嘘!!
デミウルゴスをお供に、私たちは現在ちょっと高いところから全体の作業を見守っている。
この作業、言葉で言えばすごく地味なんだけど、いざやるとなればそれはそれは労力のかかることになるだろう。
ナザリックの外壁って、思えばとんでもなく長い、広大、高いなんだよね。だから、こうやって土を被せて周囲からすぐにそれとはわからないようにカモフラージュする、と。
〈 大地の波 〉、それを特殊技能で範囲を拡大しクラススキルまで使用し、大地そのものを壁に叩きつけてカモフラージュしようとは、いやはや、私が創造、いや、違うなぁ、私が産んだ子、マーレは凄いなぁ、有能で可愛い!私の自慢の子供だよぉ。
「流石マーレですね。壁の隠蔽工作は、あの子に任せていれば問題なさそうですね」
「そりゃぁもう、自慢の子供ですから!」
マーレが褒められて私も鼻高々さ。しかし、大地を動かした後の剥き出しの地面はどうするのかな?抉れてると言うか、地形そのものが変わっちゃってるんだけど。
「モモンさんモモンさん。あのめくれ上がってむき出しになった地面はどうするの?」
「あれに関しては、アンデッド系のモンスターやゴーレムなんかを駆使して、整地、及びドルイド系魔法によって草を生やしたり丘を作ったりして偽装するんですよ」
なるほど、そう言えばそんな話をしてたようなしてなかったような?私は考えるのが仕事じゃないからね、基本は。大規模戦闘の指揮とかはとれることはとれる。だけど、やっぱり上には上がいるんだもの。例えばぷにっと萌えさんやタブラさん、たっちさんに、そしてモモンガさん。超級の指揮官に囲まれてる私はよくて一流ってところだからね。
とりあえず、一応私だって上に立つ存在なんだから、活躍している子にはなにか褒美をあげたいと思っています。
その旨をモモンさんに伝えると、確かにと頷いてくれた。さすモモ、よく分かってるぅ。
「何をあげるのがベストかなぁ。モモンさんはどう思う?」
「うーん、マジックアイテムなんかはどうですかね?」
「あの子が喜ぶようなマジックアイテムってなんだろう?ウ~ン、ねぇデミウルゴスはなんかアイデア無い?」
「お二人がお声をお掛けするだけで、十分な褒美になると思いますが。特に、彼の創造主であるぶくぶく茶釜様にお声をかけていただければ、それだけで働きに見合ったものになると、私はそう愚考します」
そういうもんかなぁ?私が首を捻っていると、モモンさんが何かを思い付いたらしく耳打ちをしてくる。いや、そこが耳なのかは知らないけど。
「〈リング·オブ·アインズ·ウール·ゴウン〉をあげると言うのはどうでしょう?」
「?理由は?」
「労うと言う意味ももちろんありますけど、ほらナザリックは広いじゃないですか。緊急時の移動を行うのにこれ以上便利なアイテムはありませんって」
さすモモ!二手三手先を考えるなぁ。私も色々考えなきゃいけないなぁ。色ボケしてるだけじゃ駄目だろうし。
「モ、モモンガ様にぶくぶく茶釜様、よ、ようこそおいでくださいました!だ、だい、第六階層守護者、マーレ·ベロ·フィオーレでしゅ!」
「んっんん!そんなに畏まらなくて良いぞマーレ。自然体で接してくれ」
「そ、そんなことは出来ません!お姉ちゃんもそうですけど、そんな失礼なことをしてはいけないのです!」
「え?マーレ、お母さんでもある私にもそんな畏まった姿勢で接してくるの?」
「ひゃい!?いいいいいいえええええ、そのあの、そ、そのような、えええ」
「よろしいですか?モモンガ様、ぶくぶく茶釜様?」
「うん?なんだデミウルゴス?」
なんだろうデミウルゴス。何か良からぬ事をマーレに吹き込むの?
