つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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第1章 始動編
ride1 始まりは1つの出会いと共に


春……それは出会いと別れの季節。

 

友達や親友のもとを離れ、それぞれが進学、就職、新たな道を歩き始めることになる。

 

そして、ここにも新たな道を歩む1人の少女がいた。彼女の名は……星野シオリ。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「シオリ〜!急がないと遅刻するよ〜!」

 

「は〜い!」

 

シオリは今日から高校生。東条高校に通うことになる。

東条高校は、県内でも有名な進学校であり、創立100周年を越える学校だ。校舎はボロ……年季が入っているが、勉学にはかなり力を入れている。

……ただ、勉学に力を入れる一方で、学校生活の規則は緩いとか。

 

「さてと。今日持って行くのはこんなものかな?今日は入学式だけだし、他にはホームルームがあるくらいだし……」

 

そう、今日は入学式。新たな場所で、新たな始まりを迎える為の日。

だからこそ、シオリの父もシオリにみっともない始まり方だけはしてほしくないのだろう。だが、気が先走りし過ぎている気もする。

 

「まぁ早めに準備しておくのも、悪くはないか……」

 

シオリは新しい制服を着ると、学校指定のカバンを片手に、2階に位置する自分の部屋を出る。

階段を降り、シオリがリビングに向かうと、父が慌ただしく準備しているところだった。

 

「シオリ〜!ビデオカメラって何処にしまってたっけ!?」

 

「……テレビの下。前にお父さんがここなら忘れないって言ってたでしょ?」

 

「あ〜!そうだった!で、ビデオカメラはと……あった!よかった〜!見つかってよかった〜!」

 

1人娘の入学式だから、じっとしていられないのはわかる。……だが、シオリはその様子を見て、もう少し落ち着いて欲しいと思った。

 

「あ!シオリ!!新しく買ったSDカードが見当たらないんだけど、知らない!?」

 

「……私、お母さんに挨拶してくるー(棒)」

 

「えっ、あ、ちょっ……!シオリ〜!!」

 

虚しい叫びをあげる父を無視して、シオリはリビングを出る。その行き先は、ひっそりと佇むある部屋だった。

 

「お母さん、おはよう」

 

シオリは静かに扉を開けて、中に入る。そこは、母の部屋だった。だが、返ってくるはずの挨拶はない。

そこにいるはずの母は、もうこの部屋にはいないから。あるのは、優しい笑顔を浮かべた女性の写真。

 

シオリの母は、重い病気を患い、既にこの世を去っている。そのため、シオリは父に男手1つで育てられて来たのだ。

 

「今日から私、高校生になるんだ。東条高校の生徒になるんだよ?ほら、学力がいいって結構有名な学校。そこに今日から通うんだ」

 

答えてくれる訳ないが、シオリは写真の中の母に丁寧に教える。

 

「……でも、正直言って不安だよ。中学の時の知り合いも誰1人いないし、ここに引っ越して来たから、周りに友達もいない。本当の意味で、0からのスタートだよ……」

 

今シオリが住んでいる2階建ての1軒家は、この場所に引っ越してから住んでいる家で、前までは別の場所で暮らしていた。

そのため、周りに知り合いはおらず、高校にも知り合いはいない。

 

そんな中で、友達を作っていけるか不安だった。しかも、シオリは人と接するのが得意ではない。そんなことで、これから楽しく過ごして行けるのか……先が思いやられていた。

 

「けど、私だって、何とかしないといけないことくらいわかってるから…今日から頑張ってみるよ」

 

「シオリ〜!いつまで母さんに挨拶してるの!?時間は大丈夫!?」

 

父の声が聞こえ、シオリはリビングに戻る。時計を見ると、8時前になっていた。入学式が始まるのは、8時30分から。学校までは歩いて10分程、そろそろ家を出た方がよさそうだ。

 

「……じゃあそろそろ行って来る!」

 

「うん!気をつけてね!車とか、急に飛び出して来るからね!」

 

「は〜い!じゃあ行ってきます!!」

 

玄関脇に置かれた鏡でショートカットの髪型を整えながらシオリは思った……。私は入学したてな小学生か!?

