わしを無能と呼ばないで!   作:東岸公

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第十六話 浮上する問題

征暦1935年7月1日~アスロン第2司令部 ダモン職務室~

 

6月12日に行われたガリア軍と帝国軍との決戦は、ガリア軍の勝利で幕を下ろした。

この瞬間、ガリア軍と帝国軍の優劣は五分五分となり、ガリア軍は初戦で犯した敗北を挽回することが出来た。

無論、この出来事は国内にある全ての情報機関を通じて報道され、再び首都ランドグリーズを中心に、大々的な帰還パレードが催された。奪還した都市や村でも、この報道は大歓迎を受けていた。

新聞では、これまで各戦線で敗走を繰り返し敗色濃厚と言われていたガリア側が、反転攻勢に出られたのは、紛れもなくガリア軍総司令官であるダモンのお蔭とも報道された。勿論、それ以外の面には義勇軍や正規軍の活躍も書かれており、ダモンの功績だけが載せられている訳ではなかった。

特に義勇軍第7小隊の活躍は開戦当初から目覚ましく、新聞の中では写真も取り上げられていた。

しかし、それ以上に、今回の新聞ではダモンが陣頭指揮を行った事が書かれていた。帝国から付けられた自身の異名である『大猪のダモン』も、見出しの部分に使われていた。その見出しの下には「いつの間に撮ったんだ?」と言いたくなる程の写真が飾られていた。写真には、シオンが帝国軍戦車を撃破した直後が写されていた。

 

「『ガリアの大猪、敵戦車を喰らう』……か。喜べばいいのか分からんのう」

 

まるで人を化物扱いしている新聞を見たダモンは、いつもの椅子に座り、老眼鏡をかけながら新聞を読んでいた。同時に自分はれっきとした人間であると、愚痴をこぼした。

 

あの後、ダモンはそのままシオンに乗ってスメイクに向かったのだが、駆け寄ってきた各兵士の反応は大歓迎であった。降りた直後に胴上げされたことは未だ記憶に新しい。よくこの身体を持ち上げたものだと、逆にダモンが感心してしまうほどだった。

シオンの装甲には血や汚れが付着していたので、軽く水で洗った後、ダモンはアスロンに帰還した。そこでもダモンは多くの人々に喝采を送られた。嬉しい反面、恥ずかしかった事も覚えている。

しかし、この戦闘ではダモン以外の義勇軍や正規軍も活躍しており、特にダモンの指示を忠実に守った機甲部隊は、後に行われる叙勲式に出席する事となった。勿論彼らも多くの人々から喝采を得ている。

特に、今回の戦いを含めて、7月下旬に行われる叙勲式において、多くの軍人が昇格することが決まっている。特に、史実では大佐止まりであったバルドレン・ガッセナール大佐は、すでに准将へ昇格する事が決定されていた。これには、密かにダモンの口利きもあった為である。

一時は関係が不安視されていた2人だが、この事を知ったバルドレンはダモンに対する不信感を無くし、自らダモンの元へと赴き、謝礼を行った。ダモンもエーベルハルトの事を話し「お互い今は協力すべきである」とバルドレンに説明する。これを聞き入れたバルドレンは、一先ず両家の確執は棚上げとし、当面は協力関係を構築すると、ダモンに告げた。

現在のガリアは国家存亡の危機にある。挙国一致で帝国に立ち向かわなければならない。

その事はバルドレンとギルベルトも理解しており、ダモンに花を持たせる為、従ったという経緯があった。

 

「しかし、中佐には階級ではなく勲章とは……。上層部はわしを馬鹿にしているのか?」

「私は構いません。それに、階級が上がると言うのも、一概に喜べない事もありますから」

「そうは言うがのぅ……。わしはやはり納得できぬ」

 

兄であるバルドレンとは対照的に、オドレイは昇格の対象には当てはまらなかった。

上層部からの公式的な回答は無いが、暗に兄との差別化を図っているのではないかと、彼女は考えていた。

現に彼女は「勲章」という喜べばいいのか分からない微妙な物を、一足先に賜っていた。叙勲式ではなく、小包で送られてきたのだ。しかし、彼女は別段気にせず、それを胸ポケットの近くに付けると、いつもの業務へと取り掛かっていた。

 

