俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、灰の神格

 

 灰のテスカトリポカ。そんな風に名乗って北アメリカ大陸で神様始めてみたんだが、やらなきゃよかったと若干後悔している。

 いや、なんと言うか、実行してから歴史が根本から違っていると言うことを思い出した。そもそもアメリカに来る以前に跳梁跋扈する魔獣をなんとかできるかどうかと言うレベルであり、同時に魔獣の多くは地上にいると思われているようだが、残念なことに知られていないだけで海の方が絶対量は多かったりする。有名所で言えばリヴァイアサンやクラーケン等だが、それ以外にも海には数々の魔獣がのんびりと食物連鎖を重ねている。

 ちなみにだが、海の魔獣の中には個体にして群体とでも言うような巨大な群れを作るものもいる。そういった存在は一体一体は強くなくとも群体ならではの知恵を使ってきたりするので、小さいからといって弱いと決まったわけではない。基本的に海の中と言うのは大きく育ちやすいものだが、弱肉強食と言う自然の摂理を回すためにはそうした小魚も必要だ。生態系を壊そうとした場合は神から圧力がかかる仕組みだ。

 そんな魔獣が大量にいる中で海を渡ってちゃんと北アメリカ大陸まで行けるかは非常に怪しいし、そもそもそんな余裕を持てるかどうかもわからない。ウルクとブリテンに挟まれた国とか……あ、ギリシャにも触れてたか。可哀想になぁ……。

 

 まあそんな可哀想な成り立つかどうかもわからない国の事は置いておくとして、なんと言うか……やってしまった感が凄い。現在の北アメリカの宗教観と言えば、主に自然信仰であり、自然と同一視される様々な動物の形をした精霊信仰だ。俺のような竈の神はあまりお呼びではないが、太陽の神として、あるいは祭儀の神としてなら立場を取れる。太陽の神であり、祭儀の神である。だからこそ祭儀には火が用いられ、様々な形で火が使われる。

 ……で、一番やっちまった感がある事なんだが、クー・フーリンが槍をしまって杖に持ち替えて俺についてきていることだ。何考えてんだこいつ。

 

「あ? 良いだろ別に。夜に手を出そうとしてるわけでもなければ命を狙ってるわけでもないんだからよ」

「でもお前ケルトだしなぁ……」

「ケルトを問題児みたいに言うのはやめてもらえませんかねぇ?」

「脳筋と戦闘狂を足して二乗したような性格の奴しか存在しないくせになに言ってんだこいつ」

 

 しかもこいつ神を殺した師匠より強いってのが確定してるし、ついでに言えばやろうとすれば自力で自分が生まれた後の時代だったらいつでもどこでも現れることができるから逃げようにも逃げ切れるか怪しいし、ゲッシュも正確には『自分よりも位の低い相手からの食事の誘いは断らない』だから神の分体のようなものである俺の誘いを受けなければいけないかどうかは微妙なところだし……マジでなんでここにいるのか理解できない。

 ともかく、そんなドルイド状態のクー・フーリンを連れて北アメリカ大陸に神格を広めようとした結果、色々と問題が起きたわけだ。

 それまで崇められていた精霊達には割と顰蹙を買いそうになるし、その土地の存在はこれまで通りの生活にそれなりに満足しているようで新しい神格に対しての信仰とか期待できないしで、仕方無いから基本的に自然災害なんかで滅んだ集落から生き残りを集めて新しく集落を作ることで何とかした。精霊に関してはある意味では偶像崇拝とそう変わらないのでその辺りで色々とこじつけてやった結果、不満は出なくなっているし顰蹙を買うようなことにもなっていない。今のところ、ではあるが。

 

 ちなみに。そんな集落を作って暫くして、俺の呼び名が『大婆様』に固定された。なんだろうな。盲たふりでもしながら黒いローブに身を包んでいた方がいいのかね。確かにそれまで無かった農耕技術を与えて、自然の動物達と対話し、時にクー・フーリンと一緒に狩りに行ったりもしたが、なんでよりによって大婆様なんだろうな。実に不思議だ。

 


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