熊の胃袋の中から人間の腕が発見された、その腕に人間の歯形が!?東方書き下ろし短編ミステリー第二弾!!
<注意>この小説は以下の成分を含みます。
・作者独自の世界観
・キャラ崩壊
・他作品のネタ
・一部残酷な描写
・間違っているかも知れない医学上の情報

以上をご理解いただいた上で、それでもいい!という方は、ゆっくり読んで行ってね!

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胃袋より恐怖を込めて  霧雨魔理沙:著

 拝啓

花ノ便リモ聞カレル此頃、幻想郷ノ皆様ニハ益々御健勝ノ事ト御慶ビ申上奉候。此度弊社創立百二十周年ヲ記念致シ下記ノ如ク野外昼食歓談会ヲ計画致シ候故皆様ニハ是非トモ御参加致サレタク此処ニ書面ヲ持ッテ宜シク御願申上奉候敬具。

 文々。新聞社代表取締役社長 射命丸文

 

 記

 

日時:四月十五日(土)正午ヨリ

場所:東キャンプ場(同封地図ヲ参照サレタク存ジ候)

 

 こんな煩わしく読みにくいおかしな手紙が私の元へ届いたのは、2006年の4月13日の事だった。

「弱ったぜ。」

と私は言った。実は2日前に箒が壊れて、修理には一週間かかると言われていたのだ。普段は箒で移動するので、私は車を持っていない。私の家から東キャンプ場まで20kmはあるので、歩いて行くのは無理だ。考えたあげく、この昼食会に車で参加する奴に乗せてもらうということを思いついた。私の家から一番近くに車を持っている奴は霖之助だったので、私は香霖堂へ電話をかけた。

「もしもし?霖之助か?私だ。魔理沙だよ。文から手紙は来たか?え、来た?で、昼食会には出るのか?何?出ない?…そうか。じゃ、またな。」

15日は忙しくて出られないと彼は言った。やれやれ。どうしたものだろうか。

 次に近いのは紫達の家だったが、あの家のスバル360に乗せてもらうのは、(色々な意味で)あまり気が進まなかった。迷った末、私は妖夢に電話することにした。

「はい白玉楼です。」

「もしもし。妖夢?魔理沙だけど。」

「ああ!魔理沙さん。どうしたんですか?」

「うん。文から手紙届いた?」

「ええ。参加するんですか?」

「うん。そのつもりなんだけど、箒が壊れちゃて。悪いけど15日車で迎えに来てくれないか?」

「ええ。構いませんよ。あー…」

「ん?どうかしたのか?」

「前の車(前作参照)、もう無くって今別の車に乗ってるんですけど大丈夫ですか?もしかしてアレに乗りたかったですか?」

「いや…別に。でも前の車高かったんだろ?どうしたんだ?」

「いやー。この間、3月の中旬のことですけど。走っている時にエンジンから突然火噴いちゃいまして…。泣く泣くスクラップにしました。」

「あー。そうだったのか。ま、いいや。それじゃ15日よろしく!」

「はーい。」

 

4月15日11時2分

 

 凄い音を立てて家の前に白い車が止まったかと思うと、クラクションが2回聞こえた。私は家のドアを開けて外に出た。妖夢だった。

「魔理沙さん!おはようございます!」

「ああ、おはようむ!」

「…おはようむ、って何ですか?」

「知らないのぜ?外の世界では有名なのぜ?」

「そうなんですか?」

「まあそんな事はどうでもいいんだが…またこりゃ高そうな車を買ったな。」

「前のに比べたらそんな高くないですよ?中古ですし。」

「へえー。何ていう車だ?」

「ランサーエボリューション。略してランエボってみんな言いますけど。」

「ふーん。私、車は全然詳しくないんだけど、コレ、速いのか?」

「ええ。にとりさんに改造してもらいましたから。さあ、乗って下さい。」

「よろしくだぜ。」

私は助手席のドアを開けて車に乗った。

「動きますよ。一応シートベルト締めてくださいね?捕まったらつまらないので。」

と妖夢が言った。私は言われた通りにシートベルトを締め、出発進行だぜと言った。

 

