わしを無能と呼ばないで!   作:東岸公

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数少ない戦ヴァルSSという事もありますが、皆様の応援が執筆の励みになります。本当に感謝しています。有難う御座います。
今回からはOVAの設定も入れていくつもりです。使えるネタはドンドン使っていきますのでよろしくお願い致します。後、オリモブ投下。物語に影響はありませんので、ご安心ください。




第十一話 寄生虫

征暦1935年5月中旬

 

ガリア中部方面軍は依然中部戦線を打開できずにいた。しかし、南部での義勇軍攻勢は順調に進んでおり、上手くいけば、5月下旬にはガリア中南部の要衝であるユエル市を奪還できるとの見方が広まっていた。

ユエル市では、未だ帝国軍に対してゲリラ戦を繰り広げており、完全に帝国軍の支配下には置かれてはいなかった。

北部は完全に帝国軍の占領下に置かれており、中部方面軍と睨みあっていた。

しかし、帝国軍は再びガリア中部を支配下に置くべく、アスロン市より直ぐ東に位置する"ディルスバーク"に橋頭保を設置する。現地指揮官に任命された帝国軍将校であるミュンヒハウゼン司令官は、ディルスバーク橋頭保近郊にガリア軍を近寄らせない為に、帝国本土で開発された巨大自走砲を導入する事を決定。以降ガリア軍が南部北部を奪還するまで、アスロンの目と鼻の先で、防御態勢を整えていた。

対するガリア軍も、その長距離射程内に入らないように、各部隊に警告していた。

 

そんな最中、ネームレス422部隊は、カール・アイスラー少将から極秘裏に命令されていた『ボルジア枢機卿護衛作戦』を開始するが、ダハウ率いるカラミティ・レーヴェンによる奇襲により、降伏。作戦失敗という大失態を起こしてしまう。この問題はアイスラーとクロウ中佐によって極秘裏に揉み消されるのだが、以後アイスラーはネームレスに対して一定の不信感を抱くのであった。

 

 

 

◆5月17日~首都ランドグリーズ・とある一室~

 

「ダモン殿も、中々にお強いですな。流石はボルグ宰相殿の縁戚でございますな」

「左様。ダモン殿が居ればこそ、今のガリアがあると言うものです。感謝しかありませぬ」

「ですが、これがいつまでも続く訳でもありませんぞ?その事はご理解しておりますかな?」

「勿論ですとも。近いうちに、必ず"連邦"に加入しましょうぞ」

 

ランドグリーズ城の一室でボルグは1人の中年男性と、会議を行っていた。

その男性の名は連邦外務省所属・特命全権大使である『ジャン・タウンゼント』。この戦争を機に、ガリア公国を連邦の保護下に置こうと企んでいる男である。明るい見た目とは裏腹に、今まで世間には公表できない悪辣な方法で数々の国を保護国化した実績を持っている。

何故このような男とボルグが話し合っているのか。そこには、ボルグの野望が関係していた。

 

この男は、現在の侯爵という爵位には飽き足らず、大公家であるランドグリーズ家を追い落とし、ガリア公国を我が物にしようと画策していたのである。そこで、連邦の保護国になる対価として、自分をガリア公国の新たな主に据える様に掛け合っていたのだ。

マウリッツ・ボルグと言う老人は、欲望の塊のような男であった。

彼はダモンと違い、ガリア公国に忠誠を誓っている訳ではなかったのだ。ガリアと言う国を、我が物にしようと企んでいたのである。

 

「しかし、こうも帝国軍が強いと、保護国化する前にガリアが帝国の手に落ちてしまいますなぁ」

「いやいや、聞けば今やガリア軍は巻き返しつつあるとの事。それにダモン殿も付いておる。心配はご無用」

「ふ~む。そうだといいのですが……」

 

タウンゼントは腕を組みながら現在のガリアの状況を改めて考える。

ガリア軍は、帝国との戦いに集中するべく、連邦側の国境には必要最低限以下の守りしか置いていない。

ボルグは大丈夫と言うが、今まで過去に同じような事を言う人間を見てきていた。言うなれば信用できないのだ。今はこうやって机を挟んでソファーにふんぞり返っているが、いつ手の平を返されるか分からない。

