The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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気合いが入ったらこんなに短時間で!!

今回はあの人が出ます。


11,人であること③神に祈ると言うこと

 モモンガ達一行が村長のもとへ歩いて行き始めると同時に、村人数人と槍を抱えたエンリが村長のもとへと集まり、なにかを報告していた。まぁ、この村へ近づいていると言う兵士の事だろうな、とモモンガは簡単に察した。

 さて、どうするべきかとモモンガは考える。一応ではあるが今のところ集められるだけの情報は集めた。ならばこの村はすでに用済みであり、助ける必要性はほぼ無いと言える。とは言え、一度助けたのだから、この際、最後まで付き合うのも有りかと思う自分もいる。もしも無理矢理理由をつけるのであればこの村を橋頭堡にして、人間社会への進出を狙えるかもしれない、と言う理由付けも出来ないことはない。故に、とりあえずここにいる面子、リュウマ、やまいこ、アルベドに意見を募ると、

 

「俺は一応最後まで残るが?せっかく助けたんだ、見捨てるには惜しい」

「僕も最後まで残るよ、教育者が子供を見捨てるわけにはいかないからね」

「私は、モモンガ様の命令に従いますが、正直、この村の人間などどうなっても良いと、そう思っております」

 

 つまり賛成二、条件付き賛成一と言うことであるならば、最後まで力を貸しておくのもいいだろう。そう結論付けてモモンガは背後にやまいこ、右後ろにアルベド、左後ろにリュウマを配して村長とエンリに声をかける。

 

「……どうかされましたか、村長?」

 

 曇っていた村長の顔に明かりが差し込んだようだった。

 

「おお、モモンガ様。実は、この村に馬に乗った戦士風の男達が近づいてきていると……」

「なるほど……」

 

 村長や村人が怯えたように視線を寄越した。毅然とした態度でいるのはエンリくらいのものだ。

 モモンガはそれを受け、安心させるように手を軽く叩き、そして後ろに控える仲間を手で指し示した。

 

「任せてください。村長の家に生き残った村人を至急集めてください。なに、大丈夫ですよ。いざとなったら心強い味方がいますので。村長殿は我々と共に広場へ。エンリさんも、召喚したモンスターを連れて一緒に」

「ああ、モモンガさん。死の騎士と僕が村人を守るよ」

「ああ、そうですね。それじゃぁ、お願いします」

 

 村人を集める鐘が鳴り響く中、やまいこの意見に首肯しつつ、モモンガは死の騎士に命令を下した。死の騎士から受諾の意志を受け取った後、モモンガは村長の不安を取り除くように、努めて明るい声で話しかける。

 

「ご安心を、今回だけはただでお助けしますよ」

 

 不安が多少解消されたらしい村長は苦笑を浮かべた。それに畳み掛けるようにモモンガは言葉を続ける。

 

「それに、うちのやまいこさんーああ、あの背の高い女性なんですけどね、彼女が子供好きでして、例え私が引き受けなくても、きっと勝手に引き受けたので、実は報酬なんていただくつもりも無かったんですよ?」

 

 その言葉には目を丸くした後、先程よりも大きな苦笑をし、村長は深々と頭を下げた。

 やがて村の中央を走る道の先に数体の騎兵の姿が見えた。騎兵達は隊列を組み静静と広場へと進んでくる。

 

「モモンガさん、どうする?先制で切り捨てるか?」

 

 リュウマが小さくそう提言して来るが、モモンガは首を振ってその考えを却下する。

 

「まずは相手の出方を見よう。村長も、気を落ち着けて」

 

 優しく村長にそう言うと、村長は震えを小さくして笑って頷いた。

 騎兵達の武装は、さっきまでここにいた騎士達のような統一感のある武装ではなかった。とは言え、それは無秩序と言う訳ではないだろう。むしろ、自分達が使いやすいよう戦いやすいようにアレンジを施した上での全体としての統一感といってもいいかもしれない。まぁ、見方によっては無法者の集団と言えるかもしれないが。

 やがて騎馬の一行は広場に二十人ほど馬に乗ったまま乗り込み、死の騎士とやまいこを避けるようにしながら村長とモモンガ一行の前に見事な整列をして見せる。その中から馬に乗ったまま一人の男が進み出た。

 恐らく、いや、間違いなくこの男が一行のリーダーだろう。全員の中でも屈強な体格をしており、その動きには無駄がない。その鋭い眼光は一時も油断すること無く、こちらの力を推し量ろうとしているようだ。

 特にリュウマと死の騎士、そしてエンリの後ろにいる大型の魔獣を見る目は、まるで全てを暴きたてようとするかのようだったが、特に何も言わずに最後はモモンガに鋭い視線を送った。

 そうして満足したのか、男は重々しく口を開く。

 