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

シオリが学校に着くと、そこにはシオリと同じ新1年生が校門の前に大勢いた。

友達と一緒にいたり、家族に写真を撮ってもらったり、新しい友達を作っていたりと、それぞれが入学式までの時間を有意義に使っていた。

 

「……私も、あんな風にいた方がいいとは思うけどな」

 

それが簡単に出来たら誰も苦労しない。声をかけた相手が、自分のことをどう思うか……。不快に思われたり、話しかけて欲しくないと思われたり……。

 

そんなことを頭で考えていると、自分から声をかけることをためらってしまう。なら、考えなければいいだろうと思うかもしれないが、他人を前にするとつい考えてしまうもの。

 

そうして、記念すべき入学式は、1人のまま幕を下ろした。

 

まだ初日だから、焦らなくても大丈夫だろう。この時のシオリは、少し前向きに考えていた。時間がどうにかしてくれるだろう……と。

 

「……はぁ」

 

そんなことはなかった。入学式から1週間が過ぎて、クラスでは、ある程度のグループが出来上がりつつある時期。なのにシオリは……。

 

「ダメだ。全然友達出来ないよ。やっぱり話しかけないといけないんだろうけど、私にはその勇気がな……」

 

声をかけられず、話しかれられることもない。シオリは、自分の性格を呪いながら学校へと足を進める。

 

「今日こそは、友達を作りたいんだけどな……」

 

そうこう言っている内に学校に到着し、シオリは昇降口で靴を履き替え、自分のクラスの教室へと向かう。

その途中でも、仲のいい友達同士が話しあっているのを見て、早く自分もそんな友達を作らないといけないと改めて思った。

 

そんな想いを胸に教室へ入ろうと、扉を開けると……。

 

「……!?」

 

「うわっ!」

 

扉を開けた途端、教室の外に出ようとこちらに走って来た男子生徒と盛大にぶつかった。

 

「痛た……あっ!大丈夫?ごめん、急に出てきて……」

 

「あ、はい……」

 

ぶつかった男子生徒は、すぐにシオリに謝ってきた。優しい性格の人みたいだ。そう思いながら、その場を離れようとしたが、足下に何十枚かのカードが落ちていることに気づく。

 

「あっ!しまったカードが!!」

 

男子生徒の持ち物だったようで、シオリはそのカードを拾っていく。その男子生徒はシオリにお礼を言いながら、自分もカードを拾っていった。

ふと、1枚のカードを見る。裏面にvanguardと書かれたこのカードに、シオリは見覚えがあった。

 

「これって、ヴァンガード……!?」

 

「ん?知ってるの!?ヴァンガード!」

 

「え、あ、いや……」

 

「なんだ、知らなかったのか……」

 

知らない訳ない。『カードファイト!!ヴァンガード』と言えば世界中で大ヒットしているカードゲームだ。その人気ぶりから、社会的ブームを巻き起こしている。やっていないとしても、名前くらいは聞いたことがある程の知名度なのだ。

 

「でも、聞いたことない?ヴァンガード。テレビでもよくCMやってたりさ」

 

「……ごめん、知らない」

 

「知らないか〜。……でも、珍しいよな。ヴァンガードを知らないって言う人」

 

「ごめん。私、そう言うのに疎くて……」

 

「そっか……。だったらさ、俺が教えるよ!ヴァンガード!!」

 

「……えっ?」

 

その男子生徒から出た言葉に、シオリは反応してしまった。

 

「ヴァンガードを知らないなんて、もったいないよ!だから、俺が教えるよ!昼休みとか……ダメなら放課後!どうかな?」

 

「私は……」

 

『俺が教えてやる!もったいないぜ!ヴァンガードやらねーの!!』

 

「……!」

 

シオリは、男子生徒の言葉に、ある少年の事を思い出していた。

 

「どうしたの?」

 

「……今日は、ちょっと用事があるから。ごめんね」

 

「そっか……。なら仕方ないか、じゃあまた時間がある時ね!」

 

男子生徒は教室の外へと走り去って行った。

 

(……ヴァンガードか)

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

その日、シオリは学校から帰ると、自分の部屋の勉強机の上に置かれたカードの束……デッキの中から1枚のカードを手に取り、そのカードを見つめる。

 

「今日、ヴァンガードをしないか誘われたよ……。アルフレッド……」

 

シオリが手にしているカード。それはヴァンガードのカード、ロイヤルパラディンというクランに属する、『騎士王アルフレッド』と言うカードだった。

 

「また……ヴァンガード、始めた方がいいのかな?」

 

そう。シオリはヴァンガードを知っている。そして、以前までは生粋のヴァンガードファイターだったのだ。……以前までは。

 

「けど、またヴァンガードを始めて、またあんな事になるのは……もう嫌なんだ」

 

ヴァンガードにより過去にもたらされた結果。それがシオリをヴァンガードから遠ざけていた。だからこそ、今日の男子生徒の誘いにも応えられなかったのだ。

 

「私はもう、ヴァンガードはしないって決めたんだ……」

 

シオリは目を閉じ、過去の出来事を思い出す。忌まわしい記憶……思い出すだけで胸が苦しくなる。またあんな事が、繰り返されるのは……!