ボルグ自身は裏切るつもりは毛頭無いのだが、タウンゼントは秘密裏に連邦に軍を集めるよう要請した。

但し、この手はあくまでガリアの敗北が確実となった場合であり、一種の保険の様な物であった。

事が上手く運べそうなのであれば、軍を返し、計画通り、コーデリア姫を拉致。ガリアを保護下に置く。その後は帝国に対し、ガリアからの撤退を宣告する。完璧な作戦であると、彼は心の中で自分を褒めた。それにこの老体は自分の事しか考えていない。そして特別頭が良い訳でもない。非常に操り易い傀儡であると、内心ボルグを嘲笑した。

 

「処で、此方の紅茶は如何ですかな?最近は民間物資も配給制に移行しつつある中で、上等な物が取れましてな。お口に合うかどうかは分かりませぬが……」

「なんのなんの。ガリアで育てられた茶葉なのでしたら、美味しいでしょう。頂けるのでしたら、是非」

 

ボルグはタウンゼントに心の中で馬鹿にされているのを知らず、話を続けるのだった。

しかし、彼の野望は既にスパイの1人によって、ずっと監視されており、この話の内容も、全て筒抜けであった。

 

 

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◆5月20日~アスロン第2司令部~

 

ダモンはいつも通り毎日送られてくる書類の束を、オドレイに手伝って貰いながら作業をしていた。

もう手慣れたものであると、最近は効率が上がってきており、ここ最近のオドレイの機嫌はすこぶる良かった。

サボる事もせず、ただ黙々と作業を続けるダモン。第三者から見れば、とても良い絵になっていた。目にかけている眼鏡も、いい味を出している。さりげなくオドレイはカメラでダモンを撮影した。

 

しかし、オドレイは最近仕事が増えてしまった。仕事というのは、子供達の相手である。

あの出来事以降、ダモンから「差別なく触れ合え」との命令が下されてから、彼女はガリア・ダルクス問わずに子供達の相手をしていた。基本的な学問から、簡単な運動。これ以上の教育は、戦争が終わった後、学校に通わせればいいと考えていた。

初めは露骨に嫌悪感を醸し出していたので、あまりダルクス人の子供からは近寄られなかったが、最近は慣れてきたのか、彼らもオドレイにくっついて遊んだりしていた。

 

今日もある程度の書類を処理すると、オドレイは隣の部屋に移動して子供達の相手をしていた。

老親衛隊員と交代で、彼らの相手をしていると、1人だけ、絵を描いている女の子がいた。

 

「どうしたのですか?アミラは遊ばないのですか?」

「あ、おねえちゃん!」

 

女の子の名前は『アミラ』。ファウゼンに救助に行った際、ダモンに抱き抱えられていた女の子である。

本来であれば、ファウゼンでの戦闘で巻き込まれて死ぬはずだった子供である。現在の年齢は6歳。

他の子供達よりも早くに心を開いた彼女は、オドレイとダモンが大好きであった。

今日は絵を描いていたらしい。

 

「……誰です?この人は?」

「これは、おじいちゃんだよ。がんばってかいたの!」

 

オドレイは渡された絵を見るも、そこに描かれている人物がどう見ても誰か分からなかった。ただ、肌色と髪の色であろう黒色だけは理解できた。

因みに、「おじいちゃん」と言うのは、ダモンの事を指している。ダモンも他の子と比べると、彼女を溺愛していた。年頃的に孫にあたる。そのせいか、ダモンは彼女をよく可愛がっていた。

 

「駄目ですね。全然駄目です」

「え~…がんばってかいたのに…」

 

この状態では、いくら何でも分からなさすぎる。オドレイは大人げなく断言した。

アミラは一所懸命に描いた絵を否定されて、落ち込んでしまった。

 

「これでは渡された人も、困惑してしまいます。私が絵の描き方を教えましょう」

「ふぇ?」

「絵が上手くなれば、渡された人も嬉しくなるものですよ?」

「ほんと…!?やっぱりおねえちゃん好きー!」

 

しかし、オドレイが絵のかき方を教えてくれると言われると、アミラは直ぐに笑顔に戻った。

子供も気分の浮き沈みが激しい生き物であった。

そんな2人の会話を遮る様に、別の子供達が、再びオドレイに纏わり付いていた。

 

「おねえちゃん~。あそぼ~」

 

子供達は所構わずオドレイに抱き付いてくる。ただ、最近はちょっと飛びついてくる部位が固定化され始めていた。部位と言うのは、"胸"である。

まだまだ幼い子供にとって、その部位が一番安心できる場所であった。尚、一部の隊員からはとても羨ましがられている。

 

「う~んフカフカ~」

 