「ーー私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らし回る帝国の騎士を討伐するため、王の勅命を受け、村村を回っているものである」

「王国戦士長……」

「どのような人物で?」

 

 ぼそりと呟く村長にモモンガとリュウマは口と耳を寄せる。アルベドは直立不動のままだ。

 

「商人達から聞いた話ですが、王国の御前試合で優勝を果たし、現在は王直属の精鋭兵士達を指揮する立場の人とか」

「目の前にいる人物がその?」

「わかりません、私も噂話しか聞いたことがないので……」

 

 その言葉にモモンガは、隣で耳を寄せていたリュウマを見る。ぞれに気づいたリュウマは肩を軽くすくめた。

 

「まぁ、ここまで見た人間の中では、一番強いかもな」

「具体的にどれくらいのレベルか分かるか?」

「えっ?分からないよ、そんなの?」

「えっ!?いや、だって、リュウマさん、見切り持ってたでしょ?」

「え?ええ、持ってますけど?」

 

 それがどうしたの?的な表情でそう切り返されて、モモンガは思わず天を仰ぐ。その行動に、ガゼフ、村長両名が不可思議な物を見た顔をしたが、あえて無視しつつリュウマに囁く。

 

「見切り弐が、レベルとHPを看破できるって、昔言ってたでしょう?忘れたんですか?」

「!?…モモンガさん、よく覚えてたなぁ。全く使わないスキルなんで、完全に忘れてたよ」

「いや、俺もさっき思い出したんですけど。スキルくらい覚えててくださいよ」

「まぁ、了解して、早速使ってみますわ」

 

 リュウマが目を細めて相手の実力を見切ろうとする。リュウマには一応パッシブスキルとアクティブスキルとして見切り弌~伍までが揃っている。その内の見切り弐はアクティブスキルで、使用すると相手のレベルとHPを見切る事が出来ると言う物であるが、魔法やスキル、アイテム等で隠蔽されると途端に分からなくなると言う産廃スキルであった。最後まで調整が入らず泣きが入ったスキルではあったが、ガゼフがステータス隠蔽等はしていないため、そのレベルを見切る事ができた。

 

「32レベルだな。後ろの戦士は10~12と言うところ」

「ふむ、そうか」

 

 確かに強いが、村長の情報を合わせてみても、信じるには情報が足りない。

 

「あなたがこの村の村長か?その方々が何者か教えてもらいたい」

「それには及びません。はじめまして、私はモモンガ·ザ·ダークメイジ。この村が教われておりましたので助けに来た魔法詠唱者です」

 

 名前を名乗ったときに、後ろでリュウマが、さらに後ろでやまいこが軽く吹き出したのを精神安定を発動しながら無視し、モモンガは軽く一礼した。

 それに対しガゼフは馬から飛び降り、重々しく頭を下げた。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉もない」

 

 ザワリと空気が揺らぎ、村長が目を見開き村長の家の中にいる村人がざわめく。

 素性もわからない人間に、しかも対等ではないだろう人間に対してわざわざ馬を降りて頭を下げることが出来る。その事からもガゼフの人となりが分かると言うものだ。

 

『少しお人好しすぎると思うがなぁ』

 

「まぁ俺らも見返り、ぶっちゃけると報酬目当てで助けたんだから、礼なんぞ要らないぜ?」

「ふむ……あなたは?どうも見たところ剣士のようだが……?」

「リュウマと言うものだ。このモモンガ·ザ·ダークメイジ、プッ、の付き人みたいなもんだプッ」

 

 なんで俺の心を抉るんだと仮面越しに目で訴えるモモンガを無視するリュウマ。それに気づかず、ガゼフは言う。

 

「ふむ、実は私も剣をかじっているのだ、こんな状況でなければ手合わせをお願いしたのだが」

「……ご冗談を、王国戦士長と言う立場におられる方に、俺ごときが叶うわけがない」

「ふふ、ご謙遜を。それと、他にも色々と聞きたいことがあるのだが」

「例えば、どのようなことでしょう?」

 

 モモンガの穏やかな問いかけに、ガゼフは多少無精髭の生えてきた顎を右手で擦り、暫し思案した後、少しだけ口調を軽くする。

 

「ここを襲っていたものを倒したと仰られたが、なにか手がかりになるようなものは残っていないだろうか?」

「……帝国の兵士、そういう話なのでは?」

 

 モモンガがわざととぼけると、ガゼフは一瞬だけ顔をしかめて苦笑いを浮かべる。

 

「思い過ごしなら良いのですが、もしかすれば別の勢力と言う可能性もありますからね、念のためと言うやつですよ」

 

 納得できると言えば納得できる答えだ。ふむ、と一つ悩み、モモンガは伝言をブクブク茶釜に繋げた。

 

