続きは、原作カゲプロの設定とか、当時の構想を忘れたのでかけまてん。うける

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おいしかったけど、途中で飲み物が切れて辛かったです。ピーナッツはそれほど好きじゃないけど、一緒に食べないと辛いというジレンマ。


『関係ないけど、昨日柿の種食べ過ぎました。』

「…………いや、だからよ」

 ある日の昼休み、シンタローは心底呆れた顔で私を見て、説明を再開した。

 私はというと、きっといつもと同じ困り顔をしているだろう。

 途中まで説明して、シンタローは顔を上げ、私の表情を見て、遂には匙を投げた。

「だーーっもう、お前の頭はどうなってんだ……スポンジか?」

「たはは……。いやでもシンタロー! 私の頭がスポンジなら、水を吸収するようにすらすらっと公式も覚えちゃうはずだよーとか、なんとか……」

「黙れ」

「あう」

 シンタローはこちらを一睨みした後、だらりと背もたれに体を預け、自販機で買ったのであろう飲み物を飲み始めた。

 ちなみにその飲み物はシンタロー愛飲の某黒色炭酸飲料だ。

 缶を高く持ち上げ大きく呷ると、「ぷはあぁ……」とだらしない顔をした。これは他のクラスメイトには見せられない、とさりげなく体をずらして目線を遮る。

「にしてもよぉ。お前なんでそんなに物覚えがわりぃのかね……」

「え、えへへ……。なんでだろ……。で、でもでも! ヒーローの必殺技とかならポーズまでビシッと覚えてるからね私は!」

「それがお前の将来のためになるならじゃんじゃん覚えてくれ……」

「あ、あはは……」

 相変わらずシンタローは手厳しい。その呆れ顔からは、鋭くも既に諦めた感のある罵倒が湯水のように流れ出る。これはもう、シンタローの必殺技なのではないか?そうだなぁ、名前は……デストロイ……マウス……ストr

「おい」

「ひゃい!?」

「ひゃいってお前……そんな驚くことないだろ」

「え、いや、あはは……」

 くだらない妄想がばれて怒られたかと思ったなんて言えない。

「な、なんでもないです……じゃなくて!どうしたの?」

「おう、次の期末考査はいつだ?」

「え? えっと……十日後だよね?」

「そうだ。」

 シンタローは、人差し指と親指の間に挟んだペンをくるくると回しつつ、続ける。

「お前が今度の期末が危ないっていうから、貴音さん達の誘いも断って、貴重な昼休みを消費しながらお前に勉強を教えてるんだ。確認できたか?」

 シンタローは説明に合わせて振っていたペンをピシッと私の鼻先に突きつけた。

「う、あ、ご、ごめんなさい……」

 私が肩を落とすと、シンタローは少し狼狽えた。

「あ、いや、そう気を落とさなくても……と、とにかく! お前に勉強を教えてる訳だが、お前は絶望的に物覚えが悪い」

「う、うん……」

「そこでだ。追い詰められたらお前もきっと火事場の馬鹿力的な感じでいい点を取れる筈だ」

「ん、んん? ちょっと強引なんじゃないかな……?」

「お前の頭にゃこんくらいで丁度いいんだよ。そこで、だ」

 またもやペンを私の鼻先に勢いよく突きつけると、シンタローはこう言った。

「お前、学年全体で五十番以内に入れなかったら好きな奴に告れ」

 思考停止。

 意味を咀嚼、反芻。

 一拍置いて理解。そして、

「えぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」

 絶叫。

 その後、私がシンタローに激しく(涙も見せながら)反抗したため、クラスの女子は「シンタローが私に何かしらの酷いことをした」と解釈したようで、二、三日シンタローは針の筵状態だった。

 

――同日、放課後。

 

 私は貴音さんと帰宅途中、そのことを貴音さんに愚痴ってしまった。愚痴るのはいつもは貴音さんの役目だし、元来私はほとんど愚痴などこぼさないので、貴音さんは大層珍しそうに私の話をうんうんと相槌を打ちながら聞いてくれた。

