わしを無能と呼ばないで!   作:東岸公

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戦ヴァル2のソフトがもう手元にないので、必死に思い出しながらキャラの口調を書きましたが、多分違います。笑って済まして頂けると助かります。

あと、ユリアナ嬢の親族の資料が無かったので、新たに人物を作りました。
どれもこれも、本編に登場するガリア軍将校がいなさすぎるのが問題なんだ…。


第十三話 最後の手向け

征暦1935年6月上旬

 

ダモンの命令により、バリアス砂漠への派兵が決まったガリア第2軍と義勇軍第3中隊は、作戦会議の翌日である6月3日に行動を開始。道中にいる帝国軍の警備部隊を蹴散らしながら、バリアス砂漠へと向かった。

そして更に1日経った6月4日、ガリア軍は、無事バリアス砂漠へと到達した。バーロット大尉は到着後、義勇軍第7小隊に偵察命令を言い渡す。そこで小隊は、ガリア中部攻略軍司令官であるセルベリア・ブレス大佐と、帝国軍総司令官であるマクシミリアンが遺跡に入っていくところを目撃する。

未だ謎多きヴァルキュリア伝説と繋がりがあるのか。ともかくガリア軍は帝国軍に先手を取られないために、攻撃を開始した。それに気付いたマクシミリアンはセルベリアと共に大型戦車『ゲルビル』で反撃。バリアス砂漠で、遂にガリア軍と帝国軍が戦端を開いたのであった。

 

この裏では、アイスラーが帝国領内にある補給基地を叩くべくネームレス422部隊に出動命令を下していた。

帝国軍優勢のさなか、たった1小隊だけでの補給基地急襲、しかも帝国領内への侵入は、多くのネームレス隊員が反対の意思を表明した。敵は帝国、しかもこちらは記録に残らないガリアの闇。捕まれば、良くて収容所行き、悪ければその場で銃殺されるのだ。しかし、隊長であるクルト・アーヴィングはこの作戦を完遂させるべく、各隊員を説得。ネームレスは正規軍にはこなせない過酷な任務を請け負う事になった。幸い、イムカの生まれ故郷であるティルカ村の近くに補給基地があるとの情報を受けたクルトは、イムカに道案内を要請。部隊を率いてひっそりと、ガリア国内から姿を消した。

 

それと同じ頃、首都ランドグリーズにある兵器廠では、リオン・シュミット技師が、開発した『ルドベキア』の実地試験を行っていた。しかし、やはり未だ不十分な所が多く、他の技術者から改良点が幾つも指摘されていた。

特に、設計段階では2人乗りと決められていたが、「無線機などを積む事を考えると、最低3人は絶対に必要である」「いくらなんでも、2人では役割が補いきれない」など、別の技術者達が声を上げていた。

その声には開発責任者であるリオンも頷く他無く、結果として『ルドベキア』は新たに3人乗りとして開発される事になった。だが、良い事もあった。

開発が遅れていた新砲塔が、遂に開発されたのである。そのデザインは、エーデルワイス号のような曲線美溢れる物ではなく、またもや垂直装甲を取り入れた無骨なデザインであった。開発が遅れていた原因は、そのオリジナル性である。現在のタイプから一新して、旧来の型をした砲塔の生産には、多くの技術者達を泣かせた。しかし、いざ開発されると、その堂々とした姿は、正に「王」の様な風格があり、技術者達に深い畏怖の念を植え付けさせた。

 

参謀本部では、徐々に整備が進められており、参謀を纏める役割として新たに「参謀長」が設立された。これは参謀本部議長と参謀の間にあり、一種の現場監督の様な物である。この職種は主に各参謀の監視と議長の補佐であるが、参謀長にはダモンが行っていた「軍務」の役割を与えられた。いわばダモンの右腕、そして影ともなる職種である。他にも、ダモンが不在の場合には一時的に権限が移される。所謂"ダモン代理"となる事が出来るのである。これによりダモンの職務は、主に公務と決算だけに絞られた。故にたかが現場監督と侮るなかれ。参謀長の耳は、即ちダモンの耳という事になるのだ。それゆえ、信足る者しか、この役職に就く事は出来ない。そこでダモンは、ガリア公国内にいる穏健派の筆頭であるエーベルハルト家現当主『グスタフ・エーベルハルト伯爵』にこの役職を任せる事を決定する。先も言った通り、この椅子には信用できる者しか座る事が出来ない。エーベルハルト伯爵は、自身が選ばれたことに大きく感動し、何度もダモンに謝礼の手紙を送ったと言う。階級が少将であり、ダモンと同じく上層部の中では至極まともな常識人である事も幸いした。因みに、ランシール王立士官学校にいるユリアナ・エーベルハルトは、彼の1人娘である。

