The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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今回は少しだけ話が進みました。

ご都合主義だけどね☆


追記
ワールドアイテムを捏造してます。ご注意を。




30,反省と我が儘

 たっち·みーとリュウマの戦いから三日、事後処理や守護者間での話し合い、ギルメンによる話し合いがようやく終了し、円卓にてたっち·みーの処遇についての結論が出されようとしていた。

 円卓に座したモモンガは、そこに集った一同の顔を、一度グルッと見回す。ギルメンに関しては、モモンガが決めた決定に一応の納得を見せてくれたことによって落ち着きを見せてくれている。一方で、守護者一同はそれぞれがそれぞれ、思い思いの感情を浮かべているようにも見受けられた。落ち着いた表情なのは守護者統括アルベドとデミウルゴス、不安そうな表情を浮かべるアウラとマーレ、腕組みをし微動だにしないコキュートス、ちょっと何を考えているか分からないけど、恐らく成り行きを見守っているのだろうと思わせるシャルティアと、そして鋼の表情をさらに固いものにして直立不動を崩さないセバス。それぞれ思うところがあるのだろうとは思うし、できればその内面も全て聞いてみたい気もする。

 とは言え、もう既に決めたことではあるし、パンドラズ·アクターにも既にそれを取りに行かせている。この場にいる守護者全員に納得してもらうのが一番いいのだろうが、難しいかもしれない。特にアルベド。リュウマが殺されたのを見たときの怒りっぷりは冗談どころでは無かった。やまいこに茶釜の二人が全力で止めなければその場でワールドアイテムを使用していたであろうことは想像に難くない。

 よしっ!と気合いを入れ直し、モモンガは大きく息を吸い込んだ。プレゼンをするよりも緊張をする。

 

「皆、よく集まってくれた。先日あった事について話し合いはもう既に終わっていると思う。守護者一同の意見を聞かせてくれるか?」

「はい、モモンガ様。では、守護者統括アルベドより、逆賊たっち·みーの処遇について、守護者一同の意見を発表させていただきます」

 

 いつものように落ち着いた淑女の表情で、アルベドが席から立ち上がる。セバスを除く全ての者の視線が集中するのを待ち、アルベドが軽く息を吸い込む。

 

「守護者一同より提案申し上げる処遇は、10レベルダウンの上、ナザリックの防衛員としての強制起用と相成りました」

 

 その提案に、モモンガを含むギルメン一同が意外と言う思いを抱いた。寧ろ、アルベド主導であるならば死刑くらい言いそうなものだが。そう思いつつ、モモンガはアルベドに先を促すと、アルベドも心得ているとばかりに一つ頷き続きを話始める。

 

「第一に10レベルダウンにつきましては反逆防止のためと言うのがあります。ついで、その間二度死ぬと言うことでもございますので、リュウマ様を殺害した罪とワールドアイテムを無断使用したと言う罪、双方が満たされると考えました。ついで、彼の者をナザリックに留める場合には、やはりこのナザリックから出さず防衛戦力として残すのが一番ではないかと。無論、〈 リング·オブ·アインズ·ウール·ゴウン 〉は没収の上で、でございます」

「ふむ、そうか……他の者も、この意見で構わないのか?」

 

 モモンガの言葉に守護者一同から声は上がらなかった。双子は顔を見合わせて頷き、デミウルゴスも満足げに頷き、シャルティアも何でか知らないが胸を張っている。唯一感情が読めないコキュートスは、しかし黙って頷くのみに留めていた。しかしながら、セバスのみは、表情を一切変えぬまま拳を握りしめている。

 ふむ、とモモンガ顎に手を当て、今度はアルベドではなく拳を握りしめているセバスに目を向ける。

 

「セバスよ」

「は、はっ!」

「お前はこの守護者の提案に関してどう思う?」

「……言うべき事など……」

「セバス」

 

 セバスが言い終わるよりも早く、やまいこが口を挟む。思わず、セバスはやまいこの方を見た。

 

「モモンガさんも僕も、茶釜さんやペロ……ペロはどうだか知らないけど、君の意見を聞きたい。たっちさんに直接創造された君のね」

「わ、私は……」

 

 握りしめていた拳をとき、セバスは懊悩を顔に滲ませ自問する。その彼の肩を叩く存在があった。そちらへ目をやると……埴輪がいた。

 

「お悩みですか?セバス殿、悩む必要などありませんよ!」

 

