4月も終わり、もうすぐ5月。ゴールデンウィークだったり、それが過ぎれば中間テスト。
何かと色々あるこの時期に、私達は今何をしているかと言うと………
「トランスコア当たった?」
「いや全然っス……げっ!またたちかぜ!?」
「ジェネシス……エンジェルフェザー……使わないクランに限ってよく当たるな……」
「あっ、トランスコア当たったよ!」
「じゃあ、そこに置いといて!」
つい先日発売されたブースター『封竜解放』を開封しているところだ。お小遣いを出しあい、5箱購入した。
ちなみに今いる場所はサンシャイン。平日の夕方ということで、人が少ないことを理由に来ている。
「さぁ……続けるか」
こうして、1時間ほどかけて、5箱を開封していった。
***
「……どう?欲しいカードは手に入った?」
「OKっス!ジェネシスもたちかぜもバッチリデッキ強化出来たっスよ!」
「私も大丈夫そうね。……小沢君は?」
「まぁ、よさそう。封竜ばっかりだったけど……」
小沢君はデッキから4枚のカードを取りだし、私達に見せる。
「ドーントレスドライブ・ドラゴン。ブレイクライドのユニットだからさ……当たって欲しかったんだよ。だから、俺は超満足!」
ガンスロッドと同じブレイクライドのユニットか……。こうやって、他のクランにも着々とブレイクライドが増えていくのだろう。
「CBも使わないし、何よりスキルが強いからさ。これで、デッキもパワーアップするな!」
「言ったわね?じゃあ、今からでもファイトする?」
「よし!そうしよう!」
これで3人は、デッキの強化が出来た訳だ。………私、ゴールドパラディンの強化が何一つ出来なかったけど………。
***
「…………グランドマスターカップ?」
それから数日後。現在、昼休み。私は佐原君に呼ばれて、学校の中庭に来ていた。そこには、小沢君と森宮さんの姿もある。
そして、佐原君が私に言った言葉、それが……グランドマスターカップという、聞き慣れない単語だった。
「そうっス。……あれ、もしかして知らないっスか?グランドマスターカップのこと」
……いや、知らないよ?そもそも、前からその単語が出たことなかったし、何知ってて当たり前みたいに言ってるの!?
「俺も知らなかったんだけど……」
「だから、私達が教えたでしょ?」
グランドマスターカップ……?響きからして、何かの大会ということはわかる。それがヴァンガードの大会であることも、このメンバーなら想像がつく。
「……そのグランド……何だっけ?」
「グランドマスターカップっスか?」
「そう、そのグランドマスターカップって……もしかしてぜんこ━━」
「その大会こそ、俺達が目指す全国への道!それを知らないとは……何なんスか!?」
……何なんスかって言われても。言おうとしていたのに横から入って来たの佐原君でしょ!?
「……で、そのグランドマスター……カップ?だっけ。私を呼んだのって、そのことについてだよね?」
……長い。グランドマスターカップって……、単純に全国大会とかじゃダメなの!?
「あぁ、そうっス。今日は改めて、グランドマスターカップについて、軽くおさらいしておこうと思って。そのついでに、シオリさんに頼みたいこともあるんスけど」
「私に?いいけど……一体何を?」
「それは後で。……じゃあ俺は結構話したんで、リサさん、後はよろしくっス」
……面倒なことだけ押し付けたよ。佐原君……。
「よし、じゃあ小沢君には言ったけど、改めて説明するわね!」
あれ?案外説明する気あるみたい……。
「グランドマスターカップは、予選大会と、決勝大会の2つに分けて行われるの。私達が言う全国って言うのは、決勝大会の方ね。それに出場するために、まず予選大会に出場する必要があるわ」
予選大会→決勝大会、という流れか。
「予選は春と秋。決勝は夏に開催されるわ。予選は全国を6地区に分けて行われるわ。私達は関東地区で……既に春の予選は終わったから、夏の決勝には出場できないわ」
「え……それじゃあ……」
「今年の決勝には出場できない。だから、来年の決勝大会に出場することを狙う。そのために、まず私たちは秋の予選に参加する」
なるほど。ややこしいけど、秋から数えて1年か。秋→春→夏という考え方ということになる。
「それで、決勝大会に出るためには、春と秋、どちらかの予選大会で優勝することが条件よ」
「……うっ、優勝しないと出られないって……ハードじゃない?」
「大丈夫よ。どちらかで優勝すれば、決勝大会に行けるわ」
