わしを無能と呼ばないで!   作:東岸公

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本当に有難う御座います。感想で初めてランキングに乗っている事に気づきました。
皆、戦ヴァルが好きなんやなって…。
やっぱり戦ヴァルは神ゲーだと、改めて気づかされました。

因みに自分は未だに戦場のヴァルキュリア4を待っています。
賛否両論ありますが蒼き革命のヴァルキュリアも買うつもりです。

本当に皆さん有難う御座います…。就活で疲れた心が回復します。



第四話 あの橋を守れ

征歴1935年4月5日正午 帝国軍、ヴァーゼル橋に対して、総攻撃を開始す。

 

遂に帝国軍は、首都ランドグリーズに籠るガリア軍を牽制、あわよくばヴァーゼル橋を制圧せしめんと攻勢を開始した。

数で勝るガリア軍ではあるが、帝国軍との練度の差は歴然であり、数に劣る帝国軍の方が士気は高かった。

逆にガリア軍では、開戦以降どの戦線でも敗北を繰り返していた為、未だに一部の部隊では士気が低かった。

他にも、北部の要所であるファウゼンからは、帝国軍の攻撃が激しくなっているとの報告が来ており、全帝国軍がランドグリーズに迫るのも、もはや時間の問題となりつつあった。

 

 

◆~ヴァーゼル前線~

 

橋の近くで防衛線を構築していたガリア軍は、帝国軍と交戦を開始。

戦場には叫び声や悲鳴が飛び交っており、無線を開けば敵味方混線状態であった。

橋の入口1ヶ所を守るガリア軍に対して、数は劣るもののガリア軍を包囲しながら攻撃をする帝国軍。

戦況は五分…いや、ガリア軍が少し押されていた。

 

「第1中隊は何をしている!? もっと弾幕を張れェッ!」

「敵の攻撃が激しすぎるッ! もっと援護を!」

「こっちも大変なのに援護なんてできるかァ! 根性で押し返せッ!」

「正規軍を、なめんじゃねェ! 義勇軍無しでも守って見せらぁッ!」

≪本当に奴らの方が少ないのか!? 攻撃の勢いがまるで――プッ≫

≪おい! どうした! 応答せよ102部隊!≫

≪クソッ! あいつら強すぎるッ!≫

 

戦場での会話や無線では味方の怒号が飛び交っている。

しかし、帝国軍の攻勢は牽制というよりも戦車による火力支援を元に進撃してきており、帝国軍側も牽制攻勢という作戦を修正し、ヴァーゼル橋制圧に取りかかろうとしていた。

それに対抗すべく、ガリア軍は正規軍義勇軍問わず、徹底抗戦を辞さない構えをとっていた。

帝国兵の動きは全てが統一されており、素人が見ても、ガリア軍との差は歴然であった。

もし全ての武装が整っていたらと思うと震えが止まらないと、ある隊長が本音を漏らす。

 

しかし、義勇軍第7小隊だけは秘密裏に別の作戦を実行に移すため、密かに前線から離脱していた。

 

 

◆同日~ヴァーゼル前線本部~

 

「くぅ! 予想よりも激しいものだなッ!!」

 

わしは今、前線にいる。

理由? …前線にいる指揮官共が馬鹿な真似をせんように督戦に来ておるのだ!

それに拠点が陥落するかも知れんのだ。銃声と砲撃の音がここまで聞こえてくるのに、目の前で落ち着いてはおれん。

隣にはオドレイ中佐もおるし、周りには老親衛隊の奴らがおる。心配は無用なのだ。

それに、わしは総大将である。総大将がビクビク後ろに籠っておれば、兵の士気がガタ落ちだ。

そして、義勇軍第7小隊に渡した『作戦』を完遂させるには、もっともっと敵の目をこちら側に向けさせねばならん。わし直々に奴らの相手をしてやるか…。

 

「中佐! わしの戦車を用意しろッ!」

「お断りします」

「なぬっ!?」

「閣下はガリア軍の総司令官です。ここで前線の状況を把握し、随時命令を下して貰わなければ困ります」

 

ギルランダイオ要塞の時のように、わし自ら帝国軍を蹴散らしたいのであるが…。

だがオドレイ中佐の言い分は最もだな。わしはここで死ぬつもりはないが、もし戦死してしまえば…。

考えたくもない。わしが死ぬなど、あってはならん事だ!

