三日で86階まで作った。ただし、それは上にばかり伸ばしていた訳では無い。下にも伸びているのだ。
地上72階。地下14階。上にばかり伸ばしていたら地盤が耐えきれなくなってしまったため、急遽一階として作っていた部分の入り口を塞いで地下に捩じ込み、なんとか倒れないようにしたわけだ。力業にも程があるな。
だが、そのお陰で塔が倒れることはなくなった。素材の強度的に少々どころではない強度はあるが、だからと言って倒れても大丈夫かどうかは別問題だからな。少なくとも塔本体は平気かもしれないが、中に置いてあるものは倒れるなりなんなりするだろう。非常に困る。
そう言うわけで地盤の強化は必須だった。今ではしっかりと塔を支えることができているし、問題ないとは思うのだが……横からアホみたいな力が加えられなければ問題ないだろう。恐らく。
さてそう言う事で住居はできた。地下の部屋は醗酵や醸造用の部屋として運用するつもりだが、まずはそのための元が必要だ。
豆!米!ついでに果物!重要重要!
畑を作り、畝に等間隔に豆を蒔く。米もいくつかまとめて土に埋め、発芽を待つ。
撒いた豆や米をほじくり返されてはたまらないので、畑の守護者として髪止めの代わりに使っていた太陽炉搭載浮遊型レーザービットの種からレーザービットの樹を育てる。
……自分でやっててあれだが意味がわからんな。なんだよレーザービットの樹って。花が咲くとその花が樹から離れて飛び回り、害鳥害獣を撃退するとか、もう本当に意味がわからん。便利だから使うが、本当に意味がわからん。
まあ、訳が分からないものだがそれでも使うことはできる。それに俺の事は襲ってこないし、基本的には俺の思った通りに動く。そしてたまに畑の豆をほじくり返そうとしてやって来た野鳥にレーザーを当てて追い払う。今は殺さない程度まで威力を絞っているが、もしも本格的にここで群れるようなら畑の肥料になってもらおう。
ちなみに畑を作る際に切り倒した樹だが、本当なら小屋を作る時にでも使おうと思っていたのが何故か神の金属を使った塔になってしまったので、樽や桶、柄杓などを作るのに使おうと思う。味噌や醤油を作るのには必須とも言える物だからな。
今は準備段階。材料として豆と米を育て、俺の手から離れてもこの技術が保たれるように麹を見つけ出し、よりその調味料に合った種に改良して行く。上手いこと弄ってやればできなくはないだろうが、俺の本職じゃないからできるかどうか……まあ、やって行けばいつか権能として得ることができるだろう。この時代に品種改良なんて言う物が権能として確立しているとはとても思えないしな。少なくともギリシャ神話において品種改良の神は存在していない。
準備こそが最も大切なものの一つだ。実際、準備も無しに行動しては成功率は大幅に下がる。子供でも分かる当然のことだ。
ついでに言えば、準備している時が最も忙しい時であったりもするし、準備こそが最も楽しい時であるという者すら居る。しっかりと組み上げられ、しっかりと進めていける準備とは中々に楽しい物だったりする。俺も今、それなりに楽しくやっているしな。
……まあ、米と豆だけではつまらない。芋と麦も作るとするか。酒にしてもいいし、味噌にしても美味い。レーザービットを酒にする訳にもいかんしな。範囲はそこまで広くないからあまり効率がいいわけではないが、輪作もどきでもするか。クローバーの代わりに大豆などを育てることで土に窒素を取り込ませることもできるし、後は……リンか。錬金術で何とかなるが、一般化させるならば硫酸に骨を漬け込んでリン酸カルシウムとして使わせるのが一番だろう。硫酸がどこにあるのかは知らんが、硫黄を燃やして水に混ぜ込めば行けるんだったか? 硫酸の湧き出る泉でもあれば話が早いんだが、日本には存在しないからな。硫黄ならたっぷりあるからそれを使わせてもらおう。