オーバーロード ワン・モア・デイ   作:0kcal

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※このSSは10巻までの情報による妄想設定を基礎として書かれております。話が進むごとに妄想や捏造はどんどん増えます。予めご了承ください。


Preparation

「はい、全てアァインズ様の御指示通りに。この都市に生きる者全ての耳に入る様、情報を伝達した上で適当に被害を出しております」

 

 <ゲート/転移門>より軍服を纏った二重の影(ドッペルゲンガー)パンドラズ・アクターの姿が現れ、あくまでも普段を知るアインズから見れば控えめの抑揚とアクションで一礼する。

 メリハリの効いた完璧な動作なのだが、劇役者然とした仕草と”アァインズ”という発音に関して後で一言、言っておかねばならない。発光する手前のレベルで恥ずかしかったこともあって、牽制の意味を込めて軽く睨むが全く通じていないようだ。この後の事を考えると陰鬱な気分になるが、あと少しと己を奮い立たせる。

 

「……よかろう、ではとりあえずあの者達のパスを渡す。活用せよ」

 

「確かに承りました」

 

「それで、例の人間は?」

 

「はっ、こちらでございます」

 

 パンドラズ・アクターがさっと手を振ると、白い布で覆われた人間大の包みが出現する。

 だが人間だとすると形がおかしい。頭に当たる部分が膨らんでいないのだ。しかし、それを見たアインズは満足そうに頷いた。

 

「恐怖は十分に与えたか?」

 

「それは間違いなく。……即興故、少々仕上がりに不満はありましたが」

 

「ふむ?まあよい。一応確認するが殺してはいないな?」

 

「はい、首から上は生かしております。お持ちいたしましょうか?」

 

「いらん、見るのも不快だ。あくまでも実験の一環、生きてさえいればどうなっていても構わん。お前に任せる」

 

 一時は怒りにより、精神と肉体を回復させつつ永遠に苦痛を与えてやろうと考えていた。だが、リソースを割いてそんなオブジェを二体も維持するより、有効活用したほうがいい。

 己の眼で見た場合、再び沸き上がるであろう怒りと不快感で衝動的に潰しかねないので、今後もパンドラズ・アクターに管理させるつもりではあるが。

 

「さて、後どの程度かかる?」

 

「動きが鈍く、まだ少々時間を要するかと。無理にでも動かしましょうか」

 

「不要だ。だが、その間の時間は有効に使うべきだな……んんっ、ナーベラルよ、どうした?」

 

 再び優雅な動きで一礼したパンドラズ・アクターにもノーリアクションのナーベラル・ガンマに対し、アインズは平静を装って問いかける。

 が、その心中は態度と裏腹に、予防注射の前の幼子の如く乱れていた。

 

(昨日、心をスタズタにされたばかりなんだから、お手柔らかにお願いしたい、お願いします……くっ!<ライオンズハート/獅子の心臓>が使えれば!)

 

 仮に使用できたとしても自身には効果がない魔法だが、つい願ってしまう。

 同時にアインズは現実的な対処として、予想される絶対零度の声色に備えて心を強く持つべく、気合を入れた。経験上全くの徒労ではあるが、これは心構えの問題である。

 

「アインズ様、此方の御方はどなたなのでしょうか?ナザリックに属する者であるのは気配でわかるのですが……」

 

(ん?)

 

 聞こえてきたナーベラルの声色は冷たくはあるが、決して絶対零度やブリザードの類ではない。アインズの聞き間違いでなければ、普段から出している声となんらトーンは変わらないと思える。

 

(……もしや、俺の動揺を見抜いて……いやいや、ないないない)

 

 全NPCの中でアインズが最も共にした時間が長いと言えるのがナーベラル・ガンマだ。不本意ながらものすごい勢いでパンドラズ・アクターが追い上げているが、前回からの積み重ねは未だに圧倒的な差を見せている。

 そんな事が出来るタイプでもないことも、アインズの想像をちょっと超えるレベルでポンコツであることも知識ではなく経験で理解している。

 だが、表情が見えないとやはり不安だ。アインズはナーベラルの顔が見える位置になるべく自然に、いかにもパンドラズ・アクターを紹介するため、という態を装って移動する。

 

「ナーベラル・ガンマ、お前が会うのは初めてだったな。これは、パンドラズ・アクター、私が、んっ……創造した、領域守護者だ」

 

「なんと、まさかアインズ様自らが創造された御方とは……失礼致しました」

 

 トラウマに対する衝撃に備えてナーベラルの表情をちらちらと観察しつつ、パンドラズアクターを紹介する。ナーベラルの表情は驚き――ここで耐ショック体勢――の後に、アインズの見間違えか幻術でなければ、己に敬意を払っている時と同じ表情でその場に跪いた。

 

「殿、ちょっと某よくわからなかったのでござるが、こちらの御仁はナーベラル殿の同僚でいいでござるか?」

 

「愚か者。パンドラズ・アクター様は、私などより遥かに上位の御方です。また少し尻尾を焼いてあげましょうか」

 

