俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、神を作る

 

 ヘスティアには眷属神と言える存在が無い。多くの神は自身に仕える小神を眷属神として持っているものだが、俺にはそう言った存在がいない。いなくても今まではどうにかなっていたと言うこともあるし、そもそも誰かを支配すると言うのは苦手なんだ。支配と言うより見守ることが主体だったしな。

 見守ると言っても状況次第で手も出すし、こっちに非がない状態なら守ってやったりもする。大概の場合は完全にこっちに非がない訳じゃないから手は出さないが、村の穀物に手を出す動物相手だったら大概なんとかしている。

 だが、村が大きくなり、いくつもの他の村が恭順してくるようになって、加護は届くが目が届かない状態になってしまった。やろうとすれば届かせることもできなくはないが、それだと俺の趣味の時間が取れなくなってしまう。仕事ばかりではあっという間に擦り切れてしまうのは人間でも神でも変わらない。適度に休みや趣味の時間を取った方が最終的に効率が良いと言うことは往々にしてあるのだから。

 

 そこで、俺は俺の目として、そして多少の裁量権を与えた眷属のようなものを作ることにした。俺の目であり手であるそれの元々の材料は、まず村にいてもおかしくない存在であり、ある程度の数がほしかった。そこで目をつけたのが、蛙だ。

 村には田と畑がある。畑があるなら虫も出るだろうし、田があるなら蛙くらい出る。田畑は村の近くにあるのだから、蛙が村に入り込むことも多々あるだろう。だからこそ、蛙だ。

 俺がこの蛙の神に渡してやるのは、ヘスティアとしてはほぼ全く使わない呪詛や怨念を扱う権能。俺の場合はそれに耐える方ばかり使っているし、耐えなくとも竈に放り込んで炎で浄化してしまえば基本的に俺に効果は出ない。出るより速く焼き尽くせる。

 だが、この呪詛の権能は神にとって大切なものではあるが、同時に権能として保有していなくともある程度使えるものなのだ。何しろ脳筋極まっているアレスですら使えるのだから、よほど弱くなければ使えるものだ。

 

 天罰、あるいは神罰と呼ばれるそれは、一言で纏めてしまえば単なる悪意。強大であるが故にただ思うだけで、悪意を向けるだけで勝手に呪われてしまう。それが神の行う呪いの正体だ。

 つまる所、まともな神ならわざわざ呪詛を司る必要などありはしないし、わざわざ司らなければ存在を保てないような神だと思われてしまう可能性もある。

 だが、俺にとってはそれは非常に都合のいい話だ。わざわざ俺の持つ権能を渡したり、分割したりすることもなく神を一つ作ることができる。

 基本として、俺の塔が視界に入る場所にある村は俺が直接守ってやることができる。だが、それ以上離れるとそれも難しい。一応俺の社が置いてあるのだが、俺は一般的な自然信仰から生まれた神ではないため分霊というのを作るのに慣れていないのだ。

 だからこその眷属神の製作。一度の産卵で同時に生を受けた卵から生まれた兄弟姉妹を全て神にすることで、同一の神でありながら無数の判断基準と無数の体を持つことを可能とした、呪詛と神罰の神。同じ顔。同じ声。男か女かは50:50。そう言ったとても特殊な神格だ。

 ただ、俺との繋がりを示すためにそいつらにある物を用意した。俺がいつも身に着けているおんぶ紐……だったもの。最後におんぶ紐として使ったのは、ヘファイストスが泣き止まなかった時だったかね。伸縮自在のそれを長く伸ばして、独立して村に行く奴らにリボンとして渡しておいた。普段使いと予備とで二本渡したつもりだったんだが、どいつもこいつも二本とも一緒に使っている。まあ、似合っているしいいんじゃないだろうか。

 

 そう言う訳で、より広い範囲の村に加護を届かせるようにすることができた。まあ、俺が加護を与える時の基準と、加護が効かない時の基準はわかりやすいだろうから、そこまで問題らしい問題は出ないと思うがね。

 


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