The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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前回のあらすじ
エ·ランテルにてアンデッドが大量発生したが、ナザリックには特に影響はない。
ついでにカジットがハイパーカジットに変化したけど特に影響はない模様。





35,晴れ晴れ愉快

 ヘロヘロがこの世界にいる。そうぷにっと萌えに告げられたモモンガは、自室にて、一人、物思いに耽っていた。普段ならば側仕えメイドが一人、もしくはアルベドがついているのだが、今日ばかりは遠慮してもらった。メイドはごねたものの、アルベドが素直に聞いてくれた上に〈 八肢刀の暗殺蟲/エイトエッジ·アサシン 〉も下げてくれたため、正真正銘の一人きりだ。近衛になったたっち·みーもミーティングその他のために今は控えていないから余計にだ。

 さて、考えるべき事はヘロヘロのみならず全員の事にも関係するかもしれない。机から紙を取りだし考えることを書き出して行く。

 一つ目は、無論、ヘロヘロの事だ。あの日ヘロヘロは確かにログアウトしたはずだ。この辺りに関しては、リュウマに確認をとらなければならないだろう。

 二つ目。そもそも、やまいことぶくぶく茶釜は、いつの間にログインしていたのか。無論、皆を待つ間、リュウマとノンビリ話に興じていたのは事実だが、ログインメッセージを見逃すほど熱中してたのか。

 三つ目。たっち·みーとペロロンチーノのログインしていたときの状況。二人とも、別のアバターを作ってログインして、気がつけば以前と変わらぬ姿、装備、能力を持って転移してきた。しかし、本当に直前までの記憶はないのか。

 四つ目。そもそも、いつからこの世界に自分達は転移していたのか。本当にあの終わる瞬間に転移していたのか。もしかするとその前から転移は始まっていたのではないか。

 以上四つの、自分の中に渦巻く疑問を書き出し、モモンガは軽く頭を振った。どうにも、全てが全てなんとも言えない怪しさに満ちているような気がする。こう言うとき、他の皆ならどんな風に考えるだろう。

 そこまで思い至って、モモンガはやおら椅子から立ち上がって手を打った。そうだ、なにも一人で考える必要はないのだ、と。とは言え、と、モモンガは椅子に座り直す。

 こんな妄想みたいな話、どうやって切り出すか。そもそも、皆寝てたり色々してるんじゃない?ちなみに、ぶくぶく茶釜は、一日一回、アウラとマーレ二人と一緒に寝ることを日課にしており、今日は既に二人と眠っているはず。それを起こすのは忍びない。ペロロンチーノに関しては……たぶん、シャルティアとお盛んなはず。最近はヴァンパイア·ブライドも加わって下が乾く暇がないとほざいていたし。やまいこは、確か既にカルネ村へ向かっているはず。ぷにっと萌えはデミウルゴスとその配下と何らかの策の準備と言ってた。と、なると残りは……。

 

「リュウマさんなら、起きてるし暇してるんじゃないか?」

 

 そう呟くと同時に伝言を起動する。細い糸が何かに繋がるような感覚の後、いつもの声音が返ってきた。

 

『はいはーい、モモンガさん?どうしたん?』

「あー、リュウマさん、今、時間大丈夫です?」

『あー、うん、大丈夫。ちょっとアイテムの実験してるけど、問題ない。俺の部屋に来る?』

「あ、じゃぁすぐ向かいますね」

『はーいよ』

 

 返事を聞くと同時に伝言を切るが、その直前、『あっ』と言う声が聞こえた、ような気がする。とにもかくにも指輪を起動し、次の瞬間にはリュウマの部屋の前へと転移していた。基本的にギルドメンバーの部屋の扉は一様に洋式の扉だが、内部はそれぞれ好みの内装に変えてある。モモンガは、内装担当が用意してくれたデフォルトの物を使用しているが、リュウマはかなり注文をつけていたような。

 そんなことを思いつつ三回ノックをすると、どうぞ、と言う声が返ってきた。さて入るか、とふと気になった。側仕えのメイドがいない。確か、リュウマの担当はルプスレギナのはずだったが……とルプスレギナに至った瞬間、サボりと言う言葉が頭をよぎった。いや、他の面々のように四六時中働けとは言わないけど、せめてこう言う仕事はちゃんとしようよ、とも思う。専属のメイドの教育もリュウマの仕事なんだから、一応釘を刺すように言っておくか。

