俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、大樹を見る

 

 北欧神話についての話をしよう。

 北欧神話とは、主に北欧を中心として広まる神々に対する信仰である。ただし、世界は終わるものであると規定され、神々すらもその事実を知っていると信仰されているために非常に享楽的な神格や我儘な神格が多い。……ギリシャ神話と比べたらどうか? 神の性格のアレさにおいてギリシャ神話と比べることが間違っていると断言するがとりあえず言わせてもらおう。多くのギリシャ神話の神格の方が人間との関わりが多い分かなりアレな逸話が多く残っている、と。

 ちなみに俺的ギリシャ三大アレ英雄は、ヘラクレス、ペルセウス、アキレウスだ。ギリシャ三大英雄と見事に被っている? 知らんよ。あと、ヘラクレスとアルカイオスは別存在と認識しているためこの並びになったわけだ。

 ともかくとして、北欧神話と言えば有名なものは世界樹ユグドラシルだろう。

 幾つもの世界をまるで実のように枝にぶら下げる巨大な樹。世界と世界の間には虚空が広がり、その虚空が何よりも厚い壁となってそれぞれの世界の緩衝材として存在していたために他の世界からの侵略を受けるようなことはあまりなかったのだ。

 だが、北欧神話において世界の終焉とされる出来事はある。神々の黄昏と呼ばれることの多いラグナロクがそれにあたるが、それは世界の内側でのみ起こる出来事であってそれ以外に全く原因が無いかと言うとそうでもない。

 世界樹と呼ばれる樹は、あくまでも一つの樹でしかない。その樹を一つの世界群とした時に、北欧神話はユグドラシル以外の世界樹の存在を暗に示しているのだ。

 世界の外側から軍が来る。それが来た時に即座にそれを見付ける役目を持っているのが未来においてロキと相打って死ぬ定めにあるというヘイムダルであり、ヘイムダルによってそれが知らされた時こそが神々の黄昏の始まりの時だと予言されているのだ。

 

 で、今俺はその世界樹をじっくりとっくりと眺めている。

 美しい樹だ。とてもとても美しい。様々な動物を内包し、様々な生命を宿すその大樹に、俺は久方振りに自然の偉大さと言う物を感じ取った。人間だった頃にはよく感じていた物だったが、神になってからと言うもの自然は俺自身と言う感覚が強かった。権能が増えて様々な物を司るようになってからは余計にそうだった。

 だが、今の俺はそんなことを一切感じることなく世界樹を眺めていられる。これは恐らく世界樹と言う存在が俺が権能を持つ世界とは大きく違った根源からできあがった物だからなのだろう。自分の事を間接的に褒めるような物ではなく、自分とは全く違う存在を眺めて楽しむ。かなり久し振りの経験だ。

 様々な世界を纏めて統合する時に、できるだけ無理が出ないように色々と手を回し過ぎたせいか俺に地母神の権能が若干生えてきたせいなんだろうな。実の子供もいないのに。と言うか俺処女なのに。散らす気もないけど。地母神の権能ができたもう一つの原因でありそうなことと言えば、恐らくティアマトだろうな。殺しても殺しても物理的に消滅させても概念的に消滅させても存在していたという事実ごと消滅させても何故か復活してきやがったから喰うって形で封印したんだよな。

 そしたら復活はしなくなったんだが、代わりに俺の存在の密度が増した。ついでに神秘の濃度も増したしできることも増えた。竈の女神であり火の女神であり、孤児の守護神である俺が、まさか処女のまま他の存在を産めるとか考えてもみなかった。まあ、俺は元が元だから自分以外の存在をわざわざ新しく生み落とそうとは思わなかったし、できることが増えるのはもういつもの事だったから流したんだよな。ティアマトの身体はバビロニアあたりの大地になってるし、精神はかなり脆かったからさっさと食い潰したし。

 

 まあ、だからこそこうして俺に起因しない世界なんかを見るのは楽しいと思えるわけだ。俺に起因する世界もまた面白くはあるんだが。

 


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