 話し切って、一息つくため途中にあった自販機で飲み物を買っていると、黙って聞いていた貴音さんがボソッと、「あいつ面白いこと考えるわね……」と呟いた。

「面白いことって……。困ってるんですよ?」

「え!? あ、いや! そんなこと言ってないよ!?あいつひっどいこと考えるなぁって思っただけ!」

「本当ですか……?」

 こちとら告白するしないの瀬戸際だ。もし告白するとして、それに成功するか失敗するかによってその後の学園生活の色が決まってしまう。

 しかもその相手は……あぁ、言えない。これは言えない。

「で? 誰が好きなの?」

 一人、告白した時の妄想をして青くなったり紫色になったりしていると、貴音さんが興味津々な顔で核心を貫いてきた。

「えっ!? あっ、えっ? え、えぇー、い、いませんよっ!?」

 挙動不審過ぎる。

「えーっ、そっかー、いないのか……」

 素直か。

「ってな訳ないでしょ」

 ですよね。

「ですよねぇ〜……。あ、あの、黙秘権を……」

「却下」

「あう」

 まずい。これはまずい。

「う、うぅ、ううう!!は、入れなかったら!!五十番以内に入れなかったら!!教えますよ!!」

「えー? でも……ま、いっか。アヤノちゃん、約束は守ろうね?」

「も、モチロンですよ〜!」

 更に外れられなくなった。

 

――同日、帰宅後。

 

「ただいま〜……」

明らかに語尾のイントネーションが下がっている。これはマズい。明るく振舞わなければ。

「お帰り姉ちゃん!」

玄関で靴を脱ぎながらどう気持ちを鼓舞しようか考えていると、弟が出迎えてくれた。

「あ、カノ! ただいま〜」

「うん。学校どうだった?」

「え? 楽しかったよ?」

 いつもはこんな事を訊く子ではないのだが。と思ったのも束の間、ニッコリと笑ったまま、

「でも今元気なかったよね?」

 と訊いてきた。やばい、早速ばれた。ここは誤魔化さなければ。

「えぇっ!?そっそそそ、そんなことあるわけなみっ!?」

 私はどれだけ嘘が下手なんだ。そしてどれだけ土壇場に弱いんだ。挙動不審な上に噛むとは。

「どうしたの? なにか酷いとこされたの? まさか……あの如月シンタローとか言うやつ?」

 ニコニコと笑ったままやけにガツガツと訊いてくる。

「えぇっ、いや、シンタローは関係……あるけど……でもでも! 酷いことなんt」

「やっぱりあいつなんだね?」

 満面の笑顔のままズイッと乗り出してくる。

「そっ、そうじゃなくて! っていうか……」

 乗り出してきたカノの額に素早くデコピンをくらわせる。「痛っ!」という声と共に笑顔が剥がれ落ち、その後ろから恐ろしい形相のカノが出てきた。

「なにすんの姉ちゃん……って、あ……」

「そんな怒んないの! 元気ないのは……まあ、事実だけど、これは私の問題なんだから!」

「ほ、本当に? あいつのこと庇ってたりしない?」

「本当だってば! それに、シンタローはそんな悪い子じゃないよ?」

 私から悪い奴じゃないと言われたら引き下がるを得ないだろう。カノは「……姉ちゃんがそう言うなら……」と奥の部屋に戻って行った。

 その後、部屋のほうから「なんでもないって!」「うぐっ」という声が聞こえてきた。大方、笑顔を貼り付けるのを忘れて、それを見たキドを誤魔化すのに失敗したのだろう。密かに笑いながら私は自室に戻った。

 

――同日、午後八時。

 

 お風呂から上がった私は、髪を自室で乾かしながら、どのように勉強をするかを考えていた。

「んん……真面目に勉強なんてしたことないしなぁ……。宇宙人先生なんて言ってたっけかなぁ……」

 髪を乾かし終わり、取り敢えず頭の高い位置で括る。

 机に向かい、幾つかの教科書をパラパラとめくってみるが、私の脳に何が起こるわけもなく、起こるのは勉強への拒絶から来る目眩ばかりだ。

「どうしたもんかねぇ……」

 こうなったら誰かに勉強法を教えてもらうしかない。

 シンタローは授業を聴いてれば簡単だと言っていた。あの子くらいの頭なら一度聞いたことは一発で完全に理解するのだろう。私には無理だ。

 貴音さんは……

………………

「ま、無理だよね……」

 正直私と学力はどっこいどっこいだ。勉強法を聞いたところで苦笑いのにらめっこが始まるだけだ。

 となると。

「遥さんか……うん、適任な気がする。というか遥さんしかいない!」

 しかし、「勉強を教えてください」なんていうメールを送りつけたところで、分かりづらい文章(通称遥語)の長文メールが返って来るのがオチだろう。

 長文どころか、あの口下手な遥さんだ。むしろ日本語のルールを無視した難解な暗号か独創的な詩なんかが返って来るかもしれない。

「………………」

 私は静かにノートを閉じ、ベッドに潜った。

 明日訊けばいいや。

 

