◆同日~ダモン専用軽戦車『シオン』~
「ガーッハッハッハ!見よ、あの帝国軍の慌てっぷりを!わしらが後ろから出てきた事に、理解できないという感じではないか!!」
「敵は足並みが崩れています。今の内に敵の戦車を重点的に潰していきましょう。」
ダモンが秘密裏に計画していた戦術……それは『軽戦車の機動力を用いて敵の背後に回り込み、一気に敵陣地へ攻め込む』という迂回戦術であった。一次大戦の英雄であるベルゲン・ギュンター将軍は、この浸透戦術を巧みに使用して、帝国軍に勝利したと言われている。そこでダモンは、正攻法での浸透戦術ではなく、敵の裏をかいて回り込み、敵陣地へ浸透するという戦術を採った。
裏に回る為に、ダモンは子飼いの老親衛隊を使って、スメイク近郊に設置された各電信を破壊。戦場では無線が繋がりにくい事もあり、電信の破壊は気付かれなかった。その結果、帝国軍将兵は、知らぬ間にスメイクとの連絡手段を切られていたのだ。よって、スメイクからの救難信号も伝わらない訳であり、ダモン達は機甲部隊と老親衛隊をもって、スメイクに残っていた少数の帝国軍部隊を蹴散らした。スメイクにあった戦力の殆どを前線に充てていた帝国軍将校は、ダモンによって討ち取られていた。前線で戦っている帝国軍は、そんな危機的状況を知る筈も無く、前線でガリア軍と交戦し続けていた。その間にダモンはスメイクを占領。だが敢えてガリア国旗を掲げず、帝国軍の国旗のままにしておいた。これが、ダモン達が後ろにいる事に気付かれない要因となった。
しかも、5時間と言う電撃的な機動戦を行った事もあり、スメイクにいた兵士達が逃げる暇も無く降伏したのも、上手く裏に回り込めた要因にもなった。1人でも逃げてしまえば、情報が漏れてしまうのだ。
順調に事が運んだダモンは、スメイクに老親衛隊を残して、再びスメイク近郊に向かった。
そして、前話の最後に繋がる。
「中佐!どっちを見ても敵だらけだ!狙いをつける必要もないわッ!撃てば必ず敵に当たるぞ!」
「だったら早く撃破してください!こっちも撃たれているんですよ!?」
「分かっておる!各部隊にオーダー『制圧前進』発令!進め、奴らを押し潰すのだ!」
ガタガタと揺れるシオンの車内では、そんな2人のやり取りが行われていた。
ダモン以外の軽戦車隊は、オーダーを受け、各々自分が所属する部隊を支援すべく、左右に分かれて背面攻撃態勢に移行した。V字を描く様に機甲部隊が別れる中、ダモンは正面に居座る帝国軍に、目を付けた。
「正面に敵の軽・中戦車!3個小隊!」
「12両かッ!相手にとって不足なし!」
オドレイは操縦席から見える帝国軍戦車の数を正確にダモンに伝える。それを聞いたダモンは軍帽を後ろに回すと、照準器を覗いた。その先には帝国軍戦車"全車両"の砲塔がこっちに向いていた。咄嗟に照準器から目を離すとダモンはオドレイに大声で伝えた。
「中佐!右だ!」
ダモンの言葉に即座に反応したオドレイは、ハンドルを右に切る。その瞬間、敵が砲弾を放った。しかし、その弾がシオンに当たる事は無かった。
「いいぞいいぞ……その土手っ腹に風穴を開けてやる……発射ァ!」
照準レンズを合わせると、ダモンは引き金を引いた。直後、シオンの砲身が火を噴いた。小さいながらも、力強い反動を、ダモンは感じ取る。砲弾は敵戦車の側面に命中し、そのまま爆散した。それを見届けたダモンは、狂人とも思わせるような笑顔になった。なお、狙っている間もシオンはずっと動き続けている。しかも、蛇行するようにオドレイは操縦しているのだが、ダモンにとってそれは些細な事であった。
「ぐふふふふ……まずは、1つ!」
「笑ってないで次に行ってくださいッ!!」
「言われるまでもないのう!次はあやつを喰わせてもらうとするか!」
ダモンは砲塔を左へ回すと、次の獲物に飛びかかった。撃破された味方の戦車に焦った敵は、照準を碌に合わせず、引き金を引いた。砲弾は明後日の方角へ飛んでいき、何処かに落ちた。そんな帝国軍の腕を見たダモンは、余りにもお粗末なので笑ってしまった。
「フハハハハハ!なんだその腕は!その程度の腕で、このダモンを討ち取ろうなど、100年早いわッ!だが光栄に思うがよい。わし自らお礼をくれてやる!」
再び照準レンズを覗いたダモンは、敵に照準を合わせると、先ほどと同じ様に砲弾を発射した。
戦車に乗っていた帝国軍戦車兵は、戦車から逃げようとハッチを開き、逃げようとしたが、遅かった。
放った砲弾が機関部に命中し、そのまま炎上、爆発。兵士はその炎に巻き込まれ、生きたまま焼かれた。
余りの苦しさに地面で転がり続ける帝国軍兵士は、その内動かなくなった。
操縦席からそれが偶々見えたオドレイは、一瞬だけ吐き気を催したが、直ぐに飲み込んだ。
