わしを無能と呼ばないで!   作:東岸公

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ダモンさんは総司令官なので、中々戦場に立てません……。
猛将ダモンさんは、今しばらくお待ちください。

-追記8/5-
戦車の性能を調整しました。


第十話 ダモンの密かなる野望

征暦1935年5月3日

 

4月28日に結ばれたファウゼンでの一時停戦は履行され、ガリア北部方面軍及び民間人は、無事アスロンへ帰還した。数が数なだけに、停戦協定が失効する5月1日の目前で全ての者がファウゼンから下りることができたのは、紛れもなくガリア軍救助部隊の賜物であると、新聞に記載された。無論ダモンの功績も載っている。

新聞を見たダモンは、都合よく文章が纏められている事に、苦笑した。いつの世も、新聞は半分が嘘で固められていると、感じていた。

 

別の新聞では、南部での義勇軍攻勢が順調に行われている事が載っていた。特に義勇軍第7小隊の活躍が事細かに記載されている所を見ると、この新聞は間違いなくエレットが関係しているのが目に見えて分かった。

やはり義勇軍の強さは並大抵のものではないと、改めてダモンは思う。団結力とその速さは、帝国軍と殆ど互角である。南部帝国軍司令官である『ラディ・イェーガー将軍』も、ガリア義勇軍の予想外の手強さに苦しんでいるらしい。「ガリアを舐めるな」と、ダモンは心の中で呟いた。

 

ファウゼンでダルクス人から預かった20人の子供はダモンと老親衛隊の加護の中、アスロンへ無事に到着した。

アスロンでは、子供の親戚達がいくつか生き残っていたらしく、ダモンはその家族から「是非こちらで保護したい」と言われたので、20人の内15人が、その親戚達の元へと送られた。無論、彼らもダルクス人ではあるのだが、公平に避難場所へと送った。

残った5人の子供は、そのままダモンへ付いて行く事になったのだが、戦災孤児はダルクス人だけではなかった。

ガリア人の中にも、両親が戦争で死んでしまった子供が居た。身寄りがない子供達である。

不運な事に、両親どころか親戚も戦争で死んでしまった子供もいた。

ダモンは、そんな子供を見捨てる事ができず、身寄りの無い子供達を全員独断で保護。

気づけばダルクス人の子供を含めて25人という1個小隊が出来上がっていた。

これには流石のオドレイも頭を抱えた。孤児院に入れた方がいいのではないかと。

しかし、ダモンは施設には入れず、執務室の隣の部屋に子供達を集めて、教育する事にした。

ただ、その教育者の殆どは老親衛隊の隊員であった。ダモンは、お菓子を差し入れするくらいである。オドレイはダモンの親馬鹿っぷりに溜息を吐いた。

 

オドレイの不満は子供達を執務室の隣に置いている事だけではなかった。

彼女は生粋のユグド教徒である。即ちダルクス人を差別していた。つまり、ダモンがガリア人のみならずダルクス人にまでも手を差し伸べている事に不満があったのだ。

ファウゼンに関しても、同じガリア人ならいざ知らず、どうしてダルクス人にまで救いを与えるのか。オドレイはダモンに対して 唯一この事だけが大変不満であった。

そして遂に、オドレイはダモンに抗議した。

 

「閣下。余りダルクス人を甘やかしてはいけません。彼らはガリアに蔓延る癌のようなもの。他の者の中にも、閣下の行動に不満を持つ者がいます。どうか、これ以上はお控え下さい」

 

決して長くはない抗議内容。ただ、ダルクス人をこれ以上つけあがらせてはいけない。その思いも込めて、オドレイはダモンに抗議した。だが、この抗議を聞いたダモンは、一度深呼吸すると、オドレイに辛辣な一言を告げた。

 

「どうやら、わしは中佐を見誤っていたらしい。もう原隊に復帰してよいぞ。今までご苦労であった」

 

短い言葉ではあった。だが、この一言が、オドレイを恐怖のどん底へ叩き落した。

ダモンの言葉は、簡単に言えば「お前クビ」である。クビということは、オドレイがダモンの思いに応えられなかったという事になる。とどのつまり、「役立たず」という烙印を押された事になる。それは、オドレイだけでなく、ダモンに推薦したバルドレンや、実家のガッセナール家の名に傷がつく事と同義であった。

 