「ひい!あれは勘弁してほしいでござる!」

 

 ハムスケへの態度や表情も観察するが、完全に前回の漫才状態で不自然な部分はない。

 何故だ?と疑問を持ったその時、アインズはようやくナーベラルがパンドラズ・アクターと同じドッペルゲンガー種である事に思い当たった。

 

 ナーベラルに手を差し伸べ、芝居がかった台詞回しで立ち上がる様に促すパンドラズ・アクターを見て光りつつ、アインズは考える。

 

 (今までの恐怖体験から、ただショックを受けることに怯えていたけど……同種族ってことは)

 

 よくよく考えなくとも同種族のナーベラルからパンドラズ・アクターを見た場合、卵頭の外見と芝居がかった動作のギャップは生じない。ならばナーベラル・ガンマは他の誰よりもパンドラズ・アクターを受け入れやすいのかもしれない。これは所詮仮説だが、今現在のナーベラル・ガンマの反応を見るにこの仮説が正しい確率はかなり高い。

 

 最終的にアインズは、己の心がズタズタにされる事態は生じない、と結論づけた。

 

(……っ、ふうううぅ、助かったー)

 

 己の想定で本日最大の難関を突破したアインズは、心の中で盛大に安堵のため息をもらした。

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテル墓地正門。効果範囲内を長時間の間正のエネルギーで満たしアンデッドを弱らせる<コンセクトレイト/聖別>の効果によって、門周辺に弱いアンデッドは近寄れなくなっている。

 門を抜けてくるのは一定以上の強さを持つアンデッドのみ。それらも群れの中に混じっているならばともかく、個々であれば金級の冒険者パーティが余裕を持って倒せるアンデッドだ。

 その結果、交代で休息をとりつつ戦線を維持する体制を構築可能となった。

 

 壁を乗り越えてくるアンデッドの数は多少増えたが、墓地内で足場にされて潰れ、壁を越えた後に地面に激突し弱ったアンデッドが増えた所で狩るのは容易だ。

 さらに《虹》の参戦とその活躍が伝わって士気が向上したこと、駐屯地にある物資を使用する決断を衛兵長達が下したこと、他の地区の衛兵も最低限を残して応援に駆けつけたこと、事態を重く見た神殿からの応援等々、他の状況も防衛側有利に傾いてきている。

 

 今も門から少し離れた場所に設置された仮設の陣地で、《虹》と《アクシズ》が物資の補充と、わずかな間の休息を行っていた。

 

「モックナック殿。この分なら何とか保ちそうですな」

 

「油断は禁物だ。アンデッドの数もだが、強力なアンデッドの比率は下がっていない・・・・・いや、むしろ上がってきている気さえする」

 

「……確かに。墓地の内部、おそらく中央の霊廟に行けば何かしらわかるのでしょうが……悔しいですな」

 

 聖騎士とのやり取りの通り、墓地から未だ尽きぬ泉の様にアンデッドの群れが湧き出している。その原因を突き止めるためには、墓地内部に突入する必要がある。

 わかっているのだが、現状ではそれは難しい。多少余裕が出来てきているとはいえ、アンデッドの街区への侵入を防ぐのに手いっぱいである上、アンデッドの数が未知数であり、そしてなによりミスリル級が抜ける穴が大きすぎるのだ。

 

 モックナックがリーダーの《虹》はもちろん、他の場所で戦っている<天狼><クラウグラ>が防衛から抜ければ、防衛有利の現状が覆りかねない。さらに言えば、その危険を冒して墓地内部に突入したとしても、戦闘になれば数百、数千、下手すれば”万”という数の暴力を受けることになる。

 隠れ進むにしても、生者の気配に敏感なアンデッドがひしめく墓地を踏破するのは、ミスリル級冒険者と言えど困難を極める。その上中央部にたどり着いたとしてもその場に事態を打開する方法がなかった場合、そのまま全滅しかねない。頭ではわかっているが、実に歯がゆい。

 

 上空から飛行で突入する案も出たが、観測でかなりの数の浮遊・飛行するアンデッドと思しき影が墓地に漂っているのが確認され、断念した。

 それらのアンデッドの一部は、今も街区方面に向かって飛び立っている。魔法詠唱者や神殿所属の神官が奮闘しているのか、時折魔法の光が城壁の上で炸裂するのがここからも見えるのだ。

 

 結局、大量発生の原因は未だ不明、どうすれば発生が止まるのかも不明のまま。

 過去の記録や、神殿からの助言”アンデッドは太陽の光を嫌う””過去の発生も朝には収まった。夜が明ければ今回も収まる可能性が非常に高い””原因究明のため突入するにしても日中”等々から出た冒険者組合の結論は”夜が明けるまで防衛に徹する”だ。

 しかし果たして過去に例のない大発生である今回の事件にも当てはまるのだろうか。手に負えなくなる前に危険を推してでも突入すべきではないのか。この場にいる誰もがよぎっているだろう。

 

「とはいえ、組合の判断もわかる。今は目の前のことに注力しよう」

 