 そう心に決め、モモンガは扉を開いた。途端に香る藺草の香り。初めて入ったが、リュウマの部屋は純和室だった。自分のところは大理石作りの床なのに、ここでは一面の畳。地味だが高価な感じのする和箪笥や和風にアレンジされたクローゼットが幾つか並び、隣の部屋に続くだろう扉は襖、中央には囲炉裏があり、そこにリュウマは背中を見せて立っていた。

 

 

 

 裸エプロンで。

 

「なんでだーーーーーーーーー!」

「おう、モモンガさん、よく来た」

「半面だけ振り返るな!て言うか尻を隠せ!」

「なにをぉ?なかなかナイスな尻エクボだろうが」

 

 そう言いつつ尻に力を込めると、ナイス尻エクボ。

 

「と言うか何で裸エプロンなんだ!正面を向け尻を見せつけないでくださいお願いします!」

「まったく、しょうがねぇなぁ」

 

 そう言いつつ、ようやくリュウマは正面を向いてくれた。その鍛えられた肉体の前面には、まったく似合うことの無い薄いピンク色のフリフリエプロンがかかっていた。無論、鍛えられた筋肉質な丸太のような太股の中ほどまでの長さだ。

 何が悲しくて男に裸エプロンで出迎えられねばならんのか。そう思いつつ、とりあえず聞いてみる。

 

「で?何で裸エプロンなんですか?」

「うん、よくぞ聞いてくれた」

 

 話を要約するとこうだ。アイテムの整理をしていたら、いつ手に入れたかも分からないアイテムが幾つか出てきた。その中の一つに《 新妻のエプロン 》と言う料理スキルを付与する防具があったので、好奇心から着けてみたら、鎧と下着が吹っ飛んだ。結果はご覧の通りである。

 

「よもや、下着まで吹き飛ぶとは……」

「何でそんな好奇心を出したんだ」

「ちょっと前までエンリが料理してくれてたんだけど、最近色々と忙しいから料理くらい手伝おうかと思ってね」

「結果裸エプロンじゃただの変態だ」

「ごもっとも」

 

 そう笑って返しつつ、リュウマはエプロンを脱ごうとする。肩紐に手をかけ、そして。

 

「ん?おい、マジか……?」

「……どうしたんです?」

 

 エプロンの肩紐を摘まんだままなんだか不吉な声を出すリュウマに、モモンガは嫌な予感を覚えつつ問うた。問わざるを得なかった。

 

「……うん、モモンガさん」

「あ、言わないで嫌な予感がする」

「脱げない。呪われてるわこれ」

「何で状態異常耐性の指輪とかつけてねぇんだよ!」

 

 思わずそう突っ込みを入れると、リュウマがその逞しい腕を組んで何度か頷いた後、部屋の四方、そして天井をゆっくりと指差したので、つられて視線を動かすと、部屋の四隅に指輪が計9個、そして天井には鎧がぶっ刺さっていた。なんだこれ?どう言うこと?意味が分からずリュウマを見ると、深く深く頷いて、言った。

 

「新妻のエプロンをつけた瞬間、全てが弾けとんだ」

「なんちゅう呪いのアイテムだ」

「しかし、薬指の指輪だけ吹き飛ばなかったな。さすが新妻」

「そこになんの指輪を装備してるんです?」

「筋力増強Ⅳだな。いやぁ、ここに呪い耐性とかつけておけばよかった。その辺全部鎧任せだけど」

「素晴らしく現状役に立たない指輪ですね……で?」

「で?と言われても」

「そんな困ったように言わなくても……呪いを除去するようなアイテムはないんですか?」

「あぁ、隣の部屋にありますわ。んじゃ、取ってきましょうかね」

 

 軽やかにターン。その瞬間、エプロンの裾が翻り見えるか見えないかのギリギリのラインを……。

 

「わざとやってます?」

「なにが?」

 

 ジト目で疑うモモンガに対して、なんの事やらさっぱり分からんと言った感じの返事を返しつつ、リュウマは襖を開けて尻を突き出したまま物色を始める。瞬間、吐き気を覚えたモモンガは残像を残す勢いで顔をそむけた。何で自分はこんな朝早くから男の友人の尻筋ムキムキの尻を見せられねばならんのか。大体相談があってきたと言うのに相談をするタイミングがないんだけど?

