霧雨魔理沙が主人公の一人称書き下ろし短編ミステリー第一弾です!
<注意>
オリキャラ有、キャラ崩壊を含みます。それでもいいという方は、ゆっくり読んでいってね!
私の名前を聞けば、ああ、あの帽子をかぶった白黒の魔女で…と、まあ人それぞれ色々なイメージはあるだろうが(百合って言ったやつ後でマスパ確定な)私が主任研究員を務めていた幻想法医学研究所のことは、あまり世間には認知されていないらしい。幸い、私の友人で、売れない小説家の玉莊亭という中国人だか日本人だか分からない男が、私の話を本にしたいと言ってきたので、この原稿を書くことにした。まずは、私が主任になってから一番初めの事件の事から始めよう。文章が拙いのは、私が物を書くのに慣れていないからで、そこはご勘弁願いたい。
あれは私が着任して直後、2005年の12月7日だったと記憶している。前日まで、私は箒の飛行免許の更新に魔法省(ロンドンにある!)まで出かけていた。家に辿り着いた私は、ひどく疲れていたので、シャワーを浴びるとすぐに寝てしまったらしい。
「魔理沙!起きて!!」
という霊夢の声で、私が半ば強制的に起こされたのは、午前7時3分のことだった。(補足しておくと、この前年の2004年、霊夢はGBI(幻想捜査局)という組織を立ち上げていた)
「何だ霊夢…うるさいぜ…」
私は寝ぼけた声でそう言いながら、ベッドから起き上がったが、既に霊夢の顔を見て、何か普通でない出来事―それも異変の類ではない(異変だったら彼女は紫の所へ行く筈だ)―が起きたと感じていた。
「事件が起きたわ。」
霊夢は短く、一言だけ言った。
「場所と概要を教えてくれ…今全員に連絡する。」
私は帽子をかぶり、念のため八卦炉をポケットにねじ込みながらそう言った。
「場所は紅魔館の近くの湖。遺体は湖底よ。」
「湖底…溺死の可能性は?」
「…遺体は漁網に入っていたわ。」
「よし、すぐ現場へ行くぜ。」
非常連絡メールを全員に送信しながら私は言った。
12月7日7時12分
現場に着くと、既に立ち入り禁止のテープの周りに黒山の人だかりができていた。文々。放送が朝のニュースでスクープしたらしい。
「魔理沙。おはよう。」
そう言われて振り返ると、研究所のメンバー、―咲夜、妹紅―が立っていた。
「おはよう…随分早いな。」
と私は言った。何せ、自宅から箒でここまでぶっ飛ばして来たのだから、てっきり私が一番に着いたのだと思っていた。
「緊急だと聞いて…時空を歪めれば一瞬です。」
「鳳凰に乗ったんだ。久しぶりに空を飛んだけど、中々楽しいな。飛ぶってのは。」
なるほどその手があったかと私は内心で舌打ちした。
「ところで、妖夢は?」
「妖夢は…自分の車で来ると思います。」
ごく普通なのだが、他の二人の移動方法が突飛なだけに、変に感じる。全く、幻想郷は何でもアリだ。
そんな事を一人で考えている内に、V型10気筒エンジンを高らかに吹き上げながら、ランボルギーニ、ガヤルドに乗った妖夢が現場に到着した。集まった群衆が、車を見てざわめいている。
「おはようございます。」
車を降りた妖夢は、そう私にあいさつした。
「ああ、妖夢おはようだぜ…って、その車どうしたんだ?前見たときはトレノに乗っていたのに?」
と私は尋ねた。
「ええ…鈴仙さんが34Rを買いまして…対抗しようと…」
この二人のレース好きは有名だ。だが、何も一台何千万もする高級車を買わなくても…と私は思ったが、今はそんな話をしている暇はないと思い直した。事件が最優先だ。
「なるほど…とりあえず、現場に行こうぜ。」
私はそう言って、立ち入り禁止のテープをくぐった。三人も、私の後に続いた。
「あそこが遺体の発見現場よ。」
と霊夢は言って、岸から少し離れた、ただ意味もなく魔法陣が回転している湖上の一点を指した。
「遺体の第一発見者は、湖で遊んでいた
と霊夢は付け加えた。
「遺体を引き揚げるのに、ボートが要るな。」
と妹紅が言った。
「ボートなら、あそこに二隻、
と咲夜が言った。見ると、少し離れた所に赤とピンク色の二隻のボートが泊めてある。恐らく吸血鬼姉妹が使うのだろう。
