俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、面倒を見る

 

 こういった娘の面倒を見るのは、実の所初めてではない。世の中には様々な形で差別や迫害が起きているし、それによって多くの孤児が生まれ、そして死んでいっている。

 そうして生まれてきた多くの孤児は、残念ながら俺の守備範囲ではない。他の神話体系が存在する場所であったりすると俺の力は届きにくくなるし、あっちが俺の事を知らなかったりすると力が届いても効果を発揮しないことが多くなる。要するに、俺の権能も決して完全ではないと言う事だ。

 

 かつてのギリシャ神話世界ならば、その全てを権能の範疇に収めることができた。しかし、神話的要素が削られ、多くの世界と融合を初めているこの時代においては全ての世界に適用させることは非常に難しい。かつては世界全てを焼くことができただろうゼウスの雷。踊るだけで世界を崩壊させるインド神話の神々。世界の裏側と表側を繋いでいることが前提として存在するケルト神話。そういった無数の形とそのギャップが、各神話の神格及び存在の力を減衰させるのだ。

 無論、例外はある。多くの神話に同時に存在しているような神格は、それぞれの領域において十分な力を振るうことができるようになる。日本神話において最大神格である天照大神。その天照大神と同一視される大日如来。その大日如来と同一視させることもあるインド神話におけるアスラ神族の王、ヴァイローチャナ。そう言った繋がりから力を得ることで、天照は日本神話の神格でありながらインドや中国でそれとほぼ同等の力を振るうこともできるのだ。

 ちなみに俺は元々が竈の女神。それも最大火力の出せるギリシャですら溜めやら事前準備やらがなければ大した火力も出せないような神なので、そのまま他のところに行っても大した事はできないままに終わる。初めから境界の神として産まれていた方が強かったかもしれんな。

 ……ただし、それは俺が竈の女神以外の何者でもなかった場合の話だ。境界の神。次元の神。恒星の神。滅びの神。死の神。病の神。そう言った様々な権能を持って居ると言うことを知るのは極僅かにしかいない。

 そして、単なる竈の神から全能に大分近い万能の神へと成り上がった俺に言わせてもらえれば、そんな存在にはなろうとしてなるもんじゃないと言うことだ。

 権能が全く重ならないものを司ってしまうと、しばしばそこには矛盾が生ずる。破壊を司りながら豊穣を司ってしまうと、その権能の方向性の差によって神としての在り方が歪むのだ。現に俺の在り方はかなり歪んでしまっている。元人間だと言う精神が柔軟に受け入れていなければ、変化できない筈の神格が変化したと言う事実で崩壊していてもおかしくなかった。元人間と言う在り方は悪いところもあるが良いところもあるな。

 ちなみに悪いところと言うのは、変化を受け入れてしまうところ、だ。要するに、ギリシャ神話における神格は基本的にはネクタル無しでも不死不滅なんだが、俺はネクタルやら何やらの力を借りなけれ不死でも不滅でもない。不老ではあるものの、殺されれば死ぬ。ギリシャ神話では恐らく俺だけだろう。いらんマイノリティーだ。

 と言っても、そのために死の権能を俺の懐にこっそり入れたんだがな。俺が死んだ時に、その死を遠ざけたりなかったことにしたりできないかと思って狙ってみたんだが、大成功だった。今回のように死にかけの娘から死を遠ざけたりすることもできるし、意外と便利なもんだ。普通は死を遠ざける方向ではなく、死を与える方向にばかり特化していくらしいが、要は使いよう。一方ばかりに特化してはもったいない。特化には特化のいいところがあるが、俺は広く浅く、余裕があれば深くってのが一番だと思っているからな。

 

 ……さて、消化にいい物作ってくるか。カレーリゾットでいいかね。

 




 
 今日のバクラ

「過去が改変されて行くゥ……俺様の記憶も捻じ曲がるゥ……修正しなければ……修正を……」
「右足よし、左足よし、右安全靴よし、左安全靴よし、両脚ビニール袋よし……ヒャッハー!修正d」

 デデーン! バクラ タイキックー!

「……は? いや待て、何、なんだおい、誰だお前? 石板の精霊ハサン? 何でここに、と言うかおま、やめ―――」

 パァァァァンッ!!

「アッーーーーーーーーーーーーーーーー!!!?」

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