新人神喰いさんが適合試験失敗で逆にアラガミに食べられたお話。 作:白兎-臨音
因みにヒロインは多分シエルかリヴィかリッカになる予定です。
さーて、全然似てないブラッドの面々が登場します。ご注意下さい!
俺は、何を思うでもなくふと右手に視線を向けた。あれ以降疼くわけでもなく、まるで自分の腕かのように振る舞っている異形の腕。
そこには銀を基調とした白系色のガントレットが嵌められていて、アラガミ化した俺の腕を覆い隠していた。
ロミオ先輩曰く「凄えカッケェよ今のお前! リンドウさんみたいでカッケェよ!」とのことらしいが、俺にはそのリンドウという奴が誰だかわからんので、そう言われても「先輩、カッケェ以外に語彙ないんすか」程度の返答しか出来なかった。
ロミオ先輩はさして気にしている様子ではなかったが、皆と仲良くするためにはもう少し話を合わせるための知識もいるのだろうか。
このアラガミ化した俺の腕は人類の敵そのもので、皆を遠ざけて行くのだから。
少なくとも俺は、そう思っていた。
「なーに暗い顔してんのさ? 元気出せよ、テル」
前を歩くロミオ先輩が、振り返って言う。
「……いえ。コレのことで、ちょっと」
俺は右手を少し上げて、ロミオ先輩に返す。
「アレ? サイズ合ってなかったりした?じゅりうす印のがんとれっとらしいから大丈夫だとは思うけどさ」
「そうじゃなくて、これ、要はアラガミじゃないですか。あと結局じゅりうす印のがんとれっとってどういうことなんすか」
俺はロミオ先輩に自らの腕の事、それが人類の天敵『アラガミ』そのものである事についての不安を打ち明けた。
「あぁ、そのことか。お前はさ、ゴッドイーターがどんな奴らか、わかる?」
「どんな、奴ら……ですか?」
「これもジュリウスとかの受け売りなんだが……神機使いは体内に偏食因子、要はアラガミ細胞を打ち込んでるんだ。だから、俺もお前と同じで身体の一部はアラガミなんだぜ?」
ロミオ先輩が、ぎこちない優しげな表情を浮かべて、そう言ってくる。言われてみればそうだったという内容なのだが、彼が自分を安心させる為にそう言ってくれたのだと気付いた時には、恥ずかしさで頬が熱を帯びていた。
「よーし、んじゃ探検行きますかー」
間延びした声が廊下に響き、その後には金属質床による固い足音と二人の声が続いていた。
その後は、ロミオ先輩の案内でアナグラ……極東支部の中を見て回ったのだが。
「ここがロビー。極東は最前線だからちょっとボロいけど、優しい人達ばっかりであったかい感じがするだろ? だろ?」
「ええ……そうっすね」
ロミオ先輩がグイグイと言ってくるのでついそう答えてしまったが、本当にボロい一般の居住区と比べればここは十分に綺麗な所だった。
フェンスに覆われたエレベーターの様な物が出撃ゲートで、その隣に二つずつある丸い画面の機械が、ターミナルらしい。
「あ、任務の受注の仕方は階段降りて下のヒバリちゃんに聞けばわかると思うよ」
ロミオ先輩はそう言い、少し間を置いて「俺、説明ヘタだからさ」と続けた。
____数分後。
「で、これがエレベーターで、この階のボタンを押せばブラッド区画に到着〜、っと」
ロミオ先輩はそう言って、一足先にエレベーターから降りていく。それを追う様に俺はエレベーターから降りたのだが……人が居ない。
なぜだろう。ブラッド区画というからにはブラッドの居住スペースなのだから、これから仲間になる人間が居ても良いと思うのだが。
そう思った俺は、隣に居たロミオ先輩に問いかける。
「ロミオ先輩、人、居ませんね」
「あ、ああ。みっ、みんな訓練にでも行ってるんじゃないかな? そ、そんなことより、このエレベーター出てすぐのこの部屋がお前の部屋だからな? エレベーター出てすぐだぞ?」