「お前らはほんっとになんなんだ……」

「あ、あははは……って、お前らってどういうこと?」

机に向かうモモが振り向きざまに訊いてくる。

「こっちの話だ。いいからここはどうしてこうなった。【水素と酸素が化合した場合の化学反応式を書け】。」

 説明するのも面倒なので、理解したかどうかのチェックも兼ねて話を逸らす。

「え? あ、これはね! 珍しく自信あるよ! 酸素はSansoとSuisoでSansoSuisoでしょ!」

アホか。

「アホか」

「あいでっ!」

 ゲンコツ一発。

 学校では死ぬほどバカな友達に勉強を教え、家では死ぬほどアホな妹に勉強を教えるとは、またなんという厄日だ。

「にしてもなんで急に勉強教えろだなんて言ってきたんだ? お前、あんましそういうのなかっただろ」

「いやぁ、さすがにこのままだと来年の受験の時に泣きを見るかなぁってね……」

モモは頭を掻きながら言った。

「ふぅん。お前にも危機感なんてもんがあったんだな。」

「なっ、そのくらいあるよ! 私を舐めてるんじゃない!?」

既視感。

「はいはい。わかったから原子の作りからもう一度教科書朗読しろ」

「うぇえ……もう五回目だよ?」

「五回も読んでまだSuisoとか言ってんのはどこのどいつだ馬鹿野郎。いいからさっさと読め」

「は〜い……」

こいつらの頭は本当にどうなってるんだ。一度精密検査を受けさせた方がいいんじゃないか。

それにしてもアヤノだ。あいつはどうしてあんなに物覚えが悪いんだ。素直な性格してるんだからすんなり頭に入ってくれそうなもんだが……あぁ、入った先からすり抜けてるのか。さすがスポンジ。

アヤノのことだし、今頃必死になって勉強を始めてる頃だろう。……いや、あいつ勉強法なんて知ってんのか?

遥先輩あたりにメールで訊いてそうだな……。まぁ、寝てるだろうが。

そんなことを考えながら体を伸ばしていると、モモが「わかったお兄ちゃん!Satoでしょ!」とか言い出したので、ゲンコツかまして怒鳴りつけた後、諦めて部屋に戻った。無理だ、あいつに勉強教えんのは。

部屋に入り、後ろでにドアを閉めてベットに倒れこむ。

「あーー……疲れたぁ……」

なぜこんなに物覚えが悪いとかそんな概念を超えた馬鹿共に勉強を教えにゃならんのだ。はや○先生でも無理だぞこれ。

……ん?今日はやけにエネが静かだな……

え?

ガバッと起き上がって机の上のモニターを見る。

黒い画面に写った自分の顔を見て、強烈な違和感と喪失感を覚える。

それがなんなのかわからない。パズルのピースがその部分だけぬけてしまっているような……

……俺は今どんな感覚を感じていた?その前に、俺は何を思っていた?

俺は一人呟く。

「……は? エネ……? 誰だそりゃ」

馬鹿の相手し過ぎてついに俺までおかしくなったか。馬鹿らしい。

そのまま後ろに倒れて、ゆっくりと意識を眠りの底に沈めて行く。

少しづつ、意識が途切れて行った。

 

目を開ける。

窓から差し込む光はすでに橙色に色付いている

ここは、教室?

誰もいない教室で、俺は何をするでもなく窓際の自分の席に座っていた。

『シンタロー』

 ハッと気がつく。目の前にアヤノがいる。

「アヤノ……? なにしてるんだよお前」

『シンタローこそなにしてるの?』

「え? 俺は……」

授業はもう終わったんだっけ。あれ?今日はなんの授業があった?その前に俺は今日どうやって学校にきた?なんで俺はパーカーを着てるんだ?今日は何曜日だ?俺は

『シンタロー』

「え?あ、あぁ、なんだ?」

『シンタロー。さよならだよ』

アヤノは悲しそうに微笑む。

「さよなら? 何いってんだよ。授業……はもう終わってんだよな? ほら、帰るぞ。っつーか鞄持って来てんのか? これどうなってんだ……」

『さよならなんだよ。もう』

そういいながらアヤノは窓の方を向く。

「だから何いってんだよお前……」

『また、逢えるといいね』

「なんの話してんだよ……!」

気付いたら、俺は涙を流していた。自分でもなんで泣いているのかわからない。

「待てよ……待ってくれよ!! 往くな!! 往かないでくれ……!!」

手を伸ばす。

優しい笑顔で。

アヤノは、ゆっくりと、窓から落ち

 