「赤い方が『ふらん号』で、ピンクが『れみりゃ号』です。」
と咲夜は言った。私は聞き流した。正直、船の名前などどうでも良かった。
「赤い方に私と妹紅が乗って、遺体を引き揚げようか。」
と私は言った。
「妖夢と咲夜はピンク色の…」
「『れみりゃ号』です。」
すかさず咲夜が訂正した。
「ああ、『れみりゃ号』。『れみりゃ号』に乗って、湖水のサンプル採取と水中の撮影を頼む。」
「了解しました!」
「湖の深さは、あの辺りではどのくらいかな?」
と私は咲夜に尋ねた。
「そうですね…この湖は岸から急に深くなるので…6mぐらいはあると思います。」
「6mか…まあ、水中カメラの映像を見ながら、どういう風に引き揚げるかは決めよう。」
私はそう言って、ボートに乗った。
漕ぎ始めてから5分程で、ボートは問題の地点に到着した。
「霊夢!もう魔法陣は撤収していいぞ!」
と私は岸に向かって叫んだ。
「カメラ、投入します。」
「頼む。」
ドボンと妖夢は水中カメラを投げ込んだ。モニターには湖底から舞い上がった泥が映った。ライトを点けてくれと私は言った。だが、まだ何も見えない。
「咲夜、水温を測ってくれ。」
「はい…6.4℃です。」
「分かった…あとで向こうの岸でも測ろう。」
そう私は言って、ノートに水温6.4℃と記入した。
「魔理沙、見ろ!」
妹紅が言った。私はモニターを見た。舞い上がっていた泥が収まりつつあり、何やら網のようなものが映っている。そして、その網の中に何やら…
「妖夢、もう少し右だ。」
私は言った。何やら弓上に湾曲した白いものが見えた。
「第12肋骨だ。」
と私は言った。遺体は白骨化していた。
「所見はどうなの?」
岸に引かれたビニールシートの上に仮置きされた骨と肉片を見て、霊夢は私に言った。
「遺体は女性。恐らく…20代だな。10代の頃に左橈骨の骨折歴があるぜ。妖夢、写真を頼む…ん?どうした。気分悪いか?」
だいぶ妖夢の顔色が悪い。
「あ、いえ、大丈夫です…ただ、人骨とか見るのが初めてなものですから…今、作業に移ります。」
無理はしなくていいと妖夢に言ってから、私は霊夢の方を向いて言った。
「死後1ヶ月±10日って所だぜ。」
「分かった。この骨は、撮影が終わったらすぐ法医研へ運んで。私は失踪者データーベースとこの遺体の照合をするから一旦神社に戻るわ。正午にまた連絡を取りましょう。」
「承知。」
9時51分
「骨を洗浄する前にそれぞれの意見を聞こうか。」
遺体を乗せた大きなテーブルの前で私は言った。
「ああ。遺体の口蓋内部の泥を調べたが、特に薬物などは検出されなかった。胃の内容物はほとんど腐敗して散逸していたが、微量のアルコール、それからタンパク質を検出した。飲酒してから1時間ないし2時間以内に殺害されたと思われる。」
淡々と妹紅は報告した。
「分かった。タンパク質のDNA解析はできるか?何の肉だか分かるかも知れない。」
と私は言った。
「やってみよう。」
「頼むぜ…。それで妖夢は?気づいた点はあるか?」
向こうのテーブルの方へ歩いていく妹紅を目で見送りながら私は尋ねた。妖夢は悲壮な顔をして言った。
「ええ…この耳小骨ですが…成年女性のものではありません。」
ああ。私は何とも言えない気持ちになった。なんて卑劣な犯罪だろう。
「なるほど?で?」
悲しい結論を私の口から言うのは簡単だったが、私はあえて妖夢に尋ねた。
「被害者は…妊娠していました。骨形状から見て、妊娠5ヶ月です。」
そう言うと妖夢は手で顔を覆った。テーブルの上でノートに何か記入していた妹紅の手から、ペンが滑って机の上に落ち、その音が静まり返った研究室の中に虚ろに響いた。妹紅の口が小さく動いたように私には見えた。
「…許せねえ…」
10時48分
骨の洗浄が終わったとの妖夢からの報告を受けて、研究所の全員が骨が並べられた台の周辺に集まった。
「法医学捜査に感情移入は禁物だ。みんな辛いだろうが、細部に集中してくれ…私も辛いんだぜ?」
と私は言った。
