俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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 今日は二話できたから早めの投稿。


竈の女神、妹を育む

 

 デメテルはまだまだ子供だ。そもそも神には寿命はなく、殺されない限りは死ぬこともない。北欧神話や日本神話等では神同士や大妖との戦いでよく神が死ぬが、ギリシャ神話では戦争でも起きない限りは神が死ぬことは殆ど無い。なにしろ神だからな。

 ちなみに戦争があったとしてもギリシャ神話の神はそう簡単には死なない。と言うか、その神を殺せば殺した神の司るものが凄まじく衰退してしまうからだ。

 俺の場合、クロノス(クソオヤジ)を殺したとすれば、それはすなわち大地と農耕の権能を持った神が死ぬことになる。するとその権能はあっと言う間に力を失い、どんどんと寂れていってしまう。

 クロノス(クソオヤジ)の持つ農耕と大地の権能が失われた場合、人間達がどれだけ畑を耕し、種を植え、水をやってもそれはうまくいかなくなる。耕した畑はあっという間に固く引き締まり、植えた種は虫にかじられ、水をやれば腐ってしまうようになる。だからこそ、ギリシャ神話で神が死ぬと言うことは非常に稀な出来事なのだ。むしろほぼ無いと言っても良い。

 かつてメソポタミアの王が言っていたように、あらゆる存在には役割があり、そこに無駄なものなど一つとしてあり得ない。ギリシャ神話においては、それが例えガイアとウラノスの間に産まれ、その醜さからタルタロスに封じられたキュクロプスやヘカトンケイルですらもある種の役割を持っている。それは憎しみの種であったり、あるいはただただ殺されるための出典であったとしても、その存在は絶対に必要なものであるのだ。

 

 ……まあ、何のために出てきたのかわからないまま消えていくような存在もいるが、それも別の視点で見れば役割が見えてくるものだ。その多くが神と言う存在の理不尽さを見せつけるものであったり、某三代目の神々の王の三人目の妻の嫉妬深さや性格の悪さを印象づけると言う目的で行われているので、そういった被害者はもう少し減らしてもいいとは思う。部族一つを滅ぼさせるとか、色々と悲劇が多いからな。特に英雄譚の討伐される側には。

 

 ……ヘラクレスは偉大な英雄だが、同時に結構なクズでもある。また、可哀想な英雄でもある。

 彼がこなした十二の試練。ネメアの獅子の討伐。レルネーのヒュドラの討伐。ケリュネイアの鹿生け捕り。エリュマントスの猪の討伐。アウゲイアスの家畜小屋の攻略。ステュムパリデスの鳥の討伐。クレーテの牡牛の生け捕り。ディオメデスの人喰い馬の生け捕り。アマゾンの女王の腰帯の入手。ゲリュオンの牛の生け捕り。ヘスペリデスの黄金の林檎の採取。地獄の番犬ケルベロスの生け捕り。本来は十の試練であったが、ヒュドラの討伐の際に他者の手を借りたと言うことでノーカンになったり、アウゲイアスの時に周囲に被害を出しまくる力技で解決したためにノーカンになったりして結局十二個の試練を受けることになったらしい。

 特に、ヘスペリデスの黄金の林檎の採集やゲリュオンの牛の生け捕りは本当に酷い。ヘリペリデスの黄金の林檎を得るために、その場所を知ろうとして水の神を力尽くで従わせている。その上、林檎を守るという使命を持っていた百の頭を持つと言うラドンを殺害し、凱旋している。いくら神話の時代において強い事こそが正しいと言われるような状態であったとしても、やっていることは強盗と変わらない。むしろ、この時代においては強盗こそが英雄であり、強者こそが正義であるのかもしれない。

 強ければ全てが許される。あらゆる縛りをその力のみで打ち払えるのならば、それは世界の王になれると言うことと同義ですらある。まったく、世紀末でもないのに恐ろしいことだ。

 

「つまり自分の身を守るなら強くなければいけない。そう言うことだから、デメテルも何かできるようになっておいた方がいい」

「……なにか、って?」

「さてね。それは自分で考えるべきことだ。少なくとも俺は自分で考えて今こうして鍛えている訳だしな」

「……ふぅん……そっか」

 

 デメテルは何かを考え始め、そして自分の中に存在している力に集中し始めた。これでデメテルが大地の権能に目覚めれば、太陽炉の暴走の直撃を受けて即死するようなことは無くなる。ギリシャ神話においては基本的に神は不死の存在なので死ぬことはほとんど気にする必要は無いんだが、それでも痛い物は痛いし腕や足が消滅してしまえば新しく生えてくると言うことはよほどの例外を除いてあり得ない。そしてよほどの例外とは、そうそう起きることが無いからこそよほどの例外と言われることになるのだ。つまり、ありえない。

 さて、それじゃあ俺も本格的に修行を再開するかね。

 


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