そう言いながら胸に顔を埋める子供達は、かつての母親にするようにオドレイに甘えていた。

そんな子供達を無碍(むげ)にすることもできず、オドレイは仕方なく彼らを抱擁していた。

 

すると、扉をガチャリと開ける音が聞こえた。オドレイが振り向くと、そこには珍しい人物が、部屋を訪ねに来たのであった。

 

「元気にしているか?我が妹よ」

 

その人物は、ガリア正規軍所属でオドレイの兄であるバルドレン大佐であった。

久々の休暇を貰ったので、久しぶりに彼女の元へやって来たのである。

 

「お兄様!あぁ…本当にお久しぶりです。それほど月日は経っていないと言うのに。」

「今は戦争中だからな。中々会えるものではない。それよりも……なんなのだこの子供達は。しかもダルクス人まで…」

 

バルドレンは現在の状況を飲み込めずに困惑していた。てっきり業務で忙しいと思っていたのだから当然である。だが、今の状況は子供達がバルドレンから距離を取り、全員オドレイにくっついていた。

 

「いえ、この子達は全員身寄りがないのです。そこでダモン閣下が保護されました。私は仕事の合間にこうやって子供達を触れ合い、時には勉学を教えています。今は遊んでいたのです」

「ほう。流石は我が妹。閣下の忠実な兵士となっているのだな。嬉しいぞ」

 

バルドレンは妹の忠実な心構えに感動していた。

しかし、アミラがオドレイから離れて、バルドレンの前に立った。

 

「おにいちゃんは、だれ?」

 

アミラにとっては、ただ純粋に彼の名前が知りたかっただけなのだが、ダルクス人に話しかけられた事が、彼の機嫌を悪くさせた。先程までの感動は、直ぐに消え失せていた。

 

「……ダルクス人に名乗る名などない。失せろ、ガリアの寄生虫め」

 

バルドレンはそう言うと、アミラを軽くではあるが、蹴とばした。しかし、大人にとっての軽さは子供にとっては重いものである事を、彼は失念していた。

丁度お腹の部分を蹴られたアミラは、お腹を押さえながらえずいた。

オドレイは、兄の行動に驚愕しつつも、アミラを助ける為に、直ぐに動いた。

 

「アミラ!?大丈夫ですか!アミラ!」

「カハッ…カハッ…い、痛い…よ…おねえ…ちゃん……」

「お兄様ッ!一体何をなさるのですッ!いくらダルクス人と言えども、まだ子供ですッ!子供に手を出すのですか!?」

 

オドレイは今迄生きてきた中で、生まれて初めて兄に対して激昂した。

彼女の心の中は怒りに満ち溢れていた。表情も、目じりを険しく吊り上げて怒っている。

バルドレンはアミラを介抱する妹を見ると、まさかという目で彼女を見た。

 

「オドレイよ……お前は、ダルクス人に与するというのか?」

「ダルクス人と言えど、子供です。それにこの子達は、何も悪い事をしておりません…!」

「だがその体に流れる血は、罪深きものであると、俺はお前に教えた筈だ。オドレイ。ダルクス人は全て、世界から根絶やしにしなくてはならない。この寄生虫共は、生きるに値しない民族なのだ」

 

バルドレンは、根っからの保守主義である。だが同時に、ガリア人は神に選ばれた偉大なる人種であるという選民思想も持ち合わせていた。無論オドレイも小さい頃から彼や父からその様に教育を受けていた。だが、最近になって、その考え方はおかしいのではないかと思い始めていた。ダモンが今まで人種差別をせず、全ての者に対して公平に接してきた影響を、受けたからでもある。それこそ、髪や肌の色は違えど、同じガリアという国の大地に住み、共に生きている者もいる。そして今現在では、共に戦地で戦っている者もいる。ダルクス人に限った話ではないのだ。帝国での暮らしが嫌になり移民してきた者や、新たな新天地を求めて連邦から移住してきた者がいるにも関わらず、兄であるバルドレンや父のギルベルトは、他の国に住む民族を蔑んでいた。

オドレイは、そんな2人の考えに疑問を持つようになっていたのである。

 

「これ以上子供達に傷をつける様でしたら、私が許しません。お兄様と言えども、憲兵に突き出します」

「………私は、必ずやお前が正気に戻ると信じているぞ。邪魔をした」

 

