技師の力は何が故に   作:幻想の投影物

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駆け足気味の最終回。

何か色々はあとがきで書きます


case37 Convergence

「クッソ、このおおおおおおお!」

 

 弾き飛ばされるが、上手く空中で身を捻って着地。ビルを足場にして飛びかかる。

 あれからまた時間が経って、この見滝原に限らず全世界に月から降下してきたネクロモーフ入りの隕石が夜の間に降り注ぐ大増殖が発生してしまう。おかげで魔法少女は人目に触れることも守秘義務もクソもない。むしろ自分と親しい人が生き残るために異能の力を発揮せざるを得ない状況になってしまった。

 

「GuiiiiiiiiiiAaaaaaaaaa!!」

「うっさいさっさと死ね! っとぉ!?」

 

 そこで戦う彼女―――見滝原の魔法少女、さやか。彼女は新種であろう二本の腕が肥大化したネクロモーフに押されていた。跳びかかりからの両手の振り下ろしに、渾身の力を込めて大剣を盾にしたはいいが、防いだ瞬間横から絡みついた触手が大剣の柄ごとさやかの手を包んだせいで身動きが取れない。

 他の魔法少女とは違って、替えの効かない一本物だ。だが肉体には代えられない。さやかはすぐさま振り払うため、勢いよく引き剥がし、手首から先を置き去りにしたまま後退。骨から神経、神経系から筋肉。そして皮膚を順序立てて再生させる。

 

「こんの化物がああああああ!」

 

 再生中も、飛び蹴りをかまして剣を離させる。

 

「よっと、トドメェ!」

 

 そして、空中でキャッチした大剣を黄色い弱点へ振り下ろす。パンッと血肉を振りまき活動停止したそれを念入りに踏み潰したさやかは血を振り払いながら、目指す先―――豪邸へと足を踏み入れた。

 バリケードの一部が壊れた部分に立つと、それを補強している女の子に、さやかは話しかけた。

 

「まどか! みんな! 大丈夫!?」

「さやかちゃん!」

 

 ここは上條家の別邸、つまりは仮教室だった場所だ。ただしそこはネクロモーフの脅威にさらされており、死人はまだ出ていないが重症を追った生徒は少なくない。幸いにもキュゥべえの診断では細胞が変異する様子は見えないが、このまま死なせれば死体は怪物になって起き上がるだろう。

 そうならないために、ネクロモーフについてある程度の知識があるまどかが主導となってクラスや学校の皆を導いていた。ただ、その混乱はほんの一部分しか収まっていないが。

 

「思っていたより目覚めが早いね」

「キュゥべえ、あなた何か知ってるの?」

「少し前から惑星Tau Volantisの住人……君たち風に名前を言うならロゼッタ(Rosette)という人物がこの事態の対処に当たっているんだ。彼女とコンタクトを取った僕たちは事態の収束に動いていたんだけど」

 

 キュゥべえはそこで口をつぐんだ。解決策は確かに見つかった。

 

「足りないんだ。エネルギーが」

「はぁ!? あんたあたしらからどれだけ取っていったと……」

「違うよ。向こう無限に“月”を停止させるだけのエネルギーをどうやって創りだすんだい?」

「……」

 

 この地球におけるエネルギー搾取は、もはや魔法少女が魔女と化したもの以外の方法……つまり運良く生き残った使い魔が成長したものを使う方針になっている。だからといって別の惑星でインキュベーター的エネルギーの生産をしても、月を封印するためのエネルギーを供給するよりも、消費のほうが早い。だからといって宇宙存続のためのエネルギーを回せば、今度はこの宇宙の崩壊が始まる。

 

「だったら、Markerのエネルギー使おうよ」

「まどか?」

「どうせ目覚めないなら、Markerの無限とかいうエネルギー使ったほうが」

「でも、それだと君たちの側でMarkerは量産される。それこそ発せられる信号が無駄になるだろうけど、君たちの星の精神汚染は避けられないよ」

 

 キュゥべえもできるだけ地球の人類は存続するための方針を取っている。今はそれどころではないかもしれないが、さやかと交わした契約を履行するためにその方針を曲げたことはない。そして何より、一時しのぎでしかない方法は段階的に必要とはいえ、数百年程度しか持たない状態で終わる可能性も高いため、あまり取りたくないのだ。

 とはいえ、取りたくないと取らなければならない事態は違う。

 