オドレイは、すぐさまダモンに土下座する勢いで謝罪した。いくらユグド教徒と言えど、それだけは困る。ガッセナール家は、ガリアで一番でなくてはいけない。こんな私事で名門の名を汚してはならないのだ。ダモンは、「今回だけだ」と言って、オドレイを許した。そんな一連の出来事が、アスロンで起きていた。

5月3日。季節が春へと突入した頃の話である。

 

 

 

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◆5月6日~ガリア公国・首都ランドグリーズ 研究開発所内~

 

「ま……またですかぁぁぁぁ!?!?!?」

 

その日、ガリア公国内の軍需品製造を一手に担っているガリア兵器廠内の一部門である、研究開発所で、1人の青年の声が大きくこだました。

青年の名前は『リオン・シュミット』。階級は上等兵。普段はヘラヘラしているのだが、その整備の腕は素晴らしく、人種差別などもせず、一本筋が通った若者であった。

だが、この日だけは、彼の表情は哀しみに満ちていた。

 

「シュミット君。確かに君の考えは素晴らしい。この戦車が量産された暁には、ガリアは連邦や帝国より頭一つ抜けるかもしれん。だがな、こいつを量産する分の予算が、場所が、この国にある訳無いだろう。…現実を見たまえ」

 

実は、彼は前線から送られてくる壊れた軽戦車を直しながら、独自に新たな戦車を構想していた。

というのも、ダモンの要望に応えるために兵器廠一丸となって開発・量産にこぎつけた駆逐戦車と自走砲の影響を受けたのが、そもそもの始まりであった。

今まで受け入れられていなかったタイプの戦車を作る。平時ではなく、戦時中だからこそできる一種の荒業に、リオンは挑戦していた。同僚で整備士見習いのクライス・チェルニーは、彼の意気込みに苦笑いしつつも、ひっそり応援していた。

 

「じゃ、じゃあここをこうしたら……」

「駄目だ駄目だ。この時代にそんな形。時代遅れにも程がある。今の時代は傾斜装甲・被弾経始(ひだんけいし)だ。垂直装甲など、敵に撃破してくれと言っているようなものじゃないか。第一攻撃を受け止める装甲を作る程、ガリアには余分な鉄資源が無い」

 

リオンの上司である開発部長は、リオンの設計図を見ながら言い続けた。

因みに彼の上司は、ガリア自走砲(正式名称:ガリレ)を開発した人物である。

 

「でも……」

「でももこれも無しだ! 大人しく構想を練り直したまえ!」

 

部長は設計図を放り投げながら叱咤した。

リオンはまたしても1から構想を練る羽目になった。もう6回目のやり直しであった。

彼は、今ある軽戦車の利点を、もっと活かしたいと考えていた。

徹甲弾と榴弾。2種類の砲弾が使えるというのは、戦う側にとっては助かるものなのだ。

ただ軽戦車の砲ではどちらも威力が低く、まともに前線で運用ができないのが現状であり、現在は完全に数合わせの為にしか価値がなかった。

そこでリオンは考えた。ならばいっその事、時代を巻き戻して作ればいいのではないかと。リオンは兵器廠内にある戦車に関する本を読み漁った。すると『昔の帝国軍の戦車は鈍重ではあったが今以上に攻撃力が高かった』と言う記載を発見する。そこに目を付けたのであった。

 

現在の帝国戦車は、機動性と引き換えに攻撃力を犠牲としている。第一次大戦でベルゲン・ギュンター将軍が戦車の機動力を活かし行った浸透戦術を受けて、帝国は改めて戦車の機動力に恐怖した。皮肉にも、ガリアの英雄の活躍によって帝国軍は新たな活路を見出してしまったのだ。

結果、帝国軍の戦車は攻撃力こそ下がったものの、突破力が大幅に増した。相手が連邦ならまだしも、今戦っている国は、軽戦車を主軸としたガリアである。攻撃力が下がった事によるデメリットなど、帝国軍にとっては微塵にも感じられなかった。

 

リオンは、何度もその本を読み返し、軽戦車の設計を大幅に変更。設計された戦車は、第7小隊に所属するエーデルワイス号よりも大型化した。ガリア内で正式に『重戦車』というカテゴリが生まれた瞬間であった。