 

しかし、順調に改革が行われている軍部に反して、ガリア正規軍中隊隊長である、バルドレン・ガッセナール大佐は、少々不満であった。その理由は、実家であるガッセナール家が、参謀長に選ばれなかった事にあった。

エーベルハルト家とガッセナール家はガリア公国内屈指の名門貴族である。しかし、両者には絶対的な溝があった。ガッセナール家はガリア国内にいる保守派の筆頭であり、対するエーベルハルト家は穏健派の筆頭であった。南部に支持基盤を持つガッセナール家と北部に支持基盤を持つエーベルハルト家は、過去に何度もダルクス人問題で大いに揉めた歴史もあり、お互い反目し合っていた。だが、両者ともガリアを愛する思いは絶対であり、それこそ切磋琢磨しあった家同士でもあった。しかし、エーベルハルト家は軍部に親族がおらず、逆にガッセナール家は軍部にバルドレンとオドレイが所属しており、故に軍内部での派閥抗争はガッセナール派が半分を占めていた。残り半分は、無所属だったのだが、ここ最近ではダモン派がその勢いを伸ばしており、現在はダモン派半分、ガッセナール派半分という状態に落ち着いていた。だが、バルドレン自身はダモンを敬愛している為、両派閥は衝突する事も無く、それこそ完全に軍部は機能していた。だからこそ、バルドレンは新たに設立された参謀長には、ダモン派かガッセナール派のどちらかの要人が就くと思っていたのだ。しかし、蓋を開けて見れば、そこに就いた者は、今まで表に出て来なかったエーベルハルト家、それも現当主である。これにはガッセナール家現当主であるギルベルト伯爵も大いに怒り狂い、ダモンに抗議文を送りつけた程であった。

 

バルドレンも御多分に漏れず、そんな人事采配を行ったダモンに不満を持っていた。彼の階級は現在大佐であるが、ガッセナール家出身という事もあり、軍内部には、その隠然たる存在として君臨していた。

 

(一体何故、我が父ではなく、よもや仇敵たるエーベルハルトなどに参謀長を任されたのだ…?それにオドレイの心変わり。これも閣下がやった事なのか?……分からぬ…私には閣下が何を考えているのか…)

 

机の上を指でトントンとリズムよく叩きながら、バルドレンは考えていた。先日の兄妹喧嘩も、いきなり妹が変な事を言いだした為に、喧嘩に発展してしまった事を思い出しながら、彼は逡巡した。

 

(やはり、そのうち閣下に聞くしかあるまい。いくら考えた所で、答えは出ないのだ)

 

バルドレンはいつかダモンを問いたださねばならないと決めると、一転して元の職務に戻るのであった。

 

 

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◆6月7日~アスロン第2司令部 戦車格納庫~

 

「いよいよお前ともお別れか…。長かったような、短かったような…」

 

この日、ダモンはもうじき納車される新型重戦車『ルドベキア』を前に、今まで使用していたダモン専用の軽戦車を見ていた。前までは職務に追われていたが、参謀本部が機能し始めてからは、そんな事が無かった様に、自由な時間が生まれた。以前は1から全て秘書であるオドレイと共に作業をしていたのだが、今のダモンがする業務と言えば、只々ハンコや、サインをするだけである。しかも参謀本部が分かり易く纏めてくれる為、オドレイも喜んでいた。そんな訳で、ダモンは出来た時間を使って、戦車格納庫に来ていた。

 

「ギルランダイオでの防衛戦では、よく働いてくれたものだ。礼を言わねばならん。お前がいなければ、わしは要塞で死んでいたかもしれん。他の兵士達もお前のお陰で助かったのだ。……すまぬな」

 