で、あるならば、わしは今以上に神経を研ぎ澄まさなければならん。激しい戦闘とはいえ、本軍ではない敵軍にむざむざ勝利を明け渡してなるものかッ!

勝利は我らガリアのものぞ! この程度で根を上げたりはせん!

直ぐにでも国境線まで、押し戻してやるッ! 見ておれマクシミリアンの小僧がッ! ふんッ!

 

「……不本意でしかないが、ここは中佐の助言に従っておくとするか」

「戦意が溢れているのは有り難い事ですが、今はその時ではありません」

「ならばその"時"が来た暁には、出撃してもよいと言うのだな?」

「場合によりけりです。閣下。本来であれば、このようなテントに閣下が来ては駄目なのですから。それを閣下の我儘で―――」

「分かった分かった。ここで大人しくしておる。全く…中佐は心配性すぎる。そんな事では嫁の貰い手が現れぬぞ?」

「……何か仰いましたか?」

 

あ、目が死んでおる。これは禁句(タブー)であったか。

しかし、中佐はまだ23歳。そこまで怒る事など無いのではないだろうか。

……寧ろ女性に対して『結婚』という言葉自体禁句なのだろうな。失言であったか。

 

「すまぬな。わしの失言であった。中佐ならば、きっと素晴らしいガリア男性と結ばれるであろうて」

「今のガリアにその様な男性がいるでしょうか?私は見た事がありませんが」

「なに心配するでない。もし居なかったらわしが貰ってやる」

「……本気かどうかはさておき、頭の片隅にでも置いておくとします」

 

中佐はムッとした顔でわしを睨んでくる。

そんなに怒らんでもいいではないか。爺の戯言だと言うのに…。最近の若者は冗談も通じんのか…。

わしはそんな中佐の表情をあえて無視し、前線からきた報告に対して、随時命令を下すのであった。

 

「右翼側から援軍要請です。第105部隊を差し向けます。よろしいですかダモン将軍?」

「うむ。何とかして敵の目を此方に引き付けておくのだ。この状態が続けば、上手くいけばアスロンまで直ぐにでも進撃できるかもしれん」

「アスロンですか? 閣下?」

 

わしが兵士に投げた言葉にオドレイ中佐が食いついてきおった。

机の上にガリア全域が乗っている地図を、わしは指をさして説明した。

 

「うむ。地図を見れば分かると思うが、アスロンはガリア中部の(かなめ)である。後々の反抗作戦を立てるには、あの場所を出来るだけ急いで奪還する必要がある」

「ですが、同時に帝国軍の拠点にもなっています。数も今の倍は居ると思いますが」

「中佐。ファウゼンを忘れた訳ではあるまいな?」

「もちろんです閣下。彼らが奮闘してくれているお陰で、今のヴァーゼル防衛は持っているようなものです」

 

事実そうだからな。ファウゼンの防衛隊には本当に感謝せねばなるまいて。

何とかして、わしはあやつらを助けたいのだが、今の状況を鑑みれば、到底は無理そうだな…。

 

「ならば、わしが思うに、北部のファウゼンが陥落するまでにガリア中部を奪還し、帝国軍を南北に分断せねば、帝国軍は足並みが揃ってしまう。同時に、南部では中佐の父であるギルベルト殿がガッセナール城に籠って抗戦しておる。どちらの拠点も、陥落は時間の問題であろう」

 

オドレイ中佐は静かにわしの話を聞いておる。普段からそれくらい静かであればよいのだが…。

 

「それを阻止する為には、絶対にアスロン攻略が不可欠なのだ。もっと言えばアスロンを起点として、南北に展開する帝国軍に反撃ができる。無論、帝国軍も馬鹿ではない。アスロンを攻撃されれば死守する……"筈であった"だろうな」

「"筈だった"…という意味は?」

「オドレイ中佐。今現在、帝国軍が行っているヴァーゼル攻勢を受けて、何か不可解な点に気づかぬか?」

 

わしがそう言うとオドレイ中佐は顎に右手を添えて考え込んだ。

3分ほどの時間の後、中佐はわしの質問に答えた。

 

