俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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『スカサハ』を『スカアハ』に変えました。


竈の巫女、殺し合う

 

 錯覚、と言う物がある。人間の目には、まるきり同じ物であるにも拘らず長さが大きく違うように見えてしまう事や、歪んでもいない直線が歪んで見えたりする事がある。

 多くの人間がこういった錯視と呼ばれる物に騙されたりするし、様々な形で世界にそう言った物が満ちていたりもする。

 例えば、縦向きと横向きの縞模様を付けるだけで全く同じ長さであった物がそれだけで長さが違って見えてしまったり、放射状の線を中心を通らないようにしつつ横切るように直線を引くだけで、その直線は放射の中心とは反対の方向に膨らんで見える。そう言ったことが色々と知られている。

 もしも、槍に横向きの縞模様を付けた場合、付けていない物に比べて短く見える。突然に長さが変わり、模様が変わる槍を相手にした場合、それを相手に戦うことは間違いなく面倒臭いことこの上ないだろう。

 だが、そんなもの知ったことかと俺の突き出す槍の穂先に穂先を合わせるマジキチが居る。しかも、俺の目の前に。そう、影の国の女主人、スカアハである。

 スカアハは人間だ。権能を持たず、知識と技術で騙し騙しやるしかない存在である。その筈が、はっきり言ってそこらの戦神並みに強い。少なくとも、うちのペットの一部は全力でやっても殺されかねない。

 一番相性が悪いのはヤマタノヒュドラだろうか。非常に強力な再生能力を持っているが、あの槍の呪いは再生を阻害する。不死性を持つ怪物だろうが関係なしに殺せるのがケルトの脳筋どもの基本だからな。ギリシャの脳筋よりもより脳筋だ。

 違うのは多分コノートの女王であるメイヴくらいだろう。脳筋しかいないケルトの中で、あの女王は知恵を使ってケルトの大英雄たるクーフーリンを殺害してみせたのだから。

 ディルムッドを猪……いや、INOSISIを使って殺したフィンも知略家と言えるのかもしれないが、あれは後に非常に愚かな行為だったと言われるようになったからな。含めないでいいだろう。もっと使い道はあったと思うんだが、勿体無いことをしたもんだ。

 

「戦の最中に考え事か。余裕だな?」

「おー余裕余裕。余裕過ぎて―――目ビーム!」

「ぬぅっ!?」

 

 ビームを出してみたが避けられた。まったく、普通この距離で避けるか? 人間じゃねえだろこの女。人間じゃないんだが。

 俺? 俺は人間だ。確かに一度神になったが神格は返上したし、今は元神格と言うだけの一般人だ。身体はな。

 ちなみに目ビームは竈の神の権能と境界の神の権能の合わせ技で、熱線を一時的に境界に閉じ込めながら重ねて威力を上げて撃ち出す技だ。一発撃つのに時間はかかるが、溜めれば溜めるだけ威力が上がる。竈の火入れに使っているという事実は無い。

 

 だが、あれだな。戦闘技術で俺の上にいる奴とは久し振りに会った。武神となってからはそれなりに鍛えてきたし、一度得た権能を失うのも馬鹿らしかったのでそこそこ練り上げてはきたのだが、人間の身でここまで鍛え上げる奴がいるとはな。驚きだ。

 突きの速さ比べでは身体能力が上の俺と技術でそれを補うスカアハの間ではほぼ互角。武器の格は俺の方が大分上で、威力は腕力や脚力が大きく上の俺と重心移動や上手く体重を乗せる技術などを用いるスカアハとでまたおよそ互角。動体視力は恐らく俺の方がかなり上で、それに伴う反射神経なども俺の方が上。でなければあっという間に貫かれてるだろうしな。

 しかし、身体能力では俺の方が大分上だというのにそれを感じさせない凄まじい技量。魔術での強化は俺の方が魔力の密度や量は上だが、術式の精密さや使い方でそれを補われてこれまた互角。確かにこれだけのことができるなら、小神の百や二百は簡単に殺せるだろうよ。実際殺したからこんなところにいるんだろうが。

 

 ……どうやって決着つけるかね? 簡単な囮やら何やらにはかからんだろうし、体力勝負も早々決着付かなさそうだし、かと言って何の策もなく打ち合うのはなぁ……困った困った。

 


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