そう言いながらダモンは、所々生々しい傷跡がある個所を撫でる。改めて見れば、よく装甲が持ったものだと、感心した。特に側面は掠れ具合が酷く、後1発でも砲撃を食らえば、大破待ったなしである。

 

「お前にも、名前を付けてやればよかったのう……いや、今付けてやるか。せめてもの手向けとして」

 

ダモンは、戦車から離れると、ルドベキアの時と同じように腕を組んで目を瞑った。

しかし、思い入れのある戦車なので、そう簡単には決められず、結局花の名前を元に決める事にした。

軽戦車とはいえ、ダモン用に(あつら)えた特注品である。見た目は量産型と同じだが、性能は少し量産型よりも上がっている。所有したのは戦前からであったが、開戦からずっとダモンと共に戦い抜いて来た戦友である。変な名前は付けられなかった。10分ほどしてから、ダモンは遂に決断した。

 

「『シオン』…うむ、いい名ではないか。長い間ご苦労であった、シオン」

「おっさん、何1人でブツブツ言ってるんだ?」

 

唐突に背後から声をかけられたダモンは、「ぬわァ!?」と口から心臓が飛び出る勢いで驚いてしまった。そこに立っていたのは、浅黒い肌を持つ女性であった。見た所、整備士なのではないかと、ダモンは驚きながらも瞬時に考えた。

 

「お、驚かせた?」

「あ、当たり前だ馬鹿者!いきなり真後ろで声をかけるでない!心の臓が止まるかと思ったわ!」

「アハハハ。ごめんね。あたしはラビニア・レイン。戦車の整備をしているんだ。偶々格納庫の前を歩いてたら、おっさんが1人で立ってるから、何してるんだろうって思ったんだ」

 

彼女は『ラビニア・レイン』。ランシール王立士官学校の男顔負けの姉御肌を持った生徒であった。士官学校では戦車の整備をしていた為、現在は兵器廠に送られてくる壊れた戦車などを直すなど、兵器廠顔負けの腕を持っていた。史実では、亡霊戦車に仲間を虐殺された過去を持っているが、それはまだ未来の事である。

 

「な、なるほどのう。わしは、もうじき手放すことになるこいつを見送りに来ておったのだ」

「確か、シオンって言ってなかった?」

「うむ。こいつの名前だ。と言っても、さっき付けたばかりだがな」

「名前?戦車に?」

 

ラビニアは変な物を見るような目でダモンを見つめた。確かに戦場では戦車に名前を付ける者もいるが、彼女はその伝統に未だに慣れてはいなかったのだ。

 

「いやいや、そう馬鹿にするでない。名前と言うのは不思議な事に、つけた途端に愛着が湧くものなのだ」

「ふ~ん。そういえばあたし、まだおっさんの名前知らなかった。教えてくれてもいいかい?」

「わしの名はゲオルグ・ダモンだ。てっきりこの軍服で理解していたと、思っておったのだが…」

「………え?」

 

ダモンの名前を聞いたラビニアは、まるで氷漬けになったかのように固まった。ガリア軍のトップを「おっさん」呼ばわりした事、溜口で話していた事、それらすべてをひっくるめて、彼女の脳内は機能が停止した。不敬罪にも程があるのではないかと、涙目になりながら思った。

 

「……どうしたのだ?何故固まっておる」

「ハ…ハハ……。イヤ、マサカ、ダモンショーグントハ、オモッテモイナクテ…」

「棒読みなのだが?それにわしは気にしてはおらん。好きに呼べばよい」

 

ダモンはそう言うが、彼女とダモンの間には絶対に越えられない階級の差がある。それこそ、一整備士見習いと、大将では格の差が違い過ぎた。腰に手を当てながら哀愁を漂わせるダモンとは対照的に、ラビニアは隣で蛇に睨まれた様にガクガクと震えていた。

 

「気にせんでもいいと言うに……律儀な娘だのう」

 

しかし、ダモンと話をするたびに、彼女も徐々に慣れ、先程まであった申し訳無さは何処かへ行ってしまっていた。その様相に変わり具合には、流石のダモンも、苦笑いをするしかなかった。

夕方に差し掛かった頃、突然ラビニアはダモンに両手を合わせてお願いをした。

 

