The Last Stand   作:丸藤ケモニング

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前回までのあらすじ

ウルベルトさんモテモテ。

今回予告

ウルベルトさん、帝国に就職。




37,その頃人達 5

「なんでまた、城じゃなくて闘技場の地下の一室なんだ?」

 

 先日の明美の去り際に言った『皇帝陛下に、あってクレメンス』の台詞通り、俺は皇帝陛下、ジルクニフ·ルーン·ファーロード·エル=ニクス……だったような、長ったらしい名前の皇帝陛下に会うために、指定された場所、この闘技場の地下の一室へと足を運んでいる。フォーサイトの連中と一緒に。あ、すまん、忘れてた。案内役にレイナース·ロックブルスも一緒だ。……ロックブルズだったか?異世界の名前はややこしい。

 移動の最中、終始ニコニコ笑顔のレイナースとは裏腹に、フォーサイトの面々は困惑気味の表情だった。さもありなん。いきなり現れた帝国四騎士の一人が『依頼があるのでついてきてください。おや?断りますか?では皇帝反逆罪で投獄です』等と言われては着いてこざるを得ないだろう。激怒して掴みかかろうとするイミーナをロバーデイクと俺でなんとか抑え、ヘッケランに依頼を快諾してもらった所で移動開始、んで今に至ると。いや、細かく色々あったけども、つらつら言うと面倒くさいので省略。とにかく、到着した俺は、一人でこの部屋へ、フォーサイトの面々は別室へと案内されたのが十数分前。以降、誰かがこの部屋に来ること無く、ずっと一人で待ちぼうけだ。とは言え、明美とあって話をしたことで、幾つか考えるべき事が出来たので、考えを簡単に纏めてみようと思う。

 

 まず一つ。これは有り難いと言えば有り難いが、有り難くないと言えば決して有り難くない話だが、ユグドラシルのプレイヤーが何らかの理由でこの世界へと転移してきていると言う事。つまり、ちょっと諦めかけていたアインズ·ウール·ゴウンのギルメンが転移してきていると言う俺の謎の確信に信憑性が出たと言うこと。あぁ、早く会いてぇなぁモモに。謝らなくちゃいけないしなぁ、あの時勝手にやめてごめんってなぁ。あ、リュウマの奴も一緒かね?あいつはいいや、別に。たっちの奴はいるかなぁ。別に顔を見たいとは思わんけど、たまにゃゆっくり話すのもいいかもしれん……。思考が逸れてるな、いかんいかん。ホームシックか?

 さて、もう一つだが、これは異形種の体を持ったからこその弊害か。精神の変質。どっかの誰かが言ったらしいが、『所詮精神など肉体によって容易く変わるもの、故に不変の物など無い』だったか?超意訳らしいが。ともかく、精神性と言うものはとかく肉体に引っ張られるものらしい。明美も、どうやら長い意味での“時間”の感覚が間延びしているらしい。それはエルフの精神性なのか?とは言え、亜人種である明美はその精神性を大きく損ねることはないらしい。多少、命への価値観が緩くなっているらしいが、俺たちが生きてたリアルを考えればあっちの方がよほど命が安いんだから問題ないだろ。ともかく、俺も何らかの変調が見られるかもしれないので要注意だな。今んところ、敵対する奴に異常な殺意を覚えるときがあるってくらいのもんだしな。戦って生き抜くにはそれくらいでいいだろ。むしろ心配なのはモモだな。あいつアンデッドだったし。妙なことになってなけりゃいいが。

 ……また思考が横に逸れてる。いかん、本当にホームシックっぽい。そう言えばここ最近、一人でいること少なかったからなぁ。今が十分楽しいし。よくよく考えれば、ギルメンの事を真剣に考えるのもずいぶん久しぶりだ。

 

 と、思考の海から浮上してくると同時に、扉が控えめにノックされた。俺が返事を返すよりも早く、分厚い樫の扉が軋みながら開き、レイナースを筆頭に武装した男三人が後に続く。よく分からんが、かなり鍛えられた体つきと、大したことがないもののそれぞれがマジックアイテムで武装しているところを見るとこれが噂の帝国四騎士か。なるほど、人間だった頃の俺なら心はともかく肉体的にはへし折られそうな屈強さだ。今は怖くもなんともないが。それぞれが浮かべている表情はそれこそ様々だが、比較的年上っぽい男からは何やら好奇の感情が読み取れる、ような気がする。気のせいかもだが。あ、レイナースはいつも通り好意的な視線です。惚れられてるらしいんだが、なんでだ?

