わしを無能と呼ばないで!   作:東岸公

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お気に入りが300を突破した事実に、只々感激しています。
そして小説評価も初っ端から高評価…感謝感激雨あられです。。。
本当に有難う御座います。心が救われます。m(__)m

後、感想欄で「秘書はオリキャラ」と書いたな?
あれは嘘だ。(ごめんなさい)

ついでに、戦ヴァルのサントラを聞きながら読むと楽しさ2倍です。


第三話 ダモンとウェルキン

◆1935年4月2日~ダモンの職務室~

 

この2日間、ダモンは食事と風呂の時以外部屋から出ず、自室で各部隊に向けた作戦指示書及び補給についての書類を纏めていた。

防衛大隊と義勇軍を含め、一気に膨れ上がったガリア軍を纏めるのは容易な事ではない。

適切に軍隊を動かすには現場の指揮官との連携は不可欠であり、それを怠れば前と後ろで"認識のズレ"が起きる。

下手をすれば味方が壊滅してしまう危険性を孕んでいる為、ダモンは逐一自分に現状を報告する様に義務付けた。

 

中部方面軍の中身としては、第1正規軍大隊・第2正規軍大隊、そしてガリア義勇軍と3つの軍団に分かれている。

ダモンはこの3つの軍団の元締めである。

 

因みにダモンは、元ギルランダイオ防衛大隊から精鋭を選りすぐり、『老親衛隊(ろうしんえいたい)』として"無断で"ガリア軍とは別に部隊を創設していた。規模は1個小隊である。

だがその戦闘力は1個小隊の力を上回っていた。そして同時にダモンの手となる組織でもある。

服装色は、既存の青色を基準に、正規軍よりも多めに金色が装飾されている。

ダモンはコレを「あくまで護衛部隊であり私兵軍隊ではない」と上層部に説明。

上層部も疑念はあったが、「護衛部隊なのであれば…」と承諾した。だが上層部もそれほど馬鹿ではなく、ダモンにいつも以上の書類作業を当てつけていた。

 

そんな面倒な作業の中、"コンコン"と扉を軽くノックした音が、黙々と書類作業を行っていたダモンの部屋にこだました。

 

「鍵はかけておらんぞ」

 

そうダモンが言うと、部屋に1人の女性が入ってきた。

髪は淡い金色。とても美人であると、ダモンは思った。

それと同時に、やはり名門出のエリート感も(かも)し出していた。

 

「『オドレイ・ガッセナール中佐』と申します。閣下がお呼びとお聞きして参りました」

「お~。もう来たのか中佐!」

「はい。事情は兄よりお聞きしました。わたくしなどで良ければ、お好きにお使い下さい」

 

事の発端は2日前に遡る。

ダモンが部屋で"秘書"を吟味している時、部屋にバルドレンがやって来た。

バルドレンの目的は書類にダモンのサインを貰う為だったのだが、偶然にもダモンが持っていた紙を目撃した。

ダモンから理由を聞くと、バルドレンは「それならば、是非自分の妹を秘書兼副官として推挙したい」と申し出たのである。

色々悩んでいたダモンも「大佐の妹ならば問題は無いだろう」として、承諾したのである。

 

「そう畏まらんでもよい。もっと肩の力を抜いて貰わねば、わしも疲れる」

「そう…ですか。分かりました。閣下がそう申されるのであれば、わたく…私も気が楽になります」

「うむうむ。それでよい。しかし大佐には悪い事をしてしまったな…。戦車長である中佐が居なくなれば、色々大変なのではないか?」

「私もその事を言った所、寧ろ兄に怒られてしまいました」

「大佐はなんと?」

「兄曰く『戦車長など代わりは幾らでもいる。それよりもダモン閣下の手足となりお助けするのだッ!』と」

「つくづく大佐には感謝せねばならんなぁ…」

 

本来、オドレイ中佐は兄のバルドレン大佐が率いる正規軍中隊に所属する戦車長であり、その腕は、正規軍でも1位2位を争うほどの腕である。

史実では正規軍として初めて【ヴァルキュリア】と正面から戦った人物であり、その戦いぶりから、帝国軍では【鋼鉄の戦乙女】と渾名され恐れられた。

 

そんな彼女が、これからはダモンの秘書兼副官として動いていくことになる。

どこをどう見ても彼女の離脱は戦力の低下なのだが、それでもバルドレンが薦めてくれた人物でもあるので、ダモンはバルドレンの厚意に深く感謝した。

 