「おっしゃる通りです。では……おや?」

 

 門の方から大きなざわめきが聞こえ怒号が響いた。頷き合った二人はすぐさま走り出し、その後にそれぞれのパーティーメンバーが続く。

 外には予想はしたものの、当たってほしくない光景が広がっていた。門から《虹》が到着した時と同様、アンデッドの群れが溢れだし冒険者達が慌てて対処している。

 

 「馬鹿な!」

 

 《虹》の神官が叫んだのも無理はない。聖別は位階と魔力の消費に比して効果そのものはかなり弱いが、数時間もの間維持されるという特徴を持つからだ。モックナックの知識でも、まだ半分も時間は立っていない。だが、現実に効果が消えている以上は、受け入れて対処せねばならない。

 

 「もう一度、聖別を!皆は金級のフォローに入れ!」

 

 モックナックは愛用の二本のメイスを構え、指示を出すと強力なアンデッドの位置確認、そして使用する武技の選択に入る。

 

 「むっ、あまり固まっていないか・・・・・ならば!」

 

 「<コンセクトレイト/聖別>!」

 「<疾走>!」

 

 門を中心とした範囲に、再び神聖な力の波動が放射される。門を抜け冒険者に襲い掛かっていたアンデッドの群れから煙と、苦悶の声があがった。

 同時に駆けだしたモックナックの速度が、武技によって大幅に上昇する。

 

 「<爆進>!」

 

 モックナックは武技を発動し、突出していた食人鬼の骸骨(オーガ・スケルトン)に突撃する。突進を受けたオーガ・スケルトンが轟音と共に砕かれ、吹き飛んだ。そのままアンデッドの群れを砕き、撥ね飛ばし、砂煙をあげて停止する。

 

 「よし!次は……」

 

 

 「「<ディセクレイト/冒涜>」」

 

 

 「何!?」

 

 墓地内から複数の声を僅かにずらした様な不快な声が響きわたり、正のエネルギーの力場が消滅する。驚愕の声と共にその場にいた冒険者の大半が、声の発生源に視線を向けた。

 

 三つの髑髏で構成された頭部には古ぼけたサークレット。薄汚れているが高級品であろう装飾の入ったブレスト・プレートを装備し、背にはボロボロのマントをたなびかせている。

 身長程もある、黒い靄を纏わりつかせた杖をこちらに突きつけるように構えている、それは。

 

 「骨の領主(スカル・ロード)!」

 

 討伐難度五十超。複数の特殊能力と第三位階魔法を操り下位のアンデッドを率いる、白金級冒険者パーティでも勝つのは容易ではない真に強力なアンデッドの出現だった。

 

 

 

 

 

   

 

(時間があるのなら、今のうちにクレマンティーヌの件を片付けてしまうかな)

 

 想定された本日最大の危機を脱したアインズは、空いた時間を有効に活用すべく動き始める。

 

「パンドラズ・アクター、その女は私の所有物となった。拘束を施し、気絶から回復させよ」

 

「……はっ」

 

 パンドラズ・アクターの返答が一瞬遅れたことに、アインズは内心眉を顰める。

 

(もしや、こいつも人間にはあまりよい感情を持っていない?クレマンティーヌを起こす前に釘を刺しておいた方がよいかもしれないな)

 

「その後一旦お前に預けるが、保管場所はナザリックと関係のない場所にせよ、少し様子を見る。詳しい尋問等は後日行う事としよう」

 

 今はまだ、クレマンティーヌにアインズ達ナザリックの情報を与える気はない。その前にやってもらわねばならない事がある。

 

「了解致しました。この都市に拠点を確保してありますので、そこでお待ち致します」

 

「拠点?ならば場所は影の悪魔(シャドウデーモン)に伝達せよ。それと……その女が目覚めた後で暴言に類する言葉を吐くかもしれないが、聞き流せ」

 

「はっ」

 

  パンドラズ・アクターに誰の姿をとるか指示をせず、能力や目的だけを伝えるのはアインズの知識にギルドメンバー全員の能力が完璧にインプットされているわけではないからだ。

 特に直接戦闘に関わらないメンバーの能力に関しては、穴が多い。しかしパンドラズ・アクターは種族特性のためか、外装登録されたギルドメンバー全員の能力を完璧に把握している。

 そのためあまり詳細な指示を出さず、能力の選択等はパンドラズ・アクターに任せているというか丸投げにしているのだ。

 

(この部分だけ見れば正直楽だし、便利なんだけどな。しかし、拠点の設置なんて指示したか?)

