大失敗ソリュシャン   作:萩原真治

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ソリュシャンかわいいよソリュシャン


忠誠心ソリュシャン

「この愚か者が!」

 敬愛する主人の怒鳴り声にソリュシャンはびくりと身体を震わせる。それがこの身に向けられたものではないと分かっていても、尋常でない恐怖が粘体の奥底から湧き上がってくる。いやただの恐怖ではない。それは自分という存在が根源から揺さぶられる外部からの波動だ。ふとソリュシャンは自分の下着が湿っていることに気付いた。あまりの恐怖に失禁した、というのもあながち間違いではない。アインズへの畏怖の念から、タガが緩んで自身を構成する酸が漏れ出てしまったのだ。ソリュシャンは美しい顔を歪め、自分を恥じる。この誉れ高きナザリックの最奥、至高なる玉座の間で粗相をするなど……。彼女は本気で自害しようかと悩み、自分の首にナイフをあてがう。魔力が付与されているとはいえ、ナザリック基準から言えば「普通のナイフ」だ。こんなものですっぱりと死ぬことはできない。しかしソリュシャンはたとえ微々たるダメージで苦しみの中で死のうとも構わなかった。むしろ自分の苦しみと耐えがたい苦痛が、敬愛するアインズの供物になるのならば……、何も問題は無い。むしろご褒美でありんす。

「……なんてね」

 一瞬の逡巡のあとそう呟き、ソリュシャンはため息と共にその手をゆっくりと下げる。最初から分かっていたことだ。この身の全ては「アインズ・ウール・ゴウン」のもの。私は彼のギルドの誇り高き所有物であり、この身は三千世界の果てまであの御方に捧げている。ともあれば、この命も当然タグ付けされた所有物。勝手に死ぬことなんて許されない。そこでソリュシャンはほう、と頬を上気させて倒錯的な笑みを浮かべる。もはや私は、私の運命のアルファからオメガまでアインズ様に縛られているのね。いえ、縛られているなんて不敬だわ。優しく縛り上げていただいているのよ。ソリュシャンの染みはさらに大きく広がった。

 

 ナザリック地下大墳墓第十階層「玉座」。

 ソリュシャンは現在そこに立っている。まるで何百年も前からそこに在った家具のようにその身を完全に場に馴染ませている。当たり前だ。ここは聖域も聖域。ナザリックに仕えるシモベなら誰しもこの聖域を知っている。この場所はシモベにとって、畏怖、恐怖、憧憬、誇り。サウダージのように複雑で強大な感情を抱かせる場所。彼の場所に立ち入ることが許されるだけでこの身に過分に余る。階層守護者各位ならまだしもただのー他のポップするようなシモベからしてみれば「ただ」な訳ないのだがーメイドが本来入れる場所ではないのだ。至高の41柱の神々しい残滓によって構成されるこの空間に。

 しかしそのまとめ役であるモモンガ改めアインズ・ウール・ゴウンによってシモベの立ち入りが解禁された。しかも御手によって直接創造されたNPCならまだしも,名を持たぬただの下等なシモベ風情までもが許可された。これにはさすがにソリュシャンも眉をひそめざるを得なかった。多くのNPCが顔を歪めていただろう。もしやこれは自分たちの忠誠心が試されているのではないか、ここでシモベたちを殺せという命令を暗にされているのではないかと思ったほどだ。そしてシモベたちも何らかの自分たちへの罰、あるいは死ぬことで忠誠心を披露せよ、と命令を受けているのだと思うものが大半だった。結局それは彼らの勘違いで、寛大で慈悲深い主人の判断に苦悩しつつも咽び泣いてそれを受け入れることになったのだが。

 そんな聖地にソリュシャンはひざまずき、ルプスレギナの様子をこっそりと伺う。

 おそらく彼女には死が与えられるだろう。それはほぼ確実だ。あの温厚で偉大な主人をかつてないほど怒らせたのだから。現にルプスレギナも恐怖で自分の設定を忘れるほど取り乱している。もちろん姉妹として悲しく思う。可能ならば減刑してほしいと思う。しかしそれこそ愚か。主人の決定と、それを引き起こした神の怒りに口を挟めるわけがないのだから。

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