つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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ride14 再開が招く再会

 

5月半ば。この時期は、学生たちが中間テストの勉強に追われる時期だ。

学生である以上、いくら何でも勉学を疎かにするわけにはいかない。この間だけは、皆が勉強に専念する時となる。

もちろん、シオリたちも勉強の方に力を入れている。ヴァンガードなんてしている余裕はない。

 

「……とは言っても、勉強する気なんて起きるもんじゃないっスよ〜!!」

 

「テストまでの我慢よ!それとも、ここで勉強しないで赤点を取ることになってもいいの?」

 

……まぁ、勉強をする気になるかどうかは別として。

 

「赤点って……大丈夫っスよ!きっと!」

 

「何がきっと!よ!中学の時もそう言ってほとんど赤点だったじゃない!」

 

ん?中学の時も……?

 

「森宮さん。佐原君とは、同じ中学だったの?」

 

「あら?言ってなかったっけ?」

 

初耳なんだけど……。でも思い返してみれば、去年からチームを探し初めているって言ってたっけ……。

 

「ちなみに、リサさんにヴァンガードを教えたのは俺っスよ。中学3年の時っス」

 

「へぇ〜。でも一体、どういう成り行きで……」

 

小沢君の言う通り、事の始まりが読めないんだけど……。

 

「私のいた中学にトウジが転校してきたのよ。中学3年になってすぐのことだったわね……」

 

「そうそう。で、その時リサさんと席が隣になって、クラスに打ち解ける第一歩として、リサさんとヴァンガードの話を」

 

佐原君、転校してたんだ。……にしても、クラスメイトと仲を深めようとするのにヴァンガードの話とは。佐原君らしいと言えば佐原君らしい。

 

「でも、その時の私はまだヴァンガードのことを知らなくて……いきなり何の話?って思ったわよ」

 

「そりゃそうなるのも無理ないっスか……。けど、その時っスよね?リサさんの方からヴァンガードを教えてほしいって頼んできたのは」

 

森宮さんの方から教えてもらうように頼んだんだ……。それは意外。てっきり佐原君の方から無理に教え込んだのかと思ったけど……

 

「そうよ。トウジの話を聞いて、ヴァンガードって面白そうって思ったの。ノスタルジアのことや、グランドマスターカップを目指すことを聞いたのもこの時よ」

 

「それでノスタルジアのことを……」

 

「トウジの意思は本物だった。話し方も真剣だった。その真っ直ぐな姿勢に私は……心引かれたんでしょうね。トウジとチームを組んで、一緒にグランドマスターカップに出ることにしたのよ」

 

佐原君の想いが、森宮さんに強い刺激を与えて、今では頼れるチームの仲間になっている。もし、転校した時の隣の席が違う人だったら、今どうなっていたんだろう?

 

私の前には森宮さんがいたのだろうか?そう考えると、運命的な巡り合わせって凄いと思う。

 

「いや〜でも懐かしいっスね。またペイルムーンを使うリサさんを見たいっス」

 

「「ペイルムーン!?」」

 

アクアフォースじゃなかった……!?それがどうしてアクアフォースに!?

 

「前の話よ。もうペイルムーンを使うこともないわ。あのクランは、私には合っていなかったみたいだし」

 

「ノヴァグラップラーと迷った上で決めたんだったっスよね」

 

ノヴァグラップラー……使っている姿を想像しにくいな……。

 

「けど、なんでアクアフォースに?」

 

「リサさんって、もともと連続アタックの出来るクランを使いたかったみたいなんスよね。で、始めた時にはまだアクアフォースはなくて……ペイルムーンを使っていたのは、仕方なしってところもあって」

 

「で、アクアフォースってクランが登場して、それが私の望むものだったから、そっちに乗り換えたの」

 

「ふ〜ん。連続アタックか。確かにアクアフォースの特長だけどさ、なんで連続アタックがよかったの?」

 

確かに、ペイルムーンもノヴァグラップラーも、やり方は違えど、連続アタックを得意とするクランだ。なら、最初から連続アタックのクランを希望していたことになる。

 

「……サッカーの試合を見るのが好きだったの。連続アタックするのも、サッカーみたいにみんなが協力して攻めていくみたいだったから」

 

「サッカー!?へぇ、珍しい。女子でそういうの……」

 

「小さい頃の話よ。今ではサッカーを観るのも少なくなったわ。ヴァンガードをするようになったからね」

 

いつも見慣れている、アクアフォースのデッキを片手に森宮さんは言う。

サッカーか……。ペイルムーンを使っていたよりも意外だった。今はヴァンガードの方に没頭しているみたいだけど……。

 

「…………………」

 

それ以上に気になったのは、サッカーの話をした時、一瞬だけ森宮さんの表情が曇ったこと。サッカーのような連携プレーを思ってのこともあるだろうが、私には、もっと他に切実な理由があるように感じた。

 

けど、そんなことを聞き出すつもりは私にはない。誰だって、隠しておきたい事情はある。私がそうであるように、無理に傷口を抉ることはしない。

 

ただ……そろそろ勉強を再開しないといけない気はする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。私たちは、中間テストを無事に突破した。途中、佐原君がへこたれそうになったが、何とか赤点は回避したようだ。

 

さて、私たちの本題はここからだ。今、私たちはと言うと…………

 

「……まぁ、随分でっかいホールっスね」

 

「こんなところでするんだ……」

 

市内の大型ホールの前にいた。今日ここで、あるイベントが行われるのだが、私たちはそのイベントに参加するために来ている。

 

「バトルロワイアル……ね。何とか全員参加できてよかったわ」

 

「本当っスよ」

 

「「「………………」」」

 

「な、なんでそんな目で俺を見るんスか!?」

 

参加者全員でのバトルロワイアル。学校も休みだからと、以前サンシャインで参加を決めたことを覚えているだろうか?