「君たちの言うとおり、最後は敵の力をそのまま使うしか無いのが現状だ。ロゼッタたちは自分たちの命運を掛けると言っている。彼女らの策を使うから、今から全魔法少女にはネクロモーフの討伐とこれまで通り魔女の討伐をメインに動いてもらうよ」

「へ、じゃあすぐそこにある月の覚醒はどうするの?」

「残念だけど、まだあれと退治して完全に駆除する方法は無い。これまで君たちの数え方で数千年避けてきた相手だ。こんな短時間じゃ完全な解決法を思いつくなんて無理さ」

「仕方ない、か」

 

 さやかは目線を移して、教室の隅で震える者。怪我の治療のため駆けまわる者、蛮勇を犯して外に行こうとする自殺志願者を見る。

 何も準備ができていない人類は、このままだと自壊する。そんな未来を示唆しているかのような光景だった。誰も彼もが、自分のことばかりで他を見ていない。こうして訳の分からない会話をしているはずの自分たちに、誰も話しかけようとしない。さやかの血だらけの姿と、剣に疑問を投げかけようともせずに目をそらしている。

 

「未来は暗いね」

「安心してくれ。こうなった以上は必ずやり遂げてみせるよ」

「あの世ってのがあるならそこから見守ってるよ。じゃ、あたしはまた行ってくる。まどか……ここをお願いね」

「わかった」

「僕は最悪の事態を避けるため、まどかを守っておくよ。契約以外にも月以上の脅威を捨て置くわけには行かないからね」

「あ、あはは。そういうことだから、安心して行って、さやかちゃん」

 

 まどかも、本当は不安でたまらない。だが彼女のバッグの中には万が一に備えたプラズマカッターが入っているし、なにより不慣れな彼女の周りには2体、キュゥべえの仲間がそれぞれキネシスとステイシスを備えたボディで救援に来ている。

 上條も既にネクロモーフ発生を自衛隊に伝えに行っているため、ここがセーフティエリアになるのも時間の問題だろう。あとはここ以外の住民がどれだけ避難してこれるか。

 

「街行って切り捨ててくる! だから自衛隊の人ら来るまで待っててよ!」

 

 仮教室の全員に聞こえるように言い放ち、さやかはバリケードを戻して教室を出た。

 外に出た途端、近くに血だらけとなったバンテージを拳に巻いた仁美が降り立つ。ここに来るまでに魔女とネクロモーフを次々と屠っていたようで、その顔には疲労が見えた。

 

「お疲れ様ですわ。ここはフットワークの軽い私が守っておきますので、さやかさんは大物の撃破を」

「サンキュー仁美! 任せたよ!」

 

 魔女から取ってきたのだろう。グリーフシードを投げ渡して、仁美は仮教室となっている別邸の屋根に立った。スーパーキネシスで幾つかの木片や、周囲の残骸になった瓦礫を引き寄せると、それらが壁になるよう隙間なく積み込んでいく。どうせ登ってくるネクロモーフも居るだろうが、所詮は格子の外壁。埋められるなら越したことはないという判断からだろうか。

 

 町中に降り立ったさやかは、目覚めかけた月から落下してきた隕石によってほぼ壊滅した見滝原を見回した。Hivemindが暴れた時よりも広範囲に、かつ全世界規模で降り注ぐ衛星攻撃にも等しいそれは、更にネクロモーフのゆりかごとして機能している。

 ほんの一週間。たったそれだけで壊滅しかけた地上の光景に、彼女は拳を握って悔しさを表した。

 

「悔しがっててもどうにもならない、か」

 

 ここらで生きている人間はさやかか、隠れ逃げている生存者だけ。だからこそ狙いやすいさやかを目指して四方八方からネクロモーフが湧いて出てきていた。よりどりみどりのただの的。そうであると判断して、まだまだ人の面影が残りすぎている、半変異状態の敵を切り捨てる。

 本人の意識は残っていることもある。だがもう助からないし、彼らの意志ではなくネクロモーフの殺害と繁殖の本能で肉体の支配権はもう無い。言わば自動車に乗っていて、両手両足を切り落とされた状態で助手席に置かれ、壁に向かって全力でアクセルペダルを押しこむ他人が運転席に座っているというようなものだ。

 死ぬしか無いし、死んだ後も救われない。だったら光が見えているうちに殺したほうが、他への被害も広がらない。

 

 