なぜだろう。何か聞いてはいけないことを問いかけてしまった気がした。
____数分後。
「とりあえず、一通り回ったかな。ほら、飲めよ」
ロミオ先輩が、壁にもたれかかり自販機で買った缶ジュースをこちらへと投げてくる。
____んー、初恋ジュース?
聞いたことも見たこともないラベルの缶ジュースだったが、そもそも缶ジュースなんて見かける機会が無いのだからそれが普通なのだと思い込んで俺は、その初恋ジュースを一気に呷った。その思い込みが、間違いだとも知らずに。
「ぐぶぁっ!? ごほっ、ぐっ……なっ、なんなんすかこれは!?」
「初恋ジュースだよ。マズイだろ? 俺も
平たく言えば、酷い味だった。甘酸っぱく、それでいてほろ苦い。その名の通り初恋のような味だった。
偉そうにそう思ってみるのだが、この方生まれてから今まで恋なんてした事もない人間である。初恋の味なんて知る由もない。
「酷いですよ、先輩」
「悪い悪い。でも、タツミ先輩曰く洗礼らしいからさ、欠かせないかと思って」
そんな風に言うロミオ先輩に詳しく話を聞いてみると、ブラッドが初めて極東に来た時、洗礼と称して極東支部の古参達に飲まされたらしかった。酷い風習だ。
次の代の子達が極東支部に来た時、自分は絶対に彼らに初恋ジュースなんて飲ませない。
そんな事をテルが思っていると、唐突に横から声がした。
「あ! 俺としたことが、ラウンジを見せてやるのを忘れてた! 早く行こう、テル」
ロミオ先輩はわざとらしい身振り手振りと共にそう叫ぶと、そそくさと元来た道を引き返していった。勿論、俺を連れて。
「ここ、っすか」
俺はラウンジの扉の前で、そう言う。
「ああ。ここだよ」
ロミオ先輩もそれに返す様に言う。
そして、彼は扉から一歩下がって、「ほら、入りなよ」と言った。
俺は疑問を抱くわけでもなく、そっとラウンジの扉を開けた。
その瞬間、パァンと連続して弾ける音。自らの方へと飛んでくる色とりどりの紙。視界に入るのは精一杯デコレーションされた広い部屋と、「雲井テル、ブラッド入隊おめでとう」や「ブラッド入隊式」、果ては「ユノさん最高!!」などと書かれた幕の数々。
「…………?」
俺の脳内には唐突の出来事により無数の疑問符が浮かぶ。
「ブラッド入隊おめでとう、テル。俺はジュリウス・ヴィスコンティ、今はこのブラッド隊の隊長をしている」
「今、は?」
俺は特殊な言い回しをされた部分について、疑問を投げかけた。
「ああ。少し前まで別の者がブラッドの隊長をしていてな。そいつがクレイドルという部隊に転属になって、今では俺が隊長をしている。彼にも君を紹介したかったんだがな」
ジュリウスと名乗った隊長は、そこで一度話を区切って、言う。
「とりあえず、だ。入隊おめでとう。今日は皆との自己紹介も兼ねて、入隊式兼歓迎会という予定になっている。カレーならいくらでもあるぞ。聖域産のオラクル無添加野菜だ、好きなだけ食べてくれ」
____なんだろう、この人こんなイカした服着てるよりツナギ着て農作業してる方が似合うんじゃないだろうか。
そんな思考と共に、アラガミが発生するよりも前の時代ならよく見られたと言われている畑作業をする農家さんの格好をしたジュリウス隊長の姿を思い浮かべてしまい、思わず吹いてしまいそうになる。
そこからは皆の自己紹介が始まり。
「ついさっきも名乗りはしたんだが。改めて、隊長のジュリウス・ヴィスコンティだ。これからは戦場でもよろしく頼む」
上品な服を身に纏う金髪の青年、ジュリウス隊長が、言う。
「俺はロミオ・レオーニ! 今はお前の世話係みたいなもんかな。これでもジュリウスの次にブラッドに入った先輩だからな? わからないことがあったらいつでも俺に聞けよ!」
軽薄なお調子者だが面倒見はいい人な俺のお世話係、ロミオ青年が言う。
「私は香月ナナ! これ、お近付きの印に。ナナのお母さん直伝おでんパン。残したら、許さないからね?」
串刺しにされたおでんの具が挟まれたパンを差し出して、ヤケに露出度の高い少女が言う。正直に言うと、串はどう食えと……?
「シエル・アランソンです。ブラッドでは主に、参謀として戦術考案をしています。戦術等、わからない事があればいつでも私に聞いてください。これからも、よろしくお願いしますね」
無機質な様でその実、感情豊かに感じられる発育の良い体型の少女、シエルが言う。なんだ、その……胸、大きくないか? 普通運動する奴らは胸小さくなるんじゃないのか。
「ギルバート・マクレイン、ギルって呼んでくれ。ブラッドになる前にもグラスゴー支部で神機使いをしてたんで、この中じゃ神機使いとしては一番ベテランかもな。ま、神機使いとして悩んだりしたら俺に言え。そこのロミオよりは上手いアドバイスを出せる自信があるぞ」
大人びた雰囲気を感じさせる青年が、言う。そのごロミオと口喧嘩的にじゃれあっていたのはここだけの話である。
「リヴィ・コレット……よろしく頼む」
静かにそういった少女は、こちらに向けて手を差し出してくる。俺はその手を取りつつ、一瞬たじろいでしまう。その原因はひとえに彼女の服装にあり、無意識に見るとスク水____旧時代の遺産であり男のロマン(らしい)____に見えたからである。
赤くなる頬を明確に認識しながら、俺は彼女から手を離すのも失礼と思い何も出来ずに居た。
「ああ、恥ずかしがることなんてないさ、新入り。ギルだって昔はそんな風にウブだったよ。でもなぁ、褐色を選ぶ辺り……なかなかやるな?」
「ちょっ、ハルさん!?」
ギルが慌てたような声を上げる。
俺もその声につられて振り返ってみると、軽薄そうな優男を筆頭に、様々な人達____恐らく極東支部の人達が、いつの間にかやってきていた。
そこからといえば進行は早く、場のカオスは加速しどんちゃん騒ぎとなっていった。
神機整備を担当しているという技師のリッカさんに呼ばれて神機の説明を受けてみたり、ロミオ先輩とコウタ先輩に捕まって謎の洗礼を受けたりと散々だった。
でも、みんなとはしゃぐのはとても楽しくて。こんなに心から笑えたのは、いつぶりだろうか。
俺はその時、自らの逆らえない宿命であるはずの右腕を忘れて、心から笑っていた。
いかがでしたでしょうか?
ブラッド入隊も無事に終え、いよいよ次回は実戦です。戦略担当シエルたその活躍に、乞うご期待!