11時15分

 「おい妖夢。ETCカードは差したか?」

と高速入口を示す緑の看板が見えたので私は言った。

「ええ。大丈夫ですよ。ずっと差しっぱなしなんです。」

と妖夢は言った。

 幻想郷の高速道路がETC化されたのは2002年で、私たちが乗ろうとしている幻想外郭環状線も例外ではない。

 ETC特有の変にやる気を削ぐような認証音が鳴った。正面の看板に、「左:霧雨JCT 12km 外郭環状は右車線へ」とある。

「右だな、妖夢。」

と私は言った。…返事がない。ただの屍のようだ。

「どうしたんだぜ妖夢…!?」

見ると、妖夢の顔からいつもの温和な表情が消え、薄気味の悪い笑みが浮かんでいる。

「魔理沙さん…」

「よ、妖夢…大丈夫か?」

「貴方、さっきこの車は速いのかとお尋ねでしたね…」

「あ、ああ…確かにそう言ったぜ…」

「ならば見せてやろう…槍騎兵(ランサー)の真の力を…」

(お前!ハンドルを握ると性格が豹変するのかよ!)←私の心の叫び

 妖夢がアクセルをぐっと踏み込んだ。それに応じてエンジンが甲高く吠え、タコメーターが跳ね上がる。

四速(ギア・フォース)

体がシートへ押し付けられる。まるで正面に向かって自由落下していくような強烈な加速だ。

 95、130、165…速度はどんどん上がっていく。一体にとりはどんな改造をしたんだ?

「お、おい…妖夢、飛ばしすぎだぜ…捕まるのぜ?」

「捕まる?」

「制限速度150km/hのぜ?」

混乱してきたせいか、語尾がおかしくなっている。

「フッ…私の辞書に…制限速度(スピードリミット)などという文字はない…五速(ギア・フィフス)へ…」

スピードが200km/hを超えた。事故れば確実に即死だ。

「よ、妖夢。お前…い、いつもこんな飛ばすのかぜ?」

「…スピードは正義(ジャスティス)だっ!!」

狂気だ。私は出来ることならすぐに車を降りたかった。だが降りることは不可能だった。

「八雲JCT通過ーーッ!!」

八雲ジャンクションだって!?もう8kmも走ったというのか。恐るべき速さだ。こんな運転なら、エンジンから火を噴くのも納得だ。

「聴け!槍騎兵(ランサー)の魂の叫びを!!」

助けてくれ…死にたくない…

 

11時20分

 

 どこをどう走ったか知らないが、なんとか私達は東キャンプ場に到着した。24.2kmを5分で走破した計算だ。平均時速など計算する気にもならなかった。暇な人は良かったら計算してみてくれよ。

「あら。魔理沙に妖夢。二人一緒とは珍しいわね。」

私達に気づいた霊夢が声をかけてきた。

「よう霊夢。いや、箒の調子が悪くてな。妖夢の車に乗せてもらったんだ。」

「なるほどね。んで、早速だけど、咲夜と藍が向こうで料理の支度をしているの。二人とも悪いけど手伝ってくれるかしら?」

「料理なら喜んで。」

「ありがとう。こっちよ。」

調理場へ行くために駐車場を横切っている途中で、私達は丁度車から降りてきたパチュリーと会った。

「魔理沙じゃない。来てたの?」

「ようパチュリー。うまいもんが沢山食えるらしいから来たぜ。ああ、そういえば箒が壊れてさ。妖夢の車に乗せてもらって来たんだ。そしたら妖夢の運転がさ…」

「ちょっと待って魔理沙。箒で思い出したけど、あなた紅魔館(うち)の図書室から、()()本盗んだわね?」

「おいおい盗むだなんて人聞きの悪い。死ぬまで借りていくだけだぜ?」

「どっちでも同じよ。『月刊魔女』、『週刊妖術』、『シャーマニズム宣言』、『箒の乗り方 上級編』、『ニンバス4000シリーズ 徹底解剖』、『月間箒道 dG6ファイアボルト特集』、『図解 ニンバス4300はココがスゴい!』、『WITCH LINE ニンバス4400試乗レポート』、…」

あ。やばい。全部バレてる。このまま最後まで列挙されたらこの原稿にR18指定をかけなければならなくなってしまうのぜ?