「小を切り捨てて多くを救う。難儀な事態ね。好きじゃないわ」

「ほむら!」

「キュゥべえから聞いたわ。討伐はひとまず諦めて封印するらしいわね」

 

 キネシスモジュールを一番上手く扱えているのは、やはりほむらだろう。最もアイザックとともにいた時間の長い彼女は、肩に乗せたインキューベーター型増幅器の力を借りながらもスーパーキネシスで順序良く爪をもぎ取り、空中に巻き上げたそれらを時間停止で一つ一つ別の個体に射出。そして停止世界から戻る頃には爪を抜かれて絶命したネクロモーフと、その爪に貫かれた遺骸が一瞬にして量産される。

 時間停止を代わりに使い、ステイシスに割いているエネルギーが無いためか、キネシスはアイザックよりもバリエーションに富んだものであった。

 

「このままじゃ地球は滅ぶし、目をつけられた以上インキューベーターもなりふりかまっていられないみたい。魔女の発生をどうやってか抑えて、全部のネクロモーフ殲滅に魔法少女が駆りだされてる」

「でも、どうやってあんなの封印するのかわかんないよっ! もう!」

 

 言葉を交わしながらも、辺り一帯のネクロモーフはあらかた殲滅し終える二人。インキューベーターの判断でこの区域の異形も狩り終えたと見たか、杏子・仁美・マミとそれぞれの魔法少女も集まってきた。

 どこからともなく、キュゥべえも暗闇の中から現れる。ひときわ異彩を放つ真っ白な体と無機質な目。しかし、どこか焦りを含んでいるようにも見えるのは決して彼女らの見間違いではない。感情とはまた別の、生物的な焦りを覚えているのはこの種族も一緒だということだろうか。

 

「集まったようだね。一応、君たちにも言っておいたほうがいいだろうか」

 

 円卓(キュゥべえ)を囲むように立った魔法少女たちは頷く。

 辺りを見回したキュゥべえは語り始めた。

 

「先に言ったロゼッタについてだけど、彼女とは通信でしか話したことが無かったんだ。だけど、彼女からのアドバイスや技術提供は大いに役に立ってくれている。ただ、少し口を濁した表現があってね。核心に触れようとするとのらりくらりと躱されていた。でも、もうそんな必要も無いからと言って話してくれたよ」

 

 インキューベーターらしくはない、前置きが語られる。

 それから、少しだけ声が震えたように彼は言った。

 

「彼女らの済む星。それこそがThe Moonの全てが反応する親のようなものだったようだ。彼女らは独自に捜査を進めて―――共に氷の中に封印される道へ辿り着いた。安心していいよ。あちらの月が眠れば、連動してこちらの月も眠る。永い眠りか、それともうたた寝かはわからないけどね」

 

 だが、何らかの外的要因で外れるような急遽創りあげたシステムである。生物を対価にしながら、抜き差し自由な鍵とも呼べる機械。これ一つで封印後のタウ・ヴォランティスは氷の惑星では無くなってしまう。

 再度の目覚めが確約されたシステム。だからこそ、ロゼッタは全てが完成してからインキュベーターに全ての技術を譲り渡した。きっと、自分たちの種族では成し得なかったこの技術を進化させ、この脅威でしかない破滅の月に並ぶ者共を屠ってくれると信じて。

 

「それでも、月があるかぎりMarkerは生成されてしまう。そして壊してしまえば魔女結界を取り込んだネクロモーフ何かとは比較にならない規模の被害が巻き散らかされるだろう。Markerは無限のエネルギーを生み出すんだ。一時的なブラックホールの生成に、この惑星が耐えきれるはずもない」

「あんたはソレにどう対応すんのよ?」

「生成されたMarkerはそれ一つで見逃そう。TheMoonの行動原理がわかった以上、Markerが一つある程度じゃ奴らは目覚めない。だから、汚染された人間とMarkerを信奉する宗教を作って、そこに一纏めにして管理する。君たちは、もうこの件に関わらなくていい。これまでどおり魔女と、それに加えて優先的にネクロモーフを殲滅してくれればいい」

 

 キュゥべえたちも完璧ではない。人類は多いし、惑星も多い。知的生命体が存在する彼らが管理している惑星で生成されるであろうMarker。これを未然に防ぐのは不可能だ。だからこそ、衝動的に必ず一つは創りだされてしまうMarkerをあえてひとつ放置する。そしてそこに精神を汚染された生物を押し込め、監視の目が行きやすいように変える。