「いや、そうじゃなくて……。参加者って、きっとかなりの人数だよね?その中で優勝するのって……きつくない?」
自分で言ってて弱気な発言だとは思うけど………優勝以外に予選を通過する道はないものか。
「確かにきついわ。……でも、そうしないと、確実に決勝大会には出られない。……確実には」
「……どういうこと?」
「春、秋、両方の予選大会で『4回戦以上』まで残ったチームは、決勝大会の残り枠をかけた……言うなら、敗者復活戦に参加することが出来るの」
なんだ、それなら大丈夫そうだ。
「……けど、これはあくまで参加出来る、というだけで……そこからトーナメントをして、上位22チームしか決勝大会には参加出来ないわ。その分、予選で優勝して決勝に参加するチームは、確実に参加権利がある。だから、私は優勝を第一条件に考えている」
……難しい話だ。要は、春と秋の予選で優勝すれば、確実に決勝に参加。春と秋の予選で4回戦以上に残っていたら、敗者復活戦に参加出来て、上位22チームが参加……。
「次に試合形式なんだけど……予選、決勝共にトーナメント形式で行うわ。ファイトは、チームの中から代表3人を出して、2勝した方が勝ち。簡単でしょ?」
確かに。ファイトに関しては簡単なルールだ。
「ファイトは3人同時に行うわ。そして、その時使う、大会ならではの特別な装置があるの」
「特別な装置?」
「……モーション・フィギュア・システム。MFSと呼ばれる、ユニットのイメージを立体表現するシステムを使ってファイトするのよ。大会とかでしか使われないけど……」
モーション・フィギュア・システム………そうか、完成してたんだ。
私がヴァンガードをしていた時には、MFSの話は出ていたけど、まだ完成していなかった。だから、MFSでファイトしたいとは思っていたけど、出来ずじまいだったんだよね……。
それが完成して、大会で使われるようになるなんて……。これは大会が楽しみだ。アルフレッドを見ることが出来るのだから。
「……とまぁ、こんな所ね。どう?何か質問ない?」
「う~ん………」
まぁ……色々いっぺんに言われて、わからないことがあるのかどうかわからない。
「とりあえず……今は質問ないかな?」
「じゃあ、今はこの話を終わらせて………トウジ」
「わかってるっス。シオリさん、さっき言ってた頼みたいことなんスけど……」
佐原君は、私に1枚の紙を渡して来た。見るからに申し込み用紙みたいだ。既に私達4人の名前が書かれている。
「これを放課後、サンシャインに出しに行ってくれないっスか?グランドマスターカップの申し込み用紙っスから……」
「いいけど……佐原君、今日は何か用事あるの?」
「リサさんとちょっとね。だから、今日は小沢君と2人になるっスけど………」
「今さらっと、俺といると嫌みたいなこと言わなかった!?」
別に嫌じゃないけどな。
「あ、じゃあこれも送ってきてくれない?これもサンシャインでいいから」
森宮さんが渡したのは、白い封筒。きっちり封がされており、透かして見ても、中に何が入っているかわからなかった。
「うん。……何かはわからないけど、とりあえず出してくるよ」
こうして、参加用紙と謎の封筒を持って、サンシャインに行くことになった。
***
「……はい。確かに参加用紙を受け取りました!」
「ありがとうございます。あ、後この封筒……」
「これは……?ちょっと中を確認するね」
そう言って、一旦店の奥へと戻って行く。しばらく経って、店長が戻って来た。
「申し込み用紙みたいだね。送っておくよ」
「あの、それって一体何の━━━」
「おじさん!ちょっと来て!」
「……ごめん、ワタルが何か呼んでるから、行ってくるね」
小沢君が店長を呼んだことで、私は何の申し込み用紙かを聞きそびれてしまった。
仕方ないので、暇潰しに店内を見渡してみる。
(う~ん……。本当に平日はお客さんいないね……)
別に悪くはないんだけどな………。……だからと言って、良いとは言ってないんだけど。
(………ん?)
すると、店の端の方のテーブルで、見慣れない2人がファイトしているのを見つけた。
ただ小沢君を待つのも退屈だし、ちょっと遠くからファイトを見ていよう。
***
「………行くぜ!伏竜の抹消者 リンチュウのブースト、抹消者スパークレイン・ドラゴンでアタック!スキルで、ヴァンガードが抹消者だから、パワープラス3000だ!(17000)」
「……ここは、戦巫女ククリヒメでガード!」
1人はなるかみ使い。熱血的な印象を与える、言うならば、頼りになる指揮官……。少し違うかな?