「あー分かった分かった!明日全部返すからッ!明日全部返すからッ!」

「そう。絶対明日返してよね?あと…あなた随分箒関連の本を持って行ったわね。」

「ああ。そろそろ替え時かと思ってな。」

「今は何に乗ってるのよ。」

「今か?今は86年製cP6ファイアボルトに乗ってるぜ。」

「そりゃまた、古いのに乗ってるわね。確かに替え時かもね。2ヶ月後にニンバス4400発売されるらしいから、思い切って買っちゃえば?」

「うーん…でもdG6も興味あるんだよなー。」

「ファイアボルトシリーズにこだわるの?やめておいた方がいいわ。今じゃニンバスの方が上よ。」

うーん。やっぱり時代はニンバスかぁ。だけどあのシリーズ、毎回新製品は高いんだよなぁ…雑誌にも予想価格380万円って出てたし。

「cP6を売れば?50万ぐらいで買ってくれるんじゃない?」

とパチュリーは言った。

「そんな高く買ってくれるかな?」

と私は尋ねた。

「綺麗に乗っているんでしょ?」

「ああ…まあね。」

「それなら、40万は固いわ。特にcPシリーズは名機と言われているんだから。」

「へえ、そんなもんか。」

「そんなもんよ。まずは中古箒店に行って見…」

パチュリーがそこまで言った時、宴会場の方から物凄い叫び声が聞こえた。

「何事!?」

「何だ何だ!?」

振り返ると、妖精たちが血相を変えて逃げてくる。何かが起きたようだ。私は宴会場の方へと駆け出した。

「魔理沙!来ちゃだめだよ!」

逃げてくる(チルノ)が私を見て叫んだ。

「え?」

「後ろ!見て!ほら!」

「ん…?何もないけど…?」

その時、目の前30m程の所にある茶色い岩が、突然ムクムクと動いたのだ。私が岩だと思ったものは、なんと熊だったのだ!

「魔理沙?ヒグマだよ?逃げないと!」

(チルノ)が言った。だが大丈夫。霧雨魔理沙には八卦炉という最強の武器があるのだ。奴がこちらに気付く前にマスタースパークを打ち込めば、勝機はある。否、勝機しか無い!

 私は八卦炉をポケットから取り出し、熊に狙いを定めた。そして…

「その食材!もらったああァ!」

「利根姉!?」

次の瞬間、私の横をジャックナイフが飛び、哀れな熊の眉間に深々と突き刺さった。

「咲夜!?」

「あら魔理沙。お久しぶりね。」

「…久しぶりだぜ。相変わらずナイフの腕は衰えていないみたいだな?」

「まあ、日々修行しているし、多少はね?」

「おう。良かったぜ。それよりこの倒した熊はどうするんだぜ?」

「さっき食材と言ったでしょう?焼いて食べるのよ。」

食べるだって?熊の肉って美味しいのか?っていうかそもそも食べられるのか?…咲夜って結構ワイルドなんだな。

「案外、おいしいのよ。解体を手伝ってくれる?」

「ああ…いいぜ。」

一応、熊も哺乳類だから、法医学の知識を応用すれば、どこに骨があるかぐらいは分かりそうだった。

「取り敢えず、内臓(モツ)を出そうか。」

「そうね。」

咲夜が熊の腹をナイフで裂いた。人間の2倍はあろうかとおもわれる巨大な胃袋が見えた。中に未消化の食物でも入っているのだろうか、やや縦長に膨らんでいる。

「胃の中に何か入っているな。」

と私は言った。

「見てみる?」

「ははは。どれ。ちょっとナイフを貸してよ」

咲夜から借りたナイフを使って、私は熊の胃袋をサッと縦に切り裂いた。そして…そこにあり得ない物を見出した。

「おい…咲夜…こいつぁ一大事だぜ。」

熊の胃の中から出てきたのは、紛れもない、人間の腕だったのだ。

 

11時58分

 