だが、この重戦車1両を造る為に必要な資源は、およそ軽戦車20両分の鉄と予算が必要であることが判明。同時に、車体のバランスを保つために主流の傾斜装甲から垂直装甲に逆戻りしているなどの問題点も生じ、結果として、開発部長から突っぱねられたのである。

リオンは、設計図を適当に放り投げ、机に突っ伏し大きく落胆していた。

 

「お主。なぜにそんな落ち込んでおるのだ?」

「そりゃ落ち込むに決まってるっス……これで6回目っスよ…って…え?」

 

リオンは、いきなり耳に入った誰かの声に疑問を持つ事無くそのまま答えた。だが、ふと顔を上げて声の持ち主の方へ向けると、言葉を失った。

 

「そう落ち込むでない。開発と言うのは、簡単にできる事ではない。焦らずじっくり考えを煮詰めればよい」

「ダ、ダモン将軍!?!?」

 

声の持ち主は、ダモンであった。上層部の会議に出席する為にランドグリーズに帰って来ていたのである。

だが、会議と呼ぶには余りにもお粗末な話し合いだった為、ダモンは適当な理由を付けて退出。暇潰しにガリア兵器廠に来ていたのであった。リオンはすぐさま敬礼をした。

 

「こ、光栄であります! ダモン将軍!!」

「これこれ、そう固くならなんでよい。気軽に話しやすい様にしてくれ」

「りょ、了解っス!」

 

リオンの敬礼を見つつ、ダモンは放り投げられた設計図を拾った。

 

「ああ! そんな設計図を拾わなくてもいいっスよ! もう無駄っスから!」

「そう言うでない。折角努力して描いた設計図なのだ。捨ててしまっては勿体無いぞ。それによく描けているではないか。わしはこういう形の戦車が好きだぞ。なになに、"試作型重戦車"…か」

「そ、そうっスか!? 好きっスか!? いやぁオイラなんてまだまだっス~!」

 

ダモンは、隣で照れながら喋るリオンを尻目に改めて設計図を見つめる。会議よりも、よっぽど興味がそそられる内容であった。設計段階ではあるが、この図を見れば、いかにこの戦車が強力であるか直ぐに分かった。

図面上での性能(スペック)は、はっきり言って帝国と互角以上に闘うことが出来ると、ダモンは思った。

比較対象をあげるなら、南部からの報告にあったイェーガー将軍専用戦車『ヴォルフ』を軽く超えている。

だが、開発部長が言った通り、これ程の戦車を量産しようとしたら、ガリアの財政は瞬時に破綻してしまう事も理解した。故に実に惜しい(・・・)と、ダモンは感じていた。

清々しいまでの被弾経始ならぬ"被弾軽視"。形も角ばっており、現代には無いロマンが詰まっていた。極めつけは、正面装甲が驚異の200mmに達していた。ただの鉄なら重くて使えないが、ラグナイト鉱石を含んでいるからこそできる芸当であった。ラグナイト様々である。

 

「量産が不可能であるならば、専用車両として、開発してはどうだ?」

「………それも言ったんスがねぇ。どうしても費用が馬鹿にならないんで、許可が下りなかったっスよ…」

 

リオンは残念とばかりに落胆していた。気分の浮き沈みが激しい青年である。

だが、ダモンは髭を撫でながら、設計図を尚も見続ける。この設計図は、捨てるには余りにも勿体ない気がしてならないのだ。彼の心の中で悪魔が囁いた。

 

「わしが出そう」

「………へ?」

 

気付けば、ダモンは口から言葉が出ていた。リオンは言葉の意味が分からず、変な声が出てしまった。

 

「わしがこの開発費用と許可を出すと言っているのだ。わし専用の戦車を開発すると言えば、上も文句は言わんだろう。実はわしの戦車もガタがきていてな。丁度新しい戦車が欲しかったところなのだ」

「え、えェェ!!? マジっスか!? マジで言ってるんスか!? めちゃくちゃ高いっスよ!?」

 

リオンは、腰を抜かしながらダモンに問い返す。確かにダモンの言葉は嬉しいが、この戦車を作る費用は、一個人が負担するにはとても高価であり、それこそ国家予算がなければ開発すらできない。

しかし、ダモンはそんな言葉に臆する事無く、リオンに語り掛ける。

 

「お主。少しわしを過小評価しすぎだぞ。自慢するようですまんが、わしはこれでも代々ガリア公国に仕えてきた貴族だ。戦車1両分の金くらい造作も無い。いや、この重戦車に限っては1両分しか出せないが……」

