犬を飼っていると、時々犬がこちらのことをじっと見つめてくることがある。その時にこちらもじっと見つめ返してやると、だんだんと相手の伝えたいことが分かってくるものだ。
例えばいつも使っている餌皿の近くに座り、こちらの方にじっと視線を向けてきたり、こちらと餌入れを交互に見つめて眼を細めたりしていれば、恐らく餌が欲しいと言う合図だと言うことがわかる。目は口程に物を言うと言う言葉があるが、言葉の通じない犬が相手ならば眼と行動から会話のようなことを行うことも十分に可能なことであるのだ。
「……」←空の皿の前でナイフとフォークを持って席に着くデメテルの図。
「……」←空の皿の前でナイフとフォークを持って席に着くヘラの図。
「……」←空の皿の前で(ryポセイドンの図
どうやら食事を要求されているらしいので、とりあえずひたすらに煎り豆を皿に流し込んでから料理に入る。しばらくそれ食って凌いでろ。
ちなみにハデスは俺の作業を手伝ってくれている。流石にもう俺の嫁になりたいと言ったりはしないが、料理は作れる方が色々と便利だぞと言うと納得するところもあったのかちょいちょい手伝いをしつつ俺の手元を見て技術を盗もうとするようになった。
いつか俺に美味い料理を食べさせてくれることをこっそりと期待しつつ、茹でた大豆を均等に擂り潰した後に清潔な目の粗い布で濾す。篩があればそれでもいいんだが、無いからな。
牛乳から分離させたクリームについさっき作った擂り潰して濾した大豆を加え、混ぜて火にかける。後ろからポリポリポリポリポリポリと音が響いているが、あまり食べ過ぎて入らなくなっても俺は知らん。そこまで面倒見切れん。
「豆ッ!食わずにはいられないッ!」ポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリッ!
「豆を喰いたい、等と言う言葉を使うなッ!喰いたいと思った時には既に行動を終わらせていろッ!『豆を喰った』ならば使ってもいいッ!」ポリィッ!
「ヘラもポセイドンも顔が濃くなってるわよ?」ポリポリ
今日もあいつらは元気なことだ。まったく、誰に似たんだか。
「姉さん、できた」
「お、どれ……よしよし、中々上手くできてるな」
とりあえず今日は豆がたくさんあるので豆尽くしにするつもりでハデスには豆乳を搾った後に残るおからに卵と香辛料と挽き肉を混ぜておからハンバーグのタネを作って貰っていたんだが、しっかりと教えた甲斐もあって十分なものができていた。完全に肉なハンバーグなら牛や豚の脂を引くか、あるいはオリーブオイルを使うんだが、豆腐が主体となるとどちらも匂いが強すぎる。胡麻油はあれはあれで美味いが、できれば今回はおからや豆腐に特有の仄かな甘味と風味を味わってもらいたかったので、あえて油を使わず蒸し焼きにしてみた。大きな葉っぱに包んでやれば少し混ぜた肉から出た脂が流れ出すようなこともないし、香辛料や仄かな豆の風味なども殺さずに済む。
味については、畑で採れたトマトを煮詰めて作ったデミグラスソース。蒸し焼きにした物に後からお好みの量をかけることができるようにしておいた。こいつらは大概たっぷりとかけて風味やら何やら皆殺しにするんだが、それはそれで悪くない。個神個神が美味いと思えるやり方で食べるのが一番だ。
「ポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリ───」
「ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ───」
「───ポリィッ!」
「───ボリィッ!」
「匂いだけでお豆が美味しいわぁ~……」ポリポリ
ヘラとポッセはいったい何をやっているんだか。あんまり食べると以下略。
さて、スープは豆のポタージュ。
前菜にはにんにくと唐辛子を炒めた油で焼いた豆腐の醤油炒め。
メインは肉料理のように見えるおからと挽き肉のハンバーグ。
サラダのように見えるのは豆のサラダ。別に全てが豆な訳ではない。八割程度は豆以外の野菜だ。
ドリンクは搾りたての豆乳を氷温炉でキンキンに冷やしたもの。希望があれば温かいのも用意できるし、酒と混ぜてカルーア擬きにすることもできなくはない。
デザートには豆乳プリンと、暇潰しに作った飴細工。鍛冶で熱に強くなったのか、飴程度では火傷も負わないこの神の身体に感謝した。一度失敗して素手で触ってしまったが、補修して今ではそれぞれの聖獣の形の飴細工としてプリンと一緒に氷温炉で冷やしてある。
お土産用に豆乳バウムも用意した。しっとりしていてほんのり甘い。美味いぞ。
ほれ、貪れ。