「帝国軍部隊の兵力はガリアよりも劣っている…それなのに攻撃の頻度が多い…。まさかッ!」

 

オドレイ中佐はハッとした顔でわしを見つめてきた。

実はこの事はわしもさっき気づいたのだが、それは内緒だ。

だがこれはわしの予想ではあるが。

 

「うむ。予想ではあるが、奴らは"アスロンに置いてある物資をも消費してこの攻勢を維持し続けている"とわしは踏んでおる。こんなにバカスカ好き放題に撃ってきておるのだ。もし予想通りであれば、今頃アスロンには物資…特に弾は殆ど残ってはおらんだろうな。幾ら兵が多くとも、弾が無ければ何もできん」

「ですが閣下。我が軍の被害が大きいとアスロンにまで進撃は無理かと」

「その為に、わしはこの前部屋を抜け出したのだ。今頃わしの連絡を『少尉』は待っているであろうな」

「まさか……」

 

そのまさかなのだ。中佐。

さぁて…もう少しの辛抱だな。

 

「中佐。わしの戦車をいつでも出撃出来るようにしておくのだ。勿論、中佐にも乗ってもらうがな」

 

 

 

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同日・午後3時を超えた頃、凡そ3時間という間、帝国軍の猛攻撃は衰えなかったが、ガリア軍が懸命に抗戦した為、帝国軍はヴァーゼル制圧を断念。攻勢を止め、元の計画であったガリア軍の抑え込みに取り掛かっていた。

突出していた部隊ということもあり、ダモンの予測通り、必要以上にアスロンからの物資・弾薬を使用した為、これ以上攻勢をかけられないと悟ったのだ。これ以降、帝国軍から発せられる銃声及び砲撃は、徐々に小さくなっていった。

 

しかし、この間に義勇軍第7小隊はヴァーゼル橋の下に存在する川を、秘密裏に渡河していた。

そう。ダモンの渡した作戦とは、第7小隊にしか存在しない"エーデルワイス号"で、敵を後ろから攻撃するという『挟撃作戦』であった。

 

エーデルワイス号の存在は、第7小隊という義勇軍には勿体ないと言われる位、戦闘力がずば抜けていた。

この1小隊だけでも、敵の後ろに回り込めば、敵撃破は容易であると、ダモンは踏んだのである。

最初に作戦指示書を見たウェルキン・ギュンター少尉は、戦車で川を渡るという発想に驚きつつも、ヴァーゼル橋が落ちていた場合、自分もそうするであろうと考えた。

 

この作戦を小隊に伝えた時は、小隊内全ての人物から「ダモン将軍の頭はおかしい」と言われたのだが、ウェルキンのフォローもあり、出来なくは無い作戦として、渋々作戦指示書に従うのであった。

川沿いにはボートが既に用意されており、もし敵の目に見つかれば、掃射されてもおかしくは無かった。

第7小隊全員が、祈りながら川を渡ったという。

因みにエーデルワイス号に関しては、簡易的な耐水防御を施し渡河した事もあって、ボートで渡る兵士よりかは、幾分安全であった。

 

しかし、その祈りが届いたのか。ダモンの存在が、敵の目を釘付けにする要因となったのか。敵の目はダモンが居座っているヴァーゼル前線本部を見つめ続けていた。

帝国軍兵士が、戦死したガリア無線兵からダモンの肉声を聞いたのも大きい。

第7小隊に所属するロージー曰く「こんな作戦は二度としたくない」と言わしめたものの、無事に渡河に成功した為、本部からの連絡が来るまで、第7小隊は近くの建物や物資の陰に隠れていた。

 

 

 

(おい! 本部からの連絡はまだなのかよ!)

(帝国軍の攻撃が少なくなってきている。そろそろの筈だよ)

 

ラルゴは小声でウェルキンに抗議する。

あと2時間もすれば、日が暮れてくるというのに、未だ本部からは何の合図もなかった。

本部でなにかあったのだろうかとウェルキンは焦った。

だが、そんな思いをよそに、第7小隊に無線が入った。

 

≪少尉、待たせたなッ! これより、第7小隊は敵の背後より攻撃を開始せよ!≫

「お待ちしていました! ダモン将軍ッ!」

≪遅くなってすまぬな! こっちに少し手間取ってな。"やっと出撃準備が整ったのだ!"≫

「はっ?」

≪話は後だ。挟撃作戦を実行する!≫

 