「マ…マジなんスね?」

「わしは嘘が嫌いなのだぞ? 自分で嘘をついてどうする」

 

リオンは、ダモンの眼を見る。本気の眼であった。しかし、ここまで言われては整備士…いや技術者としては、その思いに答えなくてはいけない。いつも目を細めているリオンであったが、今は完全に見開いていた。

彼は、一度捨てた設計図を再び持つと、今度は机の上に置いた。

 

「……わかったっス。おやっさんの戦車、オイラが作らせてもらうっス!! 技術者として、おやっさんの名に恥じない戦車を作らせて貰うっス!」

「う、うむ。しかしその、おやっさんとは一体……」

「勿論将軍の事っスよ! これからは、おやっさんと呼ばせてもらうっス! オイラにチャンスをくれて、本当にありがとうっス!! そうと決まれば、寝る間も惜しんで開発するっスよー!」

 

ダモンの返答を聞かずに、リオンは急いで机に着くと、ペンやら定規やらを持って設計図に色々記入し始める。

今度は大まかな部分だけではなく、細かい部分にまで手を付け始めていた。

そんな彼の邪魔をするまいと、ダモンは声をかけずに研究開発所を後にした。だが、兵器廠を出るギリギリの所で、リオンが駆け足でやってきた。

 

「む? どうしたのだシュミット上等兵?」

「実はおやっさんに一番大事な事を聞くのを忘れていたっス」

「一番大事な事だと?」

「そうっス。この新しい戦車に名前を付けてほしいんスよ。専用戦車っスからね。おやっさんが決めてほしいっス」

 

内容は、戦車に付ける名前の事であった。専用戦車には、ガリア・帝国問わず、名前がついているものが多い。

ダモンの新型戦車も、御多分に漏れず、名前を付けたいと、リオンは考えていたのだ。

ダモンは「う~む」と腕を組みながら、3分程考えこむと、閃いたとばかりに名前を発表した。

 

「『ルドベキア』。どうだ? いい名であろう? 花の名前が元ではあるが」

「ルドベキア…いい名前じゃないっスか~! ウェルキンのアニキが乗っているエーデルワイス号みたいで、かっこいいっスよ!」

「うむうむ。そうであろうそうであろう。それで、この戦車はいつ頃わしの物になるのだ?」

 

戦車の名前が決まると、ダモンはソワソワしながらリオンに質問した。名前を付けるだけで、こうもワクワクするものなのかと、感じていた。早く自分の手元に置いておきたいと、ダモンは思わずにはいられなかった。

 

「そうっスねぇ…。今の戦車は週一で生産されているっスから、この戦車は武装やら開発やら込みで大体1ヵ月半って所っスかねぇ」

「そんなに早いのか?」

「言って元々の細かい部品は結構あるっスから。新しく開発するのは車体と装甲と砲塔くらいっス。寧ろ、これだけで1ヵ月半も掛かってしまうって思った方がいいっスね。では失礼するっス!」

 

そう言うとリオンは再び兵器廠の奥へと戻っていった。自分が考えた戦車を作れるというのが、余程嬉しいらしい。ダモンは若き技術者の背中を見た後、アスロンに戻るのであった。

後に、リオンが開発したこの戦車は、帝国軍を恐怖のどん底に叩き落す事になるのだが、今はまだ、図面上の絵でしかなかった。

 

 

 

 




【試作型重戦車設計図及び性能諸元】
ダモン専用新型戦車『ルドベキア』(カテゴリ:重戦車)

分類 試作型
開発 ガリア公国兵器廠
   リオン・シュミット技師
全高 3.90m
全長 8.9m
全幅 4.37m
重量 58t
動力源 ラグナイト機関
出力 880hp/3100rpm
速度 44km/h(整地)
   23km/h(不整地)
武装 70口径 88mm砲×1
   12.7mm車載機銃×1
乗員人数 2人
費用 ダモン家が少し傾くレベル(親族はダモンさん1人なので問題なし)


なに?現実だとこんな戦車ありえない?戦ヴァルだからいいんだよ!
万能鉱石であるラグナイトがあれば、なんでもできるんだよ!
(すいません。完全に趣味の方に走ってしまっています。笑って済まして頂けると助かります)


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