 そして、地球は大きく技術を進歩させるだろう。今でこそインキュベーターの特権になっているモジュールの技術は普及し、Markerから読み解かれた進歩も同時に。The Moonに喰われて一つの生命体の餌に成り果てる哀れな犠牲者たち。それが必ず出るやり方で決定したキュゥべえは、やはり感情とは程遠い生き物であると魔法少女たちは認識する。

 

「……その宗教の名前は? 私達の知り合いがそんなのに含まれないよう知っておきたいから」

「この地球での名称は―――ユニトロジー。一体化を促進する彼らの行動原理に合わせたものだよ」

 

 

 

 

 数年後、倒すべき強大な敵……The Moonはタウ・ヴォランティスが氷の惑星になることで永い眠りに付くことになった。インキュベーターたちの姿が魔法少女の前に現れることは少なくなり、やがてネクロモーフもとある一国を除いては見なくなっていった。宇宙全土を巻き込んだような大騒動もある程度収まった平和な日々が戻ってきたとも言えるだろう。

 また、インキュベーターは人類の中でもユニトロジーに参加する人間に魔法少女の技術を乗っ取られないようにするため、あのThe Moonが目覚めかけた日々の記憶を薄っすらと忘れさせていく。魔法少女の正体を晒し、賞賛された少女や逆に遠ざけられた少女。それらの武勇伝と悪意のある噂も消え去り、多少の新たな魔女を生み出しながらも、人類の魔法少女は平常運転に戻っていったとも言える。

 

 そんな、平和でとりとめもない日常の中で生きる彼女たちは―――

 

「……各国で相次ぐユニトロジストによる殺人事件。ネクロモーフ出現からの速やかな対処。宇宙航行技術また前進か、前代未聞のワープ航法実現まであと一歩」

 

 新聞の見出しを読み上げる少女は、肩にかかってくるツインテールを払って息をつく。ここの所、世界は急変してきていた。技術的な成長は圧倒的進化を遂げて、そしてこの見滝原のような最新技術を取り入れた試験都市開発は日本全国で行われ始めている。

 車は空を飛び始めたものもある。都会の高層はきらびやかに。反対に、地面に近い場所は近未来SFのイメージでよくあるような小汚さに。

 

 そのどちらでもないが、確実に白い外観が増え始めた見滝原に住む高校生―――巴マミはガラスの三角テーブルにティーカップを置いた。

 

「キュゥべえ。なんで人類の技術を上げたの?」

「アイザックから一度、彼の時代について聞いたことがあったよ。もし、平行世界ではなく時間だけを跳んできたのだとしたら……彼がまた現れるように技術を整えておかないといけないからね」

「アイザック・クラークさん……彼が?」

「MarkerKillerは簡単に言えるようなものじゃない。魔女結界を利用したモドキは多く生成されたけど、あれの汚染は相当悲劇を背負った人間くらいにしか反応しない。本当のMarkerに精神を汚染されながらそれを跳ね除け、そして精神世界で打ち勝つ強靭な意志を持つ生命体。それは感情を持たない僕らでは不可能だ」

 

 希薄な意志しかない彼らでは、汚染された肉体を放置して切り離し、精神を逃がすという堂々巡りしかできない。意志の無くなった肉人形は自壊させる事でネクロモーフにはならないが、それだけだ。彼らの資源が尽きてしまえばその方法すら取れなくなる。

 

「いっその事まどかに願いを具体化させて因果のエネルギーを上手く扱おうという案もあったけれど、どうめぐっても魔女化したまどかが全宇宙を消滅させる未来しか無かったからね。結局今の僕らは、The Moonを殺せる武器を作って、そしてそれを扱える人間を待つしか無い。技術を託してくれたロゼッタの願いは僕らだけでは叶えられない」

 

 インキュベーターの限界がそれだ。万能な悪魔は、しかし全能には程遠いということ。

 

「そう……」

 

 すべてを聞いたマミは、あまりにも壮大な話しに自分がどれだけちっぽけなのかを自覚する。やれることはやってきた。普通の生活を両立させて、それでいて彼女は壁を作ることをやめて、普通に同年齢の友人も多く出来た。だが、それだけだ。

 魔女は相変わらず苦戦するものも多いし、ネクロモーフは殺せるにしてもHiveMindのようなものが再び現れれば、無事で済むとは言えない。これらにしても仲間を手を取り合っての話。アイザッククラークが語るようなたった一人の英雄譚には程遠い。

