……無いね。知ってた。
時は過ぎる。どれだけ名残惜しくとも時間は過ぎ去る。
神ならぬ人は老い、死んでいく。しかし人は子を残し、育て、遺志を継いで成長していく。百代、二百代、千代と続き、やがてかつての経験を忘れて生きていく。
俺の知るかつての世界では、神と定めた存在を自然現象と切り捨て、数字と物理で全てを説明しようとするようになっていた。当時の俺はそんな世界の中で生きたものだから、神話なんてものは興味がわいたものを触り程度にしか知らないし、忘れにくい体質ではあるが全てを覚えているわけではない。神になってすぐに一度頭から思い出そうとしてみたが、その時思い出せた分以外は未だに思い出すことができないままだ。
人間の頭から神の頭に写せた分は覚えたままだが、それ以前のものはなんらかのきっかけがなければ繋がらない。面倒だがまあそういうものだとわりきった。
時の流れは残酷だ。俺が作った世界で生き、そして死んでいく様々な人間達。人間を襲うように作られた
既に俺がこの世界をアトラクションにするためにコピーを作り、怪物を産み出してから数千年。神が人間の元に降り立って、力を引き出して戦わせるようになってからおよそ二千年。俺の知るほぼ全ての神格……聖四字の神と仏、観音などの仏教系の存在、及び日本に居る八百万の神格といった極小さな神などは別にして、大体の神は既にあちらの世界を一度は体験している。出戻りになった神格は、一度戻ってきたらあちらの世界にそいつを知る存在がいなくなるまで再び降りることはできないようにしてあるし、事前にそう契約しておいたので……まあ、あちらに一度でも関わった神格や俺の分体が居る以上基本的にもう一度行かせるつもりは全くなかったりする。
死んだせいで戻ってきたり、神としての力を使って戻ってきたりされるのは色々と世界に歪みが出る上にその調整がなかなか面倒なので、一回死んだら早々もう一度行けるようにはしてやらない。代わりに自分が関わっていたものの未来をいくつかまとめて記録として見せてやったりはする。それをやるととてもいい反応をしてくれるから結構お気に入りだったりもするが……今は重要ではないので置いておこう。
多くの神が俺の世界に渡り、元の世界の様々な部分で縛りが弱くなったことで時間遡行軍とか言う歴史修正主義者が徒党を組んで歴史を自身にとって都合が良いように改竄したり、それを神としては末端も末端、妖怪扱いされることすらある付喪神のうち刀剣の付喪神を率いて修正されようとしている歴史を元に戻そうとする審神者とか言う集団が現れたり、まあ現代も少々面白くなってはいるが、実のところ歴史を修正しようとしたところでその時点で平行世界が新しく一つ産まれるだけで元の世界には一切何も変わりは無かったりするが……よく言われている通り政府と言うのはブラックなのだな。まったく。
神が居ることは常に知られてきたものの、力の弱い神や妖怪は科学の発展による神秘の減少によって力を失ったり消えたりしてきたが、こういった形で再び神の力が必要になるとは。時間遡行軍とやらが日本の境界の神に時の境界を越えて過去に行くことができるように交渉したのを見逃した甲斐があったと言うものだ。
ちなみに、その境界の神は日本ではミジャクジと呼ばれていたりするが、些細な問題だ。
現代も面白くしてやった。これで俺の世界と言うアトラクションから弾き出されてしまった奴等も多少は気力を取り戻すのが早くなるだろう。神なんてのは基本どいつもこいつも暇をもて余しているようなやつばかりだしな。
そろそろ、俺も本格的にあっちの世界で遊んでみるか。最近は色々と仕事も多かったが、一段落ついたしな。信徒の中でもより深く祈りを捧げている奴をランダムで選び出して魅惑のシェイプアップ8時間スペシャルコースとか、あとは信徒が襲われそうな所を守ってやったりとかまあそのくらいしかやることがないしな。