「あたしは、戦車を思う親父さんの心意気に惚れた!もしよければ、この戦車を私に直させてくれないか!?」

 

願いと言うのは、シオンを直させてほしいと言うものであった。珍しい事をおねだりするのだなと、ダモンは口には出さず、内心思った。

 

「直った所で、使う機会などもう無いのだぞ?」

「いんや。この戦車は後1回は使われると思う。私の勘だけど、よく当たるんだよ。」

「……まぁわしは構わんが。だが直すと言うのであれば、ちゃんと直してくれ。使うにしても使わないにしても、最後は綺麗であってほしいのだ」

「任せてくれ!あたしの直した戦車は、絶対に壊れないんだよ!」

 

ダモンからの許可を貰うと、ラビニアは早速格納庫の中から使われていない廃材や道具を持ってくると、すぐさまシオンを修理し始めた。てっきり明日からだと思っていたダモンは、日も暮れ始めているのを理由に彼女を止めたが、「こんな戦車、1日で直せるよ!」と逆に意気込んでしまい、結局ダモンが帰った後も、彼女は格納庫の照明灯をつけて戦車を修理し続けた。

 

 

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◆6月8日~アスロン第2司令部~

 

翌日、ダモンは職務室で、バリアス砂漠に派兵した第2軍と義勇軍第3中隊が中部帝国軍を撃退したとの報告を受け、すぐに緊急会議を開いた。バリアス砂漠から帝国軍の脅威がなくなったのを契機に、ダモンはアスロンよりすぐ北にある都市、スメイク・アインドンの奪還作戦を決断。バリアスに派兵した軍が戻り、準備が出来次第、直ぐに両市への攻勢をかけるように、各部隊に通達した。今回の作戦は、帝国軍を北部に追いやる事を目的として立てられていた。ガリア軍の本命は、あくまでもガリア北部にある帝国軍最大拠点のファウゼンである。両市奪還は、いわば足掛かりに過ぎないのだ。しかし帝国軍も両市奪還を阻止すべく、更に防衛網を増強した。もはや両軍の衝突は避けられず、各指揮官は「近々激しい戦闘が起きるのではないか」との予想を示していた。奪還したバリアス砂漠では、現在ファルディオとヴァレリーが遺跡の調査を行っていた。近い内に新たな歴史の真実が解き明かされるであろうと、ダモンはコーヒーを飲みながら考えた。

そんな時、黒く汚れきったラビニアが、ダモンの扉を開けた。因みにノックはしていないので、再び驚いたダモンは口に含んでいたコーヒーを勢いよく吹いた。

 

「ゴハッガハッ!ノックくらい…せんか…ゴフッ…馬鹿者…!」

「そんなことよりも、親父さん!戦車は無事に直ったよ!後で確認しに来てくれよ!」

 

ダモンの苦言をガン無視しながら、ラビニアは要件を言うと勢いよく扉を閉めて出て行ってしまった。

まるで嵐のような女の子であると、ダモンは思わずにはいられなかった。しかしダモンは、自分が知る未来では、彼女はもう少し大人しかったはずだと思い出す。仲間が殺されるまでは、明るく元気な子であったのだろうと、ダモンは推測した。一息つくために再びコーヒーを啜ったダモンは、先ほどの彼女の言葉を思い出した。

 

「そう言えば、戦車が直ったとか言っておったな……見に行ってやるとするか。もし使えそうなのであれば、最後にシオンで次の作戦に出撃してやるとしよう。花を持たせるにはちょうどいいであろうしな」

 

コーヒーを飲み干すと、ダモンは椅子から立ち上がり、戦友がいる格納庫へと足を向けた。謎の高揚感を得ながら、廊下を歩くダモンの顔には、小さな笑みが浮かび上がっていた。

 

後に、帝国軍から「スメイクの悪夢」と呼ばれる戦いが、もうすぐ始まろうとしていた。

そして、その戦いの活躍でダモンには帝国軍から畏敬の念を込められて、とある異名を付けられることになる。

 

再び、ダモン出撃の時が、刻一刻と迫っていた。

 

 

 




派閥抗争と言われたら、ザビ派とダイクン派、皇道派と統制派のイメージが浮かび上がります。ガリアはただでさえ貴族社会。有り得ると思うんです。

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