第0節:魔元帥
豪華絢爛な宮殿は血に溢れていた。
床に切断された四肢が溢れかえり、潰されたであろう頭部の付近には脳の一部が零れ。
壁には贓物が衝突したようで、ランプやシャンデリアに吊るされている状態。
一面が人間の潰されて出来た血の海。まさに人間の所業ではない光景。
動く生命体が一つ、人の姿を保っているが、もはやそれは人間とは言えない。
血で描かれた魔法陣、その手に持つは黄金の聖杯。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が王■■■■
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。
―――――Anfang。
――――――告げる。
――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」
爆風と共に光り輝く宮殿内、辺りを包み込む魔力の煙幕。
その中で甲高く、何処か心を握りしめられる男の声が響いた。
「サーヴァント、キャスター・・・ジル・ド・レェ、召喚に馳せ参じました。
汝が私を呼び出した狂乱の主催者と見て、間違いないですかな?」
大きなローブを羽織った長身の男。
フランス元帥にして、地に落ちた大量殺人快楽者。
痩せこけたカエル顔がただじっと飛び出した双眼でシルクハットを被った人型、レフ・ライノールを眺めている。
「ああ、そうだとも魔元帥ジル・ド・レェ。
君はこの特異点において、最も適した破壊者だ」
「ほぉ、私の名前を知っていてあえて呼び出すとは、なんと素晴らしい御方か。
して・・・特異点とは、破壊者とはいったいなんですかな?」
「ハハッ、前者の方は此方の話だ、後者だけ答えよう。
ジル・ド・レェ、君はこの世界が憎いかね?」
レフはにこやかな笑みを絶やさない。
その笑みは下卑た笑み、享楽に悦を感じる吐き気を催し、他社を逆なでるような人外のモノ。
隠しきれない内から溢れ出る狂気の渦は次第に周囲の物へと異常をきたす。
「何を戯言を・・・・・・・・・」
ジル・ド・レェは苦虫を噛んだ苦しい表情を浮かべ目を力強く瞑りながら、振り絞った様子で声を出した。
「そんなもの憎いに決まっているではないですか―――――――――ッ!!!」
喉を裂く溢れ出た狂気の叫び。
激昂にも似た癇癪、彼の怒りは全てに対し向けられている。
国を救わんとした聖処女、腐敗した世界において唯一無二の救世主に彼は神を見た。
しかし、神は彼女を見捨てた。
絶望の中、舌先から発せられる怒号は呪詛でしかない。
「我が聖処女たるジャンヌ・ダルクを穢し! 貶め! 辱めた! この世界を! 神を! 王を! 国家を! 万民を!
私は憎悪せずにはいられない――――――――――――――――ッ!!!」
レフはその答えに更に笑みを増した。
理想の答え、希望の答え、そして破滅の答え。
これ以上にないくらい、彼は世界を滅ぼすだろうという確証。
「そうか、ならばどうする?」
「滅ぼすしか答えはありますまい!!
この世全てを血で染め上げ! 神が居ないことの証明とする!!」
「いいだろう、私は君に期待している。
受け取りたまえ、ジル・ド・レェ。
万能の願望器、我らが王の産物―――――聖杯だ」
「なんと!? 聖杯ですと!? 何故そんなものがこの場にあるというのです!?」
「それに答え等不要だね? 君がすべきことはただこれ使い世界を破壊するということだけだ、そうだろう?」
「・・・・・・・・・ええ、実にその通りです。
この聖杯・・・私が使いましょう、我が掛ける願いはただ一つ」
「興味本位で聞くが、その願いとは?」
「この星が造り上げた偶像にして竜の魔女――――――――――我が理想ジャンヌ・ダルクの再誕でございます」
「―――――――よろしい」
レフは肯定した。
ジル・ド・レェが理想、願い、破滅を
「では此処は君に一任する、素晴らしい働きを期待しているよ。
その手で以て絶望に染め上げろ、邪魔する者どもは踏み潰せ、いいね? 人理を終わらせたまえ」
レフはそう言い、後ろへ振り向くと一瞬で消え去った。
ジル・ド・レェはその事に対しなんら気にすることは無い、興奮が収まることはない。
両手で聖杯を天へと掲げ、請うように聖杯へと告げる。
始まりと終わりの願い
「ええ、言われなくとも。
さあ!! 愛しのジャンヌ・ダルクよ! 目覚めなさい!!
復讐の時は今! 貴女を裁き、貴女を嘲った者達を殺し!!
御旗を掲げ、集う悪霊の群れに告げるのです!!」
「邪竜百年戦争の始まりを――――――――――――――!!!!!」