 

そんなシオリの過去が明かされるのは、まだ先の話……。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「さぁ!今日はヴァンガード教えられるよね?」

 

「……ごめん」

 

「なんだよ〜!一体何の用事があるって言うの?」

 

「家の都合で……」

 

これは嘘だ。シオリが教室に入るとすぐ、昨日に続いて今日もヴァンガードをしようと誘って来た為、何とかして誤魔化そうと嘘をでっち上げた。

 

「明日は?」

 

「明日もちょっと……」

 

「じゃあ今日の昼休みは?」

 

「それは……」

 

「……あのさ。俺のこと、その……嫌い?」

 

「い、いや!そんなことないよ!本当!」

 

「だってさ、何となく俺のこと避けてる気がするんだよな。だから……」

 

嫌いだとは思わない。積極的に人と接しようとするのはいいことだ。

ただ、シオリにとっては、そこにヴァンガードが関わっていることが嫌なのだ。

 

「いや、本当に嫌いじゃないです。ごめんなさい、そんな態度とってしまって……」

 

「……まぁ、でも俺も悪かったな。全然気持ち考えないで、一方的に押し付けていただけだったな」

 

「あ、いや……別にあなたは何も」

 

「ごめん、もうヴァンガードのこと、無理に誘わないよ。でも、もし始めたくなったらいつでも声かけてよ」

 

それだけ言うと男子生徒は、男子のグループの輪に戻って行った。

 

「あ、ちょっと……」

 

せっかく誘ってくれたのに、このままだと何だか申し訳ないので、シオリは一瞬後悔する。

 

が、すぐにシオリはその男子生徒を呼び止め……。

 

「ねぇ!」

 

「何?」

 

男子生徒はこちらを振り向いて答える。

 

「あの、やっぱりヴァンガード……」

 

「……おっ!」

 

「い、1回だけなら教えてもらおうかな……?」

 

「やった!じゃあ、いつなら時間空いてる!?」

 

「今日の放課後とか……」

 

「あれ?家の都合でどうとか……」

 

「1回教えてくれるだけなら時間あると思うから……」

 

「よし!決まり!!じゃあ放課後ね!……あっ、そう言えば、まだお互いの名前教えてなかったよね?俺はワタル。小沢ワタル!」

 

「私は……シオリ。星野シオリ」

 

「じゃあ星野さん!放課後よろしく!!」

 

小沢ワタル、彼との出会いが新たなる始まり。星野シオリがヴァンガードの世界に戻るきっかけともなる出会い。

 

……とはならない。シオリにとっての出会いは、この日の放課後のこととなるのだが、そのことをシオリはまだ知らない……。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……あの、小沢君?」

 

「ん?」

 

「ここは……?」

 

「見たまんまだよ、カードショップ。『サンシャイン』って言うんだ」

 

私達は今、1軒のカードショップの前にいる。自動ドアの上にある、赤色で大きくサンシャインと書かれた看板がかかっていた。

 

「せっかくヴァンガード教えるんだし、放課後に時間が空いてるんだから、ショップの方が何かと都合がいいんだよ」

 

『ヴァンガード教えるんだし、ショップだったらカードとかもあるからな。これが放課後だから出来たんだ。昼休みに教えろとか言われたら……』

 

私はまた、ある少年のことを思い出す。

 

(思い出したくないのに……どうしてだろう?状況が似ているからかな?あの時と……)

 

「さぁ、星野さん!外にいても仕方ない!早速中に入ろう!」

 

私は、店の中へ入る。自動ドアが開き、私達を迎え入れてくれた。

 

「さぁ、ここがカードショップ、サンシャインだ!!」

 

……と言われても、返答に困る。ごくありふれたショップ、とでも言うのだろうか。内装もシンプルで、ファイトテーブルはまずまずの多さ。カードの品揃えもいい感じだ。

客もそこそこいるため、まぁ並のショップだろうと判断する。

 

「いらっしゃ〜い!ん、何だワタルか……」

 

「何だじゃないよおじさん。そんなガッカリしないでよ」

 

