俺は竈の女神様   作:真暇 日間

12 / 330
竈の女神、極めてみる

 

 一日一万回、感謝の正拳突き。そんな頭がおかしいとしか思えない修行の結果に馬鹿みたいに強大な力を得た一人の拳法家がいたらしい。会長と呼ばれることになったその拳法家がいったいなんでそんな修業を始めたのかは、たしか武術に対しての恩を返すためにとかどうとか描写されていたはずだ。記憶はまだまだ薄れないのは神としての肉体能力のなせる技だろうか。長く生きてもボケが無いってのは嬉しいことだ。

 さて、そんな頭のおかしい修行だが、ある意味ではとても正しい。筋肉は使えば使うほどに鍛えられていくのだから、一日に一万回も同じ動きを繰り返していればたとえそれが全力でなくとも、全力でやるならば間違いなく身体はその動きのために効率化されていくだろう。前世の筋トレとそう変わらない。

 実は、そうした繰り返して鍛え上げられるのは筋肉だけではない。その筋肉を動かすための神経もより洗練され、効率的に、高速で動かすことができるようになる。職人の技術は時折人間の感覚を超えることがあるが、それは人間の筋肉だけではなく神経などの発達によりまともな人間には感知できないような微細な歪みや僅かな傷などを感知できるようにと一代の中で可能な限りの進化をして行く。そんな進化を何代も続けていくと、その進化が必要なことだと認識した人間の身体は少しずつそういった機能を特化していく。指先の触覚が鋭くなったり、熱した鉄の色をより詳しく見分けるために見える範囲がやや赤色の方に傾いたり、針先が何かに引っかかっていることに気付けるようになったりする。剣術道場を何代も続けているような家系であったならば、その身体はもしかすれば剣を振ることに適した進化を遂げるかもしれない。人間にはそういった機能が備わっているのだ。

 

 ならば、元が人間であり今は神である俺にはどうなのだろうか。その答えは簡単。備わっている、だ。今まさに実感している所だしな。所詮は慣れによるものらしい。むしろ人間のそれよりもより早く進化していくような気もする。

 俺は自分の意識があることに気付いてからはそのほとんどの時間を自分を高めることに使ってきた。神としての力の扱い方についてもそうだし、神の力とは関係のない魔法や気功、と呼ばれる技術もそうだし、拳法や家事、某ゲームのキャラクターの技の再現などもその一環だ。正直一部は再現とかできるわけねえだろと思いつつもできたら面白いなとやってみたらできちゃったようなものもあるし、鍛冶で作ったあれなんかは何でできたのか今でもわからないような出来になっている。見えないほど細い蛇腹状の筒の糸って何なんだ。作った本人だがまったく理解できない。何をどうしたら鍛冶で筒が作れるんだ? しかもあの細さの。誰かに教えてとか言われても再現できる気がまるでしない。あの時の俺には何か妙なものが憑いていたとしか思えないんだよな。

 

 それはともかくとして、できたものはできた。そして成長速度は非常に速いと思われる。非常に長い時の中を生きる神の身体に短い時の中を生きる人間が入ったせいで人間のせっかちさのようなものが出て神としての身体がそれに合わせてどんどんと成長していってるような気もする。じゃなかったらいくら何でもギリシャ神話の世界で五行相生とか再現するのはおかしいし。と言うかできちゃった時点でもう科学に真正面から喧嘩を売っているようにしか思えないし、宗教的にアウトなことをしちゃった気もする。アダマスって『炉』から派生した『核融合炉』から派生した『太陽』から派生した『黒の太陽』に含まれる『腐食』の概念を五行相生の金生水で強化してやればアダマス自体が水に変換されて最終的に錆び付いてしまったし。

 ……ギリシャ神話的にはアダマスは完全金属だから錆びたり折れたり欠けたりしないはずなんだが、できちゃったからなぁ……困った困った。こんなのがバレたらどこかの誰かさんが持っているアダマスを無力化する方法ができてしまうじゃないか。困ったなぁ(クロノス殺す)

 ちなみに腐食したアダマスは『太陽』の概念に含まれる『完全』を乗せてやればその概念が外れたり剥がれたりしない限りはいつまでも完成形のままで置いておけることが分かった。やっぱり一番便利なのは概念系統だが、神としての俺の在り方的に土やら金属やら炎やらはできても水とか風は難しい。風なら太陽風があるが、太陽風は放射線と熱量の嵐であって大気の流動ではないから威力がおかしいし、そんなものを使うくらいなら相手に重なるようにして太陽そのものを作り上げた方がよほど強いし早い。

 

 ただ……現状一番強いのは、それらの概念やら何やらを全部呑み込んだ上で体術に合わせて一撃で全てを開放する拳なんだけどな。无二打(にのうちいらず)って奴になるんだろうか。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。