ただ、彼女を秘書として扱っているダモンにとっては、これは余りにも失礼なのではないかと思っており、自室に戻ってからも、その怒りは収まってはいなかった。

1人で戦車が動かせるのであれば、ダモンはやっている。しかしそれは不可能であり、彼女がいなければ戦車は動かせないのだ。縁の下の力持ちである操縦手を、上層部は軽く見過ぎているのではないかと、益々怒りに拍車がかかるダモンであった。

 

「それよりも、どうなさるのですか閣下?これだけの人事異動を行えば、流石に上層部からも、文句を言われると思いますが?」

「分かっておる。これについては昨夜考えてきた。こっちで全て受け入れる。言い訳も考えてある。心配するでない」

 

そんな怒れるダモンの机の上には、人事異動に関する大量の書類が跋扈していた。

内容はすべて同じ『老親衛隊への異動願い』であった。先のダモンの戦いを見て、正規軍義勇軍問わず、ダモンの元で働きたいとの声が多くなり、気付けばこんな風になっていたという事である。

老親衛隊はダモンが独断で作った一種の私設軍隊であり、上層部は仕方なく黙認していたに過ぎない。規模が1個小隊しかいなかったのも、上層部が黙認した要因の1つである。「あくまでダモンを護衛する部隊」という建前上あった組織に過ぎない。

しかし、事此処に至って、志願者数の数が何十倍にも膨れ上がり、もしこれを認めてしまった場合には、ガリア陸海軍の次に「第3の軍」が生まれてしまう可能性があった。つまり、国防軍と肩を並べる個人の軍隊が生まれてしまうという非常に危険な問題が出てきてしまったのである。

そこでダモンは、こうなれば寧ろ開き直るしかないと、ベッドの中で考え、その旨を上層部に伝える事にしたのである。

 

「どうなさるのです?」

「老親衛隊を格上げすればよいのだ。現在はわし個人の部隊だが、こうなれば上に認めさせる他ない。陸軍、海軍に続く3つ目の軍事組織としてこれからは動かす。老親衛隊改め『公国親衛隊』としてな」

 

ダモンが考えた開き直り……。それは、老親衛隊を私設軍から国防軍へと格上げする事であった。

この新たな軍事組織は、ダモンだけでなく、上層部に所属する他の貴族や将校も護衛するという新たな試みである。同時に、ガリア陸海軍問わずに、協力体制を構築し、一致団結して帝国軍に対し戦争を遂行する組織でもある。因みにダモンは、公国親衛隊を上層部の監視役としても使役するつもりである。なお、服装の色は、そのまま老親衛隊の濃い青と金色を引き継ぐ。

 

「公国親衛隊……ですか?上層部が認めるでしょうか?」

「ふんッ。嫌でも認めさせる。中佐を蔑ろにした報いを、受けてもらうとしよう。そういえば、最近ワルド卿がとある(ハヤブサ)によってガリアを裏切っていたことが発覚していたな。哀れよのう。まぁ、この事件もあって、奴らも強くは出れんはずだ。」

 

この人事異動問題以外にも、ガリア国内では未だに裏切り者が続出するという危機的問題が起きていた。

ガリア上層部に所属するワルド卿が、新たに国家警察によって逮捕されたのである。この問題を公にしたのは、ネームレスに所属する『アルフォンス・オークレール』であった。しかし、彼はネームレス故に、名前を公表することが出来ず、"とある告発者"として扱われた。

 

しかし、今までの裏切り者とは違い、ワルド卿が流し続けていた情報量は頭1つ抜けていた。

ガリアの物資状況、軍備状況、今までの作戦内容など、数え出したらキリがなかったのだ。

しかもあろうことか、内通がバレない内に"秘密任務"として、国外脱出を図っていたのである。

この出来事は、スメイク決戦を報道した翌日に公表され、一気にガリア上層部に対する不信感が、国内中で生まれてしまった。前線で命を賭して戦っている兵士や将校に対して、後ろでのうのうと椅子にふんぞり返っているガリア上層部。元々人気は無かったが、この事件が反上層部の感情に拍車を掛けた。

そんな出来事もあり、現在の上層部は、人気があるダモンなどに強く出られないでいた。最悪、ダモンに何かした場合、軍の一部がクーデターを起こしてしまう可能性があったのだ。普段察しが悪い上層部の者ですら、それを感じ取れるほど、ガリア軍内部では上に対する不信感を滲み出していた。

皮肉にも、ダモンが居る事によって、クーデターの圧力は現状抑えられているのだ。

しかし、もしもダモンが先陣を切ってクーデターを起こせば、たちまちガリア上層部は解体され、軍部による独裁体制が整うであろう事は、誰の目にも明らかであった。無論、ダモンにその様な気は無いが。