 

 アインズの目の前で敬意のポーズを極めたままパンドラズ・アクターの身体がぐにゃり、と樹人(トレント)と呼ばれる種族に変化する。樹の枝が絡まり合った腕と、根が束ねられた脚を持ち、顔に当たる部分には洞がある植物系種族だ。

 

「うへえ、気持ちが悪いでござる・・・・・」

 

 呟きに反応したナーベラルが即座にチョップを叩き込んだ直後、変身したパンドラズ・アクターの姿に目を見開き、ハムスケの頭に手刀をめり込ませたまま固まった。

 

 (そういえばパンドラズ・アクターの能力に関して何も説明していなかった、ような……うん、後の祭りだな。手間が省けたと考えよう)

 

 トレント――ブルー・プラネットの姿に変じたパンドラズ・アクターが、石壁にもたれかかったクレマンティーヌの側へと近づいて青々と葉が繁った指先をその額に当てると、何かを噴射した。

 

「!ぐはっ!げほっ、げほっ」

 

「おはよう、クレマンティーヌ」

 

「あ?……ひっ!」

 

 反応はすぐに表れた。先程までハムスケに咥えられ、運ばれても起きなかったクレマンティーヌが咳き込みながら目を開ける。

 アインズ、ナーベラルの順に視線を動かした後、ハムスケとパンドラズ・アクターが視界に入ったのか小さく悲鳴を上げて、頭を大きく動かした。だが、いかなる効果なのか首から下はピクリとも動いていない。その事実に気がつき、クレマンティーヌは呆然と己の体を見回し始める。

 

「とはいってもまだ夜は明けてないが。状況は把握しているか?」

 

「あ!……え?・・・・・こ・・・・・」

 

 アインズの言葉にビクンと頭を振わせ、クレマンティ―ヌの口がもごもごと動いたが、上手く言葉が出てこないようだ。視線が定まらない様子から、まだ混乱しているか怯えているかのどちらかだろうが、これでは訓練を受けた戦士というよりただの一般人だ。

 

「そう怯えるな、決着はついた。大人しく従う限りは命だけは保証しよう……確かに少々やりすぎたが、それはお互い様だろう。念のため確認しておくが、私の勝ちでいいな?」

 

 クレマンティーヌがコクコク、と何度も頷いた。その必死な姿に、アインズは少々失望する。

 別にガゼフ・ストロノーフの様な高潔さを求めていたわけではないが、あれだけ戦士である事を誇っていたのだから、矜持の一つも見せて欲しいと思っていたのかもしれない。

 

(私がプレイヤーだと理解して怯えているにしてもどうなんだ?……同じ法国のあの長髪の男は、分かっていてそれで私に向かってきたのだがな)

 

「ふぅ……あまり時間もない。詳しい話はあとで聞くが、少し質問に答えてもらおう。そうだな、まずは」

 

「お待ちを、我が主」

 

「パンドラズ・アクター様!ナザリックの支配者たるアインズ様の御言葉を遮るなど!」

 

 アインズの言葉をパンドラズ・アクターが途中で遮るという行為にナーベラルが驚き、パンドラズ・アクターとナザリック、アインズの名が結界内に響きわたる。

 

「ナーベ……」

「ナーベ嬢……」

 

 偶然だが、アインズとパンドラズ・アクターが同時に顔半分を片手で押さえ、ナーベラルを呼んだ声が綺麗にハモった。当の本人はその言葉で失態に気がついたのか、口を押えて涙目になっているのだが、その様子を見るまでもなくアインズは怒る気力を喪失していた。

 すぐに己の失敗である事に気が付いたからだ。アインズはクレマンティーヌにナザリックの情報を与えるつもりはなかった。だが、その事をナーベラルに説明していない。パンドラズ・アクターとの会話では説明をかなり端折っても通じるので、正直油断していた。

 

(凡ミスすぎる。これでナーベラルを責めるのは筋違いだ、けど……うーむ……)

 

「今の発言は許そう。だが、同じ失敗を繰り返した事は深く反省せよ、ナーベラル・ガンマ。次は無い」

 

「も、申し訳ございません」

 

 他の目がある所で、アインズが己の失態を認めるわけにはいかない。青ざめた顔のまま跪いたナーベラルに罪悪感を抱きつつ、パンドラズ・アクターに向き直る。

 

「それで?一体なんだ」

 

「はっ、この場で尋問をされるのであれば、その女の拘束を緩める必要がございます」

 

「……何?」 

 

「行動を封じるため首から下の運動系を麻痺させた他、魔法やスキルの使用、マジックアイテムの起動を封じるべく集中及び発声を阻害しております。なお――」

 

 

 一瞬、パンドラズ・アクターが何を言っているのか呑み込めなかったアインズは言葉の意味を反芻する。

 

 

(麻痺は拘束しろと言ったからとして……集中の阻害?ってことは何か精神的な状態異常を引き起こしたのか。で、その上で発声の阻害って……うん、それは焦るわ)

 

 

 クレマンティーヌの先程の様子が、大体パンドラズ・アクターのせいだと理解する間にもパンドラズ・アクターの説明は続いている。

 

「――その上で精神的、および魔力的パスが確認できませんので使い魔として情報を送ってる可能性は皆無であると判断し、視覚・聴覚・嗅覚に関しては阻害しておりません。ですが拘束を緩めるのであれば、視覚と嗅覚は遮断させて頂きたいかと――」

 

