俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、買い漁る

 

 イナンナ……いや、イシュタルか。イシュタルと程よく遊んでから神殿を辞してまたウルクの国を歩き回る。それなりに人気があり、それなりに活気があり、この時代の都市としてはかなり良い雰囲気なのではないかと思う。

 通貨として使われているのは主に銀であるようだが、純度はそこそこ高くはある物の流石に純粋であるとは言い難い。冶金技術の限界と言うか、色々と困った物があるのだろう。紋章などもついていない、いわば延べ棒のようなものであるにも拘らず純度にばらつきがあると言うのは困るんじゃないかと思わせられるが、それも仕方ないことだろう。古代だし。

 せめて硬貨として使われるように鋳型でも作っておいてやればいいんじゃないかね。あるいはその作り方や理念を人間の王に伝えてやるとか。

 

 ……この時代、金銀は通貨としても使われることが合って非常に高価であったが、白金は非常に高い融点と酸にもアルカリにも溶けず非常に安定していると言う性質から使い道を見出されていなかった。何しろ融点が1700度を超えているので、この時代の炉を使った冶金技術ではどうにもできないのだ。酸に溶けないと言う性質を生かして大量の酸に叩き込んでやればプラチナだけ溶け残ると言う事もあるかもしれないが、そんなことをしてまで作るようなものではない。それにこの方法では金と混ざることも考えられる。

 なので、そう言った理由でほとんど使われず、価値もない白金は俺が集めて貰っていくことにする。俺の炉なら簡単に精錬できるし、ぶっちゃければ元があれば増やせてしまう。錬金術の権能の本領発揮と言う訳だな。

 錬金術は鉛から金を作り上げる技術であると言われるが、それはつまり原子核の改変によって行われる物質の合成。質量をエネルギーに変え、またそのエネルギーを質量を持つ物質に戻し、体積を固定してその元素を安定させることになる。上手いことやれば鉛を同質量の黄金に変えることもできるし、白金や銀を作ることも決して不可能ではなくなる。俺は料理や鍛冶、そして報復行為によくこの権能を使っていたが、錬金術の目的は完全ならざる物を完全な物質へと変えること。錬金術において完全な物質とは金であり、また雌雄同体の存在であり、太陽と月であり、世界そのものであった。

 

 と、言うことで俺は暫くこの都市国家でのんびりと材料集めをすることにした。目的は……まあ、そうだな。賢者の石の精製、と言う事にしておこうか。神としての権能を使うなら割と簡単にできるんだが、人間としてそれを作るならまずは非常に高温を出せる竈を用意しなければならない。正確には、高温を出しても壊れない竈、か。

 ……耐火煉瓦の材料は耐火煉瓦の欠片で、耐火煉瓦の欠片を作るには耐火煉瓦が必要で……まあ、実際には耐火煉瓦が歪まないようにするために必要なだけなので耐火煉瓦以外の材料を使えば一応作ることはできる。

 ……アルミナがこの時代に手に入ると思ったら大間違いだ!入らねえよ!

 

 そう言うわけで、一応この状態でもなんとか使うことのできる竈の権能と、魔術系の技術でなんとかするしかない。

 竈の権能は炉の権能。炉は精練や冶金に使われる。混ざりものをより純粋にしていく行程には一家言持ちと言える。派生させれば原子炉に特化させることもできるが、特化させなくとも炉の権能は炉の権能だ。使い道はいくらでもある。

 手始めに石を拾って、両手を合わせ、その間に石を挟み込んで、俺の手を竈として錬金術を行う。元になるエネルギーが大分足りないが、そのあたりは手の中にある石の質量をそのままエネルギーに変えてやれば十分間に合う。

 そして、石をエネルギーに変え、再び物質に。その際に以前より小さくして圧を高め、一つの原子核に対して電子がくっつく数を増やしてさらに原子核にプラスの電荷を加えてやれば……ある程度狙った物質の出来上がり、と言う訳だ。

 今回は銀を作ったが、いつかまた別の物を作ってみたいものだ。賢者の石が作れるようになれば、およそあらゆる物を作ることができるようになっているだろう。その位になるまで、頑張ってみようかね。

 

 ……その前に、買い物だ。まずはこの土地に別荘のような家でも建てて、そこで適当にカレーでも売って過ごそう。たまには人間の舌を相手にしてみるのも面白そうだしな。

 


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