 

「それと閣下。人事異動の中にはこのような者も含まれている事を、ご存知ですか?」

 

そんな一連の出来事を振り返っていたダモンを気にも留めず、オドレイは積み重なっている書類の中から、1枚の紙を取り出すと、ダモンに渡した。

 

「ん?この顔…何処かで……」

「義勇軍に所属する"赤き獅子"『レオン・ハーデンス』軍曹です。閣下の元で働きたいと、いの一番に届け出をした人物でもあります」

 

手渡された紙には、ガリアの赤き獅子との異名を取る、レオン・ハーデンスの名前と顔が載っていた。意外過ぎる人物に、ダモンは面食らう他なかった。

 

「まさか、冗談であろう?こやつは義勇軍第3中隊第4小隊の副隊長だぞ?」

「でも、現実として目の前に紙があります。彼も暇ではありません。次の作戦である『山の(いなな)き』作戦では、主力の一部として参戦するのです。その準備もある為、嘘で送ったりはしないでしょう」

 

ダモンの知る未来では、後のガリア内戦で行方不明となり、最後は廃人同然となってしまった男。

内戦を終結させたランシール王立士官学校G組の英雄、アバン・ハーデンスの兄。

だがダモンは、この知識と共に、彼が廃人になってしまった原因も思い出してしまった。

 

「(人造…ヴァルキュリア……!)」

 

彼は後にランシールへ推薦入学し、"優秀な生徒"として、秘密裏に行われたヴァルハラ計画に強制参加させられ、そこで自我を失うという事故に遭っている。その後はガッセナール家に回収され、人造ヴァルキュリア部隊を率いる事になったのだ。だが、問題なのは、レオンではない。人造ヴァルキュリアという存在してはならない兵器を、ダモンは今の今まで失念していた事なのだ。

 

「………閣下?」

 

一瞬大量の冷や汗を掻いたダモンだが、よくよく考えれば時間はまだある。だが、人造ヴァルキュリアを無くすという事は出来ないであろうと、ダモンは考えた。フェルスター博士を亡き者にしても、いずれは違う科学者が開発する。ただ時間がズレるだけなのだ。で、あるならば、敢えて歴史の流れに乗りつつ、その流れを変えればいいと考えた。

《人造ヴァルキュリアは開発されるが、本来死ぬ筈の人間を、別の者に変える》又は《人造ヴァルキュリアを開発後、国家機密として闇に葬る》、このどちらかを選べばいい。

フェルスター博士が亡命してきた後でも、策はまだ講じられるのだ。

"うんうん"と1人で頷くダモンを前に、オドレイは耳元で大きく声をかけた。

 

「閣下ッ!お気は確かですかッッ!!」

「ぬォわァァァ!!!!」

 

いきなり耳に美女の声が響いたダモンは椅子から転げ落ちる程驚いてしまった。

目を大きく見開いて隣を見ると、襟の隙間からチラリと見える谷間が瞳に入った。眼福であった。

 

「ハーデンス軍曹をどうするのか、まだ聞いておりません!勝手に1人で考えないで下さい!」

「す、すまぬ…。どうも歳を取ると1人で考え込んでしまうようだ。寂しくさせてすまんな」

 

ダモンは軽く謝ると"ポンッ"とオドレイのお尻を叩いた。あくまでオドレイの怒りを和らげるためにした行為なのだが、彼女は怒るどころか、恥ずかしそうに言葉を発した。

 

「……やはり閣下もそう言うのが好きなのですか?その、自分で良ければ、いつでも相手になりますが…」

「………ほ?」

 

間抜けな声が、ダモンの喉を通った。それこそ、自分が驚くほどの間の抜けた声が。

オドレイの言った言葉が理解できず……いや、どう解釈すればいいのか、分からなかったのだ。

『相手になる』を、喧嘩としてみればいいのか、それとも男女の行為として受け取ればいいのか。

しかし、恥じらいながら"相手になる"など言われたら、それはもう確定的な選択肢である。

 

「い、いや、わしと中佐では歳が離れすぎておる。歳の差で言えば、わしは犯罪者に-----」

「ですが、私も既に大人です。それに貴族同士の婚姻はどの家も歳の差婚が当たり前です。一体何を言っているのですか、閣下?」

 

そう言って腕を組みつつ、胸を寄せて上げるオドレイの行動に意識が飛びそうになるも、ギリギリの所で理性が勝ったダモンは、強制的に話題を変えた。

 

