世界樹の枝をいくらか拝借し、植樹できることに確信を持った上でさっさと帰ることにした。そろそろこの世界に最終戦争、神々の黄昏、ラグナロクが起きそうな気配があるんでね。巻き込まれるのはごめんだよ。
まあ、世界樹については植樹するとそこに新しい世界の種のような物ができてしまうので今いるこの世界と隣接しないようにある程度離した上で植えなければならない。せっかく世界同士を馴染ませながら綺麗にくっつけている最中なのにそんな風に新しい世界がぽこじゃか出てきて割り込んでくるのは非常に困る。多少の余裕は持たせてあるが、だからといってどんどん詰め込まれたら壊れてしまう。それを何とかするのが面倒なので初めからそう言うことが起きないようにするわけだ。
だが、逆に言えばこの樹を使えば新しく作り上げた世界を安定させやすくなるということでもある。少し離す必要はあるかもしれないが、そのあたりはまあ別荘のようなものとでも思えばいい。それに、俺が作った箱の中の宇宙にこれを使えばかなり安定するはずだ。いまだに膨張と縮退を繰り返しているあの宇宙だが、安定すればそこに銀河を作ることもできるだろう。それより先に今いる世界の外宇宙でも確認したほうがいいかもしれないが、もしもそこにあの神格どもが実在していたら流石にまずい。と言うか精神が人間な俺にとっては他の神格よりやばいかもしれない。……と言っても現段階では存在していないことを確認しているし、エジプトに行った時に見たバステト女神が吐き気を催すような見た目だったり正気度を失わせるような存在だったりしていなかったからそこまで心配はしていないんだがな。
今はそれよりもこの風を楽しもう。火の神性であり大地の神性であり風の神性である俺だが、ギリシャ神話世界においては基本的に竈と孤児の守護以外は大々的にはやっていないから、たまにはこうして風を浴びておきたい。じゃないと忘れる。感覚的に。
使っていない権能は錆び付いてしまう。人間が暫くその道から離れているとそこそこまではできるままだがある程度以上の作業ができなくなるのと同じように、神であっても同じようなことが起きる。
それを何とかするためにも俺は自分の世界を作り、その中で権能をフル活用して世界を回しているんだが、俺が作った世界は完全に俺の支配下にある以上権能無しでも回せてしまう。それでは権能を錆び付かせないようにするのだけならともかく、鍛え上げるのは難しい。
……ちなみにだが、地母神の権能によって俺は吐息と唾液を作り上げた土と混ぜ合わせて命を作り上げ、作った世界の中で生活させている。土は地、吐息は天、その二つを混ぜ合わせることでちゃんとした命を作ることができたわけだが……普通できないはずなんだがなんでできたんだろうな? あのティアマトですらできないはずなんだが。
まあ、できてしまったものは仕方ないのでそのままにしておいて、そろそろ到着する頃だ。エジプトから紅海を渡り、中東で聖四字の神と出会い、分割し、嵌めて、ケルト領域を抜け、北欧神話の神と出会い、そしてようやくギリシャ神話圏へと戻ることができた。
……ついでにロキから男と女の境界を越える方法も教えてもらえたが、これは恐らく俺自身が使うことは永遠に無いだろう。面倒だし。
と言うか、使ったら姪の嫁に襲われそうな気もする。それはお断りだ。ヘファイストスと女の取り合いを演じる気は毛頭無い。アフロディテを男にしてみるのはありかもしれないが、俺の方に来られると困るから止めておこう。言わなければできるかどうかは知られないだろうし、知られない以上は頼まれないだろうからな。