頂上決戦が勃発する裏側で老兵ガープは苦しんでいた。
戦争の火種となる火拳のエースの処刑、だがその青年は彼の家族であった。
この物語は非常に短いながら、家族を救うべく全てを捨てようとまでした、老兵の話。

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原作でも屈指の感動と悲劇の起こった頂上決戦。
私自身もこの頂上決戦は非常に胸が熱くなり、同時に感動の人間ドラマが繰り広げられるところが好きです。
今回は戦争中、家族を殺される苦しみを味わいながら、立場上どうしようもなかった悲劇のキャラの一人ガープに焦点を置いていきます。


悪と正義の狭間に苦しむガープ

 これは一人の老兵の短いながらも最後のあがきの物語である。

 時は世界を司る正義を背負う海軍本部と大海で名を馳せる四皇白ひげ海賊団との頂上決戦が勃発する直前。

「どうして……こんなことになっちまったんじゃ」

 言葉をこぼしたのは海軍本部中将にして、長きに渡り激闘を繰り広げて来たガープ。

 この大海賊時代を動かした最強の海賊王ゴール・D・ロジャーと渡り合い、海軍の英雄とまで呼ばれる存在となったその老兵は、自室にて頭を抱えていた。

「なんでなんじゃ……お前が処刑されるなんて……エース」

 彼はその事実を信じたくはなかった。

 自分の見ているこの現実が幻である事を切に願った。

『火拳のエース』

 これが此度海軍にその身を捕らわれ、処刑される事となった海賊だった。

 白ひげ海賊団の二番隊隊長にして、海賊王ゴール・D・ロジャーの息子。

 そして血は繋がっていなくともガープの『息子』の様な存在だった。

「くそう……くそう」

 ギチギチと歯を鳴らしながら、『家族』を処刑されるのを彼は見たくはなかった。

 しかし、海賊を救うなど海軍の兵としてはあるまじき所業。

 彼は自身が正義の一員と思い海軍という場に身を置いていた事が、自分をここまで追い込むなどとは思わなかっただろう。

「今となっては全てが無駄じゃろうが……儂は……」

 海賊と海軍という悪と正義のしがらみに捉われ続けた中、彼はある決心をつける。

「……いてもたってもおれん。結果は見えとるが動かなくちゃやってられん」

 何かを決意したガープはそう言うと、椅子から立ち上がり自室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 無駄と分かってはいても、彼は『それ』を行わざるを得なかった。

 エース処刑の際に予想される仲間を救うべく動きだす白ひげ海賊団との戦に備えて、海軍本部中の全ての兵士が処刑が執り行われる広場へと招集を受ける前の時。

 ガープは同期にして海軍元帥となったセンゴクの部屋に赴いていた。

「…………」

 部屋に集められたのは元帥であり部屋の主のセンゴクは勿論、海軍の最高勢力として海賊たちに怯えられる『三大将』赤犬、青雉、黄猿の三名が呼ばれていた。

 そんな只ならぬメンバーが部屋に集められた中で、ガープは……。

「頼む! エースの処刑を取り止めにしてくれんか!」

 畳の床に、老いて白く染まった頭をこすりつけ、土下座をしていた。

 現元帥センゴクと並び、昇格こそ蹴っていたものの凄まじい強さで海軍を守って来たガープ。

 その為中将とはいえ、今の大将たちを軍に入った幼い頃から育ててきたことに加え、実力も怪物と恐れられる程で、三大将からすれば憧れであり、恩人だった。

 だが……結果は火を見るよりも明らかだった。

「ガープさん、今の言葉はアンタから聞かんかった事にするけん。二度とそんな世迷言を口にせんといてくだせぇ。海軍が海賊を助けようなんて馬鹿な話なぞ……みっともねぇことしやんとってください……」

 初めに発言したのは赤いスーツ姿をした赤犬ことサカズキ。

「サカズキの言う通りですよぉ。いくら罪人のエースが家族で、恩人の頼みだからってぇ、正義である我々が海賊を逃がすなんて失態を起こしちゃぁ、アッシらは民衆に対して何を正義と謳えばいいんですかい?」