「はい。まず、頭蓋骨ですが…粉砕されています。恐らく斧のようなものによる正面からの一撃だと思われます。」
妖夢が、一句一句絞り出すようにして報告した。
「なるほど。復元できそうか?」
妖夢はあまり自信はないと答えた。
「咲夜と一緒に根気よくやってくれ。いい経験になる筈だ。それに達成感もある。」
私は言った。
「あと、もう一点。」
咲夜が言った。
「聞こうか。」
「左の第8肋骨背中側と、右の第4肋骨の正面に刺創があります。何か鋭い…ナイフのようなもので刺された傷かと思います。」
「分かった。妹紅のDNA鑑定は?うまく行きそうか?」
「ああ。でも3時間はかかるからもう少し待ってくれ。」
「了解。じゃあ、妖夢と咲夜はすぐ頭蓋の復元に取り掛かってくれ。」
「はい!」
「分かりました!」
12時2分
電話が鳴った。霊夢からだった。
「今から1ヶ月前、つまり11月7日の前後10日間に行方不明になった人物は1人だけよ。今写真を転送するけど。名前は武野瑞稀。1979年12月14日生まれの25歳。11月16日に勤務先に出勤してから自宅に戻っていないわ。」
「仕事は何をしていたんだ?」
「コンビニのアルバイトよ。これから店長を呼び出して話を聞くわ。」
「わかった。11月16日にあの湖の周辺にいた人物もしくは妖怪を徹底的に洗ってほしい。それから…」
「何?それから?」
「被害者は妊娠5ヶ月だったよ。」
「…厄介な事件になりそうね。」
「ああ。私もそんな気がするぜ。」
電話は切れた。私は妹紅を呼んだ。
「DNA鑑定は終わった?」
そう私は尋ねた。
「丁度今終わった所だ。99%肉用のニワトリと一致したよ。間違いない。被害者が最後に酒と一緒に食したのは、焼き鳥か唐揚げだな。そして、この辺で酒類と焼き鳥、唐揚げを一緒に提供している店は私の知る限りただ一軒…」
「『居酒屋みすちぃ』だな?」
「その通り。話を聞きに行く?」
そうしようと私は言い、各種検査薬を忘れないようにと付け加えた。外に出ると、雲一つない冬の寒空が広がっていた。
12時41分
ミスティア・ローレライは在宅だった。店を出すのはいつも夕方6時からだと、彼女は言った。
「ここ最近は、主に人里で営業しているのか?」
と私は聞いた。彼女はそうだと答えた。私は霊夢から転送された写真を見せて、この顔に見覚えはあるかと尋ねた。
「ええ。確か先月の中旬ごろお店にいらっしゃったんじゃないかな?」
「そう。正確には16日に来店している筈なんだが。」
「この人ならよく覚えています。確か焼き鳥を数本、注文していましたね。」
「ありがとう。覚えていてくれて助かったぜ。」
と私は言った。
「じゃ、我々はこれで失礼するぜ。」
「いえいえ、商売ですから。」
と彼女は答え、また今度はお客として来てくださいねと笑顔で言った。
12時58分
妹紅が腹が空いたと言うので、人里の蕎麦屋に入ることにした。
「何にする?」
「…かけそば。」
「私もかけだ…おい店員!かけ二つ!」
私たちは黙々と熱い蕎麦をすすった。先に口を開いたのは妹紅だった。
「これからどうするつもりだ?」
「まずは殺害場所の特定かな。」
「もう一回現場に行く気か?」
「もちろんだぜ。ルミノールは持ってきているよな?」
と私は聞いた。妹紅は黙って頷いた。その時、私の携帯が鳴った。研究所からだった。
「私だ。」
「あ、妖夢です。今、文さんがいらっしゃって…被害者の身元は割れたのかと…ええ。奥の部屋の電話から電話しています。どうしますか?」
すぐ戻るから、それまでは何も言うなと妖夢に言って、私は電話を切った。
「妖夢からだ。鴉天狗が来たらしいぜ。」
「研究所に戻るのか?」
「ああ。済まないが現場には一人で行ってくれるか。岸辺でルミノール反応をテストしてほしい。」
「分かったよ。」
13時11分
研究所へ戻ると、妖夢がすぐ出てきた。
「文は?」
「今、咲夜さんが応接室でお茶を…すぐ会いますか?」
「ああ、そうするぜ。」
そう言って私は応接室のドアを開けた。
「よう、文。」
と私は言った。