 射命丸の昼食会は(本人には気の毒だが)即刻中止となり、現場には非常線が張られた。

「この腕は法医研に持ち帰って調べるぜ。」

と私は霊夢に言った。

「そうしてくれると助かるわね。私は例によって失踪者データーベースとの照合と、遺体の捜索を行うわ。」

「ああ。頼むぜ…消化の度合いからして、喰われて3,4時間って所だな。もしかしたらまだ生きていて、『一匹残らず、駆逐してやる!』とか言っているかも知れないぜ?人間てのは案外タフな生き物だからな。永遠亭に搬送すれば助かるかもしれない。」

「…分かった。捜索を最優先にするわ。じゃ、そういうことでよろしく。」

「了解だぜ!」

 

12時31分

 

 「妹紅、お前の所見はどうなんだぜ?」

研究所にとんぼ返りした私は、非常招集を受けて出勤してきた妹紅に言った。彼女には既にメールで要部の写真を送ってある。

「ふむ。まず、写真を見る限り、食べられてから3~4時間経過しているな。」

「おお、全く同意見だぜ。それから他には?」

「それから腕の切断面だが…あれは喰いちぎられた跡じゃないのには気付いたか?」

「え!?」

切断面を観察していなかったとは、私としたことが迂闊だった。現場で少しパニック状態になっていたのかも知れない。

 私は改めて腕の切断面を注意深く観察した。そして、骨に数本の線条が並行して付いているのを認めた。

「線条があるな…ということはこの腕は喰われたんじゃない…これは…」

「ああ。ノコギリによる切断痕だろうな。これは事故じゃない。事件だよ。」

どうやら妹紅の言う通りらしかった。

「急いで霊夢に電話するぜ。それから妹紅、骨の洗浄を頼む。」

私は受話器を取り、霊夢の携帯番号を押した。

「もしもし?霊夢?」

「魔理沙?丁度良かったわ。腕の持ち主が割れたわよ。昨日あのキャンプ場の奥の山に入山して行方不明になっている人がいるの。名前は竹重蒼真。32歳の男性よ。」

「ああ…そうか。実はね…」

私は霊夢に、竹重蒼真の腕は喰いちぎられたのではなく、ノコギリで切断されたということを説明した。

「つまりこれは殺人事件の可能性が高い。もしそうだとすれば、遺体はバラバラになっている可能性があるぜ。」

と私は言った。

 

13時8分

 

 アリスが差し入れてくれた握り飯を二つ、猛スピードで食った。アリスは料理がうまい。

 

14時46分

 

 電話が鳴った。霊夢からだった。

「もしもし?魔理沙?霊夢よ。」

「ああ私だ。何かあったのか?」

「さっき、山の中腹で竹重蒼真の遺体が見つかったわ。所持していた身分証等から本人確認済みよ。案の定、バラバラよ。」

「やっぱり…それで、遺体の状況は?」

「山の中という条件もあるし、すでに腐乱が始まっているわ…だけどそこまで進行してはいない。死後1日以内よ。」

「ふむ…分かった。また何か分かったら知らせてくれ。」

「了解よ。」

私は受話器を置いた。バラバラ殺人か…犯人はどんな奴なのだろう。皆目見当もつかない。ノコギリで切断したとしたら普段ノコギリを使っているような人物の犯行だろうか。いや決してそうとも限らない。くそっ。何か手がかりは…

 そこまで考えた時、部屋のドアが開いた。深刻な表情をした妹紅が立っていた。

「魔理沙。ちょっと来てくれないか。」

 

 「何だ?」

洗浄され、きちんと並べられた骨の前で私は妹紅に尋ねた。

「ここを見てくれ。歯形がある。」

妹紅は尺骨の中ほどを指した。

「熊の歯形じゃないのか?」

と私は言った。

「違うね。よく見てくれよ。この2つの痕が恐らく小臼歯だ。」

私は目を凝らして妹紅が指さした場所を観察した。

「むむ。第一小臼歯の咬頭が2つ、第二小臼歯は3つか…。」

悪い予感がした。

「んで、この2つが大臼歯の痕だ…見てくれ。咬頭が5つ…。」

「…大型の類人猿じゃないか…?」

「…いや…見て。歯と歯の間に隙間がほとんど無い。こんな歯列の特徴を持つ生物は…。」

「おい…まさか…。」

信じられない。まさか。そんな事がこの幻想郷で…

「そのまさかしか考えられないよ魔理沙。この歯形は…人間のものだ。」

食人(カニバリズム)か!?」

「そうとしか思えないな。」

「すぐ永琳に電話してくれ!永遠亭に急行するぜ!もし犯人が食人者だとすれば、発症率が非常に高い病気があるんだ!」

と私は叫んだ。

「クロイツフェルト・ヤコブ病だな?」

「その通り!大至急だ!」

 