「2つ目は少々惨い事をしてしまったかもしれんな……だがこれが戦争なのだ。悪く思うでないぞ」
喉が潰れる程の断末魔を叫びながら死に絶えた敵兵士を見たダモンは、さっきまで浮かべていた笑顔から一転、眉間に皺を寄せて、敵に懺悔した。スメイクが上手く落ちた事で少し調子に乗り過ぎてしまった事を、ダモンは反省した。
「後10両です閣下!反省するのもいいですが、まずは目の前の敵に集中してください!」
「うむ。精魂込めて、戦わせてもらうとしよう。」
そう言いながら、ダモンは次々と敵戦車を屠っていく。7両目を撃破した際に、敵の対戦車槍がシオンの側面を掠ったが、ダモンは焦らずに、対戦車兵が潜んでいる場所に榴弾を撃ち込んだ。大きな爆発と共に、"人間だったもの"が、シオンを色鮮やかに装飾した。戦車だけではない。そこかしこに潜む敵歩兵も、シオンは蹂躙していった。
「残り3両……手加減はせんぞ…!」
「す……すごい……」
オドレイは、自分自身が思うほど無茶な操縦をしている。にも関わらず、一切のミスを出さず、次々と敵戦車を屠っていくダモンに、ある意味ドン引きしていた。その腕は、間違いなくヨーロッパ一なのではないかと思わせる程……いや、ヨーロッパ一の戦車兵なのだと改めて感じさせられた。
軽戦車たった1両で3個機甲小隊が壊滅したなど、他の国に言っても信じてもらえないだろう。だが、現にそれを成し遂げようとしているダモン。簡単にいえば、彼1人の戦力は戦車12両分という事になる。これ程おかしい人間は居ない。1人の司令官としてみれば、桁外れ…いや、規格外なのだ。そんな男が、ガリア軍を率いて戦っている。こんな人間が近くにいれば、負ける気がしない。
普段は
この世界にこれほど、元気な老人がいるのだろうかと、オドレイは逡巡した。
だが、そんな事を考えている間も、ダモンはまた1つ、敵戦車を沈めた。帝国側からしてみれば、ダモンは悪夢以外の何物でもない。相手にしてはならない『兵士』なのだ。
奇想天外に動き回りつつも、確実に戦車を撃破していくその姿は、帝国軍を震え上がらせるには十分であった。
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日が暮れて辺りが暗くなってきても、ダモンは戦い続けた。そんなダモンに続く様に、各地のガリア軍も帝国軍を押していく。気付けば水色の車体が赤色と混じり、薄い紫へと変貌していった。オドレイは気付かないが、走り回っている内に、倒れた敵兵士を踏み潰しており、シオンが走った後の
余りの凄惨さ、余りの戦闘力に、正面に展開していた敵戦車は成す術もなかった。たかが軽戦車と侮っていた敵戦車に撃破され続け、帝国軍戦車が最後の1両となった時、戦車に乗っていた戦車兵がハッチを開き、白い布を広げて、ダモンに見えるように振った。降伏の意志表示であった。
「閣下。このままあの戦車を撃破すれば、国際条約に違反してしまいます。無線を聞く所によると、各地でもガリア軍が勝利しており、帝国軍は撤退しようとしています。当初の作戦は、ファウゼンに敵軍を追いやるものです。ここらが引き際かと」
「……そうだな。ここらが引き際だな。変に深追いして、ファウゼンの帝国軍が出張ってくれば面倒な事になる。エーベルハルト参謀長に、攻撃停止命令を伝えよ」
気が付けば、夜空が満天の星で埋め尽くされる程の時間が経っていた。ダモンの攻撃停止命令を受け取ったエーベルハルト参謀長は、即座にガリア全軍に通達。各地のガリア軍は動きを止めた。轟音が響いていた戦場が、静寂に包まれた。対する帝国軍は、スメイクに立て籠もろうと後退したが、既にスメイクはガリア軍の手に落ちており、此処に来てようやく状況を理解した残存帝国軍は、スメイクにいる現地指揮官と交渉。国際条約に則り、無抵抗でスメイクを素通りして、一路ファウゼンに向かう事となった。
此処までに至る一連の出来事を、ホーマーは詳細に記録した。特に、ダモンの戦いぶりを、事細かく記録したことにより、後世では貴重な資料の1つとして扱われる事となる。
各地で帝国軍が降伏し、ガリア軍に誘導される中、ダモンは降伏した最後の1両に乗っていた帝国軍の戦車兵を回収すべく、シオンから降りていた。後ろで手を回して歩いてくるダモンを、降伏した戦車兵は、まじまじと観察していた。
「貴方が、ガリア軍の総司令官…ゲオルグ・ダモン大将閣下でありますか?」
帝国軍戦車に乗っていた2人の戦車兵は、目の前にいる豚の様に太った男に対して、質問した。
「如何にも。わしがガリア軍総司令官、ゲオルグ・ダモン大将である。貴官らは勇敢に我らに対して戦った。降伏は恥じる事ではない。ダモンの名において、ファウゼンへの撤退を保障しよう。」