そして、もう1人はジェネシス使い。大人しそうな感じだ。何となく、私と同じような雰囲気を感じとれる。
「じゃあ、2体目のリンチュウ!抹消者スイープコマンド・ドラゴンをブースト!(16000)」
「挺身の女神 クシナダ!完全ガード!」
「ツインドライブ!ファースト、抹消者スパイアイ・ワイバーン。スタンドトリガー!ヴァンガード裏のリンチュウをスタンド……パワーはスウセイ!(13000)セカンド、抹消者スパークレイン・ドラゴン……くそ~!」
「ふぅ……」
と、ここでジェネシスの方のヴァンガードが、幸運の女神 フォルトナ……封竜解放のRRRの1枚だと気づく。
(出たばかりのカードをもう……。スイープコマンドも、封竜解放のカードだし………)
「でも、手札1枚のお前じゃ防げない!ファーストサンダーのブースト、スウセイでアタック!スウセイには毒心のジンのスキルを与えてあるから……」
「パワー21000でしょ?………ノーガード。ダメージは……よし!大鍋の魔女 ローリエ。ヒールトリガー!フォルトナにパワー(16000)、ダメージ回復」
ここでヒールを引き当てるとは。なかなかの運だ。
「これでターンエンドだね?じゃあ私の━━」
「誰が終わりって言った?スウセイのスキル、CB2で前列のリアガードを退却!」
「っ……!でも、これでもう出来ることは……」
「それがあるんだな!ファーストサンダーのスキル発動!リアガードが退却した時、自身をソウルに入れることで、デッキの上から10枚見て……よし!こいつにスペリオルライドだ!来い!!抹消者スイープコマンド・ドラゴン!!(11000)」
退却することでライドするユニット……!?しかも、スタンド状態でのライドだから………
「もう一度!リンチュウのブーストでスイープコマンド!!(16000)」
「……ノーガード。ダメージは……トリガーなし。今度こそ終わりだね……」
シオリは今のプレイングに見入っていた。退却によるスペリオルライド、相手の盤面を削ると同時に、ドライブチェックももう一度行えるため、守りも万全となる。
何より、出たばかりのカードでここまで高度なプレイングを行ったことに驚いた。
「ん?あんたは………?」
と、ファイトを終えて、私のことに気づいた男子が声をかけてくる。
「あっ!いや、その……えっと……」
「落ち着いて。別に怒ってるわけじゃないよ」
「あ……はい。私は……ちょっと二人のファイトが気になって……そしたら思わず夢中に……」
「おっ!俺のファイトに夢中になってくれるとは……嬉しいぜ!」
その男子はシオリにズンズンと近づいて話し始める。
「そんなに近づかない。彼女困ってるよ?」
「あ、いや……」
「それに……」
彼女が指差す方を見てみると……そこには小沢君の姿が。
「彼女の友達も来たみたいだよ?」
「あっ、小沢君。さっき店長呼んでたけど、もういいの?」
「もう大丈夫。で、星野さん。これは一体どういう状況?」
「いや、えっと……」
「俺のファイトにメロメロになったらしいぜ?」
……事実をねじ曲げるようなことは言わないで欲しい。
「メロメロ……星野さん、本当に?」
「メロメロにはなってない。けど、夢中にはなるファイトだったよ」
「へぇ……夢中にね……面白そうじゃん」
夢中になるファイトをすることに、小沢君が食いつく。
「ねぇ!今からファイトしない?星野さんが夢中になったくらいなら、いいファイト出来そうだし!」
で、案の定これである。
「いいぜ!やってやるよ!」
「そうこないと!」
二人の男はファイトテーブルへと向かっていった。
「さて……ただ待ってるだけなのも退屈だし、私達もファイトしない?」
「は、はい!えっと……」
「あ、そうか。お互いに名前、知らないよね。私はミズキ。月城ミズキ。ミズキでいいよ」
「私は、シオリ。星野シオリです」
「じゃあ、ファイトしよっか。シオリちゃん」
「わかったよ……ミズキ!」
***
4人はそれぞれテーブルにデッキを置き、準備を始める。
「そう言えば、あんたの名前は?」
「俺は小沢ワタル」
「俺は平本ユウトだ、行くぞ!」
「………あちらは燃えてるね」
と言うか、テンションが高い。
「うん。ユウトは基本あんな感じだからね」
「……ユウト?」
「私がさっきファイトしてた相手、抹消者を使っていた人のことだよ。あれ?言ってなかったっけ?」
いや、それはファイトの中で聞こえていたから知ってたけど、そういうことを聞いたつもりじゃなかったんだけどな………。
「まぁとにかく始めよっか」
「……うん!」
「「スタンドアップ!「ザ…」ヴァンガード!!」」