俺の知る限り、ヘスティアは処女神である。その原因となったエピソードを知っているだろうか。
ギリシャ神話において、母と子が婚姻を結ぶことはそれなりにあることだ。と言うか、父と娘が子を成したり、腹違いの兄弟姉妹が子供を作ったり、そんなことが当然のようにまかり通るのがギリシャ神話の世界だったりする。
そんな世界の中で、アテナとアルテミス、そしてヘスティアはギリシャ神話の三大処女女神と呼ばれている。原典では戦うことを好まず、同時に極めて美しいと評されることも無いヘスティアだが、そんな女神に婚姻を迫った男神が存在する。
それが、今俺の足の下で血まみれになって転がっているアポローン、またの名をアポロンであり、そしてもう一人がかつて俺に『女は子供を作るのが仕事なんだからヤらせろ』とぬかしたポセイドンである。……なんかどちらも血だるまにしてしまったが、まあ後悔は無い。今回は非常に腹が立ったので未来でこいつが持つことになる太陽の権能を俺が盤石にして、ついでに文字の権能から作詞、音の権能から音楽や楽曲、いくつかを合わせて芸能や芸術の権能を得て、薬学から転じて医学の権能、毒から転じて病の権能も一部奪い取る。
ちなみにだが、俺は今まで太陽の権能のうち熱の部分と目に見えない光の部分……要するに紫外線よりも波長の短い光と、赤外線よりも波長の長い光しか司ってこなかった。威力だけを求めるならそれで十分だったし、目に見えない光と言う時点でもう暗殺にも使えて便利だったからだ。
それに、俺は元々竈の女神。原典であるギリシャ神話では俺以外に太陽を司る神格が居たことを知っていたから遠慮してきていたのだが、それがこいつならもう遠慮する気は無い。太陽に関わる権能は丸っと貰っていくことにしよう。
熱と不可視光線が今の権能だから、後は可視光線に炎に磁力に、根源として燃える水素なんかも権能としてもらっていこう。今までは態々水素やら何やらを集めたり作ったりしていたが、これで空気の無いところで材料集めをしないで直接太陽を作れるようになったと言う訳だ。
いやまあ、俺もただ結婚を申し込まれるだけならここまでしない。結婚を申し込まれただけで南斗水鳥拳奥義飛翔白麗とか南斗鳳凰拳奥義天翔十字鳳とか激震孔叩き込んだ挙句に権能を奪い取って晒したりはしない。ただ切り捨てて終わりだ。
だが、夜中に俺の家に忍び込んで俺のベッドに潜り込もうとするのはアウト。絶対に許さない。
ぜったいにゆるさない
まあそう言う事もあってちょいとハムになってもらおうと血抜きをしている所だ。中々死なないのは流石神格と言うか、ゼウスの息子だなと思う。
……いやいやいや、待とうか。流石にゼウスの息子を何も言わずにハムにするのはまずいか。報告はしといた方が良いな。
使うルーンは『情報』や『関係』を意味する『
「そう言う訳でアポロンをハムに加工したいんだが構わんか?」
『構うぞ!? と言うか何があった!?』
「真夜中に俺の家に押し入ってきて犯されそうになったから反撃した。もう二度と女を襲おうと考えないように生きるのに必要ない肉体を全部削ぎ落としてやろうかと」
『もう一度!もう一度だけチャンスをやってくれんか!? 一度の失敗じゃろう!?』
「流石一度の失敗で未だに甘ったるい食事を続けているゼウスが言うと説得力が違うな」
『ゴファ!?』
通信の向こうから血反吐を吐いたような音が聞こえたが、まあいい。とりあえず今回だけは見逃してやることにしよう。次は、殺す。絶対殺す。