 さて、この四人に護られるように後について入ってきたのが、恐らく件の皇帝陛下だろう。だってイケメンだし。服もなんか豪華だ。しかし、それよりも最初に思ったのは“若い”その一言に尽きるだろう。俺の中にある皇帝のイメージは初老のゴツいおっさんかブクブク太った如何にも権力豚でございみたいなろくでなしだ。そこから差し引いても、その皇帝とおぼしき男は、若くイケメンで、なおかつ理知的かつ野心的に見える。が、異名である鮮血帝と言うおどろおどろしいイメージはほぼ抱かない、そんな爽やかさんだ。ん?その若いのの後ろから白髭の如何にも魔法使いです、と言わんばかりにじいさんが出てきた。……俺の中でガンダルフ決定。そのガンダルフ(仮)は、何やら好奇心溢れる目で俺をずぅっと見ているが、何だろう、視線がねばついてキモいんだが……。

 

「さて、最初に挨拶をしておこう。私がこの国の皇帝、ジルクニフ·ルーン·ファーロード·エル=ニクスだ。君の話は、アケミから色々と聞いている。会えるのを楽しみにしていたのだ」

 

 件の爽やかさんが、爽やかに微笑みつつ手をこちらに差し出してきた。ならば。

 

「こちらこそ初めましてだ。歩く災害、世界的災厄のウルベルト·アレイン·オードルだ。明美の話は話し半分で聞いた方がいいぞ?嘘は言わんが誇張がでかい。あぁ、すまない、幻術で作った姿だが……まぁ、本来の姿は君達が引くから、この姿のままでも構わないよな?」

 

 差し出された手を握り返しつつ、俺はそう名乗った。目の前の爽やかさんはこちらの手を握りしめつつ軽く目を見開く。そして、後ろの老人に目をやると、その老人は微かに首を横に振ったのを見て視線をこちらへと向ける。そんな中、騎士の一人……これまた目も覚めるようなイケメンが、すぐさま部屋の隅に行き、そこにあった茶器を用意し始める。茶坊主だったのかな?

 

「……確かに、アケミに聞いていた容姿とは違うとは思っていたが……それは魔法の類いかな?」

 

 探るようなジルクニフの言葉に、俺は軽く首肯し肯定の意を示すと、なぜか後ろのガンダルフ(仮)が目を見開いて身を乗り出そうとして、でかい盾持ちの騎士に肩を抑えて押し止められていた。そう言えば気になる。

 

「あーっと、すまないジルクニフ陛下。その、後ろに控えている方々はいったい?」

「これは失礼。ではまず、武装している騎士の一人、帝国四騎士、リーダーの“雷光”バジウッド·ペシュメル」

 

 バジウッドと呼ばれたアゴヒゲを生やした一番年配っぽい雰囲気の騎士が片手をあげて挨拶してくる。結構気安い感じだな。なんか、権力に溺れてますって感じはねぇな。

 

「それから、“激風”ニンブル·アーク·デイル·アノック」

 

 お茶を入れていたすげぇイケメンが、俺の前に湯気をあげるティーカップを置きつつ、固い表情のまま軽く頭を下げる。前から思ってたが、この世界、あっちを見てこっちを見ても比較的美形が多すぎる、そんな気がする。まぁ、皇帝陛下とこのニンブルって奴は、その中でも上位のイケメンだが。

 

「彼女は知っているだろうが、一応。“重爆”レイナース·ロックブルズ」

 