 サカズキに続き、間延びした話し方をしたのは黄色の模様が入ったスーツが良く似合う黄猿、本名をボルサリーノとする男だった。

「まあ、そういうことですけん。ワシらは部屋に戻らせてもらいます。ガープさん、くれぐれも妙な真似はお控えくだせぇ……いくらアンタでもわしゃ、容赦しやせん」

 赤犬と黄猿の両名は彼の妄言に耳を傾ける事無く、言葉を発した後にセンゴクの部屋から退出していった。

 そして残った大将、青雉も同じく土下座する情けない恩人の姿を見ながら、

「ガープさん……今回の事はお気の毒に思います。でも救えないものは救えないんです」

 昔から世話になったからか、その姿を見て見ぬふりをしながら、優しい言葉こそかけてはいたが、彼も海賊という悪を捌く一人の海兵である以上協力の手は出せなかった。

 

 

 

 

老兵ガープの行動に動じることなく三大将が部屋を後にした後、部屋に残っていたのは元帥センゴクと土下座の姿勢から動かず全く言葉を発さないガープだけだった。

「ガープ、貴様がこんな事を予想できんほど馬鹿とは……いや馬鹿だったな」

 三大将と同僚のやり取りを無言で傍観していた元帥センゴクは腰を下ろしていた席から立ち上がり、畳に頭をこすりつける海兵としてあるまじき発言をしたガープにそう呟いた。

「頭をあげろ。いくらやっても無駄だ。お前の大切な家族とはいえ、海賊と海軍があいまみえる時はどちらが滅ぶのがこの世の宿命だ。これを揺るがしてしまえば全てがおかしくなってしまうのだぞ」

 センゴクの正義を重んじる最もな発言に、ガープはその頭をあげて必死に返答した。

「分かっとる! 分かっとるが……儂は……アイツを逃がしてやりたい。アイツはルフィと同じで孫同然なんじゃ! 家族を救う為に……親が動かんでどうす……!?」

 バコンッ!!!

 ガープが言葉を言い切る直前、その顔にセンゴクの強烈な拳が命中した。

 部屋の周りを囲う襖を吹き飛ばし、隣の部屋へ勢いよく身を飛ばされたのだ。

「貴様! それでも正義を背負う海兵か!? そもそも大切な家族ならどうしてその手綱を離していた!? お前の無責任さが奴を海賊の道へと行かせたんじゃないのか!」

 吹き飛んだ彼の方へ移動すると、センゴクはその胸倉を掴み上げて激昂した。

 悪の道に走った血迷った同僚をいさめる為に、その背中に背負う重みのある正義という二文字の為に、彼は続けざまに言葉を大声で発する。

「その責任が回り回って今の状況を招き入れたのだ! 少し前にお前はこう言ったな。『こんな老いぼれの命で責任を取れるほど、もう小さくない』と! その通りだ、今更貴様が頭を下げようと、何をしようと無駄だ! そんなにも家族の事を本当に思っていたのなら、もっと出来る事があっただろうが、愚か者め!」

 頭に血が上ったセンゴクの叱咤にガープは奥歯を噛みしめて、

「ぐ……うぐぐぐぐ」

ピトッ、ピトッと何滴にも及ぶガープの流れる涙が畳に染みこんでいく。

「……無駄だと分かっていても……体はいう事を聞かんかったんじゃ。あのロジャー譲りの生意気な馬鹿たれを救いたい、生きていてほしいと思ったんじゃ! 子供に生きていてほしい幸せになって欲しいと望む事の何処かおかしいと言うんじゃい! センゴク!」

 ドガッ!

