俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の眷属、生きてる

 

 何とか生き延びることができてからしばらく。俺は身体を休めるために神様がやっている店で働く事にした。

 そして後悔した。特訓はともかく普段の鍛錬よりきつい。具体的には三倍きつい。

 働いていて気付いたが、接客している奴ら。よく見たら奴らではなくて奴だった。一人が分身して複数人に見えていただけだった。怖いわー。

 あと料理している奴ら。どこからどう見ても毒物としか思えないような色の液体を複数混ぜ合わせて笑いながら大鍋をかきまぜたと思ったら中身がカレー色になり、それを客に出していた。俺今まで当たり前に食ってたんだが、大丈夫なのか? 大丈夫な色じゃなかったんだが。紫と青と金色が混じらずに同居してたんだが。本当に大丈夫なのか? めっちゃ怖いわー。

 それに外で掃除をしている奴ら。ナンパされそうになったらやんわりと断るようだが、無理矢理付き合わされそうになった瞬間どうやったのか穴に嵌めて埋めて首だけ出して蹴り続けていた。店の制服は神様の意向もあってズボンだからためらわず蹴りを出せるってのは良いよな。超怖いわー。

 

 そんな中で俺は何をしていたかってーと、主に皿洗いだ。この店(ヘスティアカレー)に来る客はかなり多い。出される食事は種類が多く、飽きさせない。手ごろな物から非常に高級な物までそろった値段。そして値段に見合っていると十分に言える味。そして若干の中毒性。めっちゃ怖いわー。

 ともかく、客が多くなれば使われる皿の数も増えるというのは当然のこと。そして皿を一度使ってそのまま廃棄なんてことをしていたら商売にならないので、当然ながら洗う者が必要になるわけだ。俺はそれをやっている。

 普段はしない動きをするためまだあまり慣れないが、少しずつ早く正確になっていっているのが自分でもわかる。早さと丁寧さは必須の条件であり、そこに更に何を加えるかが重要になってくる。ちなみに隣で皿を洗ってる奴は腕だけ六本になって速度を上げると言う離れ業をやっていた。怖いわー。

 こうしてちょっとした手伝いをしながら体を休めつつファミリアに貢献していく。レベルが上がることによって強くなった身体は、こうしたちょっと考えられないような動きにもしっかりとついてきてくれるからありがたい。時々ついてこようとして変な方向に曲がったりすることもあるが、その場合も大概痛める程度で何とかなる。マジで痛いが転んで岩にぶつかった程度で傷つくようなことは無くなるしな。加護ってのは便利なもんだ。

 

 ……こういう時間があると、ちゃんと生きていきたいという思いが湧いてくる。なんでもない日常があるうちは、自分から死にに行きたいと思うことは無いだろう。俺の知る中にはなんでか死にたがりって奴もいるんだが、命は捨てるのは簡単だが保つのは難しいものだ。どうせなら一つの挑戦と思って保てるだけ保ってみるのも悪くない。それがどうしても苦痛になったら簡単に捨てられるしな。

 おっと新しい皿だ。洗わんと。

 


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