凡人の異世界転送録〜神様に嵌められ異世界入り〜 作:夜明けの月
ということで、本編どうぞ。
今の現状を整理することにしよう。
俺は部活帰りにコンビニに寄り、適当に買った間食を食していた際、自称愛の神を名乗る頭のぶっ飛んだロリっ子に出会った。
その後、多少の言い合いはあったがまあここは割愛して、あのロリっ子は聞いてきた。
『このまま生きるか、それとも変化を求めるか』
あの時はそのまま生きると思っていたが、おそらく奴は俺にそう思い込ませーーーいや、勝手に俺が思い込んだだけか。
ということは………、俺嵌められてね?
「あんのロリ駄神がぁぁぁ!!」
叫ばずにはいられないだろう。だって異世界だ。普通とか云々の話をとうに超えている。簡単に言うならばイカれてる。
あの言葉の意味は、現状維持ではなく、平凡なステータスをそのまんまってことだろう。で、異世界へと強制転送と。
………あいつ俺殺したいの?
例えて言うなら、武器&防具無しでRPGゲームで有名の魔王なんかに挑んだみたいになっている、みたいなことだろう。例えと俺の現状がかなりマッチしてないが。
「でも、何かしらはあるだろう。こう……役に立ちそうなものが」
俺はとりあえず人目につかないような場所(路地裏)に入り、持っていたカバンの中を探る。
中身は、教科書・ノート、筆記用具、水筒、空の弁当箱、先ほど食い尽くしたおにぎりの包装の残骸、あとハンカチとティッシュに財布。
結論を言おう。まるで使えそうなものが一つもない。
幸い、財布はあるから多分食うものには困らな…………あれ?そういや、この世界と日本って貨幣って一緒なのだろうか?
ふと浮かんだ疑問に、思い立ったが吉日という諺のように確認するために路地裏から表通りに出る。
ここでまた新たな疑問が。そういや、言葉って通じるの?
「…………こういうのって、だいたい通じるような気がするけど。だとしても、ここまで不幸続きからして、通じないような………」
ここでまたテンションダウン。いつか病むんじゃねぇか、と思いつつ俺は街並みを把握するために落とした肩を上げて歩き出す。
少し歩くと、横を通り過ぎたケモ耳のごっつい男たちの声が聞こえてくる。まあ、隣を通ったから当然聞こえるわけだが。
「俺……あの時の感覚が忘れられないんだ……」
「安心しろ。もう一度味わわせてやるからよ。ベッドの上で」
聞かなきゃよかったと後から後悔しております。そんなこと思ったとしても隣通ったから聞こえるんですけどね!(二度目)
そう再度確認していると、道の中央あたりに人混みができていた。何かあったのか、と思うが『触らぬ神に祟りなし』という言葉に従い、そこをスルーしようとする。
「テメェふざけてんのゴラァ!!」
賑やかな街並みに似合わない怒号が聞こえてくる。野太く低い男の声だ。
「誰に向かって口きいてんだアァン!?」
「あなた以外に誰が居るんですか。それよりも、早く謝罪してください」
「なんで俺がテメェなんかに」
「そっちが悪いのだから謝るのは当然じゃないんですか?」
一方、その男と言い合っているのは女性らしい。男と言い合うとは、結構いい性格をしている。
それにしても痴話喧嘩か、ほっといて良さそうだな。
と早々に判断してその場を去ろうとした。だが、
「ざけんじゃねぇぞこのクソアマがぁぁ!!!」
歩き出した途端、集まっている人の隙間から見えたのは見た目小学生ぐらいの女の子に殴りかかろうとするゴツい男。
この場合、普通ならばスルーする。そうでなくても、現状路頭に迷い中なのにそんなアホなことはしないーーーが、
俺は人混みの隙間をぬって男の前に躍り出てバックを盾にして男の拳を防ぐ。
残念ながら日本人特有の『困っている人がいたら助けたくなっちゃう病』が発病してしまったから仕方ないなうん。
…………え?そもそもそんな病気ない?ーーー気にするな!(投げやり
「なんだテメェは」
「いやいや、なんだという前に女性に手を挙げるのは男としてどうかと思いますよ?男同士ならどうでもいいですけど」
バックを盾にしたおかげでそこまでダメージは無かったが、おそらく中身は壊滅的だろうなぁ。ペンとか粉々になってないよね?