 自分の今就いている職の重大さと家族を思う意思の間で彷徨う同僚に、センゴクは更なる怒りと哀れみを覚えて、その額に頭突きをした。

 胸倉をつかんでいた手を離し、頭突きの衝撃で畳の上に体を倒したガープへセンゴクは追撃をして兵士として間違った道を教えてやりたいという感情を押し殺して、必死に言葉を紡ぎ出した。

「……私とて人間だ……お前の気持ちは分からんでもない。多分、私が一般人ならばお前と同じような行動を取っただろう……だがな、世間としても我々が築き上げて来た海軍の面子としても七武海を除いた、海賊と海軍、悪と正義の存在が揺れ動く事は許されん」

 そう発するとセンゴクは冷静な態度になり、小突かれた額を赤くして、何も反論せずに腕で目元を隠しながら子供の様に涙を流し続ける同僚の傍に付き添っていた。

 

 

 

「ジジィ……その額はどうしたんだ」

 大監獄インペルダウンより護送され、現在、海軍本部地下の牢獄に移されたエースは義理の祖父であるガープの額を見て、そう言った。

「ガッハハハ……これか……まあちぃっとセンゴクの奴にどつかれてのぅ」

 頼み込んだ末に特別に面会の機会を与えられた彼は、もうすぐにその首を処刑台にて跳ねられる『家族』に向かって、覇気の無い笑い声をあげながら返答した。

「………………」「………………」

 いざ、面会とはなったものの特に話題があったわけでもなくすぐに会話は中断されてお互いの姿をただ、黙って見ていた。

 片方は相手が赤ん坊の頃、まだまだ現役で活躍していた黒髪だった海兵は、すっかり老け込み髪も老いには勝てずに白く染まっている。

 そして片や、やんちゃではあったものの、幼少期は小さな体で様々な苦難と直面しては切り抜いてきた男は、今……その腕を海楼石の錠で止められ、全身を傷だらけにし、背中に親代わりである白ひげの海賊旗のマークを背負い、すっかり変わり果てた姿となっていた。

「すまんのぅ……儂の力ではお前をここから出してやることは出来んかった」

 沈黙が続く中でガープは好物の海軍特製のおかきを口に含みながら、しょんぼりとした表情でエースにそう告げた。

「ハハ……ジジィ、そんな馬鹿みたいなことしようとしてたのかよ。額はその時にやられたんだな」

 罪人であるエースも自分が救われない事など重々承知していた。

 この死刑は自分が海賊になった時にいつか背負う羽目になる覚悟があったからだ。

「…………センゴクにどやされたよ、儂はお前とルフィに海兵になれと言っておきながら、お前達の旅立ちの時には阻止しようともせず、それを黙認していた」

 自分の罪に捕らわれていたガープはそう愚痴をこぼし始めた。

「俺は死ぬことは怖くねぇ。もう……こうなっちまった以上、取り返しもつかねぇ。だからジジィ……うぐ……もう泣かねぇで……くれよ、なあ?」

 涙を堪えていたエースは正面に座り、口に挟んでいたはずのおかきを地面に落とし、静かに泣いていた祖父に辛そうに告げた。

「くそぅ……目の前で捕まっとる家族を救えないなぞ、儂は何て無力じゃったんじゃ!」

 後悔、己が招いた運命とはいえども、この残酷な現実にガープはもう耐えられそうになく、エースの言葉を受けた彼は看守に後を任せて、その場を後にして行った。

(頼む! 白ひげ! 強引でもいい、エースを救ってくれ!)

 溢れ出る涙を拭いながら、彼は海兵としては失格であるが、人間として家族を思う愛情に満ちた優しき祖父として、そんな淡い期待をもって自室へと帰っていった。

 

 

 

 

 

だが……頂上決戦中に彼の目に映った現実は残酷な物だった。

ガープが最後にエースの生きている姿を確認したのは戦闘中に義理の兄を救うべく参上した実の孫ルフィを庇い、大将赤犬の燃え盛るマグマの拳によって体を貫かれ絶命する家族の姿だったのだ……。

 

 

 




バッドエンドが確定しているので、少し悲しい雰囲気で書かせていただきました。
私は漫画とアニメでしかワンピースを知らないので、もし、小説などでこの場面が語られていたなら本当に自分の調査不足です。

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