そう言うとダモンは、腰に当てていた両腕を真っ直ぐに下げると、右手で綺麗に敬礼した。
それに対して戦車兵達も、戸惑いながら敬礼する。戦いの最中、彼らの中では、ダモンと言う男は、獰猛で恐ろしい人物であると思っていた。だが、実際にこうして顔を合わせると、そんな風には見えなかったというのが、彼らの感想である。寧ろ、このような体型は、軍人にあるまじき姿ではないのかと、内心思っていた。
「わしの体型が気になるか?」
「あ、いえ、その…思っていた方ではなかったものですから……」
視線を感じ取ったダモンは、戦車兵に軽くツッコミを入れた。一方で内心を見透かされた戦車兵達は戦々恐々としていた。敵とは言えど、軍のトップに対して余りにも失礼な事を考えてしまったのだから。だが、そんな些事などダモンは気にせず、戦車兵に対して話を続けた。
「人間は、見た目で判断できるものではないのだ。例えわしのようなデブでも、こうやって戦う事が出来るのだからな。ワッハッハッハッハ!」
「は…はッ!」
戦車兵は1人笑うダモンに対して改めて敬礼した。彼は今まで帝国に住んでいて、こんな変わった将軍を見た事が無かった。帝国は、市民革命を経ずに現在まで至る。即ち、貴族などの上流階級層は、部下に対して命令こそすれど、話などは一切しなかった。それこそ、同じ帝国人でありながら、"下層民"と蔑んでいる。それは軍隊の中でも同じだった。なので、彼にとってダモンと言う男は、ガリア軍の中でも珍しい人物なのではと思った。
「閣下。各地の帝国軍が、撤退を開始しました。そちらの両名も本隊に合流するようにと」
そんな戦車兵の思いなど知らないオドレイは、いつもの口調で、ダモンに情報を伝えた。
対するダモンは、少し考え込むが、直ぐに顔を上げて、敵である帝国軍戦車兵に対して激励した。
「お主は、筋が良い。お主が最後の1両となったのにはちゃんと理由がある。必ずや生き延びよ。そして、戦争が終わった暁にはガリアに観光に来い。その時、戦車の操縦方法をお主に教えてやるぞ」
「こ、光栄であります…!」
「さて、長居をさせてしまえば、わしはお主ら2人を捕虜としてしょっ引かねばならなくなる。早く戦車に乗って行け」
本来降伏した敵は、自身が無抵抗である事を示す為に、武器となり得る物を破棄しなければならない。
だが、ダモンは「戦車に乗っていけ」と言った。その言葉には、流石の戦車兵達も、動揺を隠せなかった。
「いいのですか?降伏した身とはいえ、敵でありますよ?」
「あぁ気にするでない。戦車乗りに悪い奴はおらん。わしはお主らを信じておる。それに、これは勇敢に戦ったお主らに対するほんの少しの…手向けだ」
「(?、どういう意味だ?)」
「いいから、さっさと行け。遅れると冗談抜きで捕虜にするぞ?」
「は…はいッ!」
命令口調で言われた戦車兵は、急ぎ足で自分の戦車に飛び乗る。
"ブロロロ"というエンジンの
それに対して、ダモンも応じて敬礼する。それを見た戦車兵は、胸の奥で何かが震えた感じがした。
(あんな人と共に戦えるガリア軍は幸せ者だな…。敵であると言うのに、寛容な心を持っている。各地で帝国軍が敗退する訳だ……。とても敵う相手じゃない。上は"豚"だと馬鹿にしていたけど、あれは豚なんかじゃない…)
ダモンが見えなくなるまで敬礼を続けた戦車兵は、そのままスメイクにいる本隊と合流。
戦車の数が少ない残存帝国軍の中で、猛将と名高いダモン相手に唯一生き残った彼らは、味方に尊敬されながらスメイク・アインドンから去って行った。此処で初めてダモンが言った最後の言葉の意味が分かった彼らは、色々励ましてくれる味方に、改めてダモンがどのような人物であるかを説明した。
『ダモンと言う者は豚の様に肥え太った男だが、それは偽りの姿である。真の姿は猪であり、その見た目に騙されてはいけない。猪突猛進でありながら、臨機応変に対応した変幻自在の戦術を駆使、そして撃てば必中。ガリア軍総司令官にして、スメイクの悪夢を作り出した張本人。これがゲオルグ・ダモンという男である。』
その少なすぎず多すぎずの説明は、今まで報告やただの噂話程度にしか認知していなかった帝国軍将兵を震え上がらせた。そして、必ずや討ち取らなくてはならない敵であるとも思わせた。帝国軍では、敵であるダモンに対して尊敬と畏怖の思いを込めて、こう呼ばれた。
ガリア最強の戦車乗り、『大猪のダモン』…と。
オーダー【制圧前進】
効果:CP4を使用するが、部隊全員の行動範囲及び攻撃力・防御力をアップ。
ダモン専用のオーダーである。但し、使用後3ターンは各隊員のスキルが発動しない。