「……その女は純戦士だ。使い魔になっていないならそこまでする必要は無いと思うが、心配ならマジックアイテムを全て外せ」

 

 パンドラズ・アクターの言葉を遮って指示を出したアインズは、再び顔を片手で押さえた。

 パンドラズ・アクターは確かに優秀だ。しかしこの病的な用心深さ、ついでに諸諸の動作と発音とドイツ語はどうにかならないのか。歯車がずれた時に面倒すぎる。

 

(ならないよなあ、俺が設定したテキストと……認めたくはないが俺自身の影響なんだろうし)

 

 なんとかしたくとも、転移前の様にギルド管理メニューのコンソールからNPC設定を書き換えることができなくなっているのは前回の時点で確認済みだ。

 

(世界級(ワールドアイテム)であれば不可能ではないけど、流石にそれはできない。この世界で変容した<ウィッシュ・アポン・ア・スター/星に願いを>なら可能かもしれないが、発動時には最大経験値を要求されるだろうし、経験値を大量に稼ぐ手段がない今だと試すのはちょっとなあ。俺の手持ちの魔法でテキストや設定を書き換えられればいいんだが、無理だろうし……いや、そう判断するのは早計か?もしかしたら……)

 

「アインズ様」

 

 思考に埋没しそうになったその時、パンドラズ・アクターから声がかかったことで現実へと引き戻される。

 

「終わったか?」

 

「いえ、現場に贄が到着致しました。いかが致しましょうか」

 

「……では質問をすぐに済まそう」

 

「この女の回復には、もう少々時間がかかりますが」

 

(なんだそれ)

 

 馬鹿なやり取りをしている間に時間が無くなった上、クレマンティーヌの回復に時間を要すると聞いたアインズは、わずかな苛立ちと共にため息をつく。

 

「はぁ、もういい。クレマンティーヌ、喋れるか?意識は明瞭か?」

 

「なん、とか、喋れ、る、……ます、よ」

 

 姿勢は相変わらずで声もとぎれとぎれだが、視線は定まっており表情も落ち着いている。これならば質問しても問題ないだろう。

 

「最低限の確認事項だけ聞く、即答しろ。お前はズーラーノーンで上位に属する者だな?」

 

「……はい」

 

「では、お前に血縁者はいるか?巨大蛇の王(ギガントバジリスク)や真紅の梟(クリムゾンオウル)を召喚出来る男だ」

 

「なぜ、それ、を!いえ、確かに、います」

 

 アインズは己の予想通りの返答に満足する。戦闘前の会話で少し疑念が生じていたが、この世界でそうそうあのレベルの召喚士がいるとは思えない。

 クレマンティ―ヌが法国の人間で、ズーラーノーンが法国の組織である事はもはや間違いないだろう。あとは明日の作業が終わった後、詳しい情報を絞り出すだけだ。

 

「よし、繰り返すがお前は私の所有物。故に、従っている限りは命……と身体の安全は保障する事を約束しよう。さて……」

 

 今から行う実験は数多くの魔法を使用する必要がある。当然今のアインズ――モモンの姿では行えない。クレマンティーヌにこれ以上情報を与えないつもりなら、運び出す必要があるのだが……

 

(あー、面倒だな・・・・・)

 

 先程からのやり取りを思い出すと、少々うんざりした気分になる。ちょっと今パンドラズ・アクターに話しかけるのは最低限に留めたい。

 

(<コントロール・アムネジア/記憶操作>で範囲的に記憶を消してしまえばどうにでもなるし、このまま……ん、待てよ?)

 

 当初のアインズの予定ではクレマンティ―ヌは情報を絞り出した後、しばらくは法国に対する餌としてナザリックの情報を与えずに監視付きで外で使うつもりだった。

 だが、本命であるあの愚者とついでに最精鋭らしい漆黒聖典はすでに確保した。ここからかかるのは、風花聖典だとかいう雑魚ばかりだろう。

 

(となると……いっそンフィーレアとニニャの記憶を操作して、クレマンティーヌをカルネ村に置いてしまう、とかでもいいか?)

 

 前回との相違点である二人を同じ場所に置いて置ければ変化の影響を抑えられるし、記憶操作による隠蔽が精神的外傷をも上回るのか実験もできる。

 これは良いアイデアかもしれない、とアインズは己の思い付きを自画自賛する。

 

(……いやいや、よく考えろ俺。ンフィーレアの記憶を操作して失敗した場合、面倒なことにならないか?ただでさえ色々変わってきてるのに)

 

 シャルティアを救うという大きな目標を達成したために、気が緩み過ぎているのかもしれない。この件に関しては情報を絞り出した後、落ち着いて考えた方がいい。

 

 「待たせたな、では始めるとしよう」

 

 「……よろしいのですか?」

 

 「かまわん」

 

 モルモットで鍛えた記憶操作の技術をアインズが振えば、ここでの記憶は完全に消すのも可能。もう欠片とはいえ情報を与えてしまった以上、記憶を一部書き換えるより遥かに手間も消費魔力も少なく済むし、使い道が決まった時点で考えればいい。