「あやや、魔理沙さん。お待ちしておりました。早速ですが、今回の事件について少しお話をうかがってもよろしいですか?」
鴉天狗はそう言って、胸ポケットからメモ帳を取り出した。
「私もあまり時間が無い。質問は手短に頼むぜ。」
私は椅子に腰を下ろした。
「まず…この事件ですが、明らかに殺人事件ということでよろしいですか?」
「無論、その見解だ。」
「えーでは、遺体の発見状況について、差し支えなかったらお聞かせ願いますか?」
「湖底に漁網に入って沈んでいた。」
「殺害されてからどのくらい…」
「死後1ヶ月±10日だ。」
殺害日はほぼ11月16日で確定していたが、私はあえて霊夢に言った通りに伝えた。
「ふむふむ。成程。で、遺体の身元というのはもう分かりましたか?」
「ああ。まだ確定ではないが…遺体は恐らく武野瑞稀。25歳の女性だ。先月16日に行方不明になっている…ん?どうかしたか?」
文の表情が一変しているのに私は気づいた。
「魔理沙さん…今、何ておっしゃいました?」
「ああ?武野瑞稀だよ。
「いえいえ、そういう事じゃなくて…その女性、武野瑞稀は…人里の自治会長、鈴木凛太の不倫相手ですよ!」
「な、何だって!?なぜそんな情報を!?」
「わが社の独自取材です…来週にもスクープしようと思っていたんですよ…ああ、まさか。すぐ号外を刷らないと。失礼します!」
文はドアに手をかけた。
「待てよ!」
私は大声を出した。今、武野瑞稀が死んだことを鈴木凛太に知られるのはまずいと思ったのだ。せめてあと1時間…いや2時間欲しい所だった。
「号外は待ってくれ。」
「…何故です?」
「今、武野瑞稀の死体が見つかったことを鈴木に知られたら、どうなると思う?」
「…」
文は黙っている。
「午後3時まで待ってくれないか?」
と私は言った。
「…3時ですね。分かりました。ですが、何があろうとこの事は3時のニュースで流しますからね?それ以上は待ちませんよ。では。」
文はドアを後ろ手で閉めて出て行った。私はすぐ、霊夢に電話をかけた。時間が無い。
「もしもし?霊夢?私だ。ああ。新しい情報だ。武野瑞稀は鈴木凛太の不倫相手だった…ああ。自治会長の鈴木だ。そう。すぐ家宅捜索したい。令状を発行して…そう。FAXでもいい。頼む。」
13時30分
鈴木凛太の自宅は、人里の一番中心部にあった。私が呼び鈴を鳴らすと、ドアが開いて中肉中背の男が出てきた。
「何か御用で?」
とその男は私を品評会のように眺めまわしながら尋ねた。
「お前が鈴木凛太か?」
と私は言った。
「いえ。私は自治会長の秘書の菊池翔太郎と申します。それで、あなたは?」
「法医研の霧雨魔理沙だ。自治会長を呼んでくれ。捜査令状が出ている。上がるぞ。」
鈴木凛太は背の高い、少しやせ形の男だった。私を見ると彼は慇懃にあいさつした。
「これはこれはどうも…私が自治会長の鈴木です。」
「法医研の霧雨魔理沙だ。長ったらしい前置きはどうでもいい。単刀直入に話そうじゃないか。」
「はあ…単刀直入に…。それで、そういった御用件ですかな?」
「武野瑞稀という女を知っているな?」
鈴木の顔色が笑顔から警戒へと変わった。ビンゴだと私は確信した。
「噂によれば、お前は彼女と不倫していたそうじゃないか。」
「証拠はあるのかね…霧雨君?」
「あはは。証拠と来たか。彼女は殺されたぜ。」
と私は言った。鈴木の表情が険しさを増した。
「私は…私は殺していない。」
「どうかな?妊娠5ヶ月だったそうじゃないか?」
「知らん。一切何も知らん!」
「お前が知らないかどうかは、DNAサンプルを採ればはっきりすることだぜ。」
「拒否するっ!」
「これでもか?」
私はにやりと笑ってポケットから八卦炉を取り出した。
「き…脅迫だぞ!許せん!」
哀れな鈴木は怒鳴った。私は八卦炉に少しだけエネルギーを送った。大体の奴は八卦炉が光っただけで肝を潰すものだ。
「わ、わ、やめてくれ。分かった。サンプルは提供する!」
鈴木は悲鳴に近い声でそう言った。
13時46分
妹紅がまだ戻っていなかったので、私がDNA分析をやることにした。