 

しかし、この日は中間テストで赤点をとった人を対象とした特別補習が行われることを、参加を決めた後に知ったのだった。

 

そのため、何とかして全員が赤点を回避するように勉強していたのだ。

 

「さぁ、外でグダグダやってても仕方ないから、早く中に入るわよ」

 

ホールの中に入ると、すぐにスタッフに出迎えられ、1つの部屋へと案内される。小ぢんまりとしたその部屋の中には、既に参加者が何人かいるのが確認できた。

 

「思ったよりいるな〜」

 

「子供もそうだけど……大人の人までいるね」

 

サンシャインで参加を促された時には、あまり参加者がいないように見えたけど、思ったよりもいる。

あれから、頑張って宣伝していたんだろうか。確か……

 

「……おっ!来てくれたんだな?ありがたい」

 

「参加した以上、来ないわけにはいかないですよ、成宮さん」

 

そうそう、成宮さんだ。森宮さんの言葉で思い出した。……それにしても、噂をすれば影とは言ったものだ。こんなにピンポイントで来るものなのか。

 

「あれから結構宣伝したからな……おかげさまで参加者もかなり多くなってる。これなら、きっと楽しんでもらえること間違いなしだ」

 

「それは確かに楽しめそうですね」

 

「けど、よくこんなイベントのスタッフっていうか……そういうのやろうなんて思ったっスよね?」

 

ヴァンガードを楽しんでもらいたい、そんな気持ちでこのイベントに携わっているのは、成宮さんの言葉からよく伝わっている。

でも、それを実行に移せるところが凄い。うまくいかないことばかりかもしれないのに、やり遂げようと頑張っている。

 

「俺なんかただのスタッフでしかないさ。本当にすごいのは、このイベント考えた奴だよ」

 

「そんなにすごいんですか?」

 

「あぁ。まだ高校生らしいのに、1から考えて形にしたんだからな。それも1年生らしいし」

 

同学年でよくそんなことできるな……。それは成宮さんが謙遜する理由もわかる。

 

「そろそろ来ると思うが……おっ、来た!」

 

部屋の入り口に目を向ける。そこにいたのは、1人の少女だった。

私よりも小さめながら、瞳には強い光が宿っている。強い実行力を持ち合わせた、勝ち気な性格だと推測した。

 

「おっ、女の子っスか!?」

 

「てっきり男子かと思ったけど……」

 

私もそうだ。ヴァンガードのイベントの立案者と聞いて、女子を想像するのはきっとない。まず先に男子の方を想像するだろう。

その点で、私たちは驚いていた。けど、

 

「……なんで」

 

私たちよりも驚いていたのは、森宮さんだった。しかも、それは私たちが驚いている理由とは違っているように見える。

 

「……!リサ……!?」

 

「リン……!?どうしてここに……!?」

 

リンと呼ばれた少女も、森宮さんの姿を見て、驚いている。知り合いだろうか……?

 

「森宮さん、あの人は……?」

 

「……昔の友達よ。小学生の時のね」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「リサさんの知り合いっスか。なるほど。俺も聞いたことはあったんスけど、彼女がね……」

 

「……で、結局誰なの?」

 

シオリが不思議そうにトウジに尋ねる。

 

「桜川リン。幼なじみ……ってわけじゃないみたいなんスけど、小学校の時に知り合ったみたいで、仲もよかったみたいっスよ」

 

「小学校の時にね……」

 

「……で、その桜川さんと、森宮さんはどこ行ったのさ」

 

「ん?……どっか行ったみたいっスね?」

 

久しぶりの再開だし、色々話したいこともあるのだろう。シオリはさほど気にすることなく、2人に目を向ける。

 

「さって!それはそれとして、今はヴァンガードのことに集中っス!」

 

「そうだね、グランドマスターカップの練習にもなるからね」

 

もしかしたら、思わぬ強豪とファイトすることになるかもしれない。改めて、部屋の中の参加者を見渡してみる。

子供から大人まで……。さっき見た時と変わらない風景が、そこにはあると思っていた。

 

「……え」

 

……変化は唐突に訪れた。先ほどまではいなかった少年の存在を、シオリの目はとらえていた。

別にそのことを悪く思うつもりはシオリにはない。むしろ、歓迎する気持ちのほうが強い。

 

問題は、その人物の素性だった。シオリの目に映る少年の横顔は、見間違いであってほしいと願うように……そっくりだった。

 

