わしを無能と呼ばないで!   作:東岸公

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正直に白状します。
サボってました。許して(´・ω・`)

それと今回の話は帝国側視点の内容となっています。
帝国軍側の設定資料が全然無かったので、生き残れ戦線様(帝国側主役小説)からオリキャラを貸して頂けました。その他にも帝国の内情も詳しく色々な設定を盛り込んで書かせて頂きました。というかぶっちゃけ今回は殆どオリジナル設定ばかりです。

もし2つの作品を見て下さっている方が居ましたら、これは一種のIFなのだと思ってみてください。生き残れ戦線様には、この場を借りてお礼申し上げます。m(__)m


第三十話 揺れる帝国

◆征暦1935年8月10日

 

ファウゼン陥落す。

 

再び訪れたこの重大な出来事は、国内に存在する全ての情報機関を通じて瞬く間に敵味方関係なくガリア全土へと知れ渡った。

 

両軍にとって最重要地域に指定されていたガリア北部に位置するファウゼン重工業地帯は、ガリア軍の大規模な反攻作戦によって奪還された。これは戦役の転換期と言っても過言ではない。

ガリア公国の工業力は帝国軍の占領地域増大に伴って半分以下にまで落ち込んでいたが、ファウゼンが奪還されたことにより生産能力が戦前の水準まで戻り、国力も90%まで復活した。残りの10%はブルールやギルランダイオ要塞近辺に存在するだけとなり、いよいよガリア軍は帝国軍に対して余裕を持つに至ったのだから。

何より重要なのは、戦争遂行に必要な天然資源が再びガリアの所有物となった事だ。枯渇しかけていた貯蓄資源は再び大量の資源を溜め込み、ガリアの糧となる。その後、戦災で半壊・壊れた採掘機も随時修理され、ラグナイト資源の採掘も順次再開されていく見込みと相成った。

 

更に吉報なのは、兵器生産工場が再稼働した事により、それまで計画止まりだった『次期主力中戦車開発』が本格的にスタートした事だろう。常々ダモンはテイマー技師が提唱していた〝中戦車量産化計画〟を断行すべきであると議会に訴えかけていた。理由は言わずもがな。今までは軽戦車による機動力および防戦を主体とした戦術を採用していたが、軽戦車では帝国の戦車に歯が立たず、緒戦で大敗を喫したのだ。ダモンの考えは至極当然の事なのである。しかし首都陥落が目に見えていた時期にこの計画は無謀でしかなく、時の上層部により却下されていた。だが、現在は状況が変わり、国力にも多少の余裕が生まれたという事で、この計画は再び日の目を見る結果となったのだ。但し、技術者達の間では「配備は暫く先になる」という見解で一致しており、この計画は所謂〝未来への先行投資〟というものにあたる。それでも、駆逐戦車・自走砲を除く現在の戦車が陳腐化している事実が認められたことは、前線の兵士達に小さな光明をもたらした。ダモンはこれら一連の計画を『テイマー計画』と呼称するよう決定。今後の戦争遂行状況によっては再度凍結する可能性もあったが、ダモンは頑として計画中止は認めなかった。

 

長く苦しい戦いではあったが、『ガリアの天王山』とも呼べる戦いをを制したダモン率いるガリア軍は、堂々と胸を張ってランドグリーズを凱旋。ユエル市・メルフェア市・アントホルト市といった主要都市からも勝利の歓声が沸いた。自警団に所属しているアバン・ハーデンスは新聞に載っている兄の姿を見て大喜びするなど、人それぞれであるが誰しもが自国の勝利に飛んで喜んだ。

 

「ダモン将軍万歳! ガリア軍バンザーーーイ!!!」

「義勇軍の第7小隊もいるぞ! ウェルキン・ギュンター少尉だ!」

「あれは正規軍の特殊部隊と噂されている黒の部隊だな。少し不気味だが…」

「俺、あの黒色の部隊長と知り合いなんだぜ? 名前は知らないけどな」

「名前なんてどうでもいいじゃないか! 彼らが英雄である事に違いはないんだ!」

 

