前世男なTSっ娘と愛情表現が熱烈な百合っ娘のお話。
オチがお下品なのは気にしないでください。

※先月くらいに書いた即興小説トレーニングの短篇を手直ししたものです。

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オチは下ネタです。

 どしん、という衝撃が体内に響いた。

 ベッドのスプリングが軋み、羽毛を使っているらしい布団が空気を吐き出す音が聞こえる。自分のものとは違う、どこか甘い感じの香りが鼻腔をくすぐってから、俺はやっと、自分が目の前の少女に押し倒されたのだという現実を認識、

 

「待て待て待て待て」

「何がです?」

「いや。何じゃなくて!」

 

 俺はそう言って、自分の上にのしかかっていたゆめの肩を押す。

 押されたゆめはというと、力をかけた分だけは律儀に下がってくれるが、根本的に俺の上から退くつもりはないようだった。

 

「だからさ? 前にした話覚えてるよな?」

「はい」

「覚えてるのになんで??」

「確かに覚えてますけど……それで? むしろ好都合じゃないですか? あれってGOサインって意味じゃないんですか?」

 

 小首を傾げるゆめは、本気の本気でそう言っているようだった。…………いや。それじゃそもそも論がつながらないだろうが。

 

「ゆめ……お前、女の子が好きなんだろ?」

「最初に会ったときからそう言ってましたよね?」

「あのさ……それじゃあなんで俺のこと押し倒してるの? 俺、男なんだけど……」

「……はぁ」

 

 俺の問いに、ゆめは溜息を吐いた。まるで、『何を分かり切ったことを言ってるんだかこの人は』とでも言うかのように。

 そして、実際に言った。

 

「何を分かり切ったことを言ってるんですか先輩」

 

 本当に、初歩の初歩、基礎的な前提を語るように、当たり前な常識を説明するように、ゆめは人差し指を立て、今まさに押し倒している俺に注釈する。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 私は女の子が好きな趣味を持ってますけど、流石に前世までは不問ですよ」

 

***

 

 自我が芽生えた時期――つまり物心ついた時期ってことだが、俺はその時期がいつか、はっきりと覚えてる。

 ずばり、生まれた瞬間だ。

 端的に言って、俺は前世の記憶というのを持って生まれた赤ん坊だった。そして、前世は男だったが、今世は女の子として生まれてきていた。

 当時は、まぁ自分が転生した事実も含めて色々考えたし、中学時代にふとした拍子でぶり返したこともあって――いわゆる中二病の発症ってやつなのかもしれない――まぁ、その頃のことは思い出したくないが、そんな感じで色々折り合いをつけつつ、女の子としてそれなりに人生を謳歌してきた。

 ただ、そんな俺にも折り合いをつけられないことはあった。

 つまり、自分の心の性別だ。

 俺の前世は男。そして、そんな男の前世を引き継いでいる精神の性別もまた男、なのだ。

 転生とか関係なく、こういうのは性同一性障害――なんてものに分類されるのかもしれないが、生憎俺は自分の服装やら何やらについては『折り合いをつける』ことができた。可愛い私物を集めるのも今となってはそれなりに好きだし、甘い物だって好物だ。

 じゃあ何が折り合いをつけられなかったのかというと、恋愛対象だった。

 女の子が好むもの――可愛いぬいぐるみやらオシャレなファッションやら胸がきゅんとする少女漫画やらは好きになれた。

 小学生の頃に二つほど買ったまるくて大きなもふもふのぬいぐるみは、今も疲れたときは二つ抱えて布団の中で顔を埋めているくらい気に入っているし。

 部屋には俺が開脚しても全身が映るくらい大きな鏡だってある。これは、『ファッション以外の用途』にも使うことがあるけど。

 でも、女の子が好きになるようなスカしたイケメンを好きになれなかったのだ。

 …………というか、前世で男の立場だったことがあるから、そういうヤツが裏でどんなことを考えてるのかとか、そういうのを分かっちゃってるから、周りの子みたいに幻想を抱けないっていうかね……。

 そういうわけなので、まぁいまどき恋愛しない女子というのもそれなりにいるし、俺もそういう路線で仕事に生きるキャリアウーマンの道を進もうかなー、なんて思っていた高校二年の春だったのだ。

 それが、どこでどうして、こうなった?

 

 深松ゆめは、俺の後輩――高校一年生の少女だ。

 入学したてのとき、行き先が分からなくて軽く迷子になっているのを見つけて、放っておくのもかわいそうだなと思って道案内してから、なつかれた。廊下で会うたびに元気よく挨拶してくれるし、俺も後輩とか好きな性質だったから悪い思いはしなかったしで可愛がったりもしていた。

 いつの間にか俺が所属している料理部に入部してきてからは、プライベートでもよく会ったりするようになったわけだ。

 そんな感じで二か月ほどが立ち、俺はゆめの家に遊びに来ていた。

 そして、押し倒された。

 

「…………そ、その、ゆめが女の子が好きってことは、前に聞いてたけど」

 

 そう。

 あれは一か月前くらいだったかな。

 いつもは明るくて不敵で世界が滅んでもこいつだけは生き残りそうだったゆめが、凄く落ち込んでた時期があってさ。

 そのときに色々相談に乗ってやって、その流れでゆめが『自分の好きなものが人と違う』ってことに悩んでいたことを聞いてたんだ。

 俺はカウンセラーとかじゃないし、あんまりそういう踏み入ったことについてアドバイスはできなかったけど、一応、俺も『自分が他の人と違う』ことで悩んだ経験はあったから。