 

「私は、私に出来ることを続けるわ。それだけ……それだけよ」

「……何にしても、君の一生が6回終わるくらいには時間はある。僕らは、それまでにこの宇宙を救えるような地球人が生まれることを祈るだけだ」

 

 それでも時間が足りなければ、今度はインキュベーターがもう一度タウ・ヴォランティスの「機械」を作動させるだけだ。

 

「ままならない世の中になったものね」

 

 カップの中身は飲み干された。

 底には、一滴の紅茶が残っていた。

 

 

 

 

 そして数十年後。この時代の魔法少女は人間としての死を迎える。老いさらばえた体と、魔女化する前に砕かれたソウルジェムが彼女らの死後の姿。納棺される彼女らの遺体の周りには、彼女らの血筋を受け継ぐ人間は確かに存在していた。

 そして、これまでに様々なことが起こった。

 

 ユニトロジーは世界最大の宗教となったが、相変わらずインキュベーターの手のひらの上で転がされている。地球人類としては手に負えないほど政治的な高い立ち位置の人物が本物のユニトロジストになった際は、インキュベーターが情報操作で処理していたため表面上の平和は維持されてきた。

 そしてさやかの嫁いだ上條家は、ユニトロジストとネクロモーフ問題について最も貢献した名家として世界で取り上げられる。人類差別という形にはなったが、ユニトロジストのトップ層はインキュベーターの手を借りずとも一箇所に押し込められ、強く制限された。

 志筑仁美は、逆に最新鋭の技術を開発する研究者たちのバックとして名を馳せた。そのおかげで、プラズマカッターを中心としたプラズマ技術が発達。Markerの力を借りずともキネシス技術などにも手を出し始めている。

 

 上記のように政治的な発言力の無い魔法少女たちは、各々の役目を果たして一生を生き抜いた。そして、大量のインキュベーターと親族に見守られながら「鹿目まどか」という膨大な爆弾も、爆発すること無く安らかな死を迎える。

 そして魔法少女に匹敵する火力を出せる技術が出回り始めたことで、インキュベーターは地球をエネルギー生成場から、月を殺すための実験場として立ち位置を見直した。魔法少女契約を迫るインキュベーターは消え、代わりに日夜最新技術の引き上げに没頭。やがて魔女は消え、魔法少女は寿命で逝き、科学技術のみが支配する世界へと変わっていった。

 

 全ての要素は、その歴史に入り込んだたったひとつの異物によって収束する。

 

 

 2465年。

 宇宙船の建築家であるポール・クラークとオクタヴィア夫妻の間に子供が生まれる。

 男児には、アイザック・クラークと名付けられた。

 

 彼は機械工学に関心を寄せるが、母オクタヴィアのユニトロジスト化による家財の売り払いと財産の寄付により極貧の生活を強いられる。よって、マイナーな学校に進学するがそこでの奇跡的な出会いにより、学校側から支援される形で良い友・良い師に恵まれた日々を過ごした。

 就職後は、海兵隊に入隊。そこでエンジニアとしての頭角を現し、類まれな才能によりわずか2年で主要航路に携わる地位に。除隊後、サラリーマンとして上級エンジニア・通信技師として働き始める。そこで恋人ニコールとの同棲を始めていたが、数年後、彼女の働く職場からの映像ログによって動き始める。

 

 ……あれから約4世紀。待ち望んだ人物の誕生だった。インキュベーターたちは進学時以外関わっておらず、それからは定められているかのように彼の運命は滑り始めた。

 

 地球人類の見る世界は既に拡散し、火星や土星のコロニーにもユニトロジストとMarkerは生成されてしまっていた。だが、それでも待ち続けたインキュベーターは彼が初めて本物のネクロモーフと接触するそのタイミングで、介入を行う。

 インキュベーターも、この長い年月の中で人類側には知られていた。だが彼らお得意の情報統制と、そのために生み出した魔法少女の手によって表面上は友好的な異星人として世間では認識されている。

 当然、このアイザックもそういう認識だった。

 

 2508年。USG石村へ到着した宇宙船内にて、彼らは邂逅する。

 

「あー、つまりはだ」

 

 刈り上げられた髪を掻いた男性。アイザック・クラークはためらうように言った。

 