 

「クレマンティーヌ。命令に従った褒美という訳ではないが、お前に新しい主人の顔を見せておくことにしよう。意識をしっかり保てよ?」

 

 鎧の下には昨日から変わらず、アインズの一張羅であるフル神器級装備を纏ったままだ。

 クレマンティーヌにマジックアイテムを見る目があるならこれで十分だろうが、せっかくなので兼ねてより演出として考えていた、黒の後光と絶望のオーラ(弱)を展開しておく。

 

(ここまでやればエルダーリッチと呼ばれることも無いだろ。俺自身は気にしないけど、NPCが聞いた場合激昂する可能性があるからなあ)

 

 それでも念のため、パンドラズ・アクターとナーベラルを視界に納められる位置まで下がると、アインズはわざとらしくマントを翻しポーズを極めて鎧を解除する。

 

「さあ、見るがよい!」

 

 ただでさえ大き目のクレマンティーヌの眼が、さらに大きく見開かれる。

 アインズの全身を見回し、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン(複製)に目を止める。もう一度確かめるように視線を動かし、泣きだす寸前の様な表情を見せ、笑いかけ、そしてその貌から表情が抜け落ちた――直後、クレマンティーヌは勢いよく石畳に額を打ち付けた。

 

(!?)

 

 全く予想外の行動をとられ、アインズの動きが完全に停止した。

 

(え?なんだ今の?え、何?自殺?)

 

 石畳に額を打ち付けたままの体勢でピクリとも動かないクレマンティ-ヌの姿に、嫌な想像が入り込んでくる。がんっ、という音が鳴ったところを見ると、かなり強く打ち付けたに違いない。

 

 

 霊廟に嫌な感じの静寂が満ちる。

 

 

 その静寂を破ったのは額を石畳に打ち付けたまま、クレマンティーヌから発せられた震える声だった。

 

「我が神、闇神よ。汝の、愚かなる僕の罪を、赦したまえ……」

 

 

 

 

 

 

 「ぐっ!!」

 

 スカル・ロードが振った金属杖をかろうじて防いだが、食人鬼(オーガ)の一撃の様に重い。

 モックナックの腕が痺れ、衝撃で体勢が崩された。

 

「いかん!<スコーチング・レイ/灼熱の光線>!」

「「<レジストエナジー・ファイア/炎属性抵抗>」」

 

 仲間から炎の属性魔法が放たれるが、スカル・ロードの右頭が即座に防御魔法を唱えてほぼ無効化される。

 

「糞、あのタイミングでもダメか」

 

「だが御蔭で助かった」

 

 魔法に気をとられた隙に距離をとって体勢を立て直したが、未だに腕に痺れが残っている。この痺れは知っている、決して衝撃によるものだけではない。

 

「やはりあの杖に纏わりついているのは負のエネルギーだ」

「そんな能力まであるのか、いや魔法かもしれんが。情報が少ないってのは厳しいな」

 

 スカル・ロードは実に珍しく、そして厄介なアンデッドである。遭遇例は組合の記録でも片手で足りる程度だろう。そのためその能力には不明な点も多い。

 わかっているのは魔法や特殊能力を操りつつ、ロードの名を冠するだけあって近接戦もそれなりに対応してくるということ。

 そして最も厄介な点は頭だという事。三つの頭はそれぞれ独立しており同時に三種類の魔法が飛んでくることすらある、という記録も身をもって真実だと理解した。単体に見えるが三体のモンスターを相手にしているに等しい。

 先程も周辺のアンデッドを範囲魔法で吹き飛ばし、モックナックが武技を使用して肉薄したのだが、左頭の唱えた<サウンド・バースト/音響炸裂>により動きを止められ逆に窮地に陥る羽目になった。

 

「それにしても強すぎる。以前戦った時はここまでプレッシャーは感じなかったが」

「俺たちが戦ったのがたまたま弱い個体だったか、あれが強い個体なのか。あるいは両方だな」

 

(いや、それだけではない……あのスカル・ロードからはただのアンデッドやモンスターとは違う気配を感じる)

 

 《虹》はかつて一度だけ、カッツェ平原でスカル・ロードに遭遇したことがある。珍しいアンデッドだったので、報告書に特別報酬が出たのでよく覚えている。確かに厄介で強力なアンデッドだった。

 だが、その時と比べても目の前のスカル・ロードは異様だ。魔法の乱発もせず、前に出てこちらに襲い掛かってくることも無い。聖別を冒涜で打ち消した後は、悠然と周囲のアンデッドとこちらの戦いを観察してるように視線を動かすだけだ。実際に観察しているのかもしれない。

 それでいてこちらが機を見て襲い掛かった時は、獲物を待ち構えていた獣の如く対処し深追いもしてこない。これはモンスターの個体差で片づけてよい差なのだろうか。

 

「あれを基準にするなら、スカル・ロードの難度は六十を超えるかもしれんな」

 

「だが、アレを何とかしなければ聖別は唱えられぬ」

 