「マーレ、よく聞いてください」
「な、なんでしょうか?」
「お二人は、公務や何らかの作戦を行っていないときは、自分達を父親母親だと思いなさい、そう言ってくれているのだよ。君は、父親と母親に敬語を使うのかね?」
「い、いいえ、たぶん、つかいません?」お
「そう、だからこそ、公私を使い分け、公の場では今まで通り、そして私的な場では崩して接するようにすればいいのだよ。分かるかね?」
「わ、分かります、分かりますけど、それは不敬にあたるのでは?」
マーレがそう言うと、デミウルゴスが確認するかのようにこちらを見た。
「大丈夫だよ、マーレ。むしろ、マーレにずーっと敬語使われる方が、私はしんどいな」
「私もそれは同じだ。うむ、では公の場ではいつものように、私的な時には気軽に接するように」
とは言え強制ではないからな?と言うのを忘れないモモンさん。
「さて、では当初の予定通り、茶釜さん」
「あ、そうだね。ゴホン。では、マーレ、あなたがやっていることは、このナザリックの防衛上非常に重要な事をやってくれています。そこで、私とモモンさんの間で話し合った結果、これをマーレに進呈します」
百年くらい前の某猫型ロボット( あれは絶対タヌキだと思うんだけど)の如く、私が体内から取り出した指輪を見て、マーレとデミウルゴスが目を丸くする。
そこからが少々大変だったが、割愛する。指輪が間違ってる間違ってない、至高のお方の持ち物がどうのこうのと言う言い合いの末、なんとかかぁいいマーレに指輪を受け取らせることが出来て万々歳である。
「いやぁ、大変だったねモモンさん」
「本当ですねぇ、茶釜さん」
そんな事を言い合いながら、私達はナザリックから少し離れた草原を歩いていた。途中までついてきていたデミウルゴスは、誰かから連絡が入ったらしく、血相を変えてナザリックへと文字通り飛んで帰ってしまった。
お陰で、月明かりの下、モモンさんと手を繋いで……いや、手と触手の一本を繋いで、和やかでいい雰囲気の中
お散歩できていると言うのは大変に気分が良いものだ。そもそも、この世界に来てからと言うもの、実務的なお話は出来てはいるものの、こういう和やかな雰囲気の中、なんでもない、ゲームの中で話していたときのような時間をとることが出来ないでいた。それだけじゃなくて、モモンさんはちょっとピリピリしていたんだと思う。
ギルドマスターであり、今はこのナザリックの全NPCの頂点、指導者と言う立場になって、精神的にも余裕がなくなってるのかと思う。そんなおり、この時間を用意したリュウマ、グッジョブ。褒めてつかわす百万年無税。
「この星空をブループラネットさんに見せたかったですね」
空を見上げながら、モモンさんが呟くように言った。それに釣られるように、私も空を見上げ息を飲む。
天然の本当の星空は、どこまでも広く、どこまでも突き抜けるようで、言葉に言い表せられ無いくらい綺麗で、そう、言葉にするのが陳腐すぎるほど美しかった。
「そうだね、ブループラネットさんなら、この星空を、どんな風に表現したかな?」
「きっと、一言では済まないほどの言葉を並べ立てるんでしょうね」
「あんなゴツい人なのに、ビックリするくらいのロマンチストだったからねぇ、ブループラネットさん」
ブループラネットさんに、この光景を見せたかった。モモンさんは何度も何度もそう言った。私もそう思うよモモンさん。
それから一杯話をした。たっちさん、タブラさん、ウルベルトさん、るし★ふぁー、糞弟エトセトラ、エトセトラ。そこからNPC達の話になり、二人で草原に座り込んで、周囲を警戒もせず話し込んでいた。正直、中学生か!と突っ込まれそうな微妙な距離感だったけど、割りと満足してる自分がいる。ふむ、まぁ、出来ることなら、男と女の関係ってのも考えたよ?けど、今日はなんかそういう感じでもないから、私は今のこの関係を楽しもう、そう思った。
「……ン……!モモ……さ……!」
「うん?」
「どったの?モモンさん、なんかあった?」
「いや、なんか俺を呼ぶような声が聞こえたような?」
「モモン……さ…!モモ…ガさ…!」
「あ、本当だ。誰の声だろ?」
「えーと?」
下ろしていた腰を上げ、モモンさんが周囲を見回した瞬間、
「モモンガ様、見付けましたわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
白い影がモモンさんを掠め取った。
「は?」
「モモンガ様ぁぁぁぁん♥実に18時間振りでございますわぁぁぁぁぁん♥」
「ちょっ!?アルベドか!?や、やめよ、服を脱がすでない!?」
「ハァハァ、大丈夫ですわ大丈夫ですわ、ちょっと全身ペロペロしてモモンガ様濃縮エキスを採取するだけですわ!」
「い、いやあああぁぁぁ!ちょ、ちょっとやめなさいアルベド!あ、ああああああ!」
う、うおお、なんだこの展開は、どうなっているんだ、私はどう反応を示せばいいんだ。そうか、星を数えればいいのか、分かったぞ。
「ハスハス、モモンガ様のいい香り!」
「ちょ、ちょっと待てアルベド!や、やめ、いや、そこはやめて……!」
……現実逃避しててもしょうがないな。我に帰って見てみれば、絶世の美女は、逃げるモモンさんのお尻の辺りに顔を突っ込んでモゾモゾしてた。
しょうがないから、私はアルベドの背後に回り、全身に触手を巻き付けてそこから引っ張り……すごい力だなこいつ!地面に爪を食い込ませて耐えるんじゃありません!くっ!モモンさんから引き離せない!