そんな不安をよぎらせつつ、俺は後ろでポカンとしている女性の手を取って走り出す。
「三十六計逃げるに如かず!」
「あ、おい待ちやがれ!!」
男の声を完全にスルーしつつ、俺は当てもなく走った。
♤
野太い声の男から逃げること数分、男は追ってきていないのかすぐに撒くことができた。
「ふぅ……、一時はどうなることかと思った……」
まぁ、完全に自業自得なわけですが。そこは気にしない方向でいいか。
「あの……」
「久々にいいことしたから気分がいいなうん!」
「えっとぉ………」
「それなら……、全行を積んだ俺に何かいいことでもあるかなぁ」
「その………」
「もしや……、素晴らしき出会いとか!?ちょっと小柄でさっきから無視され続けて涙目で上目遣いで俺を見ている可愛い少女との出会いが!?」
「出会ってます!もう出会ってますし、気づいてるなら早く言ってください!」
俺が全力で茶化すとキッと俺を恨めしそうに睨みながら声を上げる。声音は見た目相応の少し高い声だった。だが、その声と見た目、主に腰あたりまで伸びている金髪がマッチしていて素晴らしく良い。
まぁ、簡単にいうなら『二次元にいるような金髪がロリっ子お嬢様』というところだろうか。
「………今何か変なこと思いましたよね?」
おっと、勘が鋭いようで。
「そんなこと思ってねぇよ。こいつ可愛いなぁ、としか思ってねぇよ」
と、俺は嘘ではなくだが思っていなかったことを言ってみる。だが、実際に可愛いのは確かである。俺のリアル妹よりは断然目の前の少女の方が可愛いに決まっている。
大きな翡翠色の目に透き通るような白い肌、極め付けにはサラサラな金髪。非の打ち所がないほど綺麗な子である。いかんせん見た目で判断するが、年齢はおそらく11〜13ぐらいだから、俺にロリコンの属性はないためストライクゾーンからずれているが。
俺はそこで思いにふけるのをやめて現実に目を移すと、目の前にはほんのりと頬を上気させ、頬に両手を当てている少女がいた。
「そ、そんな……、私が可愛いだなんて……」
「いやいや、んなことないって。俺の知っている中ではお前が一番に可愛いぞ」
「またそんなデタラメを」
残念だがこれはデタラメではない。が、これ以上言うと泥沼化しそうなのでここらあたりで話を切り替えるが吉と見た俺は、
「可憐な金髪ロリっ子の否定は完全スルーするとして、お前名前は?」
適当に流すことにした。
「なっ………!?ロ、ロリ……!?」
一方、それを聞いた金髪少女は何やら衝撃を受けたかのような顔をしている。
見た目からロリと判断したんだが、まさか間違っていた感じか?
「わ、私はこれでも16歳です!!」
おっと、予想と全くずれているじゃないですか。
「まぁそんなことはどうでもいいから名前は?」
「そんなことって………。私にとってはそんなことじゃないんですが………」
何やらブツブツとつぶやいてこちらの話を聞こうとしない少女。そろそろイベントもとい自己紹介をしてもいい頃だと思うのだが……。
これはあれか?『名前を聞くならまずは自分から名乗れ!』的な……いや、ないか。現に目の前の子、全く話聞いてないし。
このままでは本当に埒があかなくなると独断によって決めた俺は、少しはカッコよく見えるような声音とポーズを意識してーーーーみたけど想像しただけで気持ち悪かったし、ナルシスト染みていたので普通に名を名乗った。
「お話聞いていないとこ悪いが、俺は御堂颯だ。歳は17。趣味は星空観察と料理。特徴云々は俺には一切ないが、質問あるか?」
「ーーーえ?あ、いえ、ありません……けど………」
「んじゃ、自己紹介よろしく!」
「ふぇ!?え、えぇっと……!私はロニエ・アフルリーゼといいます!年齢は16で趣味は………」
「いや、そこまでは言わなくていいぞ」
まぁ、俺が趣味言ったのっていつものノリで言っただけだしな。
ちなみに俺は自己紹介の際、毎回さっきみたいに言います。たまに「何言ってんだこいつ?」みたいな顔されるけど。
「んじゃ、名前が分かったところでアフルリーゼさん。聞きたいことが一ついや二つ………………いや十個ほどあるんだけど」