「…………話を変えよう。この話題はわしに効く」

 

話を戻したダモンは、結局レオンも公国親衛隊に入隊させることにした。次の作戦である『山の嘶き』作戦終了後、彼は義勇軍の元を離れて、ダモンが指揮する公国親衛隊に所属する事となった。

この人事異動が後に吉と出るか、凶と出るかは誰にも分からなかった。

 

 

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◆7月2日~ギルランダイオ要塞 帝国軍総司令部~

 

「全く…。散々な失態を犯していくのだな。我が兵士達は…」

「誠に、誠に申し訳ございません!」

 

帝国軍総司令官マクシミリアン皇太子は、本国から持って来させた豪華な椅子に腰を掛けながら、自らが率いる帝国軍の有様に呆れていた。

彼の頭の中では、既にガリアが降伏している筈の時期である。だが、現実には、開戦当初の勢いをもって首都陥落間近にまで迫った帝国軍が、今や各地で敗走に敗走を重ねる状態であった。

確かに、今回のガリア攻めを行っている全帝国軍は、一部を除いて本国で左遷された者達で固められている。だが、それを差し引いても、帝国軍の兵士は連邦のそれよりも上であった。

にも関わらず、ヨーロッパの小国……それこそ国力差で言えば絶対的な壁が存在しているガリア軍に対して、連戦連敗と言うのは、情けない以前の問題であった。

マクシミリアンの前に跪いている中部帝国軍の司令官であるセルベリアは、これ以上下がらない位に、頭を下げていた。ここまできたら寧ろ土下座をした方がいいと思わせる程に。

 

初めに敗北を喫した中部方面軍。その次に撤退したイェーガー将軍率いる南部方面軍。此処まで来て未だに敗走していないのは、ファウゼンに籠るグレゴール将軍率いる北部方面軍のみであった。特に、北部方面軍に関しては、ガリアに情けをかける程余裕がある。小隊規模で言えば、ダハウ率いるカラミティ・レーヴェンも、未だ敗走をしていない。帝国が一番迫害しているダルクス人が、この戦争において帝国軍人よりも活躍しているというのは、ある意味皮肉とも思えてならなかった。再びマクシミリアンは現状の帝国軍に失望していた。

 

「セルベリアよ。ガリアには大猪がいるそうだな?」

「はッ。部下からの報告によりますと、その姿は紛れもなく猪の様であったと、聞いております」

 

別の部下からの報告を受け取っていたマクシミリアンは、ふと、大猪の異名の事を思い出した。

何処をどう見ても、帝国軍の勝利は間違いないとまで言われたスメイク決戦。だが、結果は惨憺たるものであった。その原因は、ガリアの大猪にあると、マクシミリアンは確信していた。

大猪…ゲオルグ・ダモンというガリア軍の総司令官に対して付けられた異名だ。圧倒的な戦力差、決して揺るがない情勢、それこそガリア軍の上層部や貴族が、こぞって自分の所に手紙を送って来た際には「こうも簡単に祖国を裏切るのか」と、苦笑したものだ。

だが、そんな中でダモンは兵士や国民を纏め上げ、初戦での敗北の汚名を返上し、各地で勝利を飾っていった。

無論、彼1人の力だけではない。正規軍と義勇軍が団結して取り組んでいるからこそできる芸当なのだ。ダモンはただ単にその道筋を作っているに過ぎない。だが、それでも祖国を裏切らず、敗戦が間近に迫っても意志を強く保ち続け、ガリアの勝利を揺るぎない(まなこ)で見続けるからこそ、ガリアの人々はダモンに続いているのだ。正に、敵ながら天晴れとしか言いようがなかった。

 

「奴が帝国の軍人であったならば……という他無いな。余りにも惜しい男だと感じさせられる」

「ッ!」

 

マクシミリアンが放った言葉に、セルベリアは歯ぎしりした。言外に"役立たず"と言われているような気がしてならなかった。味方ではなく、敵に賞賛を送った事が、更にセルベリアのコンプレックスを高めた。

セルベリアはれっきとしたヴァルキュリア人である。しかし、今まで自身が仕えているマクシミリアンからは、礼はあれど、一度も賞賛を受けていなかった。だがそれでも、彼女は一途に彼に仕え続けている。

 

「まぁよい。敵である以上、いずれは奴も討たねばならん。セルベリアよ、その時が来るまで、その力、抑えておくのだ。その力は余りにも激しい。他の者にはなるべく見せるな」