 

「あれま……」

「もう聞きたくないんですけど、なんです?」

「いや、中級程度の呪い除去系じゃ駄目っぽい?」

「……なんて傍迷惑な呪いの防具……」

「モモンガさん、やまいこ、呼んでもらえません?」

「……まぁ、いいですけど……恥ずかしくないんですか?」

「延々とこのままでいる方が恥ずかしいかと存じます」

 

 納得がいくようないかないような答えを受け、モモンガは溜め息をつきつつ伝言を使用する。はたして簡単に繋がり事の経緯を簡単に説明すると、すぐに行くと言う力強いお言葉を受けて、ほっとする。その間に、リュウマは素早く緑茶を入れていた。飲むようにすすめられたが、人間体で目の前のこれを見たら吐く自信がある為、丁重にお断りをした。

 間髪入れず、扉が三回ノックされ、間髪入れずやまいこが返事も待たずに入ってくる。ぐるっと部屋の中身を見回し、正座する骨魔王と胡座をかいている裸エプロンの黒鬼を凝視し、やまいこはうんうんと深く頷いた。さすがに、やまいこは怒るんじゃないか、むしろ怒ってくれと願うモモンガ。

 

「リュウマ、いい筋肉」

「ありがとう」

「そこじゃねぇ!」

「どうしたのモモンガさん」

「やまいこさん!大の大人の男が裸エプロンでいるところでその台詞はちょっと!?TPOを弁えろとか、そういうお説教の場面でしょう!?」

「でも、モモンガさん?例えば、アルベドとかメイドの誰かが裸エプロンだったら、そこまで怒らないでしょ?」

 

 うっ!と言葉を詰まらせるモモンガ。確かにあの美女や美少女揃いの面子が裸エプロンで出迎えてくれたら、きっと口では怒りつつじっと見えそうで見えないラインを凝視するだろう。そこまで考えモモンガは叫んだ。

 

「って、今の状況と関係ない話じゃないです!?」

「まぁ、関係ないけど……いい筋肉が見れたので、今、モモンガさんが抱いたような思いだったんだよと言うことを言いたかった。まぁ、自室でどんな格好をしようと勝手だと僕は思うけど?」

「いやいや、やまいこ、趣味じゃないんだよこの格好は。実は……」

 

 と言うことで事の経緯を簡単に説明すると、やまいこは腕を組み深く深く頷いた。

 

「リュウマ、君は本当に馬鹿だなぁ」

「Thank You」

「いや、誉めてないですから」

「とにかく僕が、チャチャッと《 セイクリッド·カース·ブレイク 》を使えばいいってことだね?」

「よろしくお願いします」

 

 言うが早いか、やまいこはリュウマに向かって魔法を無造作に唱えた。清浄な光がリュウマを包み込み、リュウマを縛っていた呪いの鎖が溶けて行くのがモモンガの目にも見えるようだった。果たして魔法は効果を表した。何で分かったかって?仁王立ちしているリュウマの前面を覆うエプロンが床に落ちたから。つまりリュウマは裸エプロンから全裸へと進化を果たしたわけである。

 

「隠せっっっっっ!!」

「はっはっはっはっ。隠すものがない!」

「隣の部屋にでもズボンがあるんじゃない?」

「確かに……!んじゃぁ、取ってくる」

 

 鬼サイズのモノをぶらんぶらんさせながら、リュウマは隣の部屋へ消えていった。それを見送って、モモンガは深い深い溜め息をついた。そして、はたと気がついた。先程から怒ってるのに精神安定が起こってない。と、言うことはつまりあんまり怒ってない上に友人の全裸をそこまで不快に思ってないと言うことか?いや、いやいや、否である。つまりこれはギリギリ、そうギリギリ安定上限値まで到達しなかっただけ。ただそれだけなんだ!