「……おじさん?」

 

「この人はサンシャインの店長。俺の父さんの知り合いで、よく小さい時から世話になってるんだ」

 

「へぇ……」

 

店の奥から出てきて、私達に声をかけたのは、ここの店長で、ワタルの知り合いだという。

 

「…………ところで、ワタル」

 

「何?おじさん?」

 

すると、店長はワタルを店の隅に連れていき、

 

「あの可愛い子は何だ!?彼女か!?」

 

「いや、違うって……」

 

「おぉそうか!全く羨ましいなぁ〜!青春を堪能出来て!!いいな〜!!」

 

「だから違う!!クラスメイトだよ!!ヴァンガードやったことないから、これから教えるんだよ!」

 

すると、店長の目付きが変わった。

 

「……ヴァンガードしたことないと?」

 

「そうだよ。だから俺が……」

 

すると、店長はワタルを放っておいて、シオリの所に戻った。

 

「ヴァンガードをやったことがないんですか?」

 

「……そうです」

 

「あぁ、自己紹介してなかったね。私は、長岡セイヤ。ここ、サンシャインの店長をしています。」

 

「……はぁ」

 

名前は初耳だけど、店長であることは小沢君から聞いた。

 

「ヴァンガードをやったことがないなら、ちょうどいい機会です。せっかくカードショップまで来たんですし……」

 

すると、店長はレア度の高いカードが飾られたケースを指差し、

 

「この中から1枚選んで下さい。そのカードでデッキを作りますので、特別に、そのデッキをあなたにプレゼントします!」

 

「えっ……え!?あれ、小沢君!?私、てっきり小沢君がデッキ貸してくれるのかと思ったんだけど……」

 

「あー俺さ……つい最近始めたばっかりなんだ。だから、そんな予備のカードはないんだよね」

 

「で、でもそんなの悪いよ……お金も払ってないのに」

 

第一、ヴァンガードはする気がない。ここでヴァンガードをするのは、1回だけなら付き合ってあげようと思ったからだ。

だから、デッキを貰ったところでこの先続ける気はない。

 

「いいんです。ヴァンガードを知って、楽しんで貰えるのなら、デッキの1つや2つくらい喜んでプレゼントしますよ」

 

仕方ない。一応デッキは作るとして、貰うとなったら、適当に理由をつけて返すことにしよう。

 

「わかりました。じゃあ……このケースの中から1枚選べばいいんですよね?」

 

「えぇ。何でもいいですよ」

 

私はケースの中のカードを順番に見ていく。

『ドラゴニック・オーバーロード』……『CEOアマテラス』……このあたりのカードは私も知ってる。

『灼熱の獅子ブロンドエイゼル』……『ドラゴニック・カイザー・ヴァーミリオン』……こんなカードは知らないな……。

 

「……ん?」

 

シオリの目にとまったのは、現在発売されているヴァンガードの最新弾のパック、『騎士王凱旋』のRRRと呼ばれるレアリティのカードが飾られた一角だった。

 

「スパイクブラザーズ、ノヴァグラップラー……こんなカードが出てるのか。ジェネシス?なるかみ?知らないクランだ……」

 

順番に見ていると、あるカードの前でシオリの表情が変わった。そのカードをシオリは食い入るように見た。

 

このカードって……。でも、私の知るのとは違う姿をしている……。クランだって、知らないものだ。

 

けど、これは間違いなく……。

 

「ん?そのカードにしますか?」

 

「……これにします」

 

「わかりました。おっ!見る目があるね、ケースの中の枚数は……と、うん、4枚ある。早速デッキ組むから、ちょっと待っててね」

 

そう言うと、店長は店の奥へと姿を消していった。

 

「……どうして、あのカードを?」

 

「何でだろう?何でかわからない……けど」

 

そう、この時、シオリは出会った。始まりを告げる1つの出会いに。

 

「……何かを感じたんだ。一目見た時に」

 

その出会いを起こしたカード。それは、かつてシオリが使っていた騎士王アルフレッドと似た……というより、同一人物であるカード。

 

その名は『円卓の解放者アルフレッド』。シオリの知るロイヤルパラディンではなく、シオリの知らないクラン、ゴールドパラディンに属し、シオリの前に現れた。

 

そして、この出会いが、シオリにとって全ての始まりを呼ぶことになる━━━。

 




以上が1話です。誤字脱字などがあるかもしれません。感想やご指摘等、してもらえると幸いです。
これからもよろしくお願いいたします。

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