竈の巫女、再挑戦
以前ケルト神話領域に向かった際に、世界の裏側を通って行ったせいでスカアハ相手に戦闘をするはめになった。概念を歪ませる投擲術を手に入れたものの結果は俺の自爆で負けたようなものだし、もう一回あれと本気でやりあうとか勘弁だ。神殺し及び魔獣殺し、不死殺し等々の概念が常時付いている奴との殴り合いとか嫌すぎる。
なので、ケルト神話ではあるがケルトっぽくない所に行こうと思う。そう、アーサー王伝説の舞台、ブリテンだ。
あそこは間違いなくケルト神話の領域で、しかし俺の知っている歴史というか伝説ではキリスト教の扱いもあるという不思議な立地。実際には恐らく時の権力者(特に教会)が権力の範囲を広げるために聖書的な扱いでアーサー王伝説を翻訳したのが原因だろう。聖四字の神の宗教は本当にそう言うことばかり上手いよな。なんでその労力をもっと別のものに使えないのかね? 外に広げるより先に内憂を消せと言いたくなる。
……内憂を消すために外から略奪するのか。その辺り人間も動物だということだな。一回滅べばいいんじゃないか? 地球の環境ごと。そしたら俺が保存しておいた各種の生物達の一部を解放してもう一度世界の環境を作り直してやるさ。
まあ、実際にやるなら俺以外にもそう言うことをしそうな奴は数多い。神々にとってもいい暇潰しになるだろうよ。
それはそれとして、海をバイクで渡ってブリテンに到着。そこら中に飢餓と貧困の気配が漂っているが、土地が悪いな土地が。魔力は豊富……と言うか、竜穴のごとく魔力の吹き出し口になっているが、その魔力の大半が飢餓や貧困などから来る負の感情に曝されることで色がつき、負のスパイラルが出来上がってしまっているようだ。
このスパイラルをぶったぎるには、相当の力か必要になりそうだが……まあとりあえずは食事にするとしよう。無しでもしばらく活動できなくはないが、やっぱり無理に我慢することもない。こう言うところの飯は正直期待できないので、自前で用意するとしよう。
用意するものは……普段なら周りから色々持ってくるんだがそれをやると飢える奴が増えるだろうから、自前で全て用意する。つまり、自作の大釜一つだ。
竈の神の権能をもってこの場に簡易な竈を作り、そしてその竈を使って大釜を火にかける。するとあっという間にカレーが産み出される。
ちなみに別に火にかけなくても出せるが、火にかけた方が食事をしていると言う気分に浸れて俺好みだ。
そんな時間を邪魔するやつは、死んでいいと思うんだよな?
武器を持って俺の背後から近付いてきた奴に、殺気を叩き付ける。特殊アビリティの【大殺界】により、殺意と殺気を結界として張り巡らせることでその内部において自分以外の存在にいくらか制限をかけることができる。
軽いものでは恐怖による金縛りや畏縮による行動阻害、そこそこで刃や弾丸、魔法などの自身を殺しうるものによる自身の殺傷を幻覚として身に受ける。酷くなると殺意に耐えきれずに即死する。今も、近場の草や虫がひっそりと息を引き取り、枯れ始めている。菌すら殺したのか腐敗は始まらなさそうだが、あまり広くやり過ぎると周囲一帯が砂漠になってしまいそうだ。
まあ、今回は恐怖で萎縮し硬直するくらいに抑えてはいるが、それは人間に対してやった時の話だ。もっと意思の弱いやつなら死ぬし、人間の中でも意思薄弱ならば気絶する可能性はある。
逆に言えば、意思が強い奴ならこの中でも普通に動けると言うことに他ならないんだが。
「食事中だ。話があるなら後にしろ」
返答として放たれるのは斬撃の一閃。剣で受け止めるとあっちの剣が耐えきれずに斬れて結局防げないだろうし、指で挟んで受け止める。今度頑丈な楯を作ることにしつつ後ろを振り向くと、そこには全身甲冑で姿を隠した騎士がいた。