言葉を失った。信じようがない話だというのに、ロマンとダ・ヴィンチから発せられる雰囲気はそれを否定する。
先ほど入っていた機械の棺桶よりも、冷えていて俺の心に突き刺さってくる。
目を見開き、喉を通る唾液の音さえ大きく感じた。
「いや、すまないね。少し語弊があった、正しくはマスター適性の大部分が欠落しているという状態だね。
マスター適性を持ってはいる、しかしサーヴァントと契約し、従えることが不可能になっているというところか?
他の保管しているマスター候補生の中でも、この事象は多く起きているようだ、君もその中の一人だったんだろうさ」
「・・・原因は・・・なんだ?
魔術は扱える、回路も刻印も失われていはいない、無くなっていたら普通は気付くものだからだ。
マスター適性だけが損傷するなんてことがなんてあり得るのか?」
俺の質問は、藁をも掴むようなもの。
嘘だと言って欲しいという、さぞ悲痛で固まった表情をしていることだろう。
「それなんだけど、原因がよく解っていないんだ。
ボクの推測ではあるけど、レイシフト実験の最中に邪魔されたことで候補生たちに負荷が掛かったんだと思う。
魔術や回路の欠落は関係ない、ただ元々備わっていた才能とか適正自体の大部分が破壊されたんだろうね」
ロマンは歯がゆいといった風にそう口にした。
医者としての矜持なのだろうか。
どうしようもない、患者に対して対処することが出来ないことを苦痛と感じているように見える。
そして何かを決心し、此方に真っ直ぐと眼を向けた。
「マスター適性がない、それはマスターとして能力を発揮できないということになる。
人理修復は多勢のサーヴァントやその時代の人々と戦うものなんだ。
魔術師というだけでは生き残るのは難しいと思うよ。
君には、君にしか出来ないことがあるんじゃないかな」
ロマンの声は優し気だ。
おちゃらけた気配はなく、医者としての本質。
被害を受けた俺に対する思いやりを感じる。
だが、ロマンの言葉は俺を更に苛立たせるのだ。俺にしか出来ないこと、それはマスターとして戦うことなのだから。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
返答をするつもりはない。
今、彼に何を言って平行線になるのだろう、彼は俺をサポートとして扱い。俺はマスターとしてあろうとする。
まだ、思考の纏まらない中、彼を説得、誘導するのは不可能だ。
「え、えっと・・・セージくん、そういえば君の得意魔術は・・・・・・」
口を閉ざした俺に気まずくなった為か、俺の出来ることを質問してくる。
資料に目を通していないのだろうか、いや、この短い間だがこの男の人間性は理解できた。
自己管理能力の無さが見え見えである、当然、資料等に目を通すことはしないような人間。
稀に本気になるようだが、その稀が中々起きない。
保管状態のマスター候補生を治療・保持をしていたことから優秀な医者・魔術師としての能力を持っていると思うが、実に勿体ない男だ。
それで・・・・・・俺の家系、アコニートゥム家を彼は知らないのだろうか。
「・・・・・・アコニートゥムという名に聞き覚えはないのか?ドクター」
「あはははは、何処かで聞いた覚えはあるんだけどね・・・・・・よく知らないんだ、ごめん」
「アコニートゥム家は
魔術師であり医者だというのに、どうして知らないんだ・・・・・・」
「薬学、医学の全てに植物が通じているだろうに・・・・・・」
「というと、キミが出来ることは医療魔術かい?」
「今は一応、そうだと言っておく。
自分の魔術は秘匿するべきことだ、そう簡単に教えるわけにはいかない」
俺がそう答えるとダ・ヴィンチは顔を顰めて、溜息を吐いた
「魔術師というのは実に面倒な生き物だな。
減るものじゃないだろうし、教えても構わないだろうに。
世界の危機であっても性は変わらないものだねえ」
ああ、やはりこの変人は何処か苛立ってしまう。
所詮は芸術家の類の存在、サーヴァントであっても魔術師とは分かり合えないのだろう。
そう思っていると彼はふとなにかを思ったようで。
「そういえば、そんな大層な家系がよくキミを此処に送ったね、
魔術師なんて世界が滅ぼうがどうでもいいような奴らだろう。
高名な家系ほどそういう奴らは多い、ここの所長がちょいと変わってたという認識だったよ。
わざわざ、此処に送られる理由があったのかい?」
「・・・・・・貴方に理由を答える必要はない。
マスター候補生の申請に理由など不要だったはずだが?」
そうだ、関係ない
俺が此処に来た理由、は―――――――
「そうだね、私自身興味本位で聞いただけのことだよ。
無理に聞くつもりはないさ。
面白い話でもなさそうだからね」
おちょくっているのだろうか、いいやそうじゃない。この女、男は元々こういう奴なのだ。
まともに反応するだけ無駄だと言える。
「・・・・・・とりあえず、セージくんは少し休んだ方がいいかもしれないね。
部屋は準備してあるから、落ち着いてこれからこのことを考えて欲しいな。
一人で上手く歩けるかい?」
現状、これ以上俺と話しても、何も得られないと悟ったのか、ロマンが話を切り上げ部屋に向かうよう指示される。
ああ、調度いい、一人になりたかったところだ
俺はその言葉に素直に従い、無言で椅子から立ち上がり、白一色の医務室から退室する。
「大丈夫なのかね? 彼」
「どうだろう、ボクにはまだ解らないかな・・・でもなんとかしないといけない。
人員が増えたこと自体は、喜ばしいことだしね」
俺の居なくなった医務室で不安と期待の混ざった会話が交差していた。
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・・・・・・
・・・
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無機質な迷路染みているカルデア内
同じ光景を何度見たことか、少しはフロアごとに色を変えることが出来ないのかと不満になる
自然の要素もなく、何時までもこの中にいるとなると気が狂うのではないだろうか
自分の部屋を探していると、曲がり角から二つの声が聞こえてくる
嫌な予感だ、会いたくはない、何かされたというわけではない、その存在が俺を苛立たせる
「先輩、目覚めたマスター候補生はどういった方なのでしょう?
上手くやっていけるでしょうか、不安です」
「大丈夫だよ、マシュ。
なにも不安がることは無い、これから一緒に戦っていく仲間なんだから」
幸運しかない、俺に無いモノを持つ一般人という壁にぶち当たった。
◇アコニートゥム家
6代続く植物学科のロードを排出し続ける貴族の家系。
元々はケルト出身であるが、現在はイギリスに根を置いている。
植物改造、薬品調合、植物魔術(プラント・マギア)の扱いに長け、
多くの合成植物(キメラ)や薬草の依頼を他所の魔術師から多く受けている。
生命の樹(セフィロト)の作成による根源へ至ることを目的としている。
数年前、事故により長男が死亡。
次期ロードに任命されるほどの才能を持ち、信頼と期待をされていたとされる。
以下詳細不明
◇植物魔術(プラント・マギア)
アコーニトゥム家が扱う魔術。
植物の持つ原始的な神秘性を組み込んだもの。
一族はそれぞれがこれを元に己が魔術を植物のように品種改良し、次代へ託していく。
応用性自体が高く、肉体や事象に植物的要素に絡めることで肉体の強化や細胞の再生、マナの吸収等が行える。
以下詳細不明