 パンドラズ·アクターはそう言うなり大仰な身振り手振りで歌うように語り始める。セバスはあっけに取られておいてけぼりである。

 

「自らに創造主がそのような目に遭ってもらいたくないなど、創造された我々が考えるのは当然!!私もモモンガ様がそのような目にあうとするならば!間違いなく!当然!当たり前のように!異を唱えるでしょう!!そう!否、否否否否否否否、否ですよセバス殿!!さぁ、自らの心を吐露してください!我らが主は、それを受け入れてくださいますよ?」

「……パンドラズ·アクター、あなたはどちらの味方なのかしら?」

 

 少しだけ怒りを滲ませたようなアルベドの声に、パンドラズ·アクターはクルリと一回転し右腕を帽子の鍔に、左腕を綺麗に真っ直ぐ伸ばすと、首だけをアルベドの方へ向け、体全体をモモンガの方へ向けると言う実に奇っ怪極まりないポーズをとった。

 

「無論、む·ろ·ん!私はモモンガ様の味方で御座います!」

「あらそう?奇遇ね、私もそうよ」

「なに漫才してるんだよお前ら」

 

 呆れたようにペロロンチーノが突っ込みを入れる中、意を決したようにセバスは顔をあげて全ての者の顔を見回すと、重々しく口を開いた。

 

「守護者の皆様から反感を買うことを重々承知の上で進言させていただきます……モモンガ様、そしてやまいこ様、ぶくぶく茶釜様、ペロロンチーノ様……どうか……!どうか我が創造主たっち·みー様に御慈悲を……!どうか……どうか……!」

 

 血を吐くようなとはこの事かと思わせるほどの声音が、セバスの口から漏れだす。そのまま膝をつき頭を垂れる様は殉教者を思わせた。腰を浮かせ何かを言おうとするアルベドを、モモンガとぶくぶく茶釜の二人が手で制する。渋々と言った調子でアルベドが腰を下ろすのを確認したモモンガは、ギルメン達と頷きあい、頭を垂れるセバスに優しく声をかける。

 

「セバスよ、顔を上げるのだ」

「しかし、モモンガ様、私は恥知らずにも程がある願いを口にしております。どうして顔を上げることが出来ましょうか……!」

「よいのだセバス。それは私達が言わせたこと。お前に責はない。それにだ……」

 

 一旦言葉を区切り、モモンガはギルメンの顔を見る。表情は読み取れないが、全員嬉しそうにしているような気がした。

 

「お前が本心を打ち明けてくれて嬉しいぞ。無論、守護者の中にも色々と言いたい者がいるだろう。だが守護者達よ、考えてもみよ。自らを創造したものがこの度のようなことを起こし、そしてこの様な状況になったならば、お前達はセバスのように己の主のために全てを捨て去ってでも助命を乞うのではないか?愛する人、そう言い換えても良いかもしれない。それを踏まえた上で、皆の意見を聞かせてもらいたい。まずは……コキュートス」

「ハ、ハッ!」

 

 名前を呼ばれたコキュートスは、やや狼狽えながらも考えた。白い息を吐き出しつつ、ゆっくりと答える。

 

「恐ラク、助命ヲ乞ウカト……シカシナガラ、罪二罰ハ付キ物。デスノデ、命ヲトラヌ方向デ、ト進言スルカト……」

「ふむ、そうか……シャルティアはどうか?」

「己の命にかえても、助命すると思われます。無論、ペロロンチーノ様のために命を散らす覚悟で御座います」

「なるほど……アウラとマーレ、二人はどうか?」

「間違いなく助命を乞います。例え守護者の任を解かれようと」

「ぼ、僕も同じです……!」

「なるほど……デミウルゴス」

「……恐らく助命を乞いますが、罰を与えるべきであると進言するでしょうか。無論、内容にもよりますが……」

「……そうだな。パンドラ……は聞いているからまぁいいとして、最後になったが、アルベド。お前はどうだ?本心を言うといい」

 

 最後に振られたアルベドであったが、即答しなかった。その完璧に近い唇をへの字に曲げ、顎に手をやり考える。一分ほどだろうか。考えぬいた結果をアルベドは口にした。

 

「私の創造主、タブラ·スマラグディナ様がこの様なことをしでかした場合、私は恐らく助命をいたしません。罪は罪、それには相応の罰を与えるべきだと、守護者統括である私は考えるからです」