 そんなことを考えていると、やまいこがこちらを見ていた。

 

「ど、どうしたんですか?」

「こんな朝方にリュウマの部屋で何をしてるのかな、と思ってね?……まさか?」

「餡ころもっちもちさんに毒されました?」

「あんちゃん、こっちに来てるかな?確か、データは大事な宝物だから消せないって言ってたけど……」

「……あ、そう言えば、アバターデータを消してない人って、やまいこさん知ってます?」

 

 言われ、やまいこは首を捻る。そもそも、連絡先を知っているメンバーは、実のところそう多くない。近しい人だと、ぶくぶく茶釜、餡ころもっちもち、死獣天朱雀くらいのものである。ゲーム時代はそれこそログインしさえすれば皆と会えたのだから、連絡先を知らなくてもそれほど困らなかったのだ。

 

「うん、分かる人は教授くらいかな?時々色々相談に乗ってもらったりしてたから……教授はアバターデータ、残ってないはず」

「そうですか……」

「けど、急にどうしたの?」

「あぁ、いえ。なんと言うか、皆がこっちに来た時用の情報網を構築しておいた方がいいかなぁと思いまして」

「そうだね。とは言え、彼が来てたら、もはや捕捉そのものが難しいとしか」

「ああ、炎雷さんですか……情報系の魔法すらかわす隠密能力ってなんじゃそりゃですよねぇ」

「おまちどう……どうした?二人ともなんか難しい顔してる雰囲気だけど?」

 

 着流し姿で戻ってきたリュウマがそう言うと、モモンガもやまいこも揃って手を振って何でもないと言う意思表示をした。それに頷き返しつつ、リュウマはキョロキョロと部屋を見回した後、部屋の四隅に転がっている指輪を拾い上げ指にはめ直して行く。

 

「あ、そうだ。リュウマ、アバターデータを残してるメンバー、分かる?」

「へぁ?あぁー、んー?源次郎さん、ブルプラにぃ、チグリスの旦那に音改さん、かねぇ?弐式もか。タケさんはたっちさんが辞めた後燃え尽きて、データを消したはずだしな。後は分からねぇけど、ホワイトブリムさん辺りなら残しててもおかしくはないんじゃね?てか、急にどしたん?あ、もしかして俺のところに来たのは、それを聞きたかったから?」

 

 リュウマの得心がいったと言いたげな言葉に、モモンガは顎を押さえて低く唸った。確かにそうであるとも言えるし、そうでないとも言える。しかし、どう切り出したものかと唸ったのだが、その反応を受けたやまいことリュウマは顔を見合わせた。

 

「あー……違ったか?」

「あ、違うってことはないんですけど……そうですねぇ、実はぷにっとさんにちょっと衝撃的な事を聞きまして、それの相談、ですかね」

「衝撃的なこと?」

 

 やまいこの問いに、モモンガは一つ頷いて息を吸い込む。特に意味はないが、あえて言うなら自分の中での様々な考えに整理をつけるため、と言う意味が大きい。

 

「ぷにっとさんは、ヘロヘロさんと行動を共にしていたそうです」

「おおー、ヘロヘロさんも来てたのかぁ。ようやくブラック企業からの卒業だなぁ」

 

 嬉しそうに声をあげたリュウマだったが、ふと、なにかを思い出すように首を捻る。そして何かを思い出したようにモモンガの方へ顔を向ける。

 

「いや、そりゃおかしくねぇか?あの日、ヘロヘロさんはログアウトした、はずだろ?」

「ええ。確かに俺達二人の前で、ヘロヘロさんはログアウトしたはずなんです。だと言うのに、この世界にいる。おかしいと思いませんか?」

 

 問われ、リュウマは難しい顔をして唸る。そして、一つ何かが引っ掛かった。しかしながら、その引っ掛かったものが喉から出てこず、首を捻りつつ唸る。そもそも、頭脳労働系は大の苦手だ。無論、考えられないほど阿呆ではないが、小難しい理屈をこねごね練り上げるのが苦手だ。正確に言うなら苦手になった、であるが。

 首を捻って唸るリュウマを前に、やまいこが首を傾げつつモモンガに問う。

 