15時38分

 

 永遠亭の呼び鈴を鳴らすと、鈴仙が出てきた。

「魔理沙さんに妹紅さん…どうされましたか?」

「事件の捜査だ。永琳に会いたい。」

「分かりました。今師匠は診察中ですので、それが終わるまでお茶でも…。」

「そんな暇はない!大至急だ。師匠にクロイツフェルト・ヤコブ病と言え!」

「は、はい!」

鈴仙は奥へすっ飛んで行ったが、1分も立たないうちに戻ってきた。

「師匠はすぐお会いになるようです。どうぞこちらへ。」

「ありがとう。助かったぜ。」

 

 私たちは会議室のような部屋に案内された。既に部屋の中には永琳が座っていた。

「永琳。診察中突然済まなかったな。事件が起こったんだ。」

「クロイツフェルト・ヤコブ病と言いましたね?…ウドンゲ。下がっていなさい。」

はいと言って鈴仙は部屋から出て行った。

「それで?」

と永琳は私に尋ねた。

「単刀直入に言おう。食人事件だ。」

「食人!?」

「ああ。そうだ。最近、クロイツフェルト・ヤコブ病の患者は来なかったか?」

滅多なことでは変わらない永琳の顔色が、変わった。

「…一人来たわ…庭田という40歳の男性よ。本人には若年性認知症と説明してあるけど…今、隔離病棟に入院中よ。」

「何?それは本当かっ!?至急、その庭田氏に面会を頼みたい。」

「…分かったわ。ついて来て。」

 

 長い長い廊下の一番奥で、永琳は立ち止まった。

「ここよ。私が先に入るわね。」

永琳が二回、ドアをノックした。

 

 返事はない。

 

 ぞわぞわっと背筋に何か冷たいものが走った気がした。

 

 「庭田さん…失礼しますよ…えっ!?」

「どうした!」

私と妹紅は部屋の中に入った。ベッドの上は…もぬけの空だった…。

 

 最悪の事態だ。

 

 「魔理沙見ろ!窓が割れている!」

と妹紅が叫んだ。庭田は窓から逃走したに違いない…のだが、クロイツフェルト・ヤコブ病は発症初期から歩行障害や軽い認知症、視力障害が起こる筈だ。ならばどうやって…?

「永琳、庭田は本当にクロイツフェルト・ヤコブ病だったのか?」

と私は尋ねた。

「ええ。髄液検査の結果、異常プリオンを検出したわ。」

…ならば庭田がクロイツフェルト・ヤコブ病に罹患しているのはほぼ確実だ。しかしどうやって逃げたのだろう。はたまた何故?

 

 しかし庭田が永遠亭から脱走したのは事実なのだ。そして今日、人間の歯形がある腕が熊の胃袋から見つかったことも、また事実だった。

 

 もしや、人肉が喰いたくなって脱走したのではないか!?

 

 「最後に庭田の姿を確認したのは誰だ?またそれはいつだ?」

と私は永琳に聞いた。

「う、ウドンゲを呼ぶわ。少し待っていて。」

 

 鈴仙の話によれば、昨日の夜、巡回した時は、確かに庭田は部屋にいたという。

「朝食は持って行かなかったのか?」

と私は聞いた。

「栄養補給は全部点滴ですから…基本的に庭田さんの姿を確認するのは夜の巡回の時だけです。」

と鈴仙は言った。

 

16時1分

 

 永遠亭を出るとすぐに私は霊夢に電話をかけた。

「もしもし?」

「霊夢か?大変だ!聞いてくれ!」

「少し落ち着いて。魔理沙。何があったの?」

「まず…あの腕の骨だが、人間の歯形が付いていたんだ。」

「人間?熊じゃないの?」

「いいから聞いてくれ。さらに今日、永遠亭から庭田というクロイツフェルト・ヤコブ病の患者が脱走した。クロイツフェルト・ヤコブ病は食人者に多発すると言われている病気だ。」