「……なんで、ここに」

 

目を見開き、驚きでどうしようもなく少年を見る。まわりが見えない。ただ、少年の姿だけが視界を支配していた。

 

すると、少年もそんなシオリに気がつき、向こうも驚いた様子でシオリを見る。

 

「……シオリさん?」

 

「やっぱり……シュンキ君……だよね?」

 

久しぶりに聞いた声。何も変わっていない。1年前と同じだった。

 

「シオリさんが、何でこんなところに……!?」

 

「……その言葉、そっくり返すよ。シュンキ君にも」

 

「僕はこのイベントに参加するためですよ?けど、シオリさんがここにいるのは……」

 

「……うん。確かに不思議に思うのも無理ないか」

 

照山シュンキ。シオリが中学生の時の友達であり、かつて共に過ごした5人のヴァンガード仲間のうちの1人だった。

だが、それも過去の話だ。まだ、シオリが絶望を知らなかった、遠い過去の。

 

「また始めたんだ、ヴァンガード。色々あってね……4人でチーム組んで━━」

 

「シオリさん」

 

「……ん?」

 

「……大丈夫なの?」

 

シュンキの口から出たのは、再開を喜ぶ言葉ではなく、不安を滲ませ、心配する言葉だった。

シオリの過去を、シュンキは知っている。それがどれほどシオリに影響を与え、どれほどシオリを苦しめて来たのかを。

 

「……大丈夫。そうじゃなかったら、こんなところにいないよ。自分の意思でヴァンガードを再開して、今ここにいるんだ」

 

「……よかった、本当に。シオリさんがヴァンガード再開したってみんなが知ったら、きっと喜ぶよ」

 

「確かにそうだね……みんな元気にしてる?」

 

「元気だよ。別々の高校に進学して、みんな、離ればなれになってるけど……」

 

それを聞いて、シオリは安堵する。と同時に、シオリは過去を思い出していた。

楽しかった日々。戻りたいと願う風景が浮かんでは消える中……胸を裂くような記憶もまた、同時にシオリの頭を痛めつける。

 

「……誰っスか?」

 

と、シオリの背後から疑問に思う声が聞こえる。シュンキと話していて、すっかり2人のことを忘れてしまっていた。

 

「あぁ……中学の時の友達だよ。照山シュンキ君」

 

「初めまして。照山シュンキです。さっきシオリさんから、チームを組んでるって聞いたけど……あなたたちが?」

 

「そうっス!俺は佐原トウジ!夢は全国!よろしくっス!!」

 

「俺は小沢ワタル。ヴァンガードはまぁ……まだまだ初心者だけど、よろしく!」

 

2人は軽く挨拶を交わす。けど、今でも不思議だ。まさか、シュンキ君がこんなところにいるなんて……。

 

「そう言えばシオリさん。確か、4人でチームを組んでいるんだよね?もう1人は……?」

 

「ちゃんと来てるよ。このイベントの主催者が知り合いだったみたいで、どこかで話でもしているはずだよ」

 

「そうなんだ。まるで、今の僕たちみたいだ」

 

「確かに。それは言えてるかもね」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「……まさか、こんなところで再開するなんて思わなかったわ、リン」

 

「わたくしもですわ……リサ」

 

場所は変わって、人通りの少ない廊下。思わぬ再開を果たしたリサとリンは、懐かしさに胸を踊らせながら、楽しく話を……

 

「なんで、あなたがヴァンガードをしてるのよ」

 

「それはこちらのセリフですわ。カードゲームとは無縁のようなあなたが、どうしてヴァンガードを……?」

 

「リンに言われたくないわよ!」

 

……するどころか、どこか張りつめた空気が2人の間に漂っている。表情は固く、とても久しぶりの再開とは思えない。

 

「……それはそれとして。あれから、もう7年ですわ」

 

「……えぇ」

 

「いい加減、会いに行きなさい。あの人は、リサが会いに来ることを待ってますわ」

 

「それは……無理よ。あの人のもとに行くには、まだ早すぎる……」

 

「早すぎる……!?7年も経って、まだ早すぎるというの!?あなたは……!!」

 

リサの言葉に、リンは激昂して胸ぐらを掴む。怒りを露にするリンに対して、リサは視線を落とし、悲しみに暮れているように見える。

 

「遅すぎるの間違いですわ!!あの人が……どれだけあなたのことを……!」

 

「……私にとってはまだ、早いの。私が会いに行く時は、まだ先なの……」

 

「何を……!」

 

「エレメンタルメモリー」

 

「……!?」

 

「それが……私たちのチームの名前……ヴァンガードのね」

 

それだけ告げると、リサはその場を後にする。残されたリンはというと、リサの口から出たエレメンタルメモリーの名前に戸惑いを隠せないでいた。

 

「エレメンタルメモリー……。リサ、あなたまさか……!?」

 

思い当たる可能性、それが真実だとしたら。リサはまだ、過去から抜け出せていない。

 

「………」

 

リンは、何かを決意したかのように、参加者の待つ部屋へと戻っていくのだった。

 


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