 だから、俺なりに、自分の経験から分かったこととか、そういうことを言って励ました。その甲斐あって、ゆめはわりと早めに立ち直ってくれたからよかったけど。

 

「なんで俺のことが好きに? 前にゆめが落ち込んでたとき、俺の前世の話したよな?」

「ええ、聞きました。とても嬉しかったです。その口調も含めて――先輩が誰にも言ってなかった秘密を打ち明けてくれたんですから」

「あれ!? ちょっと待て、あの一件って落ち込んでたお前を慰める感じの流れだったよな!? なんで俺が秘密を告白したイベントみたいになってるの!?」

()()()()()()

 

 ゆめは意味深に笑いながら、そう言った。だからって……どういうことだ? 分からん。ゆめの中では繋がった話なんだろうか。

 

「……ちょっと待て。ゆめが俺のこと好きなのは分かったけど、それが俺を押し倒す理由にはならないよな?」

「なりますよ。好きなんですから押し倒しもします」

「押し倒さねーよ!! 俺がお前の立場なら絶対捕まるアレだから!」

「女の子同士ですし、そもそも私は拒否しませんし」

「ああそうだった俺女だった……じゃなくて! なんかこう……段階をスキップしすぎなんだよ! そういうのはもっと、お互いが仲良くなってからだな……」

「愛は段階を超えますよ?」

「そんな愛は国境を越えるみたいなこと言われても!」

「国境どころか、性別も越えますからねー」

 

 しみじみと言われても困るから。

 

「…………先輩、男に興味がないって言ってましたけど、女の子にも興味ないんですか?」

 

 そんな感じで渋ってると、ゆめは少し不安そうに眉根を寄せて、俺に問いかけてきた。……そこで不安になるくらいなら、俺のことを押し倒しているこの体勢を解除してほしいんだけどな。俺、けっこう華奢だからこういうときにゆめを押し返せないんだよ。不本意ながら。

 

「別に興味ないって訳じゃない。可愛いものは好きだって話したろ?」

「……それって、人を好きになるのとはまた別の感覚ですよね?」

「んー、なんていうかな。俺の『折り合い』の付け方って、そういうことなんだよ。可愛いものが好きだからその延長線上で女の子が好きなんじゃなくて、女の子が好きだから、女の子に付随してる可愛いものも好きになれた。だから、当然女の子も好きだ。折り合いをつけてるだけで、別に心が変わったわけじゃないしな」

「だったら問題ないじゃないですか」

「後輩から押し倒されたらそういうの抜きにしても色々動揺するだろ!」

 

 そう言うと、流石にゆめもそうだと思ったのか、やっと俺の上から退いてくれた。上体を起こした俺の横に、ゆめは座って言う。

 

「でも、それだけじゃないですよね。先輩、私と接してる時一度も『そういう』目で見たことなかったですし」

「まぁ、そりゃなあ」

 

 女は男のそういう目が分かるって言うけど、まぁ俺もここまで長いこと女をやってればなんとなくそういう視線を感じたことはある。だから、ゆめの言ってることも分かる。

 ただなあ。

 

「女として生きてきた期間が長かったからかな。『そういう』対象としての距離感を、忘れちゃってるんだよ」

 

 確かに、恋愛対象は女性だけどさ。

 同時に、女として生きてる俺は、友達も女性なんだよ。

 そういう風にして生きてきたら、なんていうかこう……慣れてくるんだよ。女子のコミュニティとつるんでる男子は女子化するって話、前に聞いたことあるけど、そんな感じ。女性のことをいちいち恋愛の対象として見なくなるんだよね。見れないって訳じゃないんだけど、そういうモードに入るためのスイッチがおそろしくかたくなるというか。

 

「それです!」

 

 改めて自分の精神について分析してみていた俺に、ゆめがビシイ! と勢いよく指を突きつけてきた。

 それって、どういうことだ?

 

「先輩、全然私のことを女として意識してくれないじゃないですか! だからこう、最初に一発ダメもとで押し倒してみよう、と!」

「………………ギャンブラーだなぁ」

 

 それで俺にドン引きされたらどうするつもりだったんだか。

 

「まぁ悪いことにはならないと踏んでましたので。先輩ですから」

 

 ナメられてるのかな?

 まぁいいけどさ。実際、このくらいなら別に気にしないし。

 

「ここまですれば、分かりましたよね。私の気持ち。気持ちを伝えるだけじゃなく、押し倒しまでしたんですから。いやでも私のこと、女として見てしまいますよね」

「いや、あのな……」

 

 あまりにも堂々としすぎていて、ちょっと俺としても困惑気味だぞ……。

 確かに、『俺のことを好きな子なんだな』っていう意識は生まれたけどさ。でも…………なあ、そういえば『そういう』話は一度もしてなかったから、ゆめが分からなくても当然なんだけど……。

 そもそも、俺がゆめのことをそういう目で見てなかったのには、根本的な理由があるんだよな。

 

「ゆめ、そういえば言ってなかったから言うけどさ」

「なんです!?」

「俺、胸が大きい子が好きなんだ」

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 うわーん自分がデカ乳なんだからそれでいいでしょー、なんて悲鳴とともに、俺はもう一度押し倒された。

 …………一応、自給自足もしてるんだけどね?




ヒント1・()()()()()()()()()()()()大きな鏡
ヒント2・巨乳好きで自分も巨乳
ヒント3・タイトル

これらのヒントから導き出される、自給自足の真相とは……。
リアルに、男成分の強いTS娘ならそういうことになりそうですよね。


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