ランドグリーズに到着した瞬間、大通りには多くの国民が駆け寄って「ありがとう」の言葉を兵士達に呼び掛けていく。険しい表情の兵士達もこの時ばかりは皆揃いも揃って笑顔でそれに応えた。

 

対して、帝国軍にとって此度の敗戦はダモンが思っている以上に深手を負っていた。

グレゴール将軍最後の奇策によって北部方面軍の全滅は避けられたものの、占領地失陥・グレゴールの戦死という2つの痛手は全帝国軍の士気を大幅に低下させていた。ファウゼン失陥後、グレゴールの副官であったアーヒェン准将は北部方面軍の一部を率いて『アーヒェン軍団』を編成し、更に北に位置する【マルベリー地区】へと後退。それ以外の残された北部方面軍及び北部戦線に展開していた帝国軍諸部隊は、セルベリア・ブレス大佐率いる中部方面軍と合流すべく、ナジアル平原とギルランダイオ要塞の中間に位置するアンバー補給基地へと退却を開始する。

これをダモンが見逃す筈もなく、前線にいる部隊に対して追撃戦を命令。以降、各地で停滞していたガリア軍は次々と攻勢に転じた。帝国軍は、南部・北部というそれぞれ侵攻には欠かせなかった重要地域を失い、それまで何とか均衡が保たれていた中部方面でさえも帝国軍はガリア軍に押され始めたのだった。

 

他にも、ダモンと密約を結んだダハウ率いるカラミティ・レーヴェンもこの出来事を皮切りに行動を開始。機密情報の漏洩を意図的に行うという事実上の寝返りによって、各所に点在する帝国軍は何故か自軍の位置がガリア軍に特定されてしまう事態となり、前線では苦しい戦いが展開される事となった。しかもその間に簡易補給拠点を破壊していくという俊敏性は、帝国一の特殊部隊の称号に相応しい働きであった。

 

そんな中ジグとダハウは作戦終了後に言葉を交わしていた。

 

「ダハウ様。本当にこれで宜しかったのでしょうか?」

「あの男は私に決意を示してくれたのだ。ならば私はそれに応えるまでだ。それに…私はまだあの〝与太話〟を信じている訳では無い」

「それは『ガリアがダルクス人の国家である』というやつですか?」

「うむ。あんな戯言を直ぐに信じる者は居ない。だがあの男は証拠を出すそうだ。私はそれに賭けた」

「ですが、もし嘘であったならばどうするのですか!? もう我々が引き返すことは――」

「もしも嘘であったなら、その時は…私が持つ最高の切り札でケジメを付けて貰う」

「それは――」

 

ジグは『最高の切り札』という言葉に何かが引っかかったが、敢えて聞く事はないと思考を切り替えた。一瞬だけ垣間見えたダハウの眼が余りにも恐ろしかったからだ。後にその切り札がカラミティ・レーヴェンの行く末を決めようとは誰にも分からなかった。

 

 

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◆征暦1935年8月13日~東ヨーロッパ帝国連合 玉座の間~

 

この日、皇帝に忠誠を誓う数多の重臣達が一同に会していた。彼らはこの帝国において上位に位置する押しも押されぬ大名門出の貴族達ばかりである。同時に帝国の在り方を決めている重要な立ち位置でもあった。謁見の場より奥には帝国の象徴である皇帝が玉座に腰を据えていた。しかしその顔は芳しくなく、苦虫よりも更に苦い物を噛み潰したような表情をしており、周りの重臣も同じような顔をしていた。理由はただ1つ。ガリアにおける戦況悪化についてであった。

 

「半年前、貴様は余に対して何と申したか、忘れてはおるまい?」

「…はっ。このマクシミリアン、一言一句忘れてはおりません」

 

玉座に跪きながら、マクシミリアンは皇帝に対して短く返答した。

現在、彼はガリア戦線における失態を詰問されていた。ファウゼン陥落後すぐに帝国本土より召喚命令を受け、ガリア戦線より離脱していたのだ。既に詰問が始まって3時間が経過していた。

 