そういってダモンからの無線が切れると、橋の方から、大きな雄叫びを挙げながら、ガリア軍が突撃を開始した。

よく見れば前方を走る戦車は、指揮官用にも見えた。

ウェルキンは顔を引き攣らせながら思った。「まさか…」と。

 

「ガーッハッハッハ! このダモンがおる限り、貴様ら帝国のひよっこ共には負けたりせぬわァッ! 全軍突撃ィィ!!」

「「「「オオオオォォォーーー!!!」」」」

 

エンジンを力強く吹かしながら走る戦車の砲塔からは、ダモンが上半身を出し腕を組みながら大声でガリア全軍を鼓舞していた。

そんなダモンに続くように、後ろからは正規軍義勇軍問わず、多くのガリア兵が鬼の形相で反撃に出ている。

因みにその光景を見たバーロットとそれ以外の指揮官は絶句していた。

 

「将軍に続けェェェ!!!」

「今こそ反撃の時だッ! 進め進めぇ!!」

「あいつの仇は俺がとってやる! 食らえ帝国軍めェ!」

 

ガリアの猛反撃を見ていた第7小隊は呆気に取られつつも、ラルゴやロージーが攻撃を急かしてきたので、ウェルキンは小隊に命令を下した。

 

「全隊員に告げる! これより、ガリア軍と共同して帝国軍を挟み撃ちにする! 第7小隊、出撃ッ!」

 

待ってましたと言わんばかりに、第7小隊の面々は裏から帝国軍を攻撃し始めるのであった。

 

 

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◆同日~ダモン専用戦車~

 

帝国軍が発砲する弾が当たり、カンカンと響きながら、それらを(はじ)く戦車の装甲に耳を傾けながらダモンは獰猛に微笑む。

 

「くぅぅ! この戦車に乗っている時の高揚感はたまらんなぁ中佐!」

「それよりも閣下! 早く戦車内に戻ってください! 危険ですッ!」

 

運転席で操縦しているオドレイの注意を、ダモンは笑いながら受け流す。

彼は戦車の息吹を全身に浴びていた。

 

「ブワッハッハッハ! この程度ギルランダイオの時に比べれば危険でも何でもないわ! 進めッ! 進むのだァ! 帝国軍を押し戻せェェェ!!!!」

「閣下ッ! うるさいですッ! 叫ぶ前に装填して敵を撃って下さいッ!」

 

そう言うとダモンは砲塔の中に戻り、砲弾を手に取り"カコォン"と装填した。

 

「さぁさぁ皆の者! このダモンの腕、しかとその眼に焼き付けよッ! 発射ァ!!」

 

ダモンの声掛けと同時に、戦車の砲身を貫く様に、砲弾は発射された。

基本的に走行中の戦車は揺れが激しく、行進間射撃は殆ど目標に当たらない。

だが、ダモンはそんな揺れをものともせず、此方を狙ってくる帝国軍戦車に砲弾を命中させた。

砲撃を食らった敵戦車は大きな音を立てて爆散した。

 

「当てたのですか閣下!?」

「ふんッ! この程度造作もない事である! 中佐、次の目標に向かうのだッ!」

 

その後も敵戦車を次々と撃破していく様は、味方にとっては救世主、敵にとっては悪魔の様にしか見えなかった。

だが、他のガリア軍も負けじと帝国軍へ攻撃を仕掛けていく。

もはや、決着はついたも同然であった。

 

 

 

 

 

 

制暦1935年4月5日。

この日、帝国軍は開戦してから初めて本格的にガリア軍に対して敗北を喫した。

帝国軍は改めてガリア軍を撃破すべく、ガリア中部の最重要拠点である【アスロン市】に、一時撤退するのであった。

 

 

 

 




感想欄で指摘されたので、一応自分の考えを乗せておきます。
ガリアの上層部というのは、ダモンさん以外の将校&貴族を指しています。

・ガリア反攻作戦及び兵器開発その他→ダモンさんに一任(ボルグの台詞)
・それ以外の防衛前線やランドグリーズ関係の仕事→ダモンさん以外の将校と貴族議員

という感じです。
一応ダモンさんも上層部の一員ですが、微妙に違います。

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