「モモンさん、強化魔法を!」
「あ、ああ……うわぁ!そんな所を舐める、アヒィ!くっ!〈上位筋力強化〉!」
私の体が緑の光に包まれる。触手がムキっと一回り大きくなって、アルベドをモモンさんから…更に力が上がっただと!どうなってんのこの子!巧みにモモンさんの動きを押さえ込みながら拳と両足首までを地面に突き刺し耐えるアルベド。くそ!何てしぶとい!だがしかし!
「これなら、どうだ!?」
「ぐぎゃ!」
私の武器であり防具である盾を取りだし、特殊技術を使ってアルベドを数メートル吹き飛ばす私。数メートル先まで吹き飛んだアルベドは、しかし空中で身を翻し、肉食獣のように華麗に四肢を使って着地、そのまますっくと立ち上がってニコリと微笑んだのだった。
「何をなさいますかぶくぶく茶釜様。危ないではないですか?」
「お前が言うな!」
本当に、なんでこうなった?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リュウマ様からモモンガ様を全力で愛するようにと言う、命令と言うよりも言外に『モモンガさんとの恋愛を許可する。俺が後見人になってやろう』と言う許可をいただき、私は全力で第一階層を駆け抜けていた。
「あら?アルベド、どうしたでありんす?」
「今、貴様にかかずらわってる暇はない!」
何かヤツメウナギが声をかけてきた気がするが、私には関係ない。全力で無視して駆け抜ける。ヤツメウナギがなんか叫んでたけどそれも無視!
とにかく私は中央霊廟抜け、外への入り口の付近に立つ魔将三人を見つけるとかかとでブレーキをかけそいつらの前で急停止、即座にそいつらの所属を確認する。
「デミウルゴスの所の下僕ね!?死にたくなければモモンガ様がどこに行ったのか答えなさい!」
「これはこれはアルベド様、いきなりなにごt「死にたいの!?」いえ、モモンガ様は少し前、ぶくぶく茶釜様とデミウルゴス様を連れて、マーレ様の元へと……」
「外ね!?待っていてくださいませ、モモンガ様ーーーーーーー!!」
言うのが遅いのよ、嫉妬の魔将め!百万年増税!
そのまま駆け抜け作業を一旦休んでいるマーレ発見!
「マーレ!モモンガ様以下略」
「え?ええ?……も、モモンガ様とぶくぶく茶釜様は、ぼ、僕とお話してくれた後、お、お散歩に出掛け、ましたよ?」
「そう、どっちへお二人は行ったのかしら?」
「ええと、あっち、ですよ?」
「!?」
その時、私は見てしまった。マーレが左腕を上げて指差した方向ではなく、そのホッソリとした薬指にはまっている指輪、〈 リング·オブ·アインズ·ウール·ゴウン〉に!