「…ちょっと待って。整理させて。一つ。竹重蒼真はノコギリでバラバラに殺された。二つ。彼の腕が熊の胃袋の中から見つかった。三つ。その腕には人間の歯形があった。四つ。永遠亭から食人者が脱走した…。」

「そうだ。私の推理はこうだ。永遠亭は脱走した庭田は、山の中で出会った竹重蒼真を殺し、どこかで拾ったかしたノコギリでバラバラにして、腕にかぶりついた。そこへ恐らく血の臭いを嗅ぎつけた熊が現れた。庭田は熊に驚いて逃げ、熊は庭田が捨てていった腕を喰った…」

「恐ろしい話ね。」

「もっと恐ろしい事がある。熊の出現によって腕を食べ損ねた奴は、人に…人肉に飢えている筈だ…人間が沢山住んでいる人里が危ないんだ!!」

「…分かった。私もすぐ人里に行くわ。魔理沙も来てちょうだい。」

「分かった。妹紅と車で急行するぜ。」

 

16時32分

 

 私と霊夢は人里の中央で会った。咲夜と妹紅、妖夢も一緒だ。

「大変なことになったわね魔理沙。」

と霊夢が言った。

「全く恐ろしいぜ。」

「あなたの推理が正しければ、今晩、この人里は相当危険な状態になるわ。」

「ああ。相当ヤバいぜ。どうするつもりだ。」

「私達で今日一晩、この人里の警備にあたるわ。」

「警備と言っても…五人じゃ少し心細くないか?」

安心しなさいと、霊夢は言った。

「早苗を呼んであるわ。もうすぐ着くはずだけど。それで、咲夜は妹紅と北東区域を。妖夢は早苗と南東区域をお願い。私は一人で北西区域を巡回するわ。」

「え?じゃあ私は一人で南東区域を巡回するのか?」

と私は尋ねた。

「…日没まではね。日が沈んだらフランが来る手筈になっているわ。」

「おおフランが来るのか!そいつは心強いな!」

「でしょう?彼女も久しぶりに外で遊べる!って喜んでたわよ。」

 

 …いやこれ遊びじゃないんだけどな…

 

16時56分

 

 早苗が合流し、私達はそれぞれの持ち場へと散った。

 

18時2分

 

 日が落ちると急に気温が下がり、肌寒くなった。まだ4月の15日だから仕方ないが、それにしても今日は一段と寒く感じるのは気のせいだろうか。

「まりさ!」

そんな事を考えていた所へ急に名前を呼ばれたものだから、私は非常に驚いてしまった。

「わ!ってフランか…。驚かさないでくれよ…。」

「今日は『けいび』をするんだって?」

「ああ。人を喰う悪い奴がこの辺をウロウロしているかも知れないんだ。」

「人を『くう』やつってルーミアのこと?」

「いや、ルーミアじゃない。人間だ。」

「人間を食べる人がいるの?」

「そうだ。怖いだろ?」

「うん…こわいね。」

「だから、変な奴がいたらすぐ私に言うんだぞ?」

「わかったよ!」

 

19時45分

 

 何も起こらない。人里はいつも通りの夜の賑わいだ。

 

21時37分

 

 「まりさ!あそこに変な人がいるよ!」

「ん?ああ…あれはただの酔っ払いだ。安心しろ。」

「ふーん…。」

 

23時6分

 

 静かに夜は更けていく。行きかう人の数も随分減った。だが、何も起こらない。いつも通りの平和な街。

 

4月16日午前1時6分

 

 日付が変わって1時間余。街は完全に眠っている。時々、犬の遠吠えが聞こえる程度だ。そして、眠い。いつもだったらとっくに寝ている時間だ。

 

1時25分

 

 静かすぎて不気味なくらいだ。

「眠い…。」

私はそう呟いて、欠伸を一つした。

 

 急に、果たして本当に庭田は人里に来るのだろうかと疑問に思えてきた。もしかしたら奴は今頃山の中で倒れているか…それこそ熊に喰われたりはしていないだろうか。

 

 「静かだな…フラン。」

「うん。そうだね…。」

とフランが言ったその時!!