「しかし、見れば見るほど高貴で、それでいて美しいのう」

「…閣下。私を口説く暇があるのですか?」

「わしが口説いた所で、気持ち悪がられるのが関の山ぐらい理解しておる…。それよりもだ。最近の帝国軍に動きはあったか?」

 

ダモンが姿勢を正してそう聞くと、オドレイは左手に抱えていたファイルを開き、質問に答えた。

 

「その事について、報告が御座います。恐らく…いえ確実に帝国軍は近日中にヴァーゼル橋を総攻撃してきます。偵察隊の報告によれば、着々と準備が進められているとの事」

「そろそろ来おるか。正規軍と義勇軍の情報提携は密にしておるか?」

「その点も問題は無いかと。閣下のお陰で正規軍に対する不満や偏見は少ないとの報告がきていますので」

「うむ。ならいいのだが…。帝国側の兵力は如何程であるか?」

「ヴァーゼル橋を囲むように部隊は分散しています。基本的には正面の部隊が本隊で、左右の部隊はそれ程多くは無いようです」

「未だに帝国は足並みが揃ってはいない様だな。本気で橋を攻め落とす積もりであれば、(いささ)か兵が足りん」

 

現在、帝国軍の主力は北部のファウゼン攻略に力を注いでおり、南部のクローデンではガッセナール城を何としてでも攻め落とそうと行動中なのであった。

ダモンの言う通り、眼前に布陣する帝国軍のヴァーゼルに対する攻勢は、首都ランドグリーズに籠るガリア軍を抑え込むものであり、本攻勢は北部の主力が参陣してからであった。

 

「どうされますか閣下?」

「ふむ、見た所、ギルランダイオ要塞からの補給線は未だ出来ていないようにも見える。恐らく奴らは突出した部隊の一部であろう」

「では此方(こちら)から仕掛けますか?」

「いや、気に食わんが我が軍と帝国軍では練度の差が大きすぎる。ココは敢えて耐久戦に持ち込み、奴らが疲弊し攻勢が弱くなったところを一気に攻めるとしよう」

「了解しました。各部隊に通達しておきます」

 

オドレイに秘書の経験は無い。

だが、兄を補佐するという意味では、正にダモンが願っていた"意向を汲む"者として完璧だった。

なので質問や会話の内容をテキパキと纏める事くらい、彼女には造作もない事であった。

偶に暴走する兄バルドレン。冷静沈着な妹オドレイ。

この兄妹(きょうだい)のコンビネーション程厄介なモノも無いなと、ダモンは思った。

 

 

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◆4月3日~ガリア義勇軍第3中隊第7小隊にて~

 

「なるほど。そういう作戦で行くのか。流石はダモン将軍。手堅いね」

「へっ。お前みたいなガキが、一体何を分かってそんなこと言ってんだよ」

 

ウェルキンの独り言に突っかかっている人物の名は『ラルゴ・ポッテル軍曹』。

第一次大戦にも参加した古参兵の1人でもある。

そんな彼は、軍務経験も無く年下でありながら自分の上官になるウェルキンを未だ信用していなかった。

アリシアやイサラはブルールの事もありウェルキンを信頼しているが、それを知らない人にとっては、無理もなかった。

 

「じゃあ賭けをしようよ」

「あ?」

「僕がこの防衛で見事に作戦を完遂したら、僕を信用してほしい。もし僕が無様に敗走したら、君の勝ちだ」

「おういいぜ。戦争は甘くねぇって事を、その身で感じるんだな!」

 

そんなやり取りを見ていたアリシアは心配そうにウェルキンに言葉をかけた。

 

「大丈夫なのウェルキン? そんな賭けしちゃってさ…」

「うん。大丈夫だよ。だからアリシアも僕が勝つって信じてほしい」

「……分かったわ! 私、ウェルキンを信じるっ!」

 

アリシアがウェルキンに笑顔を振り向かせた時、ある人物がウェルキンに近づいてきた。

 

「その意気があれば、帝国など恐れるに足りんのう。少尉」

 

その声は近くで作業をしていた義勇軍兵士の耳にも届いており、全員が声の方に顔を向けた。

 

「ダモン将軍!?」

「はっはっは。そんなに驚かなくても良いではないか。ウェルキン・ギュンター少尉?」

 