 聖別を展開できなければ、夜明けを待たずに墓地から湧き出てくるアンデッドへの対処は限界を迎えるだろう。

 

「一応確認するが、あと一回が限界なんだな?」

 

「左様。いや、死力を尽くせば二回唱えられるかもしれぬが、それは神のご加護次第」

 

 この状況では時間は増え続けるアンデッド共の味方だ。それにもし、あの化け物が態度を変えて押し寄せるアンデッドの中心となれば一気に押し切られるのは間違いない。

 ここは決断すべきだろう。そして、それはリーダーである自分の役目だ。モックナックは己の愛用の武器、一対の赤いメイスを強く握りこんだ。

 

「すまないが死力を尽くしてくれ、もう一度仕掛けるぞ。逆回しに一手加えて奴の札を使い切らせ、こちらの切り札を切る」

「承知した」「まかせろ、ちゃんと防がせて見せる」「もう一手は俺だな、まかせてくれ」

 

「よし、では……」

 

 《虹》が再度の突撃を決意したその時、何の前触れもなく”それ”は唐突に起こった。

 門から溢れだし、冒険者と衛兵達に襲い掛かっていたアンデッドの群れが叫び声をあげつつ崩れ始めたのだ。そこかしこから驚きの声が上がった。

 

「アンデッド共が消えていく……?」 

「見ろ!門の外だけじゃない!門の中のアンデッドもだ!」

「まだ夜明けではない、何が起こった?」

 

 その光景は当然スカル・ロードと対峙するモックナックと《虹》の面々も目撃している。

 だが、スカル・ロードだけは自身の周りに侍っていた己の従僕であろう、アンデッド達が崩れていく中でも平然と佇んでいた。

 

(一体何が起こった?いや、しかしこれは)

 

「……仕掛けるぞ!」

「応!」

 

 モックナックの声に、迷いのない仲間の声が応える。

 今何が起こったかはわからない。だが、スカル・ロードはこの機会を逃さず倒しておくべきだ。万が一、あんな強力なアンデッドを逃がしてしまったら、後々大きな禍根になるのは火を見るより明らかなのだから。

 

「我が神、火神よ!御加護によりこの地に祝福を与えたまえ!<コンセクレイト/聖別/>!!」

「<大跳躍>!」

 

 神官が聖別を唱え、同時にモックナックが<跳躍>よりも遥かに高く飛び上る武技を使用する。

 

「「<ディセクレイト/冒涜>」」

「くらえ!<スコーチング・レイ/灼熱の光線>!」

 

 スカル・ロードの右頭が聖別を無効化したその時、魔法詠唱者が灼熱の光線を繰り出した。

 

「「<レジストエナジー・ファイア/炎属性抵抗>」」

「もらったぁ!!!」

 

 左頭が防御魔法を唱えて動きが止まった所に、ことさら大きな声をあげつつ野伏が矢を放つ。

 頭は三つでも体は一つ。魔法や特殊能力を使う際にスカル・ロードの歩みが止まるのは先程までの戦闘でわかっていた。当然、放ったのは殴打属性ダメージを与える特製の矢だ。

 

「「<ウィンド・ウォール/風の壁>」」

 

 中央の頭が魔法を唱え、小竜巻の様な強風の壁を出現させる。野伏は杖で迎撃されることも想定してタイミングをずらし、二本の矢を放っていたが風には抗えず吹き飛ばされる。

 

「マジかよ!魔法で防がれるとは思わなかった、だが・・・・・」

 

「それでいい!<乱打>!!」

 

 頭は三つでも体は一つ、そして首も一つ。スカル・ロードもおそらくは、飛びあがったモックナックに注意を払いたかっただろう。だが仲間のタイミングを合わせた足止めが、それを不可能とした。    

 一発一発の威力、命中率は大きく下がるが凄まじい速さの連続攻撃がスカル・ロードに襲い掛かる。

 だが、スカル・ロードも咄嗟に金属杖を両腕で構え防御姿勢をとっている。金属杖と鎧の前に、速いが軽い攻撃の殆どがはじき返された様に見えた。しかし――

 

「「!!」」

 

 スカル・ロードの左頭がひび割れ、砕け散った。大きなダメージを与えている何よりの証拠だ。

 

 モックナックの振う二本のメイスの先端は今、仄かな赤白い炎に包まれている。

 これぞモックナックが持つ切り札、アンデッド殺しの聖なる武器。一日一回、しかも短時間ではあるが先端に埋め込まれた聖石が聖なる炎を灯し、アンデッドに対し最も有効な炎と聖属性の両方のダメージを与えることが可能となるのだ。

 これによって一撃一撃に属性ダメージが乗り、鎧に弾かれても聖なる炎のダメージはスカル・ロードに侵透する。右頭もひび割れ、砕け散った。

 

(これで決める!)

 

「<搗上>!」

 

 メイスが地面を舐めるような軌道を描き、金属杖を跳ね上げる。スカル・ロードの上半身が大きく仰け反り、胴体ががら空きとなった。

 

「<爆裂双強打>!」

 

 聖なる炎を纏った二本のメイスが、スカル・ロードに吸い込まれていく。

 

「「ミゴトダ」」

 

(――!?)