 名を呼ばれ、レイナースは柔らかに微笑みながら俺に頭を下げる。が、よくよく見れば頭を下げても視線を俺から切ってない辺り、なかなかあれだ、怖い。

 

「そして、最後に、“不動”ナザミ·エネック」

 

 皇帝の最も側に立っていた重装備の騎士が、慇懃に頭を下げた。あ、言うことはない。一言で言うなら雰囲気的に人が良さそうだ、くらいのもん。

 

「最後になるが、後ろに控えているのが、バハルス帝国主席宮廷魔法使い、帝国魔法省最高責任者、事実上、バハルス帝国最強の魔法使いでもある、フールーダ·パラダイン。今回は、その、あれだ、色々オブザーバーとかそういう感じの立場で同行してもらったのだ」

 

 紹介されたガンダルフかっこ仮改めフールーダが、如何にも好好爺と言った風情で手を差し出してきた。ので、俺もその手を握り返した。

 

「フールーダ·パラダインです。よろしくお願いいたしします」

「ウルベルトだ。長いか短いかは分からないがよろしく頼む」

 

 そう言って手を離そうとして、フールーダが俺の手をじっくりと見ていることに気がつく。なんじゃ、なんかおかしいところでもあった?そう考えると同時に、フールーダがなんかブツブツ言ってるのに気がつく。耳をすませてみれば。

 

「よもや、これは魔法で作られた虚構の像?いや、しかし、触った感触、手に感じる体温や柔らかさは人のそれ……よもやよもや、人の感覚を騙しきるほどの虚構の像……!?知らぬ、知らぬぞ……!?」

 

 え?やだ、怖い。困って皇帝の方を見ると、苦笑を滲ませたジルクニフが説明してくれた。

 

「あぁ、爺はなんでも魔術の深淵を覗き込みたいらしいのだ。故に、自らの知らぬ魔術などを見ると、そうなるのだ」

「ウ、ウルベルト殿ーーーーーーーー!!」

 

 先程までの好好爺じみた雰囲気はどこへやら、目を血走らせたフールーダが鼻息荒く俺の両肩を掴み叫ぶ。思った以上の声量と老人らしからぬ腕力に面食らっていると、フールーダはそれにも構わず捲し立ててくる。

 

「こ、これはどういう魔法なのですかな!?人の感覚にまで入り込む虚構の像を作り出すと言うことは恐らく精神に作用する魔術と空間への像を投射する魔術の複合であるとは考えられますがしかししかしそれをなすだけに莫大な魔力はいずこから引っ張って来ておるのですかな!?いえ、そもそも貴殿からは魔力の波等は見えてこぬと言うのに……!!はっ!閃いた!よもやウルベルト殿は己の魔力を隠しておられると!?」

「なんだこの爺さんは!?」

 

 あまりの迫力に俺は圧倒されつつそう叫んでしまった。が、次の瞬間、フールーダが「はうっっ……!」と一つ呻き声を上げ、ずるずると力無く崩れ落ちる。見れば“激風”ニンブルがフールーダの首筋に手刀を落としたであろう格好でそこに立っていた。

 

「申し訳ございません。魔法の事となると、フールーダ様はお人が変わられますので」

 

 微笑みながらそう言って、ニンブルはぐったりして口の端から涎を流すフールーダを、空いている椅子に座らせるともう一度頷いて皇帝の斜め後ろへ戻っていった。こう言っちゃあれだが、老人は大事にせんといかんよ?