正規軍ではなく、義勇軍の部隊にやってきたダモンに対して、流石(さすが)のウェルキンも驚きを隠せないでいた。

 

「い、いえ。要塞から帰還してからというもの、ダモン将軍が部屋から余り出ていないと聞いていたので、体調でも崩しているのかと思っていました」

「わしとしては、そっちの方がよかったがのう。生憎、わしはず~~~っと上層部から送られてきた書類とにらめっこをしていただけである」

 

ウェルキンとダモンは、そんな他愛の無い会話をして気づいていなかったのだが、近くでは義勇軍兵士がダモンに一言挨拶しようと躍起になっていた。

 

「ダモン将軍! 要塞での防衛線、お聞きしました!」

「ダモン将軍! 今回の防衛戦でも将軍は戦車に乗られますか!?」

「ダモン将軍! 握手をして下さい!」

「ダモン将軍! このパン美味しいので食べてください!」

 

だが、気づけば挨拶どころか、全員ダモンに顔を覚えてもらおうと必死にアピールをしていた。

よくよくみれば、最後の方の問いかけはアリシアが自分で作ったパンを手渡そうとしていた。

そんな光景を目にしたウェルキンは軽く笑う。

 

「しょ、少尉。こやつ等の気持ちは嬉しいが、そろそろ止めてはくれんか?」

 

とダモンが苦笑いで抗議をしてきたので、ウェルキンは素直に義勇軍兵士に解散命令を下した。

各々の兵士は、不満を口にしながらも、上官であるウェルキンの命令に従った。

因みにアリシアのパンは無事にダモンの手に渡っている。

 

「人気者ですね将軍」

「ふぅ…。わしとしては素直に嬉しいが、今日ここに少尉に会いに来たのは別の用があったからだぞ」

「僕に用……ですか?」

「うむ。この封筒を後で見てほしい。そこに全て書いてある」

態々(わざわざ)その為にここまで来られたのですか?」

「…ここだけの話、上層部にも余り信頼は置けんでな…。ついでに少尉にも一度会ってみたいと思っていたのだ。あのベルゲン・ギュンター将軍のご遺児である、少尉にな」

 

そう言いながらダモンは封筒をウェルキンに手渡す。

ウェルキンは不思議に思いつつも、総大将自らの手紙であるので、姿勢を正して受け取った。

 

「さて。わしも色々忙しい身でな。そろそろお暇するとしよう」

「態々来て頂き、有難う御座いました!」

 

ダモンが帰るといったのでウェルキンは敬礼する。それにダモンも敬礼を返した。

ちょうどその時、ダモンの後ろから小走りで駆けてくる少女がいた。

 

「兄さん。エーデルワイス号のメンテナンスが終わりました。幸い何処にも異常は見当たりませんでした。」

「ありがとうイサラ。あの戦車は大切な戦車だからね。本当に助かるよ」

 

少女の名は『イサラ・ギュンター』。ウェルキンの義理の妹である。

そして、彼女は祖国を持たないダルクス人でもあった。

 

「ふむ。ダルクス人か」

「………」

 

ダモンの何気ない一言にしかめっ面をしたイサラであるが、別にダモンは人種差別主義者ではない。

イサラの表情を読み取ったダモンは、彼女に謝罪をした。

 

「すまぬ。気を悪くしたのなら謝ろう。わしはダルクス人に何の偏見も持っておらん。寧ろ我々は過去にダルクス人の手を借りておる。感謝こそすれ恨みなどない」

「……そうですか」

「うむ。今のガリア軍はベルゲン将軍とテイマー博士のお陰で成り立っておるのだ。何処に恨みを持つ原因がある?」

「父を知っているんですか?」

 

イサラの本当の親は、『テイマー』というダルクス人技師であった。

その功績から、ダルクスという1つの枠組みを出て、国内で尊敬されている人物の1人であり、ガリア軍の対戦車槍は、彼の功績に(あやか)って『テイマーM1』と名付けられていた。

ダモンが持つ中戦車運用思想も、彼によるものが大きい。

 

「博士のご遺児であったか」

「はい。不慮の事故で両親は亡くなりましたが…」

「…嫌な事を思い出させてしまったか」

「いえ、全て過ぎた事ですので、気にしないで下さい」

 