 

 通りの向こうから闇夜を切り裂くような鋭い叫び声。続いてバン、バンと2発の銃声。

 

 間違いない。何事か起こったのだ。

「行くぞフラン!」

「うん!!」

 

 私達が駆けつけると、路上に若い遊び人風の男が一人うずくまっていた。幸い、怪我はほとんど負っていないようだった。

「法医研の霧雨魔理沙だっ!大丈夫か?」

と私は声をかけた。

「き、狂人だ!俺を見るなりいきなりノコギリで斬りつけて来やがった…」

と男は震え声で言った。

「撃ったのか?」

「ああ…だがやみくもに撃ったから当たったか分からねえ。」

「まりさ!見て!血のあとがあっちに続いているよ!」

とフランが言った。

「血のあとをたどれば、『はんにん』がいるんじゃない?」

「確かにフランの言う通りだ。おいお前。お手柄だぜ。」

と私は男の方を向いた。

「犯人逮捕に協力したという事で、その銃の不法所持は見逃してやるぜ。霊夢に見つかる前に早く失せな。」

「…恩に着るぜ!霧雨魔理沙さんよ!じゃあな!」

男は走って夜の闇に消えた。

「さあ、フラン。行くぜ!犯人を追いかけよう。」

「うん!」

 

1時38分

 

 血痕を追うこと10分。遂に人里のはずれまで来てしまったが、いっこうに庭田に追いつけない。病気の上に撃たれて出血いるというのに、随分逃げ足の速い奴だ。血痕はずっと先まで続いている。

 

1時43分

 

 さらに血痕を追うこと5分。私達はY字路で立ち止まった。血痕は左へ続いているのだが…

「フラン。この分かれ道ってさ…。」

「うん。右へ行くと妖怪の山の方へ通じる道だよ。それで左へ行くと…あれ?」

「共同墓地…で間違いないよな?」

「うん。確かお墓がいっぱいあるとこに出るはずだよ?」

共同墓地へ逃げて一体何をするつもりだろう。私は疑問に思いながら、左の道へ入った。

 

1時49分

 

 墓地は不気味に静まり返っていた。墓地の脇に植えられた桜が、月の光で妖しいぐらい綺麗だ。血痕は墓地の中へと続いている。

 

 フランが私の手をぎゅっと握った。

「フラン…怖いか?」

「まりさもこわいの?」

「正直…少し怖いぜ…。」

私は血痕を辿って墓地の中に入った。血痕は墓地の中をくねくねと進み、遂に途切れた。

 

 そこは墓石の前だった。私は墓石に書かれた文字を見ようと顔を近づけた。

 

 そして、月あかりを頼りにその字を、読んだ。

 

 

 願わくば庭田正の霊魂ここに永遠に眠らんことを

      1952.9.24-1993.1.27

         享年40歳

 

 

 

 

 私は氷の手で心臓を掴まれたような気がした。

 

 とめどない恐怖が私を襲った。

 

 そして、私は気を失った。

 

 

 翌朝、私は紅魔館の一室で目を覚ました。気を失った私を、フランが運んでくれたのだ。

 

 

 

 

 この怪事件は、私の人生の中で最も謎多き事件の一つである。そして、その謎は、10年を経た今でも、解明されていない。

 

 

 

 

 

 ただ。

 

 

 私はこの事件以来、夜桜を見るたびに、あの日、あの共同墓地で見た桜を思い出しては、身震いするのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 最後までお読みくださり、ありがとうございます。霧雨魔理沙シリーズ第二弾、「胃袋より恐怖を込めて」いかがでしたか?
 作中数多くの他作品のネタが出てきます…(まずタイトルからネタです)。ちょっとやりすぎたかと少し反省しております。
 終わり方、かなり悩みました。まあ、こんな事も幻想郷ではアリ。じゃないかな?と思っております。ふざけんな!ちゃんと事件解決しろ!という方。そのうち真面目な事件も書きます。書きますとも。
 ではまた次回。次回は紅魔館を舞台にしようと思っています。

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