 

「すまないな、ウルベルト殿。あぁ、しかし、爺も悪い人間ではないのだ。ただぁ……その、少し暴走しがちなところがあってだな」

「いや、面食らったが気にしてないとも、ジルクニフ殿」

 

 それは良かった。そう口にし、ジルクニフは小さく安堵のため息をついた。まぁ、客人にあんな態度をとったらよろしくないわな。そういう意味ではあれだが、俺、爺さんとか基本好きだから大丈夫だぜ?まぁ、そんな事情は知らんだろうけど。しかし、と、俺は紅茶を口に含んで考える。紅茶特有の発酵した臭いが鼻から抜けるなか、俺は本題に話を移して行く。

 

「それで……皇帝陛下は俺にどのようなご用なのか……聞かせてもらおうか?」

「ふむ……色々理由はあるが、理由の一つに“好奇心”があったと言っておこう」

 

 予想の斜め上の返答に、俺は言葉を詰まらせた。もっと、なんかの野望のために俺の力を使いたいとか言うと思ってたんだが。そんな俺の心を読み取ったかのように、ジルクニフは小さく笑い紅茶を口にする。

 

「まぁ、帝国に協力してもらいたい、と言うのもあるがね。それは、あのアケミにして自分では敵わないとまで言わしめた君だ、無理強いはできない。それならば、せめてパイプを作って繋げておくと言うのが最善手だと思うが、どうかな?」

 

 それはまぁ、納得できる話ではあるが……なんか俺の実力がずいぶん高く見られてるような気がするが。もっとも、この世界の人間(今のところ出会ったことがある人間に限られるが)は俺に比べて遥かに弱い。恐らくだが、この場にいるので最もレベルが高いのが、椅子の上でぐったりしているあのフールーダとか言う爺さんじゃ無かろうか。具体的に何レベルかは分からんが、感覚的にはそんな感じだと思う。そう考えれば、ワールドディザスターってのは、この世界の破壊者みたいな存在とも言えないこともない?ま、往々にしてそういうのには必ずカウンター的な存在がいるもんだが、少年漫画的にはな。

 

「……まぁ、理解はする。だが、過大評価しすぎではないか?俺は、ほれ。この様に人の身で触ることのできる存在だ。ならば滅ぼすことも可能だろうと考えるのが道理だと思うのだが?」

「はは……実際のところ、アケミの強さを知らなければ、我々だって危険だからと君を滅ぼす方向で話が進んでいたかもしれない。ところが、だ。少し前、爺と四騎士がアケミと模擬戦を行い、全力を出させること無く敗北した。つまるところ、アケミ一人で帝国の兵団と互角以上に戦いができる爺を上回る強さで、それに輪をかけて強いとされる君ともなれば、言うまでもないことだ。帝国全ての戦力を投入したところで、君には敵わないだろう。アケミ曰く、君は魔法一つで国を滅ぼすかもしれない存在だそうだ。ならば、協力を取り付けるのが良いだろう、と考えたのだ。それに……」

 

 そこで真剣な表情のまま一旦言葉を区切ったジルクニフは、次の瞬間、どこか人好きのする、年のわりにはと言うか年相応と言うか無邪気と言うか、そのどれらも兼ね備えたような表情で笑った。

 

「最終的にはやはり好奇心だな。知っての通り、アケミはよく喋りよく笑いよく動く。だが、どうもここで働きだしてから無理しているような部分が見受けられた。が、君たち、確か、アインズ·ウール·ゴウンの事を語るときは生き生きとしていたものだ。心底楽しそうに語る彼女を見て、私も一度会ってみたくなったのさ」

「そりゃまた……なんつったらいいか……」

 

 困惑する俺に、ジルクニフは微笑みを浮かべたまま話を続ける。

 

「と、この話は後においておこう。実のところ、君に頼みがあると言うのも事実なのだ」

「……友人の妹が世話になってるんだ、多少の無茶は聞き入れるが?」

 

 俺の言葉に、ジルクニフは一つ頷いて顎に手をやり考える。なんか、頼みたいことでも多いんだろうか?