バルドレンは、オドレイの言葉に反論しようとしたが、寸前の所で彼女に対して、元の考えを持ち直すように告げて、部屋から出て行った。

因みにガッセナール兄妹の口喧嘩の間に、アミラの調子は徐々に良くなり、軽い打撲と言う形で終わった。

だが、アミラは何らバルドレンを恨まず「いつか話せたらいいな」と、健気にも呟く。それを聞いたオドレイは、無言でアミラを抱きしめた。オドレイは、生まれて初めて、ダルクス人の為に涙を流した。

 

因みに、職務に戻って来たオドレイの顔を見たダモンは、いつもと違う雰囲気を出していた彼女に対して、将軍らしからぬオドオドとした様子をする羽目になったのは、別の話である。

 

 

 

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◆5月21日~ガリア軍諜報部 ラムゼイ・クロウ中佐職務室~

 

「ねぇ~。このまま泳がせといていいの~?」

「あったりまえだろうが。……こんな情報、俺さんは知りたくなかった。俺さんは将軍を恨む」

「何言ってるのよ。諜報部の癖に。寧ろ感謝しなさいよ。お金もあの人が払ってくれたんだし」

 

いつもは飄々としているクロウは、自分の隣で椅子にもたれ掛かっている女性からもたらされた情報を受けて、珍しく狼狽していた。

『フレデリカ・リップス』。それが女性の名前だった。出自・目的は一切不明。分かっている事と言えば、年齢が27歳である事ぐらいであった。一説には"連邦からの亡命者"や"第3国の3重スパイ"とも噂されているが、真相は定かではない。しかし、彼女が危険な人物であるという事は疑いようも無かった。というのも、彼女は情報戦のエキスパートなのだ。それこそ、どんな手を使って何処からそんな情報を知ったのかと言われる程に侮れない者で、裏事情に関しては自身の庭の様であると語っていた。今日彼女が持って来た情報と言うのは、「ボルグ宰相」の事であった。

 

「いくらタダで有益な情報が知りたいとは言うが、これは……こればっかりは知りたくなかった。まさか国の……それも宰相が裏切っているなんて……」

「現実を受け入れなさい。これが事実なんだから。それに、この事を依頼したのはあのダモン将軍よ?つまり、将軍は初めからガリア上層部に裏切り者が居ると踏んでいたという事になるわ。しかも、まだこれだけじゃないの。将軍が言うには、後1人、帝国に通じてるお偉い軍人さんがいるのよ?」

「……という事は、ガリア軍将校の中に?」

「えぇ。今の所まだ分からないけど、私の鼻はとってもいいの。一応目星はつけてあるわ。でも、本当にこの国は悲惨ね…。戦場で戦っている人達が聞いたら、呆れを通り越して放心するかも……」

 

クロウは両手で顔を覆うと、大きく落胆した。彼は表には出していないが、れっきとしたガリア軍人である様に、愛国心が満ち溢れていた。普段こそ適当な事しか言わないが、彼の根底には祖国への忠誠がはっきりと生きている。三流貴族出身であるから出世も早々に諦めてはいた。だが、それでも彼は国に忠を尽くしていた。例え祖国が滅びようとも、最後の時まで添い遂げる覚悟を持っている。だからこそ、このような事態を前にして、嘆いた。

愛する祖国が、忠誠心の欠片も無い者共に食い荒らされるかもしれないのだから。

 

「ま、だからと言って手が出せる訳じゃないし、大人しく時が来るのを待てばいいんじゃない?」

「そうするしかねぇよ。一佐官が対応できるようなもんじゃない。それに、ダモン将軍がいる。"俺"が動く時は、将軍が動いた時だけだ」

「ウフフ。その意気よ。それでこそ私の大好きなラムゼイよ。それじゃあ、またね♡」

 

フレデリカは耳元で彼に別れを告げると早々に部屋から出て行った。彼女が醸し出す雰囲気は、大人のソレであった。彼女が部屋からいなくなったのを確信すると、いつもの様にクロウはタバコを咥えて、愚痴った。

 

「なぁにが『大好きよ』だ。ただ金が欲しいだけの守銭奴が偉そうに…。それこそ逆に俺さんに感謝しろってんだ。全く…買ってやってんのは俺さんなんだぞ」

 

タバコをふかしながら、クロウはいつも通り、昼間から安酒を仰ぐ。

クルトが報告に来た際には既に出来上がっていたという。無論、後片付けをしたのはクルトただ1人であった。

 

 




因みに、ルドベキアの花言葉は……
【正義・公正・あなたを見つめる・正しい選択・強い精神力・立派】などの言葉が有ります。
ダモンさんにぴったりです。

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