 

「アヤノ!!」

飛び起きた部屋は、昨日の夜となにも変わらなかった。

全身汗びっしょりで、目からは涙がまだ溢れている。

窓から差し込む光は、今度は暖かい日差しだった。

 

――翌日、昼休み。

 

「……ってこと。わかったかな?」

「………………」

「……アヤノちゃん?大丈夫?」

「キャパ超えたか……」

 要するに、勉強が出来る人は頭の作りが違うということが学習できた。多分これはテストにでない。

 というかそもそも、遥さんに教えてもらおうといった考え自体が間違いだった。

「やっぱ無理っすよ。教えても無駄です。俺が教えてもできなかったんだし」

 認めたくはないが認めるしかない辺りがとても辛い。

「ちょっと自惚れ過ぎじゃない?いくら頭いいからって……」

「でもシンタロー君は教えるのすごく上手だよ?」

「確か先輩にも教えましたよね?分かり難かったっすか?」

 これはとてもひどい笑顔だ。

「いや……それは……その……」

「わかりやすかったって悔しそうにしてたよ〜」

「遥‼︎」

 そんなやり取りを横で聞きながら、必死に範囲を頭に詰め込む。

 なんでこんなに難しいの。授業を聞いてなかったからですか。聞いてても多分無理でしたよね。

「にしても、ここまでとはな」

「うぅ、シンタロー。ここまでがんばったんだから、あの話は無しに……」

「ならん。道中頑張ろうが結果が出なかったらその道中が無駄になるわけだしな。結果が全てだ」

「あぅ〜」

 ド正論だ。ぐぅの音もでない。

 それにしても今日は暑い。まだまだ六月初めのはずだが、既に真夏日のようだ。

 屋上にかんかん照りの陽光が降り注ぐ。外でやれば気分転換にもなるかという遥さんの提案だったが、これは逆効果だったようだ。フラフラしてきた。

「アヤノちゃん、なんか顔赤くない? 大丈夫?」

 そ、そんなに私の顔は赤いのか……

「あ、あはは……普段使わないとこを使ってる上に太陽でオーバーヒートしちゃいましたかねぇ!ちょっと飲み物買ってきますね?」

 立ち上がろうとした瞬間、世界が揺れた。足に力が入らず、青い空が反転した。

「アヤノっ!?」

 視界は回るが、不思議な事に重力は感じない。視界の縁がゆっくり白くなっていく。

 瞬間、目の前が赤く染まってすぐにブラックアウト。

 どうやらコンクリートの床にぶつかる前にシンタローに受け止められたようだ。礼を言おうとしたが、口が開く前に目の前が真っ暗になった。

 

――同日、放課後。

 

