俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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土人形、友と共に

 

 人形として作られ、にも拘らず意思を持ち、人として動く。そうやって産まれた僕が、こうしてちょっと手のかかる友達と、そんな友達に惚れてしまっている神様と、楽しく過ごせるようになったのは……きっと僕を作り、様々なことを教え込んだあの人のお陰なんだろうと思う。

 

 よくわからないようで分かりやすくて、けれどやっぱりよくわからない人だった。

 人間同士の争いに、直接的に神が手を出すことをよしとしない。けれど、人間の方から神に助けを求めてきたり、あるいは戦いが始まる前からある神が加護を与えていたり、契約によって決められていたことを実行する分には何も言わない。まるで子供の喧嘩を眺める大人のような、もしくは虫同士の戦いを見て楽しむ観客のような、そんな雰囲気を持つ不思議な人だった。

 僕に料理を教え、意思を与え、知恵を与え、人間と同じように、あるいは人間よりも幾分優れているよう作り上げたかの神に仕える巫女。あるいはその神に使われる、僕と同じ人形。あるいは神が地上で人間として動くために作り上げた化身。あの人はそう言う存在で、同時に何物でもない存在。

 神の視点と、神の思考。人の視点と、人の思考。神であり人であり、神でなく人でない。何者であるかもわからず、何者でもないと同時に何者でもある。あの人を一言で表すならば、よくわからない人、としか言いようがない。

 

 僕のこの言葉を聞いて、あの人は『どこの這い寄る混沌だ』と笑っていたけれど……這い寄る混沌、と言う言葉にはなんと言うか、恐ろしい物を感じてしまった。

 その這い寄る混沌と言う存在について聞いてみると、割と簡単に教えてもらえた。とある世界、少なくともこの世界ではないどこかの世界において、世界の万物を生み出し、その中心で呪詛の言葉を吐き散らす古き神に仕える眷属神の一柱とされる架空の神、であるらしい。精神の拠り所を失った人間達を上手く操るために数人、もしくは数十人の人間達が作り上げた架空の神話の存在であるそうだ。

 まあ、どんな存在であろうとも僕とギルがいればこの国を守ることくらいはできるはずだ。ギルは王だし、僕は神造人間。そしてここにも多くの神が存在している。勝てないとは思わない。

 

 だから僕は今日も、いつもと変わらずカレーを作る。あの人に教わったカレーを僕なりにアレンジして、国の人達に、神々に、ギルに振舞う。誰もが夢中になって頬張り、店をやっている最中は大体いつでも竈はフル回転だ。

 イシュタルも、僕のカレーを食べに来ては悔しそうに僕の事を睨みつけて去っていき、そしてまた暫くしてカレーを頬張っては僕を睨みつけると言うのを繰り返す日々。材料についてはこちらから都合をつけているし、僕はイシュタルに恨まれるようなことはしてないはずなんだけどなぁ……。

 

 あ、そうそう、そう言えばなんだけれど、僕は中性だ。男にもなれるし女にもなれる。両方同時にもなれるしどちらにもならないと言う事もできる。

 そんな僕の身体の事を知ったギルから、結婚を申し込まれることになった。あの人風に言ってみるなら、どうしてこうなった、だね。

 

 ……僕、土人形なんだけど、子供って作れるのかな? 多分無理だと思うんだけど、もし次にあの人に会えたら聞いてみようかな。ギルにプロポーズされたって言うのも併せて。

 あ、もしかしてイシュタルに睨まれる理由ってこれ? 僕悪くないよね? カレー作りが上手で毎日カレーを食べさせてほしい的な理由でのいわば友達付き合いから一歩進んだ感じの結婚だろうし僕は悪くないよね? 悪い物があるとしたら僕の腕と比較した時のイシュタルのカレー作りの腕くらいだよね? イシュタルって基本美神だし、性格……は、あれだけど、貞操観念…………も、かなりあれだけど……まあ、とにかく僕は悪くない!はず!

 


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