『茶釜さん、聞こえてますか?』

『はいはい、良好に聞こえてますよ。どしたんです?』

『先程送り込んだ騎士からの情報の収集、終わってます?』

 

 一瞬のラグ。

 

『終わってるね。えー、簡単に説明すると、あいつらは帝国の騎士じゃないね。スレイン法国って所の兵士?みたいね。なんでもガゼフ·ストロノーフとか言うやつを罠にはめるために行動してたんだって』

『ガゼフを?ふむ、分かりました。引き続き情報を引き出してください、茶釜さん』

 

 そこまで言ってモモンガは返事を待たずに伝言を切った。そのモモンガを、ガゼフが覗き込んでいる。

 

「いかがなさいましたかな?」

「いえいえ……戦士長どの」

「はい、なんでしょうか?」

 

 さぁ、ここからが正念場だぞ。モモンガは先程聞いたばかりの情報を元に話を組み上げていく。

 

「恐らくですが、恐らくこの村を襲った騎士はバハルス帝国の手の者ではない、そう私は考えます」

「……なぜ、そう思われるのですか?」

「えー、まずは帝国と言う国にあまり詳しくないことを念頭に置いてお聞きください。まず、帝国と言うのはかなり強大な国だと聞いております。そのような国が、この辺境の村を焼くのにどのようなメリットがあるのかと、私は考えたのです」

「ふむ……モモンガ殿はこの国の出身ではないのですか?ああ、失礼、話の腰を折りましたな」

「いえいえ、まぁ、旅の魔法詠唱者ですので。話を続けさせていただきますね?結論から言うと、辺境のー村を焼くメリットはほぼ無いと言えます。もちろん、ヘイトを稼ぐ、もしくは国力を多少低下させるといったメリットはありますが。しかし、それらは帝国にすれば微々たるものです。ならば、と考えたとき、王国戦士長、あなたがこの村に現れたのですよ」

「?私が、なんでしょう?」

 

 急に話を振られて、やや困惑気味にガゼフが聞き返す。ついでにリュウマも?顔。

 

「王国戦士長と言う立場上、色々と恨みを買っているのでは?そう考えると、どこかの輩があなたを罠にはめようと策略を巡らしたのではないかと、私は推測します」

 

 そこまで言って言葉を区切り、モモンガはガゼフの顔を見る。

 

「確かに、私は色々なところで恨みを買っております。そうなれば、貴族派かあるいは……」

 

 そう言って悩み始めた矢先、天から何かが降ってきてモモンガとガゼフの間に降り立った。ガゼフは思わず腰の剣に手を伸ばし、そして一瞬我を忘れた。そこに立っていたのは浅黒い肌の絶世の美女だったからだ。その美女は一切ガゼフを無視し、モモンガの方へと向き直り口を開いた。

 

「モモンガ様、この村の周囲に人影。村を囲むように包囲してます」

 

 その報告に、ガゼフと部下達は目を見開き、モモンガ一行はため息をつくのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「獲物が檻に入りました」

 

 部下からの報告を聞き、ニグン·グリッド·ルーインはやっとか、と声に出して嘆息し、その場にいた陽光聖典の隊員に命令を下し舌打ちをした。

 

「手間取らせてくれたな。しかし、なぜ我々のみなのか、理解に苦しむよ」

 

 部下に向かってそう愚痴り、ニグンは心の中でのみ苦笑する。他の聖典が任務で動けない今、我々が動くしかない。しかも、相手はあの最強の剣士ガゼフ·ストロノーフだ。相手に出来るとするなら聖典クラスでなければならないし、すぐに動ける聖典となると、もう陽光聖典以外いなかっただろうから。

 しかし、解せないのはガゼフ·ストロノーフの抹殺と言う部分である。無論、ニグンは相手が異教徒であり、また大局の見えていない愚かな部分があることも知っている。だが、そこは共に肩を並べて人類のために戦えばわかる部分もあるのではないかと、少しは思っていた。

 しかし、本国の命令であればしょうがない。せめて苦しまずに逝かせてやるのがせめてもの礼儀だろうと思っている。むしろ、悪いのは腐りきった王国であり、無能な王であろう。ガゼフほどの戦士を、たかが愚かな王国の切り札を無くすためだけに抹殺するのは……。

 ニグンは自分の思考がループするのに気づき再び苦笑した。不思議そうに見る部下に、なんでもないと手を振って答え、真っ直ぐに例の村、たしか、カルネ村を見る。あそこの村人には申し訳ないことをするが、人類の未来のための礎だと思い、自らが信仰する神に、心の中で祈りを捧げた。

 

『我が神スルシャーナよ、どうか我が罪を許さないで下さい』

 

 

 




我が家のニグンさんは本編よりもマイルド。

我が家のガゼフさんは少々強化。

出番の無いエンリちゃんは魔改造。

次回、血戦。

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