わしを無能と呼ばないで!   作:東岸公

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第二十一話 束の間の平和

◆征暦1935年7月22日~ランドグリーズ城 叙勲式~

 

ダモンにとって、それは余りにも唐突な出来事であった。

 

「今後の作戦及び軍事行動を更に円滑にすべく、コーデリア・ギ・ランドグリーズの名において、貴官ゲオルグ・ダモン大将を『元帥』へと昇進させます。今後も戦争遂行に尽力するように」

 

叙勲式が開幕し、正規軍・義勇軍で戦功を挙げた者達が順番にコーデリア姫から勲章又は昇進を受け始めてから2時間弱。叙勲式の終わり間際に各将官が勲章を拝受し始めた時だった。

 

「なッ…!大将のさらに上の階級があったのかよ!?」

「おい!声が大きいぞ!静かにしろ!」

「お前が静かにしろ!でもまさか……信じられない」

「なぁあっち見てみろよ。アイスラー将軍以外の将軍も目玉を引ん剝いているぞ」

「え?……うわマジだ。驚いてるのは俺達だけじゃ無かったんだな…」

「ていうかさ、士官学校で配布された教科書には元帥なんて階級載ってなかったぞ」

「多分ボルグ宰相かコーデリア姫が新しく作ったんじゃないか?正直ダモン将軍は、勲章だけじゃ足りないんだよ」

「あ~なるほど。それは一理あるかもしれんな。何にせよ、目出度い事じゃないか」

 

コーデリアの放った言葉に、叙勲式に出ていた全ての人間がざわざわと一気に騒がしくなった。

それもそうだろう。ガリア公国に『元帥』なる階級は、今まで存在していなかったのだ。

昇進を受けたダモン自身すらも目を丸くしているのだから、騒がしくなるのも当然といえば当然であった。

しかしコーデリアは周りの騒動に耳を傾けるどころか、ボルグに促されるように次々と行動に移していく。

コーデリアの目配せを受けたボルグは、一度コーデリアの傍を離れると、何か箱のような物を手に抱えて帰ってきた。

 

「良かったですなぁ、ダモン殿。此度の事は殊の外コーデリア姫が推してきましてな。私としても異存は無かった故、この階級を作らせて頂いたのだ。謹んでお受けするよう頼みますぞ」

 

されるがままに、言われるがままに、ダモンは今までの大将から新たに元帥へと就任する事になったのだ。

ダモンが尚も目を丸くして居ながらも、ボルグは持ってきた箱を彼に渡した。

 

「これも姫からのプレゼントという物。観兵式の際にはこれに着替えて出るのですぞ。一応ここで確認されても宜しいが…」

 

少しだけ冷静を取り戻したダモンは、冷や汗を掻きながらボルグから受け取る。

そしてそのまま箱の中身を確認すべく開封した結果、中には白色の軍服が整えられていた。よく見ると襟や袖などの部位にガリアの代表色である水色が小さく装飾されている。

しかし今ここで着替える事も出来ないので、改めて箱を抱えると同時に、ダモンは無言でコーデリアの方に目を向けた。目は口程に物を言う。それを体現するように、ダモンはコーデリアを睨んだ。

 

「……言ったではありませんか。"それ相応の対価を貴方に課す"…と。私は自分の約束を守っただけですよ?」

 

してやったと言わんばかりのドヤ顔でダモンに睨み返したコーデリアは、これで過去の無礼をチャラにするつもりだったのだ。対するダモンはこの言葉を聞いて一気に肩を落とした。

 

(まさかこう言う形で報復してきおったか…。あぁ…わしの自由時間が……戦車カタログを見る時間が……)

 

大将から元帥へ。

このコーデリアの報復は、ダモンの自由時間を奪っただけでなく、ガリア公国における全ての軍事権限をダモンに委譲したのだ。

他の将校達が言うように、元々ガリアには元帥という階級が存在しない。何故なら陸海軍を統帥するのがランドグリーズ大公家だからだ。つまり、どんな事があろうとも最後には大公家がストッパーとして軍部を抑え込む体制なのだが、事此処に至り、未だ大公家を正式に継いでいないコーデリア自身にはそのような力が無かった。

そこでコーデリアは、大公家が持っていた最後の軍事権限をダモンに委任したのである。言ってしまえば『元帥』という地位は大公家の軍部に対する手綱である。それを手離したのだ。もしもダモンが野心を持っていれば、これは危険というレベルを超えて緊急事態にもなり得る。一歩間違えれば軍部が暴走し軍人が政権を握ってしまいかねないのだ。

 

「それともう1つ。……コーデリア姫」

 

ボルグがコーデリアに対して小声で呟いた。「まだ何かあるのか」とダモンは静かに身構えた。

 

「分かっています。…ゲオルグ・ダモン。貴官が新たに元帥という立場になった以上、歴代が名乗ってきた『伯爵』という身分では何かと不都合が起きてしまいます。ですので、コーデリア・ギ・ランドグリーズの名において、貴官には新たに『辺境伯』という侯爵家に次ぐ爵位を授けます。これからも公国に尽くして下さいね」

 

今度こそ、ダモンはその場に倒れこんでしまうかのような幻覚に陥った。

一夜にして大将から元帥へ。そして伯爵から辺境伯へと新たなる地位にダモンは就く事になったのだから、これに対して驚くのも当然といえば当然であった。

というのも、現在ガリア公国内においてランドグリーズ大公家の次に地位が高かったのはボルグ侯爵家である。勿論過去には辺境伯の爵位を持つ貴族はいたが、次々に断絶してしまい、辺境伯と同じ地位であるボルグ侯爵家がランドグリーズ家の右腕となった経歴があった。

現在はボルグが宰相となっているので、同じ地位の辺境伯であっても侯爵に次ぐ立場となっているが。

因みにガリアの言う辺境伯という名前は形式上だけであり、領主の意味を含まない。

勿論血筋の名門でいえばガッセナール伯爵家に軍配は上がるが、当主であるギルベルトは気にしておらず、寧ろ自らの手でその爵位と地位を獲得したダモンに尊敬の念を抱いていた。

 

「これは夢か幻か…」

 

気づけば口が動いていた。1つめの元帥については半ば呆れていたが、爵位となると話は別である。今や自分以外の身内全てが途絶えてしまったダモンにとって、これほど名誉なことはないのだ。父も母も、ダモン(ゲオルグ)が30歳の頃に他界してしまい、親戚といえば、遠い血筋であるボルグ家のみ。そして今や(よわい)54歳(独身)である。最近でこそ我が子のような存在が生まれたばかりだ。だからこそダモンは、血は途絶えても名を残したいという夢があった。歴代ダモン家に恥じぬ自身の名を。それが今日この日達成されたと言ってもいいだろう。

 

「謹んでお受けいたしまする。粉骨砕身の思いで、公国に仕えましょう」

 

先ほどまでの態度とは打って変わり、ダモンは姿勢を正してコーデリアから爵位の授与を受けた。

若干目に涙を浮かべそうになった彼は、目尻を人差し指で軽く擦った。今この場には大勢の強者たちがいる、無様な格好は見せられない。所謂プライドというものが、ダモンの涙を押し(とど)めた。

 

「(ふむ…。ダモン殿にはちと勿体ない爵位だが、まぁいいだろう。いずれ儂が大公に就くのだ。これくらいは大目に見てやるとしよう)」

 

式場内ではダモンを讃える拍手喝采の渦に包まれていたが、ただ1人ボルグだけが、不気味な笑みを浮かべながらコーデリアの方をじっと見つめていた。

 

 

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◆同日~首都ランドグリーズ 大通り~

 

一波乱あった叙勲式は無事閉会し、コーデリア姫から勲章と激励を賜った各兵士達は自分の雄姿を国民に見せる為、次に観兵式へと舞台が移った。

大通りでは黒山の人だかりの如く大勢の見物人達が押し寄せており、誰しもが喜びに満ち溢れていた。一部ではガリアの国旗を大きく振っている。

 

「彼らは英雄だ!ガリア万歳!ガリア万歳!」

「貴方~!ここよ~!!」

「兄さーん!!カッコいいよー!!」

「このまま帝国をガリアから追い出してくれよ~!任せたぞ~!」

「早く家に帰らせてー!頑張ってー!」

 

大通りの端を様々な国民が占拠し、それぞれ身内や兵士などに対して応援を行っていた。未だに戦争で勝利した訳でもないにも関わらずである。目を凝らしてよく見るとアバンなども紛れていた。

 

「アバン!見に来てくれたのか!」

 

行進しながら弟の姿を見つけたレオンは、少し隊列から離れて弟の元へと駆け寄った。

 

「当たり前だよ兄さん!俺は今日という日を忘れないよ!」

「嬉しいが少し恥ずかしいなぁ…。俺だけじゃなく部隊の皆も活躍しているのに…」

「それも兄さんの凄い所だよ!家に帰ったら周りの奴らにも言っとくからね!」

「あぁ…ハハ…。程々に頼むぞ?」

 

戦争に参加できないアバンにとって、兄であるレオンの姿は正に戦士で、同時に自身が目指している目標でもあった。短い時間ではあったが、会話を終えるとレオンは再び元の隊列へと駆け足で戻る。アバンはキラキラと目を輝かせながら兄の背中をいつまでも見続けるのだった。

 

「そういえば、兄さんの腕にあんな腕章あったかな?」

 

兄が離れて少し経ってからアバンはレオンの軍服についていた紋章をふと思い出した。

正規軍とは違い義勇軍の軍服は簡素で『とりあえず軍服を着ている』と思える感じに仕上がっている。特に顕著に現れているのが色である。正規軍はちゃんとした青色の軍服なのだが、義勇軍はそれを薄めた水色である。そこに紺色の腕章が、レオンについていたのだ。

 

「なんだ坊主。お前さんあの腕章を知らないのか?」

「うん。初めて見た」

 

隣で手を振っていた中年の男性がアバンの独り言に対して反応する。

 

「まぁ俺も軍人じゃないから細かい事は知らねぇけど、あれは親衛隊の証なんだそうだ。なんでも公国親衛隊は実力さえあれば正規軍義勇軍問わずに入隊できるらしい。坊主、お前の兄貴はその腕章を付けていたのか?」

 

中年の男は快くアバンに対して親衛隊という組織について大雑把に教えた。だが難しい話が苦手なアバンにとってはそれだけで十分であった。

 

「あぁ!兄さんの左腕についてたよ!」

「ほお。ならもっと兄貴の事を誇りな。公国親衛隊と言えばダモン大将…じゃなかった、元帥が設立した由緒正しい組織だ。ちょっと腕があれば入れるような組織じゃないんだ。まさしく実力を認められた者だけが入れるんだからな!ウチのバカ息子も親衛隊に入りたいって言ってるが、俺の子じゃあ無理だな…」

 

中年の男は言い終わると何処かへ消えてしまった。しかし、男が言ったように親衛隊という組織はそれだけ各兵士の目標でもあり憧れなのだ。そんな場所に兄が所属していることを初めて知ったアバンは、更に兄に対する尊敬の念を強めたのであった。

 

 

 

ゾロゾロと行進し続けるガリア軍兵士達に疲れが現れ始めた頃、兵士達は後方から大きなエンジン音が徐々に大通りへと近づいてくるのに気が付いた。

 

「あ!機甲軍団が来たぞ!」

 

後ろの方で行進していた兵士の1人が戦車の存在を確かめると大声で叫んだ。

その叫び声を聞いて、行進していた兵士達は一斉に立ち止まり観客同様に端へと列を組み直すと、それぞれ捧げ(つつ)を行い、ガリア戦車団を迎えいれた。

そこから間もなく戦車団は大通りへと到着し、全ての国民が見届けられるようにゆっくりと進み始めた。その中にはエーデルワイス号も含まれており、砲塔からウェルキンが敬礼していた。

 

「兄さん。もう少し柔らかい表情をした方が良いと思います」

「簡単に言わないでほしいなぁ…。そう言うならイサラが代わってくれてもいいんだよ?」

「私は戦車を運転しなければいけないので無理です」

 

やや苦笑いをしながらウェルキンは左右からくる視線に終始緊張しつつ、結局表情が和らぐ事はなかった。

特に第7小隊の前を通る時、全隊員がニヤニヤと見ていたのには、流石のウェルキンでも少しだけこめかみをピクッと動かさざるを得なかったらしい。

 

「おう若造!そこから見える景色は最高だろう!」

「教官!」

 

その日は珍しくガリアの鬼教官こと『カレルヴォ・ロドリゲス軍曹』も日頃訓練を施している第7小隊隊員の晴れ舞台を見るべく馳せ参じていた。

 

「フハハハハ!俺の訓練のお陰で今日まで生き残れたことに感謝しやがるんだな!」

「勿論ですよ。ですが訓練も程々にして下さると助かります…」

 

戦車上からはにかむウェルキンを見た鬼教官は、先程までの笑顔から一転。いつもの形相へと変わった。

 

「馬鹿者ッッ!訓練で手を抜いては意味がないだろう!貴様にはもっとキツイ訓練を課してやるから覚悟せいッ!ガハハハハ!!!」

 

口では笑っているが、その目は笑っていない。不気味な特技を披露した鬼教官は、ウェルキンがその前を過ぎた後も笑っていたという。

しかしそんな事よりも、ウェルキンの中では1つだけどうしても気になる事があった。

 

(422部隊の彼は大丈夫なんだろうか……)

 

それはネームレスの事であった。第7小隊は各地で戦うネームレスと一度共同で戦闘を行っており、名前こそ教えて貰えなかったが、それでも共に戦った422部隊の隊長であるNo.7(クルト)の事を気に入っていた。だが最近では、彼らの噂がパタリと無くなったのである。それまでは『謎の黒い部隊』として各地で噂が広がっていたにも関わらずである。

 

(何事も起きていなければいいんだけど……)

 

特に最近では、アイスラー少将の身の回りで不穏な動きがあると専らの噂になりつつあった。

それにダモンが気付いているのか、いないのか。神のみぞ知る事をウェルキンが知っている筈もなく、第7小隊隊長は一概に叙勲式での激励を喜べないでいた。

 

 

しかし時間は無残にも流れていく。搭乗しているエーデルワイス号が大通りの半分を過ぎたところで、観客は新たに後方からやってくる戦車に言葉を失っていた。

 

「お…おいおい…なんだありゃ…」

「戦車作るっていうレベルじゃねぇぞ!」

「凄く……大きいです…」

「これがダモン元帥の搭乗戦車なのか!?帝国の戦車よりも大きくてごついぞ…」

 

何故ならその戦車は余りにも異様で、今まで見た事が無かったからである。

見た目は、昨今急速に普及しつつある傾斜装甲ではなく先祖返りした垂直装甲。

砲塔から突き出している長砲身は、短砲身が主砲(メイン)の現行機とは一線を画している。よくよく覗けばディテールに至るまで精巧に作られた車体。

極めつけは、まるで全ての戦車の王と言われても納得してしまうほど途轍もなく大きいのだ。

それまでガリア軍の大型戦車といえばエーデルワイス号ただ1両。それを越す戦車が現れたのだから官民関係なく驚くのも無理はなかった。

 

これがガリア公国の科学と技術の粋を結集して開発された唯一無二のガリア重戦車『ルドベキア』である。その正面装甲たるや驚異の200mm。側面並びに後面の装甲も80mmと申し分ない。大型砲の実態は70口径88mm(アハト・アハト)砲と、正に生ける伝説である。リオンの血の滲む努力とそれに従い不可能を可能にした技術者達の苦労の賜物が、この重戦車(グレートタンク)を生み出したのだ。

 

「ぐふふふふ…皆驚いておるわ」

「まあこんな大きな戦車見た事も無いでしょうからね…」

 

砲塔からはダモンが特注品である白色の軍服を身に着けて全ての人々に見えるように敬礼を行っていた。ただその顔は「してやった」と言わんばかりに笑顔である。

 

「それよりどうなのだ?そろそろ慣れてきたのではないか?」

「そりゃあ…まぁ…慣れてきましたけど、オドレイ中佐が居ないことにはこれが限界ですよ…」

「なっさけないのう。それでもお主はわしの運転手か?」

「もう運転手じゃなくて通信手ですよ。親父殿」

 

元来2人乗りが常であったガリア戦車に対して、その余りにも大きく作られたルドベキアは搭乗員がもう1人追加されて3人で初めて運用可能となってしまった経緯がある。その為新たに人選を行っていたダモンは、普段から自分の運転手となっている1人の青年を抜擢した。

 

【ガリア公国親衛隊所属 隊員番号18206番 セルゲイ・エルドリッチ少尉】

 

決して古参ではない彼が抜擢されたのは、実力でもなければ人柄でもない。強いて言えば運が良かったというだけである。親衛隊に所属している為兵士としての実力は申し分ないが、偶々成り行きでダモンの運転手となったお蔭で彼はそのままルドベキアの新たな搭乗員として抜かれたのである。通信手兼補助要員として。

 

「だが中佐が居らねばこの戦車を動かすのはセルゲイ、お主の役目になるのだ。弱音なぞ聞きとうないわい」

「ほんと…勘弁してください……。ついさっきハンドルを握ったばかりなんです…」

「カ~!これだから最近の若モンは軟弱なのだ!お主それでも親衛隊員か。文句を言うくらいならばしっかりと運転技術を身につけよ!」

 

セルゲイの抵抗虚しく、ダモンはまるで頭の固い爺のように彼の弱音を一蹴した。

その間もルドベキアはその歩みを止める事無く"キュルキュル"とキャタピラ音を周りに響かせながら進み続けている。ダモンの一時の怒りも、その音を聴けば自ずと冷静になっていた。

 

「あぁ…この音…この戦車独特の機械音こそがわしにとって2番目に心が癒されるのだ…!」

「(また親父殿がおかしくなってる。本当に戦車大好きなんだな…)」

 

ある程度大通りを進むとダモンはハッチからよじ登り、徐に砲塔の上に直立し脂肪に包まれた腹の奥底から大きな声を張り上げた。

 

「おぉぉ見るがよいガリアの国民達よ!この戦車を使って帝国の野蛮人共をガリアから一掃せしめん!ガリアに敗北という2文字は存在しないのだぁッ!!」

 

その瞬間。それまでダモンとルドベキアを観察するように見続けていた観衆は彼の声を聴いて一気にその場が爆発したかのように熱狂の雨となった。中には感極まって涙を見せる者もいれば、余りの興奮で意味なく叫ぶ者も現れ、今日一番の大事となったであろうと誰しもが思った。

 

 

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◆同日夜~ランドグリーズ城 晩餐会~

 

観兵式も熱狂の内に終わり、本日最後のメインイベントである晩餐会がその日の夜にランドグリーズ城内で開かれていた。無論連邦大使であるタウンゼントも出席している。諸将が居並ぶ大広間の壇上では熱烈に連邦との交流を説くボルグが演説していた。

 

「――――であるから、我がガリアの繁栄を維持するには連邦との協力は不可欠なのである。以上の事を踏まえ、貴君ら諸将の不断の努力が――――」

 

「(ふんっ。何がガリアの繁栄なのだ。それではただ連邦の犬に成り下がるになるだけではないか!)」

 

ボルグの演説を聴いていたギルベルトは、この壇上で馬鹿な事を言い続ける宰相に内心怒りで満ち溢れていた。

彼は保守派筆頭且つ愛国者にして選民思想の持ち主である。ボルグの様な連邦に対して目に見えた媚売りに対しては人一倍敏感であり、長男であるバルドレンも同様だった。

 

「(この様な下劣な人間がガリアの宰相など、おかしいのではありませんか父上?)」

「(全くだ。今すぐにでも奴の眉間に鉛玉をぶち込んでやりたいが、それが出来れば苦労はせんぞ)」

 

ガッセナール親子の不満など露知らず、売国宰相は尚も熱弁を披露していた。

 

「――――故に、ガリアは今以上に連邦と交流しなければならないと言う所で、話は終わらせて頂く」

 

しかしその長々とした話も遂に終了し、その場の拍手を受けながらボルグは壇上から降りた。

その後タウンゼントが短く晩餐会開始の音頭を取り、諸将はワイングラスを片手に様々な会話を行うのであった。無論その中にはダモンも入っている。

 

「流石はダモン殿。英雄ともなれば嗜むワインもまた格別なんですなぁ」

「うむ。これは1870年製の物でのぅ。ここ一番の時にいつも飲んでおるのだ」

「では戦場での勝利の秘訣はこのワインにある訳ですか!ぜひあやかりたいですな!」

「うむむ…。これは貴重品ゆえ余り数が少ないのだが……」

「そこを何とか!実は儂の家の蔵にも珍しいワインがありましてな。それがまた――」

 

ダモンの目の前では『ローレンス・クライファート中将』が珍しく趣味であるワインの事について舌を捲し立てていた。口数が比較的少ないローレンスも今日だけはいつにも増して頗る気分が良かった。アルコールの作用がそうさせているだけなのかも知れないが。

 

「失礼ダモン殿。少しだけお時間宜しいですかな?」

 

2人が会話に花を咲かせていた時、タウンゼントが笑顔でダモンの元へとやってきた。

ローレンスはもっとワインの事について話がしたかったが、そこは参謀本部議長。空気を読んで静かにその場から離れるのであった。

 

「おぉタウンゼント殿!わしも貴方に用があったのだ。丁度良い、別室で話をしましょうぞ。部屋は既に用意してあります故ご心配なく」

「ほほぅ奇遇ですなぁ…。立ち話もなんですから、その別室でゆっくりと語らいましょう」

 

ダモンも笑顔でタウンゼントに会釈した。特に警戒もされておらず、特に親衛隊や側近などが全く居ない状況である。タウンゼントはチャンスとばかりに、ダモンの後ろに付いて行くのであった。

 

 

 


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