「妖夢、DNA分析をやるから手伝ってくれ。」
と私は咲夜と一緒にバラバラになった頭蓋と格闘している妖夢に言った。
「はい!分かりました。何を用意すればいいですか?」
「ああ…ピペットとマイクロチューブ。それからPCR用のセット一式だ。そこの棚の上に全部乗っている。」
「これですか?」
「そうだ。」
私は鈴木凛太から採取したサンプルと、被害者の耳小骨内から採取したサンプルをそれぞれマイクロチューブに入れた。
「妖夢。サーマルサイクラーの電源を入れてくれ。最初は98℃で2分。その後98℃で10秒、64℃で15秒、68℃で90秒を35サイクル。終了後4℃で保管だ。」
「了解です。」
「セットしたらこの二本のチューブを入れて、蓋を閉めてスタートだぜ。」
「はい!」
妖夢がスタートボタンを押した。これで1時間10分後にはDNAが300億倍以上に増幅されるという訳だ。
「さて、待っている間に…」
「お茶でも飲みますか?」
「いや…。アガロースゲルの作成だ…」
「あ…すいません…」
「いや…別に謝らなくてもいいんだぜ…」
15時2分
ガチャリと研究所のドアを開けて、妹紅が帰ってきた。
「お帰り。」
と私は言って、ルミノール反応は出たかと尋ねた。
「岸辺の15地点から雑草を採取してテストを行ったよ。最も遺体が沈んでいた場所に近い2地点で陽性だった。被害者は岸辺で殺害されたと見て問題ないだろうね。」
「で、網に入れて湖に投げ込んだと。」
「そうだな。」
分かったと私は言い、武野瑞稀が鈴木凛太と不倫関係にあったことなどを説明した。
「それで、今PCR法をやっている。もうすぐで終わるから、終わり次第電気泳動にかけてみてくれ。親子かどうか鑑定を行おう。」
と私は言って、壁の時計を見た。15時4分だった。今頃文々。放送では速報として武野瑞稀の名を放送している頃だろう。これで親子だという鑑定結果が出たら、あとは鈴木の逮捕状を取るだけだ。
「ふう…」
私は溜息をついて、咲夜にお茶でも飲もうかと言った。
15時31分
咲夜の淹れた紅茶と、吸血鬼姉妹御用達のプリンに舌鼓を打っていると、ドアが開いて妹紅が入ってきた。
「魔理沙、泳動が終わったよ。」
と彼女は言った。
「どうだった?」
と私は尋ねた。
「間違いないよ。武野瑞稀が妊娠していたのは、鈴木凛太の子供だ。」
「よしっ!」
と私は叫んだ。もはや疑問の余地は無かった。武野瑞稀が妊娠しているのを知った鈴木は、口封じのために彼女を殺害したのだ。恐らく、ミスティアの店を出た後に声をかけ、なんだかんだと言って湖まで連れだし、湖畔で背後からナイフを二回―背後から一回、正面から一回―刺した。正面からの一撃が致命傷となって倒れた彼女の頭に斧を振り下ろし、顔を判別不能にした上で漁網に遺体を詰め込み、湖に放り込んだ…と考えれば、すべて辻褄が合う。
「すぐに霊夢に電話するぜ。」
私は受話器を取ろうと手を伸ばした。まさにその瞬間、私の手の下で電話が鳴った。霊夢からだった。
「魔理沙?あのね…」
「霊夢か?丁度良かったぜ。今こっちから電話しようと思っていた所なんだ。被害者が妊娠していた子供は、間違いなく鈴木凛太の子供だぜ。」
「間違いないの?」
と霊夢は電話の向こうで言った。
「ああ。DNA鑑定をやったんだ。間違いない。鈴木が犯人だぜ。」
私は自信たっぷりに言った。
「そう…だとしたら困ったわね。」
「はあ?何を言っているんだぜ霊夢?早く逮捕状を…」
「彼にはアリバイがあるの。11月16日夕方から翌17日早朝にかけて、人里のカラオケ店にいたことが証明されたわ。それに彼…鈴木凛太は、たった5分前に被害者の夫によって自宅前の路上で射殺されたわ。」
私は受話器を握ったまま、口をあんぐりと開けて固まってしまった。
「とにかく、早く現場に来てくれない?」
「わ、分かった…すぐ行くぜ…」
15時47分
鈴木凛太は顔面を散弾銃で撃ち抜かれて死んでいた。即死だった。
「外に出たところを待ち構えていた犯人に狙撃されたようね。」
と霊夢は言った。
「とりあえず、犯人に会いたいぜ。」