 

 爆音、そして衝撃。スカル・ロードのブレストプレートがひしゃげ、その体は吹き飛ばされながら崩れていった。

 

 

 

 

 

 

 隠蔽工作を終えたパンドラズ・アクターが転移門で去るのを見届け、ナーベラル・ガンマは立ち上がる。

 

(アインズ様自ら創造された領域守護者、パンドラズ・アクター様と作業中に語らい悩みを聞いて頂けたのは幸運だった……自分もあの方の様に常に冷静さを保ち、微笑みを絶やさず至高の御方に仕えられる様、精進しなければ)

 

 パンドラズ・アクターにかけられた言葉を思い出し、ぐっと小さく拳を握り決意を新たにする。デキる僕として主に命じられた作業が終わった以上、急ぎ移動を開始しなければ。

 だが、その前に己に課せられた使命も遂行せねばならない。賜った”虚ろの幻燈”の起動を確認し<メッセージ/伝言>を発動させる。

 

「アルベド様」

 

『んんっ……ナーベラル・ガンマ?どうしたの、定時連絡の時間ではないと思うのだけど』

 

「時間がありませんので要点のみお伝えします。パターンFが発生しました、回数は二回です」

 

 

 

『……なんですって?』 

 

 

 

 

 

 

 部屋に入りひとしきりナーベラルにバレアレ家やニニャ、クレマンティーヌの処遇を説明したアインズは、胸元に輝くオリハルコンのプレートを上機嫌で持て遊ぶ。

 

 (ふふふ、事件の規模を大きくした甲斐があったというものだ)

 

 前回の冒険者組合評価、つまりミスリルだった事には少し不満が残っていた。事件を知る者の少なさと所詮伝聞情報での判断だった事はわかっているが、その時の溜飲を下げるという意味でも実利でもオリハルコンのプレートを得たことは喜ばしい。

 

 (この時点でオリハルコンプレートを得た、これは前回より組合からの評価を多く稼いだと判断しても良いな……これでこの先のくっだらない上に名声の足しにもならない、ストレスがたまるナーベラル目当ての貴族や商人の依頼を断れるぞ)

 

 金銭に関する問題もある程度はクリアしている筈なので、引き受けるのはどうせやらなければならない希少薬草の採取と、大きな名声に繋がったギガントバジリスクを倒した依頼等の数件に絞れる。ギガントバジリスクの依頼はナーベラル目当ての貴族の一人だった気はするが、顔を見れば思い出せる筈だ。多分。

 

(さて、浮いた時間をどう使おうか。昨日の実験は上手くいったが、もう一度位検証をやっておくべきかなあ。あとアレはどう対応すべきか)

 

 実際は浮いた時間でアインズがすべき事は、更なる情報収集と己自身の為した変化へのフォローであるため大幅に楽になるわけではない。だが、それでもやりたくない、やる意味がなかった仕事をしなくていい事実は実に喜ばしい。

 ちなみにわざわざ前回同様この宿屋を訪れたのは”もしオリハルコンプレートであったらどんな反応だったのか”という疑問を解決するためだ。ただでさえストレスが溜まっているのだから、本来ならば検証不可能な過去の疑問解消という、ささやかな楽しみを逃す手はない。

 

(残念なことに宿の主人の姿はなかったが……)

 

 酒場の冒険者達は前回と異なり、口々に自分達の行動を讃え感謝の言葉を述べに来た。些か酒場にいた人数は少なかったが、それは事件の規模を大きくして都市中の冒険者を墓地まで誘導させたのだから仕方がない。

 まだやる事は残っているのだから軽い息抜きはここまでにして、ナザリックに一度帰還すべきだろう。

  

「さて――」

 

 口を開きかけたアインズは<メッセージ/伝言>が届いた感覚に口を閉ざす。

 

(なんだ?この嫌な感じは……)

 

 何故かはわからないが、嫌な予感に襲われたアインズは伝言を繋げる事無く沈黙した。

 なにげなく部屋を見回し、その原因に思い当たる。前回アインズはこの場所、このタイミングでアルベドに伝言を送り、シャルティアを襲った事態を知ったのだ。

 

(前回の記憶が無意識化で呼び起こされただけか……な?)

 

 己の予感に一応の理屈をつけたアインズは己にまとわりつく予感を切って捨て、伝言を繋げる。

 

「私だ。反応が遅くなった」

 

『アインズ様、ご都合が悪ければ改めますが』

 

 パンドラズ・アクターの声が響く。先刻の注意の結果なのか、かなり平坦な口調だ。

 

「いや、かまわん。話せ」

 

『では、ご報告致します。あのニンゲンの死体が消失致しました』

 

 

 

 

「……なんだと?」

 




ご感想、誤字報告いつもありがとうございます。修正は随時反映させていただいております。

3期、今の所2話の「だからどれだよ!」が最高です。


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