「ま、ママママ、マーレ!?そ、その、指輪は?」
「え?あ、はい。頑張っているご褒美と、これから色々な事態があるだろうから、これから守護者に渡す予定だと、その、も、モモンガ様がおっしゃられて、エヘヘ」
「あ、ああ、そういうことなのね。まぁ、確かにマーレは頑張っているものね。これからも、一緒にモモンガ様のお力になりましょうね?」
「はい!」
ふふ、マーレはやっぱり可愛いわね。私も、モモンガ様との間にこんな子が欲しいわね。
「ではマーレ、私はモモンガ様を追いかけるわ。後はよろしくね」
マーレの返事を聞くことなく、私はダッシュでモモンガ様を追いかける。
月のきれいな夜。きっと、天も私を祝福しているのね。
ふふ、見てなさいぶくぶく茶釜様、あなたには色々言いたいこともあるけど、モモンガ様を愛しているこの心だけは負けないわよ。
「お待ちなさいアルベド」
その言葉と同時に、目の前に炎の壁がそそり立った。舌打ちと共に踵でブレーキをかけ、半身を開いてこの魔法を行使した奴を睨み付ける。
「何かしらデミウルゴス?」
「この先では、モモンガ様とぶくぶく茶釜様がデートをなさっておられる。この先に進むことは、不敬に値しますよ?」
「そう、この先でデートしているのね。ならば、それを阻止するのが妻たる私の勤め!いかに同じ守護者と言えど、止めることはできないと思いなさい!」
「!?何を言っているのですアルベド!それは反逆ですよ!?」
珍しいことに両目を見開いてデミウルゴスが私を糾弾する。しかし、私はそれを鼻で笑い飛ばす。
「反逆ですって?私は、至高の四十二人のお一人であるリュウマ様から『俺がモモンガさんとの恋愛後見人になってやる。安心して恋愛してこい』と、そう言われているのよ!」
「な!?し、しかし……!」
「ここで私を阻止するのは、それこそ反逆、そうではないかしら?デミウルゴス?」
「う……だが!?」
「隙有り!」
「なっ!?うおっ!?」
私の言葉に隙を見せた一瞬を狙って、懐に潜り込んだ私は高く振り上げた両足でデミウルゴスの頭をはさみ、後方回転、地面に頭を叩きつけ、そのまま頭だけ地面にめり込ませた。
「恋する乙女は止められないわよ、デミウルゴス?」
ピクリともしなくなったデミウルゴスを残し、私は再び走る。
「モモンガ様ーーーーーーー!!モモンガ様ーーーーーーー!!」
走りながら愛しいお方の名前を叫ぶ。
「モモンガ様ーーーーーーー!!愛しておりますーーーーーー!!」
告白の練習も欠かしてはいけないわよね?
そして丘の向こう、そこに月光を反射して立つ偉大なお方の姿が。ああ、ああ!
「モモンガ様、見付けましたわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「つまり、アルベド、お前は私達が心配だったから、ここまで走ってやって来たと?」
目の前で正座をさせたアルベド、あんまりシュンとしてないな。まるで、怒られることもご褒美ですと言い出しそうな気配だ。いや、これ言うんじゃねぇの?
「はぁ…アルベドよ、よく分かった。後でちゃんと話を聞くから、とりあえず立ち上がるがよい」
「はい!モモンガ様!」
機嫌よく立ち上がり、アルベドが私の右側に立ち、左側に茶釜さんが立つ。
「それで、モモンガ様は、もうお散歩はされないのですか?」
「ん?そうだな……」
アルベドの問いに、少し考える。茶釜さんとの会話で、大分気が楽になっている。とは言え、こんな綺麗な夜をこのまま見納めにするのも少々もったいない気がするのも事実。
「もう少し、今度は視点を変えて、散歩でもするとしようか」
それにリュウマからの注文もあるし。
そう思いながら、俺はアルベドと茶釜さんを両手で抱き締める。
「きゃっ……!」
「ああん♥」
なんか小さく二人が声を上げるが、無視。なんかアルベドの柔らかい所が色々なところに密着して形を変えるが、それも理性で無視し〈飛行〉を唱えて空へと舞い上がる。
すぐに視界の端から木々が消え、目に映る景色はそれこそ虚空の中に淡く瞬く星と月だけになった。
「本当に綺麗だ。宝石箱をひっくり返したようにキラキラと…いや、そんな表現はチープだな。この美しさは、どのような言葉を尽くしてみて言い表せないだろう」
「本当でございますね、モモンガ様」
「うん、この星空全部を私たちの物にしたいね」
茶釜さんが冗談めかして言う。俺が笑う。それにつられてアルベドも笑う。
「そうですね。そうするなら、世界征服なんてのも悪くないですね」
ウルベルトさんや、るし★ふぁーさんが言ってた台詞を思いだし、思わずそう口にした。だけど、そんなのは馬鹿げてる。第一メリットが少ないし。
そこまで考えて、俺は実にその考えが無粋だと思った。
こんなに綺麗な夜空なんだ。三人でのんびり楽しむのも、一興じゃないか。
「そう言えば、デミウルゴスどこに行ったんだろ?」
「ああ、実は伝言にも出ないんですよね。アルベドは何か知らないか?」
「……知りません★」
ラブいイベントとか、やり方が分からない。
今の私にゃこれが精一杯じゃよ。
なんか思い付いたら加筆するかも。
いや、しないかなぁ?
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気に入らないことやこうした方がいいみたいな意見を感想に書き込んでくれると、私が血涙流して喜びます。
次回はようやくカルネ村です。……たぶん。