「増えすぎじゃないですか!?それより、ロニエでいいですよ。私の知り合いの皆さんはみんなそう呼びますし。それよりなんですか?聞きたいことって」
首をかしげて聞いてくる
(凡人説明中…………ただし説明力皆無)
「ーーーということなんだ」
「はぁ……なるほど」
「分かったのか?」
「いえ、分かりません」
まぁ、国語力かつ説明力皆無の俺の説明じゃそうなるのがオチだわな。
「でも簡単に要約することはできました。あなたは、ミドウさんは他の世界の出身者で神様のいたずらでここに転移させられたということですよね」
「うんまあそれであってる……かな」
神様のいたずらというか神様の悪ふざけというか嵌められたというか、そこだけは煮え切らないが、そこにいちいち反応していたら話が進まない気がしたので放置しておく。
「それで、ここはどこなんだ?」
「ここですか?ここは、王都《セントリヴェル》です。この世界の中心と言われています」
王都《セントリヴェル》。ロニエの話によれば、この王都には五大帝国のうちの一つ、数多の種族が行き交う国《クラリア》を統べる王がいるという。他にも北に獣人国《ベイフェル》、南に妖精と精霊が住まう国《フェリーセ》、東に全く違った雰囲気の国《和の国》、西に魔法使いや魔導師が住まう国《マグリス》があるらしい。その中央にあるのが《クラリア》なのだという。
その後も質問をある程度続けた。通貨は何なのか、言語はどうなっているのか、種族は何種類あるのかとか。
普通ならばそんなに聞かれれば答えるのが面倒になりそうなものだが、ロニエはそれに対する答えを丁寧にしてくれた。
まず、通貨はルナというものらしい。ロニエが見せてくれたのだが、簡単に言うなら五百円玉の大きさのコインの表に剣、裏に女の人が描かれているものだった。それが500ルナらしい。たいてい路上で売っているものはそれで買えるだとか。
他にも見せてくれたが、大きさによって値段が変わるらしい。一番小さい1ルナから一番大きな500ルナまでしかないだとか。それより大きな、例えば1000ルナならばそれもまた日本と同じように貨幣から紙幣に変わるらしい。覚えやすいから結構助かるけどな。
次に言語はルナ語と、通貨と同じ名前だった。これは俺が話している日本語伝わっているので気にしないことにするが、たぶん時はわからないだろうな。
そして最後に種族だ。種族はぶっちゃけて言われたがロニエも把握してないらしい。ロニエは王都の一角から出たことがなく、しかもそこにいるのはほとんどが普通の人間のため把握しきれていないだとか。
ちなみに、何故その一角から出ないのかを聞いたところ、職業上の都合らしい。職業を聞いたら秘密と言われたが。
ともかく、基本知識を得た俺はロニエに礼を言った。
「ありがとな。いろいろ教えてくれて」
「いえいえ、困ったときはお互い様でくよ」
「何か礼をしたいけど、何も持ってないんだよなぁ……」
「構いませんよ。困ったときはお互い様です。で、ハヤテさんはこのあとどこかに行く当ては?」
ちなみに、話している間に名前で呼んでもらうことにした。御堂さんと呼ばれるのは、何故かむず痒いのだ。
と、話を戻すが、当然無一文で知り合いがロニエしかいない俺にとっては当てが全くないのだ。
「ないよ。本当にどうしたもんだろうか……」
このままいくと、俺は完全に野宿である。異世界きて即野宿とか、新手のハードプレイに他ならない。残念ながら俺はそれを求めているわけではないのだ。
本気で悩んでいた時、ロニエが提案してきた。
「当てがないならうちに来ますか?母がいますが、事情を話せばわかってもらえると思いますから」
それでは行きましょう、と勝手に話は進んでいき、ロニエは歩き出す。
俺はというと、話についていけておらず、呆然としてその姿を眺めていた。
「何してるんですか。行きましょう、ハヤテさん」
「あ、ああ」
ロニエにそう言われた俺は、その後を走って追うのだった。
………なぜ、ロリばっかり出てくるのだろうか。
……………気にしないでいいか。
では、次回もお楽しみに。