が寄せられる程度にはうるさい駆動音が魔女の琴線に触れるような行為だったらしく、これを使っている間は相手が取り乱して隙だらけになる。

 実際にこの「エルザマリア」という魔女は常に祈り続ける事を心情とし、全ての生物を一つにまとめ上げることで救いと考える敬虔な邪神の信徒のような魔女。その祈りを邪魔する者に制裁を与えるのではあるが、逆に言えば祈りを邪魔されるのは魔女にとって一番嫌な事。つまり、その祈りを邪魔する程の甲高くガリガリと何かを削るようなリッパーは魔女の精神を作動するごとに一緒に削り取ってくれているのだ。其れを知ったアイザックは、水を得た魚のようにして30分、少しずつではあるがエルザマリアの元へ歩いて行くことに成功している。

 

「…だが、残弾が心許無いのも事実か」

 

 そう言った通り、この魔女を仕留める分にはともかくリッパー、ラインガンともに持って来ている分は在庫切れが近い。ほむらの家にある自室には大量に作っておいた残弾があるが、残りはラインガン2発とリッパーが一発。そして他に持ってきた武装分も約半分以下しか持ち合せが無かった。視界に移る物全てがモノクロにしか映らないこの結界の中では、狙いを外すという行為は最悪の一手になりうるだろう。

 アイザックはラインガンを装填し直し、残り二発を完全に打ちつくす。エルザマリアの髪が尖った大樹のように押しこんでくる中、ラインガンで開かれた活路をプラズマライフルの連射で穴をあけながら濁流にのまれていく。もはや自分の進む分しか空いていない死の空間(デッドスペース)の中で、アイザックはその手に持ったリッパーの引き金を―――引いた。

 

 酷く甲高い音が響き渡り、射出された丸鋸の刃はキネシス技術の応用で高速回転しながら目標を切り刻む。それはエルザマリアの髪を抜けて行くと、魔女本体の後頭部に着弾し、顔も姿ものっぺらな女性像の髪を根本から掻き毟り、蹂躙し、脳髄まで破壊しながら嫌悪感の高い駆動音を響かせ血飛沫を上げさせる。

 しかし、最後の一発であるリッパーの残弾がゼロになっても、まだ魔女は息を保っていた。リッパーの刃によって頭を文字通りグチャグチャにされた魔女がアイザックを再び髪で刺し貫こうとして―――

 

「Fuuuuuuuuuuck!!!」

 

 魔女、エルザマリアが最後に見た光景は、プラズマカッターを振りかぶる鎧の男。そして、その顔面から発せられる死を司るような青いライトの光だった。

 プラズマカッターの固い外殻が魔女の核に達し、スーツの力で補強された筋力が魔女の頭蓋をカチ割って脳髄を撒き散らす。完全に絶命した魔女はよほどの生物を殺していたのか、二つのグリーフシードを落として結界ごと消滅するのであった。

 




ようやくかけた。アイザックさんが魔女を殴り殺す話。
殴り殺せそうな脆い魔女ってこいつしかいませんし、H.N.エリーは無重力空間戦闘の疑似として使えそうだったんですが、トラウマ映像はニコルの薬自殺になりそうでまどか達の精神がヤバいです。
それにしても、もうちょっとアクティブに相手に翻弄されたり足つかんで振り回されたアイザックさんが起死回生で相手を撃って、解放されたら今度は地面に叩きつけられるようなアクション書いてみたいです。

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