「それを聞くためにリュウマの部屋に来たの?」

「それも含めて、ですね……やまいこさんにも確認しておきたいことがあるんですけど、大丈夫です?」

「僕にも?いいけど、なに?」

「やまいこさんは、いつ頃ログインされました?それと、ログイン直後くらいの記憶の方も教えてもらえれば有り難いんですけど」

「え?ええと?詳しい時間は忘れたけど、確か十時くらいには茶釜さんと一緒にログインしてたかな?ログイン直後は二人がいないって話してたかな?」

「円卓の間に出現しなかったのは、あらかじめ出現場所を変えてあったと言うことですか……不自然さはないですね。けど、ログインメッセージを見た覚えがないんですよね、俺」

「……なんか、尋問されてる気分……」

 

 不満げに呟いたやまいこに、慌ててモモンガは両手を振って否定する。

 

「ち、違いますよやまいこさん!ただ、なんか色々引っ掛かることが多くて……!」

「まぁ、それだけよく分からないことが多いってこったな。しかし、これ、俺ら三人で話し合うような内容じゃない気がするんだがなぁ」

 

 助け船を出すようにリュウマがそう口にすると、やまいこも同意するように頷いた。

 

「うん、そうだね。例えば、茶釜さんやぷにさんにも色々話してみるのがいいんじゃない?」

「俺は知恵とかじゃあんまり役に立てないからな!」

「え?あ~、うん、そうですねぇ?」

 

 清々しいほどの笑顔でサムズアップするリュウマに、曖昧な言葉で返しつつ、モモンガは軽く考える。あくまで、あれらは自分の妄想にも近い考えだ。と、なれば、それに時間をかけさせるのは如何なものか。もう少し、そう、情報が集まるのを待って皆と話し合えばいいんじゃない?と言うかきっとそうに違いない。

 無理矢理そう結論づけ、モモンガは首を横に振って見せた。

 

「いえ、大丈夫ですよ。話し合うにせよなんにせよ、とにかく色々情報が不足してますから……混乱させるようなことは一旦置いておきましょう」

「……まぁ、モモンガさんがそれでいいならそれでいいけど……」

 

 どこか釈然としないまでも、やまいこはそう返す。基本、相手に遠慮しがちなモモンガであるから、無理に話をさせようと詰め寄れば話をしてくれるだろうが、突き詰めると確かに色々話が行き詰まりそうな気がする。なら、ここで話を打ち切って別の話をする方がいいか。そう結論づけ、やまいこはかねてより疑問だった事へと話をシフトすることにした。

 

「ところでモモンガさん?これから僕らはどうすればいい?それからモモンガさん、やっぱり冒険者になって息抜きしたいって思ってる?」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ぷにっと萌えは、デミウルゴスとの打ち合わせを終え、自室にて次にすべき事に考えを向けていた。視線をぐるっと回してみれば、懐かしい、自分のこだわりを詰め込んだ部屋が目に入った。それは、いわゆる中華様式とでも言うべき部屋だ。天井からは中華風のシャンデリアランプが下がり、テーブルや椅子も全てそれで統一している。まぁ若干、ポリネシアン仮面や日本風の屏風が置かれていたりするが、それはそれで味だと思いつつ立ち上がり、部屋の隅の棚に山と置かれている書物を手にとって広げてみる。

 

「孔子論語、か。ずいぶん読み込んだっけか」

 

 懐かしそうにそう呟き、今度は隣の部屋へと続く扉を開け放つ。最後の日に見た覚えのある雑多に積み上げられた武具や装身具などが転がっていた。微かになりつつある、十数年前のままであるような気がする。つまり、この山には一切、モモンガとリュウマは手をつけなかったと言うことか。

 

「好きに使ってもいいのに、律儀な二人だなぁ」

 

 苦笑と共に呟き、ぷにっと萌えは改めて思考を開始する。

 作戦、と呼ぶには滑稽だが、彼は英雄と英雄が、共に国を起こすのがもっとも各国家に対して衝突が少ないと考えている。特に世界を救った的な英雄なら有益な存在であるから、なんとかなるだろう。各国家のお墨付きももらえるようにすればなお結構。さて、それに当たって重要になってくるのは英雄と、それが背負って立つ国家だ。国家の選定に移るなら、まずは王国、ついでナザリック。しかし、出来ればもう一つ国が欲しい。そこで白羽の矢が立つのがスレイン法国になるのだが、極めて情報が少ない国である上、あの国は亜人種、異形種の類いとは一切相容れない国である。で、あるならば、あえて国を興しその後に交渉をすれば良い、と仮定する。それに当たって交渉が決裂した場合、残念ながら武力を以て当たるが吉、しかも迅速果断に、だ。無論、それまでに根回しは色々とする予定ではあるが。