「私しか見えていないと、そういうことか」

「アイザック、本当に……その、そこにインキュベーターがいるのか?」

「そうらしい、ハモンド。本当に見えていないのか? 白くて、もふっとした尻尾。それから変なリングと長い耳毛。赤色の目をした変な生物なんだが」

「ああ……どこにいるんだ?」

「私の前の椅子さ。ほらっ、今回っただろう」

「信じられんな。だが、これがインキュベーターか」

 

 まるで珍獣を見るような視線に晒されているが、このインキュベーター……キュゥべえはそれを気にした様子はない。手近なコンソールを操って彼の言葉に目を向ける人物へと文字を表記すると、アイザック自身にもその耳で聞き取れるように同じ内容を語り始める。

 

「これから向かうUSG Ishimuraではネクロモーフが蔓延している可能性が高い。君の恋人ニコールは、あの映像にあるように死亡している可能性もある。それでも君たちには、その中に行ってもらいたいんだ」

「……なんてこった」

 

 キュゥべえがこの艦内にいると発覚したのは、彼らが乗艦して地球圏内を出た頃だった。キュゥべえはそれまで多くを語らなかったが、此処に来て真実の一端をアイザックに告げる。そしてMarkerの汚染領域に入った今、彼らには戦いを促していた。

 

 全てはアイザックにMarkerを殺させるため。実にインキュベーターらしくも、自分で行動に出るというインキュベーターらしくない矛盾した行動。だが、それはかつてアイザックと触れ合ったキュゥべえだからこその判断だった。彼もまた、この500年で内面が大きく変化していたのだ。

 

「名乗っていなかったね。僕のことはQBとでも呼んでくれればいい。これからよろしく」

 

 だが、この時キュゥべえは知る由も無かった。

 アイザック・クラークがこれからの永い友となることを。

 

 

 

 彼女らの物語は、この果てへとたどり着いた。

 たった一つの不確定要素は、いつの間にか世界を変革している。あやふやだったはずの認識は、インキュベーターの認識をも書き換え、確かに存在している脅威として確立された。

 そして彼らが歩むのは、それらの要素が混ぜ込められた新たなる世界。誰が死に、誰が生き、誰が事をなすのか。インキュベーターも未来は見通せない。人類は過去を隠された。

 すべての条件は整っている。

 

 だけどそのオハナシが語られるのは、また別の機会。

 魔法少女たちの歩んだ世界は、こうして収束を迎える。

 




これまで読んでくださりありがとうございました!

以下は色々と描いたもの。
余韻を壊す可能性があるので注意 行間空けます





















ということで完結しました。
一応当初の予定通りの結末を迎えたわけですが、書きだした頃に発売された3の存在どうしようかめっちゃ悩んで、結局絡ませることにしました。といってもほんのちょっとですし、この世界は純正デッドスペースじゃないから結末も違うと思う。

アイザックとほむら。
アイザックとキュゥべえ。
世代が変わってこの世界に生まれた彼らを相棒みたいな感じにしたかったけど、できなかったですね。申し訳ない。

まぁまどかの契約フラグはこうしたほうが折りやすいってのもあって、ああいう潰し方シました。エントロピーどころか宇宙再誕生してインキュベーターも死にたくはないわけです。

さやか達は道中輝くけど、物語が終わってからはある意味で普通の生活というか普通の人間として終わらせてあげたかったので、壮絶な死に方とはかけ離れた、あえて「肩の力が抜ける」ような死に方です。まぁ、名家のお二人は話の関係上色々と持って行きやすかった。あ、描いてないけど恭介くんはヴァイオリンもちょっとは名が売れてます。


そして打ち切りENDっぽい感じについてですけど、この出だしまで持っていくつもりはなかった。
「この世界のアイザック」が誕生した文で締める予定だったけど、キュゥべえとアイザックの相棒要素どうしても入れたいからちょっとだけ文字数追加。まぁ蛇足中の蛇足ですね。


他にも矛盾とか色々抱えてましたけど、私そこまで考えてません。というか考えられません!無責任ですけど、物語なんて所詮ご都合の世界だと割りきって描いてます。リアルを追求したら、それこそ伝記とかエッセイでいいしね!


まぁ長くなったけどこれにて終幕です。今までありがとうございました。
評価とか黄色くなったけど、まぁ仕方無いね。3年もうつらうつら描いてたらそりゃ設定もブレる。今から修正する気力もない!

書くもの終わったんで、今度は新しいの一本だけに絞って今までの反省しながら書こうと思います。就活成功したら安定して何かしだすかもね。大学4年の未来は長いから。


とにもかくにも、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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