「…畏まりました。殿下」

「うむ。では下がるがよい」

 

マクシミリアンにそう告げられたセルベリアは、静かに頭を下げると、部屋から退出した。

扉からでると、1人の帝国軍兵士が待っていた。

 

「大丈夫ですか大佐?顔色が良くありませんが……」

「む?…あ、あぁ気にするな。お前の手当てを受ける程ではない。しかし、私をちゃんと待っていてくれたのだな。素直に嬉しい」

「何を言っているんですか。自分は、大佐の副官ですよ?」

「それもそう…か。フフ…」

 

その兵士の名は『カール・オザヴァルド』。階級は少尉で、セルベリアの副官となっていた。

初めは支援兵だったのだが、セルベリアの心中と、彼女の純粋な思いに惹かれ、彼女と共に前線で戦うべく、偵察兵に転科した青年であった。支援兵時代は臆病な性格であったが、ギルランダイオ攻略後に、運命の悪戯か、2人は良く話をするようになった。セルベリアは、自身がヴァルキュリアである事を他の者達から恐れられ、中には味方でありながら、彼女の影口を言う者までいた。

そんな中、ただ1人。彼女を普通の人間の女性として見て、話をしてくれる人物が居た。それがカールである。気付けば2人は、階級の差を超えて、友人にも似た関係になっている。

因みに、カールには『鉄人オザヴァルド』と言う異名が付いている。セルベリアと共に戦う内に付いた渾名なので、彼はこの渾名に誇りを持っていた。

 

「殿下に何を言われようとも、自分は大佐の味方です。気軽に相談して頂ければ、気持ちが楽になりますよ?」

「嬉しい事を言ってくれるな…。だが、私にはそんな暇がない。殿下がこれ以上失望しないように、更に軍を強化しなくては。無論、少尉にも手伝って貰うぞ」

「勿論です。自分は大佐の副官ですから!なんでもします!」

「では馬車馬の様に扱き使ってやろう。嫌だと言っても無駄だぞ?」

「ま、まぁ……程々にお願いします…ハハ…」

 

扉の前で軽い話を繰り広げた後、2人は原隊に戻るべく廊下を歩き始めた。勿論、セルベリアが前で、カールが後ろについて行く形である。

ヴァルキュリアと只の人間。大佐と少尉。男と女。何もかもが違う2人は、それでも自らが信じるモノの為に、再び戦争へ身を投じるのであった。

 

 

 

 




【現在の組織状況を感嘆に解説しておきます】

ガリア上層部……現在の戦争を遂行すべく、貴族・将校・議員などで固められた組織。その状態は余り好ましいものではなく、続々と出続ける裏切り者に悩まされている。戦時中の国家運営も担っている。一応ダモンもこの組織に加入しているが、軍事面での会議にしか呼ばれない。最近では国民からの信用も落ちており、その存在自体が疑問視されている。

ガリア陸軍……ガリア軍と言えば、主にコレを指している。大陸国故に、海軍に比べ、陸軍の発言力が大きい。過去には陸軍大臣も置かれたが、現在は上層部の下に置かれており、大臣は存在しない。現在の軍備予算は、陸軍に9:1の割合で振り分けられている。

ガリア海軍……ガリアは大陸国なので、海があまり重要視されていない。その為、軍備予算がたったの1割しかない。連邦などの友好国から一次大戦型の戦艦を購入し、それを近代化改装するなどの苦肉の策が講じられている。

公国親衛隊……老親衛隊が前身の組織である。ダモンによって、私設軍から国防軍に格上げされた為、名前を変えた。陸・海に続く第3の軍隊として、これからの活躍が望まれている。建前上、国家の軍隊であるが、所属する兵士は皆、ダモンただ1人に忠誠を誓っているので、国防軍の皮を被ったダモン個人の軍隊という面が大きい。

ガリア参謀本部……世界で初めて設置された準軍事組織。今までダモンが担ってきた業務を一手に引き受け、それを担当の者が分担して処理をする。言うなれば軍隊の頭脳。立場で言えば、ダモンの下に位置する個人の組織。ガリア軍に存在する各指揮官に、参謀が様々な助言も行う為、重宝されている。参謀本部の長である議長は『ローレンス・クライファート中将』。各参謀を纏め上げ、ダモンの意向を受け取る参謀長は『グスタフ・エーベルハルト少将』が就いている。



ここで少し整理してみました。

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