 

「ふむ、ウルベルト殿?ウルベルト殿は“組織”なる、あー、妙な話だが組織をご存じか?」

「?組織が、なんだって?」

「説明が難しいが……今、現在、帝国に“組織”と名乗る組織が暗躍している。実体としては単なる犯罪組織の一つなのだが……」

「その“組織”とやらが犯罪組織程度なら、帝国の戦力で一飲みにできるんじゃないか?」

 

 俺の、当然と言えば当然の言葉に、ジルクニフは軽く首肯しもう一度首を捻った。眉間に皺を寄せて、悩むように言葉を続ける。

 

「それが問題でね、ウルベルト殿。そう、単なる犯罪組織程度であれば、帝国の力で一飲みにするも、後々色々と利用するために生かしておくのも自由だ。しかし、そいつらが販売している物、それが問題の一つでね……」

 

 ジルクニフが目配せすると、ニンブルとか言う騎士……どっちかと言うと傭兵っぽい雰囲気の奴が、懐から何かを取りだし机の上にそっと置いた。見れば、革の袋につまった丸薬状の何か。薬か、それに属するもの。もしくは、俺らの周囲で一時流行っていた麻薬の類いか。

 

「これは、以前流されていた『黒粉』と言う麻薬をさらに洗練したような代物でね。中毒性は言わずもがな、言うに事欠いて、その効果も強力と来ている」

「その『黒粉』とやらを、俺は知らんから何とも言えんが……こいつはどう言った物なんだ?」

 

 一粒つまみ上げ、臭いを嗅いでみる。残念と言うか、酷く匂う事もなく、さりとて決して臭いが無いわけでもない。例えるなら、そう、カルキの臭いが非常に近い、ような気がする。少なくとも好ましい臭いじゃない事だけは確かだ。

 

「うん、そうだな、一粒飲めば、強い覚醒感を得られる。二粒であらゆる疲労が取り除かれ、三粒で苦痛の消失、四粒で筋力の増大、五粒で敏捷性の増大、そして六粒で理性の消失、だな」

「麻薬、と呼ぶにはずいぶんとファンタジーな効果だな」

 

 俺の言葉に首を捻るジルクニフ。それを無視して、俺は懐から、正確に言うなら懐に隠すように置いてある『無限の背負い袋』からポーション、それもあまり使うことの無い筋力強化系のポーションを取り出してみる。入れてた理由は実に簡単。部屋に仕舞い込むのも面倒になっていた時期のアイテムだからだ。

 口に鼻を近づけ臭いを嗅ぐ。近いような臭いもするが、これはもうちょっと、なんと言うかフローラルな臭いだ。口に含めば、無味、とは言わないものの、それに近いようなあまりにも仄かすぎる甘味。さて、なんで俺がこんな意味の無い強化系のポーションを飲んだのかと言うと、だ。

 俺は指でつまんでいた麻薬を一つ、口に放り込み噛み砕く。誰も予想してなかったんだろうな、止める声も上がらず、ジルクニフは腰を浮かせている。それはいい。兎に角、味だが、面白いことに近い味がする。ただ、なんと言うか、先のポーションよりも薬感が強いと言うべきか。兎に角、食って美味いっつぅもんでもない。精製過程と言うよりも原材料は近いものが使われているのかもなぁ。

 

「ふむ、恐らく、筋力強化系の水薬、ポーションと原材料が近いのかもな。詳しい材料名は不明だが、確か、植物系のモンスターの体液が原材料の一つだったと思うが……」

 

 俺の言葉に、一同の間にざわめきが走る。目を走らせれば、ジルクニフとバジウッドがこちらを見つつ、何かを待つようにじっとしていた。なので、あくまで推測であると言葉を足しつつ話を続ける。

 

「植物系のモンスター、確か、名前は……オーキッシュクラウンとか言うモンスターだったように思うが……この辺に関しちゃ俺よりも明美の方が詳しいと思うんだが……そういや、あいつはどこだ?」

「あぁ、アケミは今、君の契約相手であるフォーサイトの面々と話をしているところだ。君を迎え入れるのに、彼らは極めて重要だと言うんでね。失礼ながら、彼らに仕事を頼んでいるところだよ」

 