「……んん、んぇ?」

 目を開けると、真っ白な天井と真っ白な蛍光灯が見えた。

 消毒液の独特な匂い。ここは……

「やっと起きたか。このバカ」

 覗き込んできた仏頂面はいつものシンタローだった。

「うぇ、起きて早々バカはひどいんじゃないかな……」

「熱中症になるまで勉強するバカがどこにいる。ここだ。それをバカと言って何が酷いか」

「うぅぅ……すいません……」

 熱に弱くキャパシティの少ない頭に強引に詰め込もうとした結果、気づかない内に軽度の熱中症を引き起こしてしまったようだ。

「先生、こいつ起きたみたいです」

 シンタローが保険の先生に報告しに行ったみたいだ。本当に情けない。

 窓から差し込んでくる陽光の色合いからしてもう放課後だろうか?これでは、五限六限は実質サボりみたいなものだ。

「ったく、ほら、起きれるか?」

 戻ってきたシンタローが手を差し出してくれる。

「うう、ごめんね? ありがと……」

 手を取りながら謝り、お礼を言う。ふとシンタローを見ると、その顔はなんとも言えない表情になっていた。

「……お前、なんて顔してんだ」

「え? ……えっ⁉︎」

 バッと後ろを振り返ると、自分が頭を乗せていたあたりに丸い染みができていた。

「あっ、あ! あわわわわ!!」

 慌てて袖で口周りを拭く。

「全く……呑気なもんだよ。こっちは心配してやってるっつーのに……」

「うぅ……ごめんなひゃい……」

 これは恥ずかしい。大失態だ。今日はなんだ、厄日かなにかなのか。

 涎を拭いたついでに寝ている間に乱れた髪を軽く直していると、急にシンタローが私の隣に腰掛けてきた。

 全くの不意打ちに「あえぇ!?」などという不審者じみた声を上げてしまったが、シンタローは気にも留めていないようだった。

「アヤノ」

「はいぃっ!?」

 そろそろ自分でも滑稽に思えてきた。

「お前……どこかに行ったりしないよな?」

「え?」

 シンタローにしては珍しく、抽象的な質問だった。

「どこかって……どこに?」

 するとシンタローは、なにかを思い出したかのように苦い表情になった後、みるみる顔をあかくしていった。

「い、いや、わかんねえならいい。ほら、早く帰るぞ」

 そう言うなりシンタローは、ベッドの脇に置いてあった自分の鞄を引っ掴んで、肩にかけてツカツカと出て行ってしまった。

「え、ちょ!待って!シンタロー!」

 自分も鞄を掴むと、保健室の先生にお礼を言って駆け出した。

 

 速足で緩やかな坂を上りながら、俺はさっきの自分の行動を思い出していた。

 俺はなにを血迷ったことをしているんだ。なんか変な夢を見ただけじゃないか。それなのにあんなことをして馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しいってか、ものすごく恥ずかしい。

 なんだ、待て。落ち着け。一旦落ち着こう。

 俺は何をした?確か……

 

 あいつの隣に座った。

 

「………………マジかよ」

 思わずその場で顔に手を当てうずくまる。

 自慢じゃないが、俺の女子に対する耐性は極限といえるほど低い。流石に妹とは普通に喋れるし、それなりの時間を共有したこともあって、アヤノとも普通に喋れるようにはなっている。

 だが、普通のそこらの女子ともなると、視線は常に床の上ををウロウロと駆けずり回り、手は体の前でもじもじと絡み合い、舌は思うように動かず、モゴモゴとおよそ人間が意味を持って使用する言語とはかけ離れた音が喉から発生する。

 そんな俺が、アヤノとはいえ、女子の横に座ったと。

 しかも、成行きとはいえ、あいつを受け止めたり、手を握ってたりしたと。

「………………マジかよ」

 数十秒前も同じようなセリフを吐いた気がする。

 そして、そんなキモイやつが隣に座り、「どこにも行かない?」って……。幽霊が怖いガキかなんかか俺は。

 そんなことを考えながら顔をりんごのように赤くしていると、遠くからパンプスがアスファルトを叩く音が聞こえてくる。

 音のする方に顔を向けると、赤いマフラーを尻尾のように揺らしながらアヤノが駆けてくるところだった。

 「シンタロー!待ってって言ったのに……ハァ……酷いよ……」

 アヤノはだいぶ息せき切って走ってきたようだ。そういえば置いてきてしまった事を今更ながら思い出す。

「え、あ、うおお、わ、わりいアヤノ!」

 そこで思い出す。この坂を上り切ったところに公園があり、公園を少し過ぎたところには自販機もあったはずだ。

「先公園のベンチで休んでてくれ。ジュースかなんか買ってくるから」

 するとアヤノは、上気した顔を上げると、首を左右に大きくブンブンと振った。

「だ、だめだよ、私だったら、平気、だから」

「平気なわけあるか!女子は体力ないもんだ。軽く寝て回復したとはいえ病み上がりなんだから、いいから休んでろ。いいな?」

 一瞬、自分で言った『女子』というキーワードにドキッとした。

 アヤノがなにか言いかけたが、聞こえないふりをして駆け出した。

 自販機の前に着くと、すでに息が上がっていた。体力は人のこと言えないな、「などと思いながら硬貨を数枚投入し、炭酸を二本買った。アヤノの息が整う前に戻っても仕方ないので、戻りは走らず心持ちゆっくりと歩いた。