「!……そうか……なら」

「しかしです!」

 

 モモンガ何かを言うよりも早く、アルベドの声が全てを遮って響く。その場にいたもの全員が注目するなか、アルベドは続けて言葉を紡いで行く。

 

「それがモモンガ様であれば、立場も何もかも全て捨ててお助けいたします!何にかえても、何があってもお側を離れません!」

((((えー……っ))))

 

 全員が全員、心の中で疑問の声をあげた。それでいいのかよ、と。とりあえずアルベドはアルベドなりの答えを出したのを確認して、モモンガが声をあげる。

 

「皆の気持ちは分かった。その上で、私は皆に謝らなければならない。と、言うのも、既にたっち·みーの処遇は我々の間で決定しているからだ」

 

 その言葉に、守護者一同から動揺の声が上がる。そして、アウラがオズオズと言った調子で手をあげた。

 

「どうした?質問なり疑問なりを言ってみるがいい」

「で、ではっ……ならば、なぜ我々をここに呼んでこんなことをなさったのでしょうか?」

「それはな、皆の真意が知りたかったのもあるが、今後この様なことが起きた場合、創造された下僕の立場になって物事を考えてもらいたいからだ。自らの造物主が犯人であった場合、その被造者はどのように考えどのように行動するか、そして、少なくとも事態を重く見るだけではなく皆で頭を捻って解決策を模索してほしいからだ。それは今のような事態だけではない。様々な事象に対してもだ。分かってもらえるかな?」

 

 その言葉に、守護者一同は力強く頷きを返す。それを満足げに見やり、モモンガは視線をセバスに向けた。既に顔をあげていたセバスは、絶対者であるモモンガの視線を受け1度体を震わせた。

 

「さて、セバスよ。少々心苦しいが、たっち·みーの処遇は決定している。恨むなら我々を恨んでも構わない。心して聞くがいい」

「はい……っ!」

「さて、たっち·みーの処遇についてではあるが、私は彼を追放しようと思う」

 

 誰が息を飲んだのかは分からない。だが、確実に今、空気が凍りついた。

 

「それは、モモンガ様、たっち·みーをナザリックより追放し、野に放つと言うことでしょうか?」

 

 デミウルゴスの当たり前と言えば当たり前の質問に、モモンガ、ならびにギルメンが首や腕を横に振った。

 

「そうではない、デミウルゴス。そもそも、たっち·みーを野に放つまでは良いとしよう。しかし、どこかの国に拾われその力を振るうようになったら?そしてその矛先がこちらに向かないとは限らない。まぁ、ナザリックがたっち·みーに負けるなどと言うことはあり得ないだろうが、守護者に少なからず大きな打撃は残るだろう。それに、それはリュウマの望んだことではないからな」

「では、ではどうなさるので?」

 

 デミウルゴスの疑問にモモンガは頷くと、パンドラズ·アクターに手招きをした。待ってましたとばかりモモンガの側へ駆け寄ると、懐から華麗な動作で薄汚れた木製の杯を取りだし、恭しくモモンガへと差し出した。それを受け取り片手で高々と皆の目に映るように掲げて見せる。

 

「これを使う」

「これは、いったい?」

 

 誰かが発した疑問の言葉に、答えたのはぶくぶく茶釜だった。

 

「ワールドアイテム〈忘れ去られし名も無き聖杯/Forgotten the name but no Holy Grail〉……たっち·みーさんと最後に入手したワールドアイテム。効果は、回復魔法系統の効果200%アップ、範囲拡大、所有者に対する魔法ダメージ90%ダウン、魔法ダメージのMP転換、蘇生魔法によるレベルダウン効果の解除、あらゆるバッドステータスの無効。そして、アイテムとして使用した場合、願いを叶える。ただし一回のみ。また、先程言ったバフも全て一度きり。使えば消失してしまうワールドアイテムだね」

「これを使い、たっち·みーを“リアル”へと追放する。これが、私達の決めた処遇だ」

 

 守護者全員、そしてセバスが固まった。なぜ、と言う思いの方が大きいか。しかし、誰かがそれを口にするよりも早くモモンガが言葉を発した。

 