 ふぅんと適当に相槌を打ちつつ、俺はあいつらの事を考えてみる。よくよく考えれば、契約だなんだと言わずにとっとと別れてしまうと言う選択肢もあったはずだ。なぜそれをしなかったのか、今だ判別できないが、少なくともあいつらと別れると考えるとなにかモヤッとしたものがあるのは間違いない。それが原因と言えば原因かもな。

 

「それで、ウルベルト殿?そのオーキッシュクラウンと言うモンスターはどの様な姿をしているのだ?」

「?不思議な事を聞くな?そうだな、人間よりもやや大きい樹木が二足歩行で歩きつつ、木材で出来た斧を振り回すと言う、色々突っ込み所満載なモンスターだな。正直、そこまで強いモンスターじゃねぇ、って、どうしたんだ?」

 

 説明の最中から、騎士全員が顔を見合わせ頷きあい始めた。なんだ?たかだか15レベルちょいのモンスターだ。お前らなら余裕だろ?そう言うと、全員が苦笑を顔に刻み、代表するようにバジウッドが口を開いた。

 

「確かに、一匹程度なら余裕だがね?一匹じゃないから問題なんだ」

「十匹か?二十匹か?」

 

 俺の問いかけに、ニンブルは苦笑を浮かべつつ首を振り、右手を広げて見せた。50か?その問いにも、バジウッドは首を振って否定する。

 

「おおよそ、500。とは言え、その大半は、奴等、『組織』とやらがどの様に用意したかも分からないほど広大な地下の空間にすし詰め状態だがね。可能な限り、外へ出た個体は我々で討伐したが、それでも数十だ」

 

 500とはまた多いな。とは言え、固まってるなら俺の独壇場だ。たかだか15レベル程度のモンスターなら、素手でも引き裂ける。俺のこの言葉に、バジウッド以下三騎士は苦笑を浮かべた。対して、ジルクニフは真剣な面持ちで軽く身を乗りだし、言葉を続ける。

 

「それだ。ウルベルト殿、貴殿に頼みたいのはまさにそれだ」

「あん?千かそこらの雑魚モンスターを蹴散らしてもらいたいのか?」

 

 ジルクニフは一つ頷き指を二本立てる。

 

「一つは正に、その地下空間に巣食うあれらを蹴散らしてもらいたい。二つ、今後、このような事があった場合、可及的速やかに処理していただきたい。俺から頼みたいのはこの二つだ」

「疑問その一。確かにお前たちにすれば、あのモンスターは手強い。だが、総力を結集した上で、そこのフールーダや四騎士が陣頭に立てば、時間はかかるが駆逐しきれるはずだ。その数なら、出入り口から出てくる奴も数が限られ、ルーチンワークで何とでもなるだろ?疑問その二。それを出来ないっつぅ理由はなんだ?その三。そもそも、その程度なら明美一人でも殲滅してお釣りが来る。なんでやらせない?」

「疑問は最もだ。疑問の内、一と二に関しては、近々戦争があるため、そちらへ兵力を割かなければならないからだ。三つめの疑問は簡単。アケミがどうしても君にやらせたいと、そう言うからだね」

「……明美が何を考えてるのかさっぱり分からねぇが……そうだな、報酬は?」

「それはアケミと予め話し合って決めている。帝国に君が縛られている間、我々がナザリック地下大墳墓を捜索する。陣頭に立つのはアケミ、それからフォーサイトの面々。無論、得られた情報は直ぐ様君に提供しようじゃないか」

 

 ふむ。即座に疑問に答えが返ってきたって事は、端から俺の疑問を想定してたって事か。まぁ、悪いことじゃないし、むしろ顔を会わせたこともないような奴の考えそうな事を想定できた事に驚きを禁じ得ない。報酬に関しても願ったりかなったりだな。ただ、少し文句もある。俺が捜索隊に加わってないことだ。とは言え、それは文句を言ってもしゃあないこった。ついでに、少しばかり気になってることも帝国にいる内に色々と勉強しておこうか。俺は、自分にかけてあった魔法を解きつつ笑う。ジルクニフと四騎士が息を飲むなか、俺は外套を翻し高らかに宣言する。