 と、なれば。ぷにっと萌えは部屋の中をぐるぐると歩きつつさらに思考する。やはり帝国を三国目にするのが良い。幸い、あの国には四騎士や高名な魔術詠唱者のフールーダ·パラダイン等がいるため英雄になってもらう人間には事欠かない。ならば、とっととモモンガさんに英雄になってもらって帝国とのパイプを作ってもらうのが手っ取り早い。

 さて、ここまで考え、ぷにっと萌えはもう一つの仕込みについても思いを馳せる。国家間が手を取り合うような状況、となれば、これはもう強大な敵と相場が決まっている。しかし、中途半端は駄目だ。そこで、ラキュース達に語った“組織”の出番、となる。これの首魁を、申し訳ないがデミウルゴスに頼み今から作り上げてもらう。さて、それだけの戦力をどこで調達するか。これに関しては一つ考えがあった。ビーストマンの国家。これらを丸っといただこうと言う話である。ナザリックが出撃して随分な数のビーストマンが潰されたらしいが、欲しいのはビーストマン、ではない。正確に言うならビーストマンは必要だ。素材として。ビーストマンを素材にして様々なモンスターを作り上げ軍団にしてしまう。ナザリックの生産能力ならば、おおよそ二ヶ月ほどで出来上がるはずである。最後に目玉になるような大ボスが欲しいが……これは保留としよう。

 それから、と、ぷにっと萌えは指を折って考えてみる。国を作る、これに関しては様々な国に皆で出向いてパイプを作れば概ね問題ない、一国を除けば。そう、自分の愛弟子を王座につけると約束したリ·エスティーゼ王国の六大貴族のクソッタレだ。レェブン侯爵に関しては問題ないが他の家が問題だ。これに関しては何らかの大きな事を起こして一気に力を削いでしまうのが一番。その大きな事の時にラナーが動き人心を掌握すれば後はなし崩し的に王座は約束されるだろう。

 はた、と気付くぷにっと萌え。簡単な話だ。あの阿呆共と“組織”を結びつければいいのだ。大きな利が得られるとなればすぐさま食いつくだろう。となれば、その仕込みに一ヶ月ほどか。ならば三ヶ月で様々な準備を終えないと。

 うんうんと頷き、ぷにっと萌えは、部屋の隅で立っていたメイドに目を向けた。

 

「すまないが、お茶をいれてくれるかな?」

「かしこまりました、ぷにっと萌え様」

 

 礼儀正しくそう言って頭を下げて出て行く金髪のメイドを見送って、ぷにっと萌えはうんうんと頷きつつもう一つ障害があったことを思い出す。アーグランド評議国。評議員による評議制である事と永久議員である龍がいる、亜人種が多くいる、程度の事しか分かっていない。てか、情報が少なすぎる。特に王国な。あの王国にいながらこれだけ情報を集めた自分を誉めてあげたい気分だ。とにかく、ここともなんとかコンタクトをとりたいものだ。出来れば無用な争いは避けたい所だが、果たして。

 と、その時、部屋の入り口の扉が豪快に開け放たれ、やまいこ、リュウマ、たっち·みー、モモンガの順番で突入してきた。

 

「……いきなり、なにかね諸君?」

 

 あきれ返ってそう聞くと、やまいことリュウマに背中を押されモモンガが前へ進み出る。何やら言い淀んでいるようすなのでじっと待っていると、軽く咳払いをしてモモンガが口を開いた。

 

「ええ、と、ぷにっとさん……その、これからの作戦とか、立ってます?」

「ん?うむ、そうだね。色々と考えているけれど……そうだな、モモンガさん」

「あ、はい、なんです?」

「冒険者に興味、あります?」

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 






遅くなって……すいません……
あ、あと、ぷにっと萌えさんの作戦が頭悪すぎて、ごめんなさい……
ところで、謎の腹痛を治す方法を知ってらっしゃる方、ご一報ください……


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