「色々と言いたいことがあるだろう。だが、先に聞いてもらいたい。今度の事で、我々は意固地になりすぎていたのではないかと話し合った。なにも、たっちさんは我々も共に戻ろうなどとは言っていなかった。なのに、我々は頭ごなしにそれを否定しワールドアイテムの使用を拒否した。その結果がこれだ……まぁ、リュウマの暴走と言う一要因もあるが。もっと話し合うべきだった。たっちさんがどれだけ家族の事を思っているか、我々が考えなさすぎたと言い換えてもいい。今回の件、我々にも非があり、また、これは非常に個人的な理由であれだが、たっちさんに対する恩返しの意味もあると言っておこう」

 

 恩返しと言うところでアウラとマーレ、そしてコキュートスが首を傾げた。デミウルゴスは眼鏡を押し上げただけだったが、アルベドが身を乗り出していた。そのさまに苦笑しながら、モモンガは話を続ける。

 

「昔、私がまだ弱かった頃、よく異形種狩りにあっていた。狩り場に出ては殺され、追い立てられ、反撃もままならぬまま殺され続ける日々だった」

 

 守護者それぞれの顔に怒りが浮かぶ。それは空気を揺らめかせるほど強烈なものだったが、それを気に止めないまま、モモンガは続ける。

 

「ある日、いつものように狩りに出て、そして異形種狩りにあった。それは本当にたちの悪い奴等で、一息に殺すのではなくじわじわと私をなぶって楽しんでいる風だった。絶望したよ。結局どこへ行っても変わらないのかと思った。だが、違ったんだ。止めを刺されそうになったとき、あの人が颯爽と現れた。私を庇い、そして敵を打ち倒していった」

 

 ウルベルトさんもいたかな?と言う呟きは、デミウルゴスが素早く聞いていたらしく目を輝かせていた。

 

「まぁ、とにかく、あの人に助けられたから私はここにいる。そして、結果論だがあの人が皆を助けたりした縁で皆がここにいる。その、恩返しだな……間違いがあったのは間違いがない。だが、リュウマはたっちさんを許していた。それどころか、いいように計らってやってくれとまで言ってたぞ」

「さて、ここまで話を聞いてくれた守護者の皆、どうか僕たちの我が儘を通させてほしい。反論があったら言ってほしい」

 

 やまいこの言葉に、誰も声をあげることはなかった。ただ、守護者達は黙って、一糸乱れぬ動きで一斉に頭を下げた。その後に、アルベドが声を発する。

 

「モモンガ様、やまいこ様、ぶくぶく茶釜様、ペロロンチーノ様、守護者一同、皆様のお心に心打たれました。どうぞ、お好きになさってください。それに……」

 

 そこまで言って、アルベドは本日初めて笑い声を出した含み笑いに近いが、どこかスッキリした笑いだった。

 

「皆様がお決めになったことを我々が反対するわけないではありませんか」

 

 

 

 

 

 トブの大森林のそこそこ行ったところを、人影が三つ動いていた。

 一人は一風変わったメイド服を身に纏った美少女、プレアデスの一人シズ。その後を着いてくるのは簡素な革鎧と槍を携えた金の髪の少女エンリ。そしてやや遅れたところから必死で追い付こうとしている鳥の巣みたいな髪型の赤毛の女、名をブリタと言う。彼女がここにいる理由は、後程。

 三人は様々な薬草を採取している最中であった。ンフィーレア·バレアレが採取·加工した薬草各種を買い取ってくれて比較的財政が豊かになったが、先が不安と言うエンリの言葉を受ける形でシズが採取へ繰り出し、銃の圧倒的な威力を見て弟子入り志願したブリタと、修行です、と言ってついてくることになったエンリをともないここまでやって来た、と言う寸法である。

 幸い、ブリタであっても手こずるような敵は現れず、採取は比較的安定して進んでいた。

 先頭を進むシズが動きを止め後方に続く二人に手で、止まるように合図をする。エンリが槍を引き寄せ身構え、ブリタが最近使用可能にしたフリントロックライフルを構え警戒するなか、前方の木々が揺れ、何者かが姿を現した。

 それは、植物の蔦が絡まりあい人の姿をとったような異形。ブリタとエンリが恐怖で固まるなか、その人形はのんびりとした足取りでこちらへ歩み寄りながら、明るい声を出した。

 

「あぁ、申し訳ないビックリさせてしまったかな?少々道をお尋ねしたいんだが、カルネ村はど……」

「……ぷにっと萌え……様でございますか?」

「うん?確かに僕の名前はぷにっと萌えだが……君は?」

 

 

 

 




ぷにっと萌え、次回で帰還の巻。

では次回です。

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