 人差し指と中指、薬指の間にペットボトルの首を挟みながら歩く。目は何となく遠くの方に向く。

 ここらは少し高めの場所にあるので、なにげに町並みを一望できる。

 ビル群や住宅街が密集し、その先に沈みかけているオレンジ色の太陽が見える。

 夢の中もこんな夕暮れだった。夢の中で、アヤノは俺に別れを告げ、窓から落ちた。

 普通に考えれば少し気味の悪い夢。ただ、余りにも生々しく、リアルで、それゆえに不安が拭えないのだ。

 その結果があれだ。

「………………」

 またもや恥ずかしさで顔を抑えてうずくまる。大声で奇声を上げなかった分、まだ褒めて欲しいくらいだ。

「っと、こんなことしてる場合じゃねえな。そろそろアヤノも落ち着いてる頃だろ」

 先ほどより少しばかり急ぎ足で公園に向かう。

 着いてみると、アヤノはベンチに座ったまま寝息を立てていた。

「……まあぶっ倒れたばっかだし、疲れてんのかね。おーい」

 何度か呼ぶが、起きそうにない。まあそれにしても幸せそうな寝顔である。口の端からは一筋の涎が。

 こいつも年頃の女なわけだし、こういうのはあまり見てやらないのが礼儀というものだろう。

「どうしたもんか……あ」

 手に持ったペットボトルを見て閃く。少々ゆっくり来たとはいえ、天下の自動販売機様から出てきた液体だ。二本ともキンキンに冷えている。

 内、アヤノに渡す方を持つと、胴部分を頬にあててやる。

 人間の体温をはるかに下回っている温度を直に肌に当てられたアヤノは、「うぁえ!?」というよくわからない悲鳴を上げながら飛び起きた。

「おはよう」

「え…………あ、え!? ごっ、ごめんなさい!? って、ああ!? 涎が!!」

 笑いを噛み殺しながら挨拶をすると、アヤノはしばらく茫然とした後、慌てて謝りながら涎を拭き始めた。

「おう。ほら、飲み物」

「あ、ありがとう」

 羞恥からかアヤノは顔を背けながら飲み物を受け取った。

 アヤノから少し離れてベンチに座った。公園には俺とアヤノ以外誰もいない。

 夕焼け空には、すでにいくつかの星が瞬き始めていた。

 無言で空を見ながらペットボトルを傾けた。特に話はしないが、不思議と心地よかった。このまま帰りたくなかった。

「そろそろ帰ろっか」

 アヤノは、空になった容器を少し離れたごみ箱に投げながら、そう言った。

「……おう」

 ベンチから立ち上がり、アヤノが入れ損ねた容器を拾い、自分のと一緒に捨てた。鞄を取り、公園の出口で待っているアヤノのところへ軽く走った。

 アヤノは、俺が来るのを見届けてから、振り向いて歩き出した。俺も後に続く。

 帰り道も無言だった。俺は考えていた。今感じているこの感覚はなんなのか。

 とっくにわかっているはずだった。だが、自分ではわからなかった。

 この感覚が、いや、この感情が芽生えたのは。

 アヤノが女子だからか?それとも、アヤノだからか……?

 あの夢のせいだったりするのだろうか。

「シンタロー?」

「え?」

 気づくと、いつもアヤノと別れている十字路だった。

「あ、あぁ。なんだ?」

「いやぁ、なんか真剣な顔してるなーって」

 アヤノはそう言いながら頬を掻いた。

「いや……あの約束のことなんだけどさ」

「え?うん」

 アヤノは少し意外そうな表情をした。

「嫌なら……やらなくていいんだぞ」

 本当に嫌なのは誰なのか。俺は卑怯だ。

「……ううん。ちゃんと約束は守るよ」

 アヤノは迷いなく、首を振った。正直意外だった。一も二もなく飛びつくと思っていた。

「いや、でも、本人の意思を無視して強制するなんてマネ、正直俺も胸糞悪くてさ……」

「ううん。私も、勇気が足りなかったんだ」

 アヤノは少し顔を赤らめて言った。可愛いと思った。頭がその言葉の内容を理解するのを拒んだのかもしれない。だが、脳の一部はしっかりと、その真意をくみ取っていた。

 

アヤノには好きな人がいる。

 

 鈍器で頭を思いっきり殴られたようだった。

 わかっていた事だった。そのうえであの提案をした。

「……そうか。じゃあ、ちゃんと守れよ?」

「うん、わかってる。ていうか、点数とれない前提なんだね……」

「当たり前だろ? 俺が教えてもわかんねぇやつなんだから」

「うぅ……返す言葉もございません……」

 俺はいつのまにこんなに感情を表に出さない術を身につけたのだろう。いや、きっと、まだ状況を本当の意味でわかってなかったのか。

「じゃあな」

「うん。また明日」

 アヤノは大きく手を振り、奥の角を曲がっていった。夕焼けはまた一層濃くなっていた。

 家につき、部屋に入るなり鞄を投げ出し、ベッドに仰向けに倒れこんだ。

 どうしようもない無気力感を前に、俺はどうすることもできなかった。

 しばらくしてから、自分が泣いてることに気が付いた。

 

 

 




みなさんも、今夜の晩酌のお供に柿の種、どうっすか?

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