と私は言った。何か聞き出せるかも知れないと思ったのだ。
武野忍は身長165cm強、やや色黒で真面目そうな男だった。彼は、まだ自分がした事の結果が分からないような感じで、手錠をはめられてぼうっと立っていた。
「武野さんですね?」
と私は(私にしては珍しく)優しく声をかけた。彼は顔を上げた。
「あなたは…」
「法医研の霧雨魔理沙だぜ。」
言い終わった後で、語尾に「ぜ」をつけるべきでは無かったと少し後悔した。
「ああ、魔理沙さん…。聞いてください。私は…私は…」
彼の話によると、3時のテレビの速報を見て鈴木が犯人だと思い、鈴木邸の斜め向かいに路上駐車して様子をうかがっていたらしい。
「絶対、あのニュースを見たら奴は自宅から逃亡すると思いました。」
と彼は言った。
「案の定、奴は出てきました。車のキーを持って。周囲をかなり気にしている様子でした。私は車から飛び降り、銃の撃鉄を起こして、奴の名を呼びました。」
「うん。それで?」
「彼は銃を持った私を見て、待ってくれ、これは誤解だと言いました。私は、ならばなぜ逃げるのかと尋ねました。無論、銃は奴の顔に狙いを定めていました。彼は何か言おうとしましたが、その時、恐らく私の姿を見た人でしょう。誰かが人殺しだと大声で叫んだんです。私はもう無我夢中になってしまって…気づくと、血まみれの奴が足元に転がって死んでいました…」
「なるほど…」
「それで…先ほど霊夢さんからこいつには妻が失踪した日のアリバイがあったと聞いて…私は無実の人を殺してしまったのかも知れません…」
そう言って彼は涙ぐんだ。
「いや、そいつは違うぜ。」
と私は静かに言った。
「奥さんは…妊娠していたんだよ…鈴木凛太の子供をね…」
「な…何ですって!?」
「さっきDNA鑑定が終わったばかりだが、十分信用できる結果だ。安心しな…こいつは殺されるべくして殺されたのさ…」
私は目をつむった。誰も、何も言わなかった。
突然電話が鳴った。研究所からだった。
「私だ。」
「あ、魔理沙さん。妖夢です。今鈴仙さんが来て、見てほしいものがあると…はい。ニュースを見て来たそうです。16日夜8時頃にあの湖の周りを車で通ったそうです。で、その時一組の男女とすれ違ったと…ええ。薬の販売の帰りです。はい。ええ、ドライブレコーダーの記録があるそうです。是非見てほしいと。」
16時20分
「早速映像を見せてくれ。」
研究所に帰るなり、開口一番に私は言った。咲夜が部屋のLEDを消した。スクリーンに、ドライブレコーダーの映像が映し出された。車はひたすら、湖の脇の道を走っている。しばらくは何の変哲もない映像が続いた。
突然、道の向こうから男女が現れた。
「止めて!」
と私は叫んだ。間違いなかった。女は武野瑞稀だった。
「男は鈴木じゃないみたいだな。彼はもう少し背が高いはずだ。」
と妹紅が指摘した。
「待って。この男、見覚えがあるぜ。」
と私は言った。事実、その中肉中背の体型に見覚えがあった。
「菊池だ…。鈴木の秘書の菊池翔太郎。奴が犯人だ!」
私からの連絡を受けた霊夢達によって、菊池翔太郎は自宅で逮捕され、殺人容疑で起訴された。彼は鈴木に指示されて武野瑞稀を殺害したことを認め、2006年3月28日、幻想裁判所第一小法廷(裁判長:四季映姫)は彼に銃殺刑を宣告し、刑は即日執行された。
20時31分
「頭蓋の復元、やっと終わりましたよ!」
奥の部屋から出てきた妖夢は、研究室の机で書類を書いていた私に言った。
「ああそうか…お疲れ。」
「魔理沙も随分と疲れた顔をしているぜ?」
と妹紅が言った。
そうかと私は言った。怒涛のような一日だったことは確かだった。
「…なあ。事件も解決したことだし、ミスティアの店に行かないか?」
と私は提案した。
「いいわね!それ!」
私たちは外に出た。澄んだ夜空に、冬の大三角形が綺麗に輝いていた。
最後までお読みくださった方。ありがとうございました。「法医研の魔女」、いかがだったでしょうか。全体的にスピード感を意識して書いてみました。第二弾も只今原稿執筆中です。ご期待ください。