しかし、言葉とは裏腹にイサラの表情は、少しだけ哀愁が漂っていた。

ダモンはそんな彼女の頭を撫でた。2人を見ているウェルキンはその行動を静かに見守る。

 

「今更こんな事を言うのはおかしいのかもしれんが…。イサラと言ったな?」

「はい。あの…なんで頭を撫でるんですか?」

「うむ? 嫌か?」

「い、いえ。嫌とかではなくてですね…」

「イサラよ。テイマー博士はガリア人の誇りであり、同時にダルクスの英雄でもあるのだ。お主の父はダルクスの誇りである事を、忘れてはならん。ダルクス人である事に恥じる必要はない。もっと胸を張るのだ」

 

ガリア軍のトップ、それも貴族階級層に属するダモンの言葉に、イサラは言葉を失っていた。

その言葉にはウェルキン以外にも見守っていたアリシア達も驚いていた。

 

「おっと。もうこんな時間か。早く帰らねば秘書に怒られてしまう。少尉。邪魔をしたな」

「いえ、別に大丈夫です。」

「あぁそれと、既にバーロットに話は通してある。中身を読んだ後は、少尉に全て一存する。よいか?」

「? はぁ」

 

そう言うとダモンはイサラの頭から手を放し、腰に当て、右手を軽く振り「ガッハッハ!」と笑いながらその場を離れていった。

離れていくダモンの姿を見ながら、イサラは兄に話しかける。

 

「…あんな人も、ガリア軍に居るのですね」

「あぁ。凄い人だよ…ダモン将軍は…。貴族の人達が、皆あんな感じだったらいいのにね」

「なんでしょう…。撫でられた時、とても暖かかったです。まるで自分のお爺さんみたいに…」

 

普段から事あるごとにダルクス人である事を理由に詰られ続けて来たイサラにとって、兄であるウェルキン以外に頭を撫でられるという経験が無かった為、イサラは戸惑いつつも、ダモンに対して好々爺(こうこうや)みたいだなと内心悪くない気分に浸るのであった。

 

 

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◆同日~ダモンの職務室~

 

「なるほど。それで閣下"1人"でギュンター少尉の所まで歩いて行ったと。そういう事ですね?」

「う、うむ。そう怒るでないオドレイ中佐。…ほれ、中佐もコレを食え」

 

部屋に戻ったダモンは、無断で職務を放棄して部屋から出て行った事に怒っているオドレイに注意を受けていた。

秘書兼副官であるオドレイは言わばダモンの懐刀(ふところがたな)である。

その為、もし万が一のことを考えると怒らずにはいられないのであった。

しかし、ダモンはそんなオドレイの怒りを気にせず、アリシアから貰ったパンを食べていた。

 

「閣下。わたしが怒っている事を承知の上でそのパンを食べろと申されるのですか?」

「うむ。怒るのは後にしてまずは食ってみよ」

 

オドレイは怒りを通り越して呆れ果てていた。だがそこまで言うのであればと、ダモンに言われるがまま、パンを小さく千切って口に放り込んだ。

 

(……美味しい)

 

意外にも市販のパンよりとても美味しかったのでオドレイは目をキラキラさせ、気づけばパンを頬張っていた。

 

「どうだ? 美味いであろう? この美味さに免じて、今日の事は許してはくれんか?」

 

オドレイは内心「しまったッ!」と思ったが、既に後の祭りである。

ニヤニヤと自分を見つめるダモンを睨みつけながら、彼女はパンを食べながら言った。

 

「………今回だけです。次同じ事をした場合、首輪を付けさせてもらいます。」

「わしは犬か」

「さ、お仕事です。今度は抜け出さないように、私が隣で見張っていますので」

 

そんなダモンのツッコミをオドレイは無視し、ダモンの目の前に抜け出していた間に溜まった書類を問答無用で置くのであった。

 

 

 

 

 




因みに、パンの事について、ウェルキンが尋ねた。

「アリシア。なんでダモン将軍にパンをあげたんだい?」
「今の内に将軍の胃袋を掴んでおけば、私がお店を開いた時、将軍から聞いた話で上の人達が買いに来るかも知れないでしょ?そうなれば私のお店、とっても有名になるかもしれないじゃない!」
「な、なるほど…。ハハハ…」

隣で苦笑いをしているウェルキンを差し置いて、アリシアは将来へ向けた策を考えるのであった。

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