 

「よかろう!これにて契約は成立だ!皇帝ジルクニフはこれより俺の力を望むときに振るうがいい!今ならサービスで他の事に俺の力を使っても構わん!」

「そ、そうか……しかし、本当に悪魔なのだな、貴殿は」

「なんだ、信じてなかったのか?」

「そりゃぁそうだ。何せ、君は随分とお人好しそうだったからな」

 

 朗らかに笑いつつそう言われた俺は、そっと目線をそらしつつ思った。

 

 ほっといてくれ。

 

 なお、この後案内された郊外の『組織』の建物の下には本当に五百匹近いオーキッシュクラウンがマジでいた。大変気持ちが悪かったので、《 大災厄/グランドカタストロフ 》をぶちこんで、一匹残らず消滅させてやった。余波で地形が多少変わったが、なに些末なことだろう。ついてきたバジウッドの顔がひきつってたように見えたが、たぶん気のせい気のせい。

 ちなみに後で明美にこっぴどく怒られた。解せぬ……。

 

 

 

 

 

おまけ

 

「冒険に出るなら、俺、どんな格好で行った方がいいですかねぇ?」

 

 音符マークでも飛ばしそうなテンションで、モモンガさんはそう言って、自分の部屋の荷物をひっくり返している。近衛としてこの場にいる私だけど、これになんと答えるべきか、頭を悩ませる。そこに救いの手を差し伸べてくれたのが、リュウマとやまいこ君、それにペロ君だった。

 

「くそったれ嫉妬マスクの魔法使い」

「扇情的な赤ビキニにマント」

「タンガ」

 

 チョイスが酷い!思わず突っ込みそうになりつつ、自制心自制心と自分に言い聞かせる。今の私は皆さんよりも身分が下なんだと言い聞かせる。

 

「いや、真面目に考えてくださいよ三人とも」

 

 まったくだ。

 

「ランク落とした適当な装備でいいんじゃない?」

「真っ白い軍服」

「赤ビキニ」

 

 ペロ君はなんで水着オンリーなんだ?そういう縛りでもあるのかい?そう思っていると、やまいこ君がこう口にした。

 

「ところでモモンガさん?」

「なんです?」

「お供は誰を連れていくの?」

 

 そう言えばそうだ。ちなみに、ちょっと前に話し合った結果、我々にはそれぞれ仕事が与えられた。例えば私ことたっち·みーは、ギルド長であるモモンガさんの護衛として冒険者に、ペロ君はシャルティア、セバスと共に何かに使えそうな人材を探すと言う仕事を。なにかと言うのがなかなか不穏。やまいこくん、リュウマ君は、活動範囲を広げるため各地の探索及び『組織』の戦力になりそうな奴の捜索。あ、茶釜さんはアルベドの強い希望により、ナザリックに残留と言う形になりました。リュウマ君から聞いていた通り、なかなか恋の鞘当てが激しいみたいですね。

 

「えーっと……二人だけじゃ、駄目ですかね?」

「駄目です」

 

 やまいこ君にバッサリ切り捨てられ落ち込むモモンガさん。

 

「誰か連れていかないと、誰も納得しない。ちなみに、僕とリュウマはアウラとユリに付いてきてもらう。ペロ君はシャルティアとセバス。残留組はアルベドとモモンガさんが選ばなかった人」

「うーーーーーん、そう言われても、誰をつれていけば……」

 

 確かに悩み所だと思われる。そもそも、人外が多いから、つれていける人材はかなり限られると思うんだけど。

 

「そこでモモンガさんに提案」

「聞きましょう」

 

 姿勢をただすモモンガさんの前で、やまいこ君は一つ咳払いをし、こう言うのだった。

 

「プレアデス及び守護者の、面接です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく免許まで後一歩!免許センターで一回落ちましたが……くそったれ……!

次回は加速してお届けしたいなぁ、と思ってます。

ではまた次回でーす ノシ

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