「『2週間でガリアを落とす』――か。ふんっ、大言壮語にも程があるぞマクシミリアンよ」

「…全ての失態が私の責任であることは重々承知しております」

「それだけではない。貴様は余が深く信任していたグレゴールを死なせた…。連邦ならいざ知らず、ガリアなどという下等な弱小国に敗れるとは……貴様には大いに失望した」

 

多くの重臣達は鳴りを潜め2人のやり取りを見ている。しかし、心の中ではあからさまにマクシミリアンを侮蔑しており、誰1人としてマクシミリアンを心配する人間は存在しなかった。

それに反してマクシミリアン自身は、元々準皇太子という微妙な立場上、味方なぞ国中探し回っても何処にもいない事を理解しており、己に向ける侮蔑の視線を感じつつも彼らに対しては邪魔者以外の何者でもないと内心一蹴していた。

 

だが、そんな2人の間に1人の従士を連れた男が会話に割って入ってきた。

 

「父上。兄上にはまだまだ文句があるとは思いますが、それは一旦置いといてそろそろ本題に入りませんか? 日が暮れますよ?」

「……ラインハルト……」

 

その男の名はラインハルト。正式名称はラインハルト皇太子である。マクシミリアンにとっては弟だが、地位が全逆転している。その理由は2人の母親にあった。

マクシミリアンの母親は身分の低い妾であったため嫡子とは認められなかったのだ。所謂、長庶子というものであった。その後皇帝の第1夫人より生まれたのがラインハルトという訳である。ラインハルト自身は彼に対してそこまで敵意を持っていないが、逆にマクシミリアンは完全に敵意を剥き出していた。

 

「本題…だと?」

「はい。今回父上が兄上を召喚したのは〝こんな事〟を伝える訳では無いのです」

「………」

 

マクシミリアンは嫌悪感を露わににしつつも、弟の言葉に沈黙でそれに応えた。

対するラインハルトと言えば、小さく笑みを浮かべるだけに過ぎなかった。そして直ぐにこの場にいる全員に聞こえるよう本題を切り出した。

 

「この場を借りて進言いたします。今回のガリア侵攻における戦線の長期停滞並びに数々の敗北・後退。私が考えるに、彼の地での戦闘行為は既に無意味であると断言致します。この戦争は『ラグナイト資源の確保』という名目で引き起こされた戦争です。ですが考えてみてください。東ヨーロッパ大陸全土を保有する我が国が、たった豆粒程度の国が産出するラグナイト資源程度で揺れるとお思いですか? 元よりこの戦争は意味を持たない戦いなのです」

 

この言葉を聞いた、それまで沈黙を保っていた重臣達は一斉に肯定の意を示す。

特に宰相にあたる人物に至っては予算の関係上、特にラインハルトの進言に賛成した。

小国と言えど戦争には軍隊が必要であり、例え帝国の中で左遷された者達で固められていたとしても、無駄に兵力を失った事実は覆らない。帝国は連邦と現在現時刻で戦争状態なのだ。この場にいる誰もが知っている現状、そして現実。

 

「口が過ぎるぞラインハルト! あの土地は元々帝国領だ! ならば、この戦争目的は失地回復にあるだろう! たとえラグナイト資源が取れなくとも、彼の地を侵攻するには十分な理由がある!」

 

弟の言葉にマクシミリアンは語気を強くして反論した。周りにいる重臣達は静かに2人のやりとりを見やる。父である皇帝も表情を変えず話を聞いていた。

 

「失地回復ですか。ハハハハハっ!」

「何がおかしいっ!」

「その程度の事は、連邦や国内の諸問題を片付けてからでも遅くはないでしょう。何故今になってガリアなどに手を出されたのですか? まさか兄上は目先だけで動いたのですか?」

「………」

 

ラインハルトはマクシミリアンに対して一切の同情なく言葉を発していく。暴言でこそないものの、ラインハルトの言葉はこの場にいる帝国の人間達が心の中で思っていることだらけであった。ガリア侵攻分の資材を連邦戦線に送っていれば、少しは戦線を崩すことが出来たかもしれないと。虎の子兵器であった装甲列車エーゼルは本来連邦軍の攻勢に対して使用する計画でもあったが、ガリア侵攻によりそちらに回されてしまった。それだけならまだいい。だがエーゼルはグレゴールの棺桶となり戻って来なかった。前線で戦う将兵からしてみれば、エーゼルがあればもっと戦いが楽になったかもしれないと思わずにはいられないだろう。それだけに、マクシミリアンの失態は大きかった。

 

「もしそうならば兄上、私は貴方を軽蔑します。貴方の勝手な理想の為に死んでいった兵士達を、私は忘れない。しかし、そうまでしても兄上にとってガリアを倒す意義があるのならば、私にも考えがある」

「それが俺の指揮権剝奪か。ラインハルト?」

「そうです。でも、理由はそれだけではないのですよ。……ここから先の話はこの場にいる重臣達にも関係する話でしてね。どちらかというと此方が本命ですね」

「…なんだと?」

 

唐突に自分達の事を触れられた帝国の重臣達は一斉に顔を顰め身構えた。先程までの味方面から一転してラインハルトの声のトーンに本気を感じたからだ。皇帝も耳を立てて彼の言葉を待った。

 

「先日、帝国内にて一部の労働者達がこの皇宮に向けてデモ行進を起こなった出来事は、父上も知っていますね?」

 

実は、東ヨーロッパ帝国内ではとある問題が発生し、貴族で構成された帝国政府は頭を抱えていた。それがラインハルトが言った内容であった。

 

現在帝国は、ガリア以外にも主敵である連邦軍とも戦争を行っている。しかしながら、度重なる戦闘によって戦費は増大の一途を辿り、それと同時に生活必需品の物価が高騰していった。そして尚も増え続ける重税に耐えきれなくなった一部の労働者達が声を上げたのが始まりであった。

始めは小さかった声も次第に大きくなりはじめ、ユグド教のアポロン神父が中核となり遂には12万人とも言われる労働者達が一斉にデモを起こし皇帝に直訴したのだ。しかし、デモと言っても実際は平和的な請願行進であり、アポロン神父が要求した内容も至って素朴な内容でしかなく、主に『戦争の中止・基本的人権の確立』などで、搾取と貧困に喘いでいた労働者階級の民衆の言葉を代弁しただけであった。しかもデモを起こした者達は全員非武装であるなど穏便な解決を図っていた。何故皇帝への直訴なのかというと、帝国政府が一切応じなかった為である。

 

「無論だ。連邦やガリアと戦争の真っ最中であるというのに、下等な労働者達は『戦争を止めろ。パンを寄越せ』と請願行進を行いおった。全く忌々しい事だ。だがそれはもう終わった問題だ」

「……非武装の民衆を鎮圧したのは拙かったと思うのですが?」

「構わん。所詮は農民だ。替えなどいくらでもおるわ。彼奴らは我々が決めた方針に従えばよいのだ」

「彼らもまた帝国の資産なのです。蔑ろには出来ません!」

 

だが、皇帝は民衆の平和的な請願に対して軍を動員。武力によってデモを鎮圧した。その結果多くの国民の血が流れ、国内では皇帝に対しての不信感が膨れ上がってしまった。その為、国内では〝専制打倒〟を声高に主張する輩が増えた。そんな状況下の中、ラインハルトは自身が蓄えていた私財を投げ打って何とか国民の不満を抑えるに至った。その影響により国民は次第に落ち着きを取り戻していったが、未だ完全に火種が消えてはいない事は自明の理であり、彼は一刻も早く戦争を終わらせ、内政に舵を切らなくてはならないと考えていた。

 

「我々にはまずやることがあるのです。兄上の私怨で始めた戦争は…たとえ小さくとも国民にとっては何ら変わらない、戦争なのです。連邦との戦争が止められなくとも『ガリアと講和した』という事実があるだけで十分なのです。皆が望んだ戦争の終結が実現したのだと分かれば、国民は再び帝国に…皇帝に忠誠を尽くすでしょう。これが私が望む結末です」

 

次期皇帝の言葉を傾聴していた重臣達は各々反応が異なるものの、共通してラインハルトの言葉には反対しなかった。帝国政府の首脳としての顔も持ち合わせている彼らは、このまま国民の声を放っておけばどうなるかを想像し、そして皆一様に恐怖した。

 

「貴方達にならばわかるでしょう。このまま放置すれば―――帝国は崩壊すると」

「息子よ。お前の言い分は分かる。だが我が国は世界を二分する東ヨーロッパ帝国連合。どうすればこの国が転覆なぞするものか」

「……父上。現在巷で叫ばれているスローガンなど知っていますか?」

「皇帝たる余が下々の事まで知る必要はない。政治は政治家に任せておる。お前は心配性なのだ」

 

驕りや差別ではない。彼は自身が皇帝だからこそ、この国の人間は自分に対して忠誠心は持って当たり前という常識に囚われていた。彼だけではない。皇帝に仕えている貴族の中にも程度の差こそあれ、自分よりも低い身分に対しては少なからずそういう意識を持っている者も存在している。とどのつまり、皇帝の言葉は出るべくして出た言葉であった。

 

「アイス。例のアレを」

「畏まりました」

 

そんな父の言葉に対してラインハルトは側近の男からとある筒状の紙を受け取ると、皆に見えるよう大きく開いて見せた。それにはこう言葉が綴られていた。

 

『万国の労働者よ、団結せよ!』

 

この場にいる全ての人間がポスターの内容を見て思わず息を呑んだ。ポスターの下の方には小さく文字が羅列しているが、何よりも大々的に載せられていた一文に視線がいく。皇帝以外の誰しもがその言葉の意味と内容を理解し、そして誰も声を発さなかった。

 

「(フッ……なるほど。奴は革命を危惧しているのか)」

 

マクシミリアンも声にこそ出さなかったが、弟が何を考えているのか見抜いた。

―――〝革命〟 

敵国である連邦も嘗ては革命の炎によって多くの人間がその命を落とした過去がある。

そもそも大西洋連邦も昔は君主国家の連合体だったのだ。それが革命によって共和制へと移り変わり、何百とある国家連合から一つの連邦国家となった。言わば帝国の未来の姿とも言えよう。要は、ラインハルトはこのまま行けば帝国は間違いなく革命の炎に包まれてしまうと訴えているのだ。

 

「(だが、それも悪くない。母上を殺した父上と帝国に復讐が出来るのであれば手段は問わん。例え多くの血が流れる革命であっても……)」

 

非道ではない。マクシミリアンの真の目的はガリアに隠されているという古代ヴァルキュリア兵器が目的である。それを手に入れる為だけに、ラグナイト資源の確保という名目で今次戦争を引き起こしたのだ。そして最終目標は古代兵器を使って帝国を滅ぼすこと。よって、彼にとっては国内の問題など心底どうでもよかった。

 

そんなマクシミリアンの考えなど誰も露知らず、5分程経ってから、帝国政府の代表であるセルゲイ宰相が口を開いた。

 

「これは……いけませんな。殿下の仰る通り、我々は今一度帝国の在り方を考え直さなければいけない時が来たのかもしれませぬ」

 

宰相の言葉を聞いた重臣達は腕を組んで考え込み、それぞれ政敵に付け込まれぬよう慎重に言葉を選んで声を発していった。

 

「私としては宰相のお考えには賛成です」

「殿下のお言葉には説得力がある。なによりこのポスターが全てを物語っている」

「しかし今此処でこの事について議論するのは些か拙い。別の場所で話し合うべきだ」

「そうだ。今この場で決めるべき問題は準皇太子殿下のこれからについてである」

「かと言って無碍にも出来ぬ内容ぞ。貴君らは帝国の未来について何も思う所はないのか?」

「吾輩は皇帝陛下の仰られるお言葉を信じる。この帝国が覆るような事など万が一にも有り得ない」

 

次第に重臣達は詰問すべき当人であるマクシミリアンを放り出して紛糾し始めた。

しかし、すぐさま皇帝から議論の中止を命じられ、言いたい事を胸の奥へとしまい込んだ。

 

「ラインハルト。むやみやたらと不安を煽るでないわ。この場において話すべきはこの愚か者の処遇についてである。まぁ、貴様らが無駄に話し合っている最中に余が処遇の内容を纏めたがな」

 

皇帝は眉間に皺を寄せ、マクシミリアンを睨む。対するマクシミリアンも強く皇帝の目を睨んだ。

 

「2ヶ月だ。それまでにガリアを征服できねば指揮権を剥奪し、彼の国と講和する。これが最後通告だ」

「ご配慮くださりありがとうございます。必ずやガリアを皇帝陛下へ献上いたします」

「無論、勝てなかった場合は――」

「存じております。どのような処罰であれ受け入れる覚悟です」

 

その言葉を最後に、マクシミリアンは玉座の間を退出した。

ラインハルトと従者アイス・ハイドリヒは、去っていく彼の後姿を眺めていた。

 

「本当にこれで良かったのでしょうか?」

「こうでも言わないと兄上も本気を出さないだろう? それに、俺の言った内容はすべて本当の事だ。ガリアだけじゃない。連邦とも早く戦争を終わらせなくては帝国に未来は無い」

「殿下は未来を見据えているのですね」

「まぁ、誰かが考えなきゃいかん事だ。それと何度も言うが、殿下と呼ぶな。ハルトと呼べと何度も言ってるだろ」

「陛下の前で無茶言わないで下さいよ…」

 

マクシミリアンが完全に城から出た後、ラインハルトは従者を連れて自室へと帰って行った。

帝国の目指すべき道を模索する為に―――。

 

 

2ヶ月。

つまりマクシミリアンは11月までにガリアを屈服させなければならない事態となった。

再びギルランダイオ要塞に帰還したマクシミリアンは、当初の計画を大幅に修正。

帰還後すぐに招集されたセルベリア・ブレス大佐に対して短期決戦に打って出る旨を伝えた。

遅れてやってきたラディ・イェーガー少将にも同じように内容を伝えると、一同はどの場所で戦線を打開すべきかを入念に検討する。机の上に広げられた地図を睨み、何時間も議論を重ね合い、そして最も帝国軍が展開しやすく、自軍を適切に指揮できる地域を遂に見つけ出した。

 

「ふむ。【ナジアル平原】か」

「あぁ。ここなら思う存分帝国のお家芸である浸透戦術が効果を発揮するだろう。ガリアにとっても譲れない場所だ。なんせ此処を突破されたらランドグリーズまで一直線だ。補給線はギルランダイオから頼る事になるが、まずは勝つことが先決だ。後の事は後で決めればいいさ」

 

後が無い帝国軍にとって、目先の勝利は今や重要な案件となっていた。それはイェーガーの言うように、後の事など考える余裕などない。何よりもまずは、この退却に次ぐ退却の流れを断ち切らなければならないと、イェーガーは考えていた。

 

「ガリア軍の主力は私のヴァルキュリアの力を使って突破口を開きます。そこから更に軍を浸透させ、敵の奥深くへと進撃します。大まかな流れですが、敵総司令官であるゲオルグ・ダモンを討てば、この戦いは我らの勝利です」

「うむ。存分にその力を発揮せよ。もはや我が軍に敗北は許されぬ。」

 

此処に至り、帝国軍はガリア軍に対して一大攻勢を仕掛け、再び戦局の逆転を目指すものとしての攻勢作戦が決定された。その後、各部隊長を改めて招集し作戦概要を伝えた。しかし、作戦成功を確固たるものにすべく、マクシミリアンはそれまで扱き使っていたカラミティ・レーヴェンをこの作戦より除外。一切の情報漏れを断ち切った。

 

更にマクシミリアンは、ギルランダイオ要塞を含めた全戦力をナジアルに集中させる。

但し、マルベリーに独断で撤退したアーヒェン准将はこの命令を拒否し、尚もマルベリーに立て籠もる事を決定。しかしこれが功を奏し、ダモンはナジアル平原に帝国軍が集まってきているとの情報を知りつつも、ガリア軍を最北部マルベリーへと向けざるを得ず、マクシミリアンは内心アーヒェンの